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手を洗う救急医さんの情報の捉え方が恣意的な件について


新型コロナ自体に関してもそうだが、昨年後半からはワクチンについてのスタンスも個人によって大きく分かれ、異なる意見同士のぶつかり合いが激化していると思う。

そんな中で大事なことは、「情報をしっかり集める」ということ。
なんでもそうだが、一方の立場にこだわっていると得てして「自分の方針に合致する情報しか見ない」「方針に反するデータは無視する」という洗脳に近い状態になりやすい。

私は今まで科学や心理学や時事問題や経済の本を書いてきたが(あくまで初心者用)、情報を集める時にはその点に特に注意していた。
とりわけ時事問題や経済学なんかは、専門家でも立場によって真反対のことを言っていて、しかもそれぞれの意見を保管するような確固たる検証データが両方にあるのだ。

そういう場合、新しくそのジャンルを学んでさらにそれを原稿に書く身(私)の対応としては、
まずはなるべくたくさんの情報を集めて、

1.結果は両極端のどちらかではなく、だいたいその中間だと考える
2.多数決で、より多く根拠がある方を「多分正しい」とする 
3.「両方のデータが存在するので、今のところは専門家でも意見が分かれているようです」とそのまま書く

のどれかとする。
しかし基本的には3の、「両方のデータがあるので専門家でも意見が定まっていないようです」と結論付けることが多い(それを結論と言っていいのかは知らんが)。

対立するデータがある中で、もし一方のデータに目をつぶり自説に都合の良い情報しか見ないようになると、それは科学的ではなく宗教的、自己洗脳状態となってしまう。


さて、このコロナ騒ぎにおいては、専門家でさえ(そもそもメディアに出ているのはウィルスの専門家ですらない、「なんとなく病気つながりだから専門家ってことにして間違いではない気がする」という水準の門外漢の薬剤師さんやお医者さんだったりするが)、専門家とされる人でさえそういう「自分の意見と合致する情報しか採用しない」という人が多いように感じる。

つい昨日1/2も、Twitterでその典型となる意見を見た。
私としてはこんな長い文章でしかも名指しで誰かを批判することは本来はしたくないのだが(多分日本人相手には初めての経験だと思う)、これは国民の健康というか命にも関わる分野であり、日本の(元)ワクチン担当大臣にワクチンの知識をレクチャーするほどの影響力あるポジションにいる人からの発言だったため、さすがにどうしても捨て置けないと思い、その危うさを指摘するために書いている。

それは『手を洗う救急医Taka「みんなで知ろう! 新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話」2刷決定』さんによる、以下のツイートである。(この後順を追って説明します)


手を洗う救急医さん(「救急医先生」だと変なので「さん」とさせていただきます)は、プロフィールにある通りCoV-Navi……つまり「こびナビ」副代表の方……つまり、新型コロナウィルスのワクチンを力強く推進する立場の方である。

このツイートだけではよくわからないと思うので、順番に辿って行くと、まず発端はこのデータ。
いろんなところで紹介されているのだが、とりあえず同じくこびナビ副代表の峰先生もツイートしているので、それを貼ってみる。


画像部分だけ取り上げると、以下。

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一応、元の論文のPDFデータはこちら

これは、デンマークで、オミクロン株(とデルタ株)へのワクチン効果について統計をまとめたデータである。

具体的に言うと、オミクロン株とワクチンの関係を分析したところ、ファイザーとモデルナのワクチンについては、2回接種後一定期間が経つと、接種者はむしろ未接種者よりも感染しやすくなってしまうという結果が出たのである。
例えば左の図を見ると、ファイザーのワクチンでは90日経過後に-50%から-100%なので、2回接種した人は接種後3ヶ月以上経つと、未接種者と比べて1.5倍から2倍、オミクロンにかかりやすくなってしまっているのだ。


