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なぜ日比谷公園に一万人の陰謀論者が集まったのか

5月31日、日比谷公園にて「WHOから命を守る国民運動 大決起集会」なる大会が開かれました。平日にもかかわらず野外音楽堂は超満員となり、溢れた人々の列が霞門から松本楼までの道のりを埋め尽くしました。

(人で溢れる日比谷公園)

大会の後行われた銀座から京橋までのデモ行進は3時間を超えても隊列が途切れること無く、警察側の要請により中断する事態となりました。参加者総数は主催側のインタビューによれば一万二千人、現地に赴いた(筆者含む)ウォッチャーの集計も一万人前後となっています。

この集会には慶應義塾大学名誉教授の憲法学者である小林節が参加し「今日から私もこの運動に参加します!陰謀論者と言われてもいいです!」と言い放ったことで話題となりましたが、共同通信の取材によると、小林は集会に参加したことについて後悔しているようです。

 小林氏は集会に参加したことをどう考えているのだろうか。取材に対し、小林氏は「論争に参加するという考えで集会に参加し、治験がなされていないワクチンの危険性について啓蒙され、その点について賛同の発言をした」と説明した上で、「発言の一部が切り取られて拡散したが、多くの人から批判を受けて反省している」と話す。

 パンデミック条約やWHOを批判する集会の主張については「前提知識に欠けていて、荒唐無稽な発想だ」として、相容れないとの考えを述べた。集会後、主催者らが小林氏の事務所を訪れ、長時間にわたって主張を説明したが「WHOが世界を支配しようとしているとか、人体実験をしているとか、被害妄想としか思えなかった」と言う。

(「パンデミック条約」反対集会に1万人超、拡散する陰謀論 強制接種、その情報はどこから?「光の戦士」発言も、強調は筆者)

小林はおそらく、新薬の安全性に対する慎重論であるとか、パンデミックを奇貨とした国家による際限のない権限拡大に対する懸念といった方向性から参加を決めたのだと思いますが、この集団の主張はそんな生易しいものではありませんでした。

デモ行進の際に先導車がエンドレスで再生していたテープの内容を一部引いてみます。

沿道のみなさん!是非とも知ってほしいことがあります!コロナで恐怖を煽ったのち、一方的な情報をメディアで流して国民を騙し、その結果30万人を超える命を奪った犯罪的なワクチン政策!

WHOは、ワクチン強制接種に向け真実を隠し、法的拘束力で各国を縛ろうとしていました。しかし、そのWHOの特権を世界は許さず、WHOの思い通りにさせない動きも出てきました。それなのに、驚いたことに日本政府は、19万を超える国民の反対意見を無視して、ワクチン強制に突き進んでいます。みんなで、この動きを止めましょう!

デモの際の共通のシュプレヒコールには「人為的パンデミック宣言を阻止せよ!」「WHOと政府のプランデミックに騙されるな!」などといった文言も見られました。プランデミックとは映像作家のミッキー・ウィリスによって広まった言葉で「計画されたパンデミック」を意味します。

つまり、この「WHOから命を守る国民運動」とは「国際的な勢力によってパンデミックが意図的に引き起こされ、ワクチンと偽った毒物を人々に服用させ、全世界を一つの権力のもとに操作する計画」という明確な陰謀論的ナラティブに基づく集団なのです(河添恵子ははっきりと「ディープステート」という単語を口にしていました)。

わが国で陰謀論的信念を持つ人々がここ数年のうちに急増してきたことは既に何度も指摘されているところであり、陰謀論を信じてしまう心理構造については様々な観点から盛んに議論されています。先ごろ出版された雨宮純『危険だからこそ知っておくべきカルトマーケティング』(ぱる出版)では、神真都Qや参政党などの具体的な団体について、コンテンツマーケティングの観点から考察しています。

