信じるかどうかは任せるが、元関係者の私がこれからKalafina解散~復活までの舞台裏、そして梶浦由記氏の退社の真相について書き記したいと思う。なお最初に断っておくが、このブログで語るのは、単なる事実のみである。特定の誰かを批判する目的は一切無いことをご理解頂きたい。何よりKalafinaメンバーや梶浦氏、および関係者たちも全員1人の人間であるため、特定誰かに対する誹謗中傷コメントはお控え頂けると幸いである。関係スタッフの実名については、CDや映像作品のクレジットで明らかにされている者のみ記載する。
この記事は前編、後編、番外編に分けて書き記す。以下の①と②の内容が前回公開の前編、③と④の内容が今回の後編、⑤が番外編である。
①梶浦由記氏事務所退社の真相
②Kalafina分裂、活動休止の真相
③Kalafina活動休止後のメンバー、梶浦氏の動向
1. Keiko / 2. Hikaru / 3. Wakana
④Kalafina再結成に至った経緯、梶浦氏激怒の真相
⑤Kalafinaに関する権利関係
(前編からお読みになる方はこちら)
(番外編からお読みになる方はこちら)
Kalafina
プロデューサーである梶浦氏が所属事務所のスペクラを退社した後、活動の計画を巡ってKalafinaのメンバー間でも意見が別れた。ここからは、各メンバーの決断について説明していく。
2020年にソロデビューしたKEIKO
1番最初に事務所を退社したKeikoは、3人の中で最も梶浦氏を尊敬していた。元々彼女は低い声がコンプレックスであった。Keikoはそんな低音域の声が上手く活かせる楽曲を作ってくれた梶浦氏に本当に感謝しており、梶浦氏に何も言わずに着いていくことを決めたとインタビューでも語るほどである。またKalafina時代には作詞した歌詞を提出する機会があったというが、3人の中でKeikoだけは提出しなかったということが本人のインタビューでも明らかにされている。それほどまでにKeikoの梶浦氏に対するリスペクト心は強く、KalafinaやFictionJunction以外でのソロ活動などをするつもりは全くなかった。当然Keikoにとって、梶浦氏抜きでKalafinaの活動を続けるという選択肢は無かった。
また、Keikoは2016年の「Yuki Kajiura LIVE Vol.#13」を軽い気管支炎のため欠席したあたりから体調不良の日が多く、不眠症などの持病があった。ワンマンライブが体力的に最後まで持たないなどの問題も抱えており、体調が万全とは言えない状態が続いていた。そのため、Keikoは梶浦氏の事務所退社に合わせて一度休養し、落ち着いた頃に梶浦氏プロデュースのもとでまたKalafinaの活動を再開したいと考えていた。
事務所を離れて梶浦氏のもとで活動を再開する準備として、Keikoは2017年末にKalafinaの商標登録を出願。当初のKeikoの計画では、Kalafinaメンバーは全員梶浦氏の後を追ってスペクラを退社した後に一定期間の休養をとり、その間に商標権を獲得。諸々が落ち着いた頃にまた梶浦氏のもとでグループの活動を再開するつもりであった。だが結果的にその計画は難航し、商標権の出願も取り下げになった。その頃にはKeikoはもう芸能界引退を考えていた。そうして休養している間にスペクラはKalafinaの正式な解散を一方的に決定し、発表した。当時公式SNSアカウントを持っていなかったKeikoはグループについて言及する場がなかったため、梶浦氏の公式サイトで臨時的なコメントを出した。
梶浦氏は梶浦曲以外を歌う機会がほとんど無く10年間縛り付けられていたKalafinaメンバーを少し不憫に思い、一度3人とはあえて距離を置くことにした。一方のKEIKOは体調不良とKalafina解散に伴い一時は引退も考えていたが、休養を経て体調が回復。加えてKEIKOが復帰後も梶浦曲以外を歌うつもりがなかったことを受け、梶浦氏とM氏はKEIKOに「Yuki Kajiura LIVE」(以外YKL)への出演を打診。KEIKO側も快諾し、彼女は梶浦氏のもとでステージ復帰を果たした。