さて、ここで私が言いたいのは、決して「だからワクチンは効果ないよね」「打たない方がいいよね」ということではない。

これはあくまでデンマークの論文であり、他の国では違うかもしれない。日本で調べれば、半年後でも感染防止効果が持続しているかもしれない。
あるいは、2回目の後3ヶ月経ったら感染しやすくなってしまうけど、3回目を打てば感染防止効果が300%になって、総合的には素晴らしい効果が発動されるかもしれない。
もちろん3回目の接種が終わった直後にまた新しい株が出て、その新株に対しては効果がマイナス300%になってしまうかもしれない。

それは、単純に「今の段階ではわかっていないこと」である。
どの地域に住む人でどの年齢の人ならワクチンを打った方が良いのか、3回目が必要かいらないか、それは今後もどんどん出て来る各国の各世代のデータを見て、議論を積み重ねればいいことだ。
それは今回の記事の主題ではない。

しかしそれを踏まえて私が言いたいこと、とても大事だと思うことは、「デンマークでこのような結果になったということは事実として考察に取り入れなければいけない」ということである。

データ自体が捏造されているという可能性ももちろんゼロではないだろうが、それを言っていたらこの世に信用できるデータなんてなにもないことになってしまうので、その可能性はここでは考えない。
こびナビの峰先生もツイートで引用しているわけなので、このデータ自体はまず事実と考えて良いと思う。

つまり「デンマークではこういう結果になった」ということは事実として受け止めて、その情報を餌にしてさらに自分の考察を固めて行くということが、理論的な思考においては必要だと思うのである。
仮にこれを「こんなものは、自分の意見と違う結果だから認めない!」という態度を取ってしまうと、それは理論ではなく信仰になってしまう。

そこで、手を洗う救急医Takaさんの話に戻る。

このデンマークの論文の結果を、ウィルス学の専門家である京都大学の宮沢孝幸准教授が、メディアで「ワクチン2回打ってしばらく経つとむしろ感染しやすくなってしまうよ」という意味合いで紹介した。
するとそれに対して(その宮沢先生の発言に対して)、手を洗う救急医さんが最初に紹介したツイートで激しく批判したのである。

もう一度引用するが、以下。
2つあるので、順番に。


もう少し解説すると、
そのデンマークの解析結果が載った論文には「論文著者による考察」の部分があって、その考察には「こういう結果(期間が経つと効果がマイナス)が出てるけど、それは単純にワクチンが効かなくなったっていうことじゃなくて、例えば『ワクチン打つと安心して出歩くようになっちゃう』とか、そういう行動の変化が原因になっているとも考えられるよ」と書かれているそうなのだ。

ありがたいことにその部分も手を洗う救急医さんが自ら引用してくださっている。英語が得意な方は読んでみるといいと思う。
私は得意ではないがweblioを駆使してがんばって読んだ(しかしよく理解できなかった。しかしたしかに上のようなことが書かれているように思う)。


その背景があって、上の2つのツイートにつながる。

つまり、手を洗う救急医さんの主張は、「考察で『行動の変化が原因かも』と書かれているのだから、この論文を元に『ワクチン効果がマイナスになった』なんて言う宮沢准教授の発言はデマで有害だ」というものだ。


しかし、私は、その手を洗う救急医さんの指摘に対して反論をしたい。

私としては、この手を洗う救急医さんの批判こそが、むしろ有害であると感じたのだ。

その理由について述べさせてもらう。
私がそう思うのには、3つの理由がある。

1.行動がどうであれ、2回接種一定期間後に効果がマイナスになったということは事実でしかない

救急医さんが(あるいは元論文の著者の人が)指摘するところの「リスク行動の差」というのは、つまり「ワクチンを打ったら人々は行動が変わるので感染しやすくなってしまう」ということだろうが、そうだとして、ワクチンを打ったら人の行動が変わるということも含めてワクチンを打った結果ではないか。
医学的には違うのだろうが、素人感覚ではそれも含めてのワクチン効果である。
ワクチンを2度接種したことで人の行動が変わろうが変わるまいが、結局、結果として2回接種後3ヶ月経った人たちは未接種者の1.5倍から2倍オミクロンに感染したのである。その結果が変わることはない。
その厳然たる事実に対して、「考察ではこういう注が入っていますよ」と補足の形で指摘するならまだしも、いきなりデマ呼ばわりというのはいくらなんでも乱暴すぎないだろうか?