一方で、そうした信念を持つ人々が一箇所に集まりデモなどの行動に出るためには、それらを取り仕切る「団体」が必要になってきます。こうした陰謀論に基づく団体は、特にコロナ禍以降いくつも生まれてきましたが、万に達する人数を集めたことはこれまでありませんでした。

今回は、あまり表立って論じられることのない陰謀論団体」について考えながら、日比谷の「一万人集会」を実現させた要因を解き明かしたいと思います。

反ワクチン陰謀論デモのこれまで

なぜ陰謀論デモには人が集まらないのか。その大きな原因の一つとして団体の乱立が挙げられます。昨今の陰謀論界隈は主張が似たりよったりの団体が無数に存在しており、単一の大きな塊となることが難しい状態となってしまっているのです。その原因は、反ワクチン陰謀論界隈の成り立ちに求めることができると筆者は考えています。

分散的な活動

わが国で、コロナ禍以降最初期に「プランデミック」的な陰謀論を伴う活動を行った団体として平塚正幸による「国民主権」があります。当時は外出自粛要請を批判し「クラスターフェス」なるものを各地で行っていました。

国民主権党のボランティアの一部が派生団体のような形で結成した「日本の子供の未来を考える会」(ニコミ会)が、現在までの流れの源流を作ったと考えられます。ニコミ会はその後一般社団法人の傘下となり、2020年から現在まで活動を続けている珍しい団体となりました。

(ニコミ会主催「コロナワクチン被害者慰霊デモ」、2023年6月)

ニコミ会は主要スタッフ以外の特定のメンバーを持っておらず、チラシやスピーチ用のテープなどのメディア制作を中心に活動しており、こうしたメディアは公式サイト上で無料で配布されています。

こうしたアイテムさえ用意されていれば、チラシ配りや街宣のように手続きを要しない活動であれば誰でも行うことができます。ニコミ会は確固たる組織を持たないまま、スタンドアローンな活動の援助を行うという形態によって規模を拡大することに成功し、その後の陰謀論団体の一つのモデルとなっています。

一方、警察に対して届出を行う「集団示威運動」(デモ行進)の場合、代表者がコースの設定や参加者のおおまかな人数を申告する必要があるため、ある程度の実体を伴った持続性のある団体を組織する必要があります。

後に選挙の自由妨害の疑いで逮捕されるつばさの党の黒川敦彦らが2021年に設立した「コロナ問題を考える会」(コロナ考会)は、全国に数千人規模の参加者を集めた大規模な団体となり、デモ行進にも数百人ほどを集める賑わいとなりました。

(コロナ考会主催「Goodbyeコロナフェス」、2023年2月)

コロナ考会は各都道府県ごとにLINEのオープンチャットを設置し、参加者同士の交流の場として活用していました。この手法はデモ行進など事前の計画が必要な活動に役立ち、後の神真都Qを始めとして多くの団体が採用するようになりました。

コロナ禍以降の陰謀論集団は、数人の企画者を中心として、メディアの拡散による共通意識の醸成と、SNSを利用した緩やかなクラスタリングによって、常設事務所や大規模な発信拠点を持たずに全国的な規模を獲得していったケースが多いと言えます。

また、反ワクチン陰謀論者は「巨大資本と政治権力による支配への抵抗」というナラティブ故に中央集権的な構造を嫌う傾向にあり、こうした「横のつながり」を強調する団体への支持が広がりやすいという背景も指摘できると思います。

一方、非中央集権的であるということは、裏を返せば意思決定機能が脆弱であることを意味しており、それはそのまま団体の衰退と細分化へと結びついていきます。早い話が、団体の中で議論が発生してもそれを取りまとめる存在がおらず、活動そのものを分割するという安直な解決に流れがちであるということです。

この場合の分裂は宗教団体や政治セクトのように深刻性のあるものではないため、場合によっては参加者の大半が被っていたりすることもあり、統率が取れていないことがすぐにわかってしまいました。