YKLに出演したKEIKO (2024年)
その後は音楽関係者の後押しもあり、元々あまり乗り気ではなかったソロデビューを果たすことに。たが、梶浦氏リスペクトの姿勢は変わらずであるためもちろんFictionJunctionの活動には継続して参加し、ソロ1stアルバムのリード曲でも梶浦氏に作曲を依頼。ソロデビュー後初のアニメタイアップ曲「夕闇のうた」は梶浦氏全面プロデュースとなった。当初のライブではソロの持ち曲が少なかったためKalafinaのカバーも披露していたが、May'nをライブのゲストとして呼んだ際に2人で披露した「to the beginning」が酷評。以降、YKLでKalafina楽曲を披露する機会が出来たこともあり、KEIKOのソロライブではKalafina楽曲が封印されている。
2020年からH-el-ical//としてソロ活動をしていたHikaru
Keikoの事務所退社から約半年後にHikaruもスペクラを離脱。Keikoと同様にHikaruも梶浦氏抜きでのKalafinaの活動はあり得ないと判断した。Keikoと異なる点といえば、Hikaruは以前からソロデビューに興味を持っていたこと。Kalafina時代にカドカワのインタビューで、いつかKalafinaだけでなくソロアーティストHikaruとしても活動したいと明かしている。
Keiko離脱に伴い実質的にKalafinaの活動が不能になったため、Hikaruはオタ活関連のコラム執筆や、ソロでのライブなど自分がやりたい活動を開始。だが、それらのソロ活動をするためにスペクラに所属し続ける必要はないと判断し、スペクラ退社を決意。また、Kalafina時代後半には歌い方を変えたせいか、それとも多忙スケジュールで喉を酷使したせいか、かつてのように高音域の曲を地声では歌えなくなっていた。そのため、Keiko同様一定期間の休養を取りたかったのだろう。
スペクラ音楽部門のアーティスト契約では、よほどの円満退社ではない限り、退社後1年間は他の事務所には所属出来ないとされていたため、Hikaruも約1年間は表立った活動を自粛。退社から1年後の2019年秋から新事務所Hifumi Inc.に移籍し、ソロプロジェクトH-el-ical//としてデビューすることを発表した。また、Keikoと同様にソロでの持ち曲が少なかった当初はKalafina曲をライブでカバーしていたが、「Kalafina曲を1人で歌うのはやはり寂しい」(インスタライブ等での発言より)という理由と、YKLでKalafina曲を披露する機会が出来たという理由で、HikaruもソロライブではKalafina楽曲を封印している。
Hikaruもなかなかにこだわりの強いタイプであるため、移籍先のHifumi inc.も3年間の契約期間が終了した後に契約更新をせずに退社。ここでH-el-ical//としての活動を終了して、アーティスト名はHikaruに戻る。そしてFC運営会社のオクルトノボルとエージェント契約を結んだが、こちらでも会社側との意見の相違があり半年間で契約終了となった。以降はフリーランスでマイペースに活動している。
YKLに出演したHikaru (2024年)
梶浦氏はKalafina復活を熱望するファンの声も受けて、YKL Vol.#16からKalafina曲のカバーを解禁することを決意。YKLレギュラー歌姫のKEIKOはもちろん、Kalafina曲を歌う機会を失っていたHikaruもYKLに呼んでKalafinaカバーを披露することとなった。それならWakanaも呼べよっていうのがファンの意見ではあるが、梶浦氏とWakanaの共演が実現しなかったのは後述のとおり。
2019年にソロデビューしたWakana