2.「ワクチンを打った後の行動が」を言い始めたらもはやどんなデータも参考にならなくなる

ワクチンを打った後こんな効果が出たこんな結果になったという論文はかなりの数があるだろうが、「結果は人の行動で左右されるんだからこんなデータは信用ならない」と言い始めたら、信用できるデータなどひとつもなくなってしまうのではないだろうか?
全員病院に拘束して何ヶ月も寝たきりで過ごさせることでもしない限り、普通に生活していれば人は気ままに行動する。「まあ人はみんな気ままに行動するんだから、被験者の行動のことをいちいち考慮はしないでデータを見ましょうね」、というのが一般的な研究の約束事ではないのだろうか? そうしなければ、すべてのワクチン効果の研究が「行動の差があるので結局よくわからない」になってしまう。
なぜ手を洗う救急医さんの意向(ワクチン推進という)に反するデータが出た時だけ、「行動のことを考えてないからこれはデマ」とされてしまうのか。


3.「ワクチンの効果があった」という論文に対しては絶対に「行動がどう」という言いがかりはつけないはず

これは2の理由とかぶるのだが、もし「ワクチン接種後、1年経っても抜群の感染防止効果が続いていました」という集計結果が出たら、その研究に対して「いや、これは人々の日常的な感染対策の行動の成果かもしれないから、ワクチンの効果だとは言えないんじゃないか」とは、手を洗う救急医さんは(おそらく他のこびナビの方々も)絶対に言わないだろうということ。
いや、これも将来のことなので、わからない。言うことがあるという、可能性はあるかもしれない。
しかし私個人としては、言わないと思う。先生のスタンスに合致する高いワクチン効果が見える研究結果が出たら、救急医先生は「でもリスク行動の差を考慮していないから、この結果はデマで有害だ」とは絶っっっっ対に言わないと思う。スタンスに反するデータだったから、リスク行動などを持ち出してデマと断定しているのだ。


………以上の理由から、私は手を洗う救急医さんの情報の扱い方、宮沢先生への批判は、大変に不公平なやり方だと考える。

「自分の意見と合致する情報しか採用しない」「納得したくない情報はデマということにする」というのは一切科学的でない考え方で、およそ大臣に指導するような人が取っていい行動ではないと思う。
せめて、「たしかにデンマークではマイナスになりましたが、他の10カ国では明確にプラスになっているので、総合的にはワクチンは打った方がいいと考えられます」というように、事実を事実として捉え、両方のデータをちゃんと参照して自説を組み立てるべきではないだろうか?
そうしてこそ、その説に従う(彼らを信じてワクチンを打つ)国民が納得して行動できると思うのだ。
気に入らないデータはデマ扱いするような態度を取ってしまっては、その人そのものに対する信頼性がなくなってしまい、それはその人のすべての発信の信憑性も下げることになると思うのだが、どうだろうか?

私が思うに、ワクチンを強硬的に推進している専門家の方たちは、こういう排他的な主張が目に付くように思える。
もちろんワクチン絶対反対の人の中にも理論ではなく信仰の水準に行ってしまっている人もおり、また推進の方でも打たない方でも冷静に確かな情報だけ集めてリスク判断している人もいる。が、こびナビの方たちの発信は日本の方針を左右するほどの影響力があり、ほぼ全日本人1億人の健康に関わる重大事項であるため、そこを気をつけて欲しいなと、大変気になってこの長文を書かせていただいた。


本を書く場合と違いこの記事では有識者の監修を受けておらず、私の知識も浅いため、もしかしたら私こそ事実誤認をしている部分があるかもしれない。
明らかに違っていたと判断する部分があれば今後訂正したり消したり、謝罪することもあると思う。先のことは私にはわからない。
しかしこういう文を書いたことで、私自身も今後ますます情報の取捨選択には十分注意して発信して行こうと、あらためて気を引き締めた。

追記あり:次の記事


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