こうした点から、これまでの陰謀論団体の拡大にはある程度の限界が存在していたことが指摘できます。

ちなみに、ニコミ会の代表である「きぃ」という人物は2016年に「山本太郎となかまたち」から参議院議員選挙に立候補した三宅洋平のボランティアに参加していたようです。黒川敦彦もまた「つばさの党」以前は安倍政権反対の市民運動に参加していました。

このようなSNSを利用したオープンな団体の源流には、リベラル系の草の根市民運動の影響があるかもしれません。

(この頃英国を中心に始まった「世界同時デモ」もTelegramを利用した自発的な参加を募っており、黒川はこちらを参考にした可能性もあります。)

勢力争いの発生

2021年上旬頃までは、反ワクチン陰謀論関係のデモなどは従来的な市民運動の系譜に連なる活動という印象の強いものでした。下旬から翌年上旬にかけて、それまでとは異なる、元来政治とは距離を置いていた層、いわゆる「普通の人々」を大量に動員する大規模な団体が複数生まれます。

その背景には、YouTubeを中心とした陰謀論インフルエンサーの隆盛が挙げられます。日本では21年からコロナワクチンの集団接種が始まり、不安感や忌避感に乗じて陰謀論が急速に広まり、それまでのインフルエンサーが新規顧客を大量に獲得してゆきます。

中でも動画配信を主体とするインフルエンサーはリアルイベントなどへと活動を発展させやすく、次第に配信者を中心とする巨大なコミュニティの形成へと結びつきました(前述の黒川敦彦もその流れに乗った一人と言えます)。

2022年になると、こうして生じた巨大なコミュニティから市民団体へ発展してゆくケースも現れました。参政党神真都Qはその代表格といえます。

(岡本一兵衛逮捕後の神真都Q、2022年6月)

神真都Qの源流となったのは、元Vシネ俳優の岡本一兵衛こと倉岡宏行によるYouTubeチャンネルのファンコミュニティでした。倉岡は元々健全な動画を制作していたようですが、「政治家の多くはゴムマスクを被った工作員である」という陰謀論を語った配信の好評を機にそちらの方向へ傾倒してゆくこととなります。

最初は、役者仲間たちと描いた絵に音声を入れて作った作品をアップすることで、何とかこれでコロナ期間を乗り切れるといいね、みたいな感じでやっていたのですが、それも少し難しくなってきました。そこで今のスタイルで、新たに陰謀論系のテーマに切り替えたのです。

(JOSTAR『世界怪物大作戦Q―世直しYouTuber JOSTARが闇を迎え撃つ!―』(ヴォイス、2021)、強調は筆者)

倉岡は同じく陰謀論YouTuberのジョウスターらと書籍を出版したり、その流れでトークイベントなどを開催し支持者を集めていきました。そして21年末、配信をきっかけに知り合った「甲兄」こと村井大介と共に「大和15万人覚醒プロジェクト」を宣言、翌年の神真都Qへと結実します。

参政党は当初から政治団体として登場していますが、街頭演説をYouTuberが配信することにより、政治活動とコンテンツ生産を同時に行うという妙手によって急速に支持を拡大していきました。参院選当時の朝日新聞の取材でも、YouTube戦略的に利用していることを公言しています。

また、ユーチューバーたちも党勢拡大に一役買った。都内に住む40代のユーチューバーの男性は4月ごろから参政党を追いかけている。アップロードした演説の動画は300本ほど。今では毎月に100万~200万円の収入があり、そこから交通費や宿泊費をまかなっているという。

参政党の公式ユーチューブチャンネルの登録者数は19万人で、NHK党党首の立花孝志氏(49万人)、れいわ(24万人)に及ばないものの、自民(13万人)、立民(2万人)、維新(3万人)などを大きく上回る。参政党は「人手が足りないからユーチューブで勝負するしかなかった。れいわさんや立花さんの動画も参考にさせてもらった」という。

(議席獲得、参政党ってどんな党? ユーチューブで勝負、反グローバル、強調は筆者)

