食パンを買ったときに袋についているプラスチックの留め具、ありますよね。
アレ、なんていう名前か知っていますか?
知ってる人、ほとんどいないですよね?
実はアレ「バッグクロージャー」または「クロージャー」と呼ばれています。
日本では「クイックロック・ジャパン」という会社が製造・販売を一手に引き受けています。インベーダーゲームのインベーダーのような不思議な形にもちゃんと理由があるんだとか。
そんなワケで、ちょっと調べてみることにしました。
いろんな種類のクロージャーが
クイックロック・ジャパンの本社所在地は埼玉県川口市。最寄駅の南北線・川口元郷駅から徒歩10分ほどで到着しました。
工場も併設されているので、小さめの小学校ぐらいの敷地がありそうです。
QuickLockかと思いきや「Kwik Lok」!(社名の由来はあまりよく分からないそうだが)
会議室に通されると、壁一面にびっしりと、なにやらコレクションらしきものが。
近寄ってよく見てみると……
全部アレかい!
もとい……クロージャーかい!!
世の中にはこんなにもたくさんのクロージャーがあったんですよね。
これらは付箋紙のような紙に、商品名などを印刷してクロージャーに貼り付けてあるため「ラベルクロージャー」(写真下)と呼ばれるそうです。
1950年代、南カリフォルニアで生まれた
さっそく担当の方にお話をうかがってみることに。
取材に応じて下さったのは、クイックロックジャパン広報担当の鈴木敦さん。
鈴木さんにクロージャーの歴史についてたずねてみると、会社案内を見せながら説明してくれました。
クロージャーが作られたのは1952年、アメリカ南カリフォルニアにて。クイック・ロック創業者で包装機械の会社を経営したフロイド・パクストン氏は、当時ワシントン州のりんご農家からある相談を受けます。
「りんごを袋詰めした後に、袋の口を簡単に閉じる方法はないか?」
そんな農家の悩みに「なんとか役に立ちたい」と考えたパクストン氏。彼は移動中の飛行機のなかでアイデアをひらめき、小さなポケットナイフとプラスチックの破片を使い、イメージを具現化します。これがクロージャーの原型となり、その後、世界各国へと広がっていきました。
▲インベーダーみたいなアレの生みの親、パクストンさん
鈴木さん:クロージャーが日本に普及したのは1980年代で、それまではパンの袋はビニールの針金などで留められていたようです。あとは、キャラメルのように包装紙で包んでテープで留められたりもしていました。
あー、そんなのもありましたよねぇ……というほど年配者じゃないが、クロージャーがいかに画期的なツールだったかは想像するに難くないはず。
生産数は年間なんと32億個
クイック・ロック・ジャパンが設立された1983年以降、日本国内でもクロージャーの生産が始まりました。現在、クイック・ロック・ジャパンの従業員数は約70人で、大阪と福岡にも営業所や事務所を置いています。
クロージャーの生産数は、年間なんと約32億個。
鈴木さん:クロージャーは立体商標を取得しておりまして、日本では7〜8割がパンの包装に使われています。パン以外にも、人参やブドウといった野菜や果物類の包装にも利用されていますよ。野菜や果物の留め具としては、クロージャー以外にも「コニクリップ」と呼ばれる挟んで留めるタイプの留め具もあって、市場を分け合っている形ですね。
▲もっともポピュラーなJ-NRPタイプは全生産数の約8割近くを占める。コンビニやスーパーで見かけるもののほとんどがこれ
海外では、業務用の氷の入った袋を留める際に、大きめのクロージャーが使われることもあるとのこと。
▲こういうビッグサイズはなかなかお目にかかれない
鈴木さん:最近だと、焼きそばの袋でも使われていますし、医薬品の包装にも使われ始めています。
▲これは自社のサンプル商品
クロージャーはどうやって作られるのか?
残念ながら工場見学はNGとのことでしたが、クロージャーの作り方と袋を留めるための自動結束機について、教えてもらいました。
まずはクロージャーの製造。原反(げんたん)と呼ばれる、幅1メートルぐらいの大きなプラスチックのロールを引き延ばして、パンチングで打ち出してクロージャーの形にします。
▲出来たばかりのクロージャーは繋がっていて、昔の映画フィルムのような形をしていています
鈴木さん:クロージャーの原価は1個1円もしないぐらいです。
クロージャーを袋に留める際は自動結束機を使用します。
▲これが自動結束機
▲ クロージャーをセットしたところ。これもまさに映写機みたい!
会社内のテスト用マシンで、パンの袋を留める場面を見せてもらいました。
ベルトコンベアに乗せられたパンの袋は、結束機の下を通過すると、しっかりとクロージャーが留められて、流れていきました。ここで賞味期限などの打刻も可能なんだそう。
鈴木さん:弊社のクロージャーは機械で結束できるので、大量生産の商品にも対応できるのがポイントです。
殿様商売かと思いきや……
現在、クロージャーは立体特許を得た商品のため、クイックロックジャパンが一手に生産をしています。
さぞや会社の将来も安泰かと思いきや……。
鈴木さん:安泰だなんて、とんでもないです。今、マイクロプラスチック問題※もあり、プラスチック製品に対する消費者の意識は変化してきています。今後は、プラスチックに替わる新しい素材の開発など、社会的にも会社的にも課題は多いですね。
※5mm以下の微細なプラスチックが、海洋生物などの生態系に悪影響を与えている世界的な問題
プラスチックストローが紙製ストローに変わりつつあるように、紙製のクロージャーが作られる日も、もしかしたら近いのかもしれません。
鈴木さん、ありがとうございました!
書いた人:西谷格(にしたに ただす)
2009年~2015年まで中国・上海に住み、中国社会について週刊誌などでレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館)など。