Kalafinaメンバーの中で唯一所属事務所スペースクラフトに残留することを決意したのはWakana。不調を抱えていて休養を取りたかったKeikoやHikaruとは対照的に、Wakanaは休むことなくソロでも音楽活動を継続したいと考えていた。そもそも、WakanaはKalafina初期のMayaがグループから脱退する際に、自分もソロ活動がしたいからと言ってKalafinaからの脱退を申し入れた過去があるほど。その当時のKalafinaは「空の境界」の主題歌を歌う為だけに結成されたグループであり、活動の先行きが不透明だったため脱退を申し入れたとも考えられるが、その後すぐに「空の境界」以外のアニメタイアップが決まりグループの存続が約束されたため、Wakanaは何とかKalafina脱退を思いとどまった。
その後もWakanaはKalafinaとFictionJunctionの活動で多忙なため、長年夢見ていたソロ活動をすることなど当然不可能であった。そして結果的に、約10年間梶浦楽曲ばかりを歌うことを強いられた。決して梶浦楽曲に嫌気がさしたなどの理由ではないが、梶浦氏の事務所退社とKalafina活動休止に伴い、梶浦楽曲とは離れて新たにソロ活動をすることを決意した。(とはいえ、Wakana本人がKalafina時代の活動を無かったことにしたかった訳ではないので、WakanaソロライブではKalafina曲のカバーは普通に披露されていた。)
Hikaru同様に一度スペクラを退社してからソロデビューの道もあったが、そうなると1年間は他の事務所に所属出来なくなるし、事務所やレーベルに所属していないと圧倒的に不利になる。それは実際、Wakanaのソロアルバムの楽曲と、フリーランスになった後のHikaruソロ楽曲を聴き比べれば一目瞭然である。明らかにWakanaソロ楽曲のクリエイター陣のほうが豪華であり、サウンドも生楽器が中心でレコーディングやMV撮影にもそれなりに予算がかけられている。一方、フリーランスになってから発表されたHikaruの楽曲はずっと同じクリエイターが手掛け続け、YouTubeに公開されているLyrics VideoのShort Versionも明らかに低予算である。Wakanaは梶浦氏やKEIKO、Hikaruとの共演よりも、ソロアーティストとしての安定を選んだという訳である。
そして、WakanaがKalafina解散後に梶浦氏やKEIKO、Hikaruと距離を置くことになったのは確かに事務所の意向もあるが、実はWakana本人の意思が大きい。なぜなら、スペクラを退社した梶浦氏と、現スペクラ在籍アーティストとの共演が完全に不可能な訳ではないからである。
FictionJunctionのKAORI(織田かおり)は2018年の9月までスペクラ所属だったが、同年6月~7月にかけて行われたYKL Vol.14には普通に参加出来た。梶浦氏の退社が2018年の2月であるから、既に退社した梶浦氏と、まだスペクラ所属だったKAORIは同じステージで共演出来たということになる。そして、2019年2月に行われたフライングドッグ主催のアニソンフェスである「犬フェス」では、実質的に活動休止状態であったFictionJunction YUUKA(以下FJY)が一夜限りの復活を果たす。FJYボーカルのYUUKA(南里侑香)はスペクラ所属だが、梶浦氏との共演が実現した。
これらの状況を踏まえると、当人同士の気持ち次第では長期のツアーはともかく、一夜限りのライブで梶浦氏とWakanaが共演することなど別に不可能では無かったのである。だが、結局それは叶わなかった。結婚を機に仕事をセーブしているYUUKAはともかく、普通に歌手活動を継続しているWakanaまでもが日本武道館で行われた梶浦氏の30周年記念公演「Kaji Fes 2023」にさえ出演しなかった。
現在もスペクラに所属するYUUKA(左)とWakana(右)
梶浦氏側は別にWakanaと仲が悪くなった訳でもないので、良いタイミングがあればWakanaと再び共演することも考えていた。だが、FictionJunction以外にソロ活動等を行っていたKAORIやYURIKO KAIDAとは異なり、KalafinaとFictionJunctionを兼任していたWakanaとKeikoは2008年から10年間に渡って梶浦楽曲以外での音楽活動をする機会がなかった。そのことを梶浦氏は「同じユニットで、自分たちが何一つ希望を(曲について)述べられない、与えられた曲を力いっぱい歌うしかできない、歌い手として非常に不自由な状況下で、自分が歌いたい曲を歌うチャンスを一回も与えられずに彼女たちは10年間歌ってきたんですよ。」と語っており、歌姫たちに対して今後は自分の歌いたい曲を歌っていってほしいというメッセージを示唆したほどである。