筆者も当時参政党のスタッフ10人ほどに話を聞きましたが、政治活動の経験者は1人しかいませんでした。ほとんどは武田邦彦や吉野敏明のYouTubeチャンネルの視聴者で、健康情報への関心から政治活動へと接続されてゆく構造を感じました。

(芝公園での参政党マイク納め、2022年7月)

こうした動きは、先述したような分散的に発生した陰謀論活動家を結集する流れを生むかのように思われましたが、そうはなりませんでした。その理由としては、中心と参加者との意識の乖離が挙げられます。

両団体はいずれも単なるワクチン忌避言説を主張していただけではありませんでした。神真都Qは悪の地球外生命体レプティリアンに対抗する龍神天皇の末裔である大和民族の覚醒を目指しており、参政党は国際ユダヤ金融資本による江戸時代から続く日本に対する侵略を主張していました。

一方の参加者の側は「闇の勢力によるワクチンを利用した人口削減」程度の大雑把な部分は共通していても、細かい信条はそれぞれであり、中心部が共有を迫る複雑なナラティブを素直に受け入れられない人が多数いたと考えられます。

また、両団体は「横のつながり」を強調した宣伝を行っていた一方、本質的には独裁的な指向を持っていました。そのことが災いし、いずれも幹部同士での内部対立が絶えず、組織の弱体化を招いています。

一方の参加者の側はそうした中央部の統率に従わず、各支部が好き勝手な活動を行っていた節があり、制御の効かない集団と化していった側面もありました。そうした面からも前述のような内紛の頻発は参加者を心理的に疲弊させ、急速な衰退へ繋がっていったと思われます。

参政党と神真都Qは、それぞれ選挙と犯罪という真逆の形での社会変革を試みた一方で、登場時期やその興亡に共通する部分が多く、筆者は心の中で「表の参政党、裏の神真都Q」と呼んでいます。

日比谷集会を作り上げたもの

以上のように、これまでの反ワクチン陰謀論界隈は集合と離散を繰り返しており、大規模な団体が生まれづらい状況にありました。その流れが変わったのは23年の中旬頃であったと考えられます。

新勢力の興隆

2023年になると、神真都Qや参政党は先述のような経緯から勢力を縮退させ、主導権を失った状態にありました。黒川敦彦も反ワクチン活動から参政党やNHK党に対する選挙妨害に活動の主軸を移してゆき、再び活動家の分散が始まりました。

その一方で、新たな形式の集団が中旬頃から生まれ、注目を集めるようになります。代表的なのが、毛利秀徳による「日本列島100万人プロジェクト」です。

毛利はかつて先述した黒川敦彦の「コロナ考会」に参加しており、初期の神真都Qにも関わっていました。「100万人プロジェクト」は、元々2022年6月に設立した「1000人プロジェクト」を改称したもので、出自的にはコロナ考会の派生団体といえます。

100万人プロジェクトはチラシ配りやデモ行進ではなく、厚労省NHKなどの前で集団でのリレー演説を行うというスタイルを採っています。最初の活動で200人ほどの参加者を集め、その後も数十人規模を維持しながら定期的にスピーチを続けました。

この団体の大きな特徴は、先述の神真都Qや参政党とは真逆に、主催側の指導性が希薄であるところです。「右でも左でもない」をスローガンに、とにかく対象に対する主張であれば何でも良いという、良くも悪くも自由な雰囲気がありました。

この年に行われた反ワクチン関係のデモ活動では、(登録制をとっていた神真都Qなど一部を除き)この「100万人プロジェクト」で見たような人物が重複して参加しているケースが目立っていました。そういう意味で、活動家の「ハブ」としての機能を果たしていたといえます。

そしてこの年の5月には、本稿での最重要人物といえる佐藤和夫のグループによる初めてのデモが行われました。このデモはウクライナ紛争の停戦を求めるという題目のもと「ロシアの一方的悪者論はフェイクニュース」など親露的な主張を唱える内容で、他のデモに比べて異質な雰囲気がありました。

(佐藤グループの「ウクライナに平和を!デモ」、2023年5月)

佐藤は「英霊の名誉を守り顕彰する会」を主宰するベテランの保守活動家ですが、馬渕睦夫の影響から2018年頃より「ディープステート」などの語を使用し始め、いわゆる自然派」的な傾向も併せ持つ人物です。コロナ禍においては初期のニコミ会の活動に参加するなど、様々な団体に顔を出していました。

そんな佐藤が主催したこのデモの特筆すべき点は、2020年以来の「Jアノン」の復活に繋がったことでした。Jアノンとは、大統領選挙直後より日本国内でトランプ支持デモなどの活動を複数行っていた勢力で、統一教会の派生団体であるサンクチュアリ教会をはじめ、幸福の科学法輪功など複数の新宗教団体から構成されていました。

Jアノンの動きは21年上旬以降ほとんど停滞していましたが、この佐藤率いるグループにはサンクチュアリ教会を始め、かつてのトランプ支持デモを構成していたような人物が集まっており、おそらくは活動家としての人脈を利用して再結集を目論んだものと推察されます。

佐藤も個人的な主張を背景に置き、様々な勢力を取りまとめる「プロデューサー」的な役割を果たしています。それを象徴するものとして挙げられるのが、後述する2024年1月のデモで配布されていたチラシです。

一般に反ワクチン陰謀論者は憲法改正で創設が予定されている、いわゆる「緊急事態条項」に対しては反対意見のほうが優勢なのですが、佐藤やその周辺の保守活動家は当然ながら改憲には賛成です。主催団体は両側の意見を折衷したつもりなのか「日本国憲法当面は変えてはならない!」というフレーズを載せていました。

(妥協の跡?)

100万人プロジェクトも佐藤グループも、突然現れてそれなりの規模の活動を始めている点で共通しており、これはコロナ禍から3年を経て成熟期に入った反ワクチン陰謀論者のコミュニティの再編の動きとみなせます。

保守運動の合流

同じ年には、内海聡や池田としえが中心となった政治団体チーム日本」や、国際オーソモレキュラー医学会の会長である柳澤厚生による「WCHジャパン」(WHOの置き換えを目指す国際団体の日本支部)など、従来の反医療活動家による新たな団体の設立も相次ぎました。

従来こうした団体と、これまで挙げてきたような大規模な陰謀論団体とはあまり繋がりを持っていませんでしたが、佐藤は双方に対し人脈を持つ人物であり、24年1月に行われた「パンデミック条約反対デモ」には池田としえなど界隈の大物が参加し、400人前後を集める大規模な活動となりました。

(パンデミック条約反対デモ、2024年1月)

著名人の参加というインパクトのある画を見せつけた佐藤は界隈の中で急速に存在感を高めてゆき、次第に佐藤グループを中心に、23年以降再編された大規模団体らが結集する機運が高まっていきました。こうした流れの中で4月に行われた「パンデミック条約反対決起集会」が、日比谷集会への大きな布石となります。

ここで佐藤はデモのみならず、区民ホールを借りてのスピーチ大会を併催しました。大会の事前告知では、なんと前年に仲違いした神谷宗幣と吉野敏明が共に登壇することになっていました。

果たして無事に開催できるのかウォッチャーの注目を集めていましたが、案の定開催直前に神谷宗幣の欠席が公表され、その代わりに呼ばれたのが保守系衛星番組「チャンネル桜」を経営する水島総でした。

水島はチャンネル桜以外に、「頑張れ日本!全国行動委員会」をはじめ「国守衆全国評議会」「新党くにもり」など数々の団体を主宰し、15年近くにわたって草の根保守運動を率いてきた人物です。経歴から考えて佐藤和夫の繋がりによって参加したことは想像に難くありません。