そのため、Kalafina解散後も梶浦曲以外での音楽活動を考えていなかったKEIKOを梶浦氏はFictionJunction、YKLの歌い手として呼び戻したが、別のクリエイターとやりたい音楽活動を行っているWakanaを梶浦氏側からFictionJunctionやYKLの歌い手としては呼び戻しづらい状況となっていた。Wakana側も梶浦氏側からオファーがなければ、FictionJunctionやYKLの歌い手に復帰したいとは言い出せない。両者の共演が6年以上途絶えているのは以上のような経緯からである。
両者の共演が実現しなかったのはスペクラのせいだと思われがちであるが、実際は事務所の意向だけでなく当人同士の意向も原因であるのだ。
Kalafina関係者の利害関係については番外編にまとめたためそちらをご覧いただきたい。
Kalafinaが再結成されることとなった経緯についてはまだ不明な点が多いが、やはり3人揃って歌っている姿をまた見たいというファンの声がメンバーを後押しした形になるのだろう。KEIKOとHikaruはYKLをはじめとするライブやYouTube配信等で頻繁にコラボしていたが、Wakanaが居ない、Kalafina復活してほしい、YKL等でWakanaパートをカバーするJoelleやLINO LEIAの声は曲に合っていないといったコメントを大量に浴びて来たのだろう。
そして、スペクラに残留したWakanaを含めた3人でKalafinaの名前を使ってライブをするには、やはりスペクラが主導権を握ることとなった。スペクラが主導権を握っていることに加え、メンバーの所属事務所もバラバラであるためメンバーも事務所を飛び越えて下手に動くことが出来ず、結果的に梶浦氏には相談することなく話が進んだと考えられる。
芸能界はこの辺のルールが厳しい。例えば、ある女優が朝ドラヒロインのオーディションに合格したとしても、ヒロイン正式発表の日までその事実を家族にすら伝えてはいけないという守秘義務があるのである。今回のKalafinaのケースも同様で、スペクラを離れてプロデューサーを一度退いた梶浦氏をメンバー3人は赤の他人扱いせざるを得なかったのである。(もちろん3人とも心の底では梶浦氏を赤の他人だとは到底思っていないだろうが。)
スペクラが頭を下げて「Kalafina Anniversary LIVE 2025」のディレクションを梶浦氏に、サポートバンドをFBMに頼んでいればファンは一番納得しただろう。もしくは、せめてスペクラが事前に「Kalafina復活にあたり梶浦さんの楽曲を大切に使わせて頂きます」と梶浦氏サイドへ一言通告すれば平和的に解決したかもしれない。(実際は梶浦氏は一度プロデューサーを退いているため、スペクラが梶浦氏サイドに報告する義務は無いが。)
結局スペクラのプライドが許さなかったため、上記のようなファンが期待するシナリオは実現しなかった。そして、Wakanaソロ活動のサウンドプロデュースを担当する武部聡志が音楽監督として同ライブに携わることとなった。案の定SNS上では大炎上となってしまった。
メンバー3人もKalafina復活の際には梶浦氏に携わってほしかっただろうが、結果的は主導権を握るスペクラには逆らえずに守秘義務を全うし、梶浦氏には報連相せずに計画を進めたというのが事実であろう。非常に残酷ではあるが、もし3人がスペクラからの指示に従い守秘義務を全うしたのなら、それは芸能人としては正解である。仮にここで、元プロデューサーとはいえ一応は部外者として扱わないといけない梶浦氏に報連相をしてしまったメンバーは口が軽いと見なされ、周囲の関係者からの信用を失ってしまうことにもなりかねない。メンバー3人