近年の陰謀論界隈は極右的な主張が圧倒的に優勢となっています。もちろん全員ではなく、例えばれいわ新選組の支持者が反ワクチンデモに参加する例も少なくありませんが、活動の中心からは外れています。Qアノンや参政党の影響、日本人のマジョリティの感情を刺激する戦略など様々な理由が考えられますがここでは置いておきます。

陰謀論界隈が極右と言っても、従来のその手の団体が関わってくることは、石濱哲信の日防隊など極一部を除いてほとんどありませんでした(個別に接近した人物は何人か見られます)。そういう意味で、旧来の保守活動家である水島の参加はかなり衝撃的な出来事でした。

水島は集会に参加したのみならず、デモの取り仕切りも行っていました(最初からそういった役回りだったのかもしれません)。当日の写真を見ると、先導する隊列には大量の日章旗や群青色の幟といった「頑張れ日本」の特徴を伺わせるアイテムが見受けられ、同団体からの動員があったことが推察されます。

この日のデモは実に5000人近くが参加するという近年稀に見る大規模なものとなり、陰謀論界隈全体に強いインパクトを与えました。こうした注目の中で設立された「mRNAワクチン中止を求める国民連合」が、のちの日比谷集会を計画します。

同団体の賛同者には、反ワクチン団体「東北有志医師の会」代表の後藤均や、池田としえ、井上正康のような反医療関係以外にも、林千勝、我那覇真子河添恵子など保守系ライターの名前も見られ、佐藤が築き上げた人脈の集大成といった趣を感じます。

(広報サポーターにも有名人がずらり)

「国民連合」はコンテンツ制作などの恒常的な活動を通じ、サポーター制度や寄付による集金も行うなど洗練された組織へと発展しました。これを母体とし、水島ら旧来の活動家や団体の協力を得て大規模な活動へと発展させていったのが、冒頭の日比谷集会を主催した「WHOから命を守る国民運動」だったといえます。

一方で、そもそも水島がなぜ陰謀論コミュニティへの関与を強めたのかはよくわかっていません。ただ、日比谷集会後のデモに旭日旗を持ち込んでいたり、終了の際には「日本国万歳!」を三唱するなど完全にいつもの保守運動のノリになっており、界隈の実情をあまり理解していないのではないかと疑われています。

(デモの先頭)

おわりに

以上、長々と述べましたが、短くまとめると、反ワクチン陰謀論集団が1万人を集めるデモを実現させた要因は、拡散力は高いが統率に欠ける草の根リベラル運動の手法と、人脈を原動力に閉じているが組織化に長けた草の根保守運動とが3年半の歳月をかけ融合し、散逸していた陰謀論支持者同士を結びつける洗練された団体が成立したことだといえます。

「国民連合」や、その発展形である「国民運動」がどの程度の勢力を維持し、どの程度持続するかは未知数ですが、個別の主義主張を一時的に脇に置いた形での熱狂的な集合という印象が否めず、構築的な活動へと移行するためには今のままの状態では問題が伴うように思えます。

これまでの団体の典型的な失敗のパターンとしては、中心メンバーの関係の解れが拡大し空中分解するか、中心部に対する参加者の不信感の高まりによって縮退してゆくケースが多く、これを解消するためには、早い段階で互いの相違点に正面から向き合い、合意点を見つけるための議論を進めやすい環境を整えることが重要でしょう。

ところで、明後日9月28日には「WHOから命を守る国民運動」の3回目のデモ活動となる、有明防災公園での大規模集会が予定されています。午前8時から午後6時まで様々なプログラムを用意し、5万人の動員を目指しているようです。

ウォッチャー的なポイントとしては、水島総が前回のように「頑張れ日本」の影響が濃厚なデモを続けるのかという点と、「国民連合」の中心メンバーの一人である林千勝が「国民運動」の重要なスポンサーであるWCHジャパンから離脱し「日本WCH連合」なる新たな団体を結成したことがどう反映されるか(あるいはされないか)あたりが挙げられます。

新たな段階を迎えた陰謀論界隈の今後に注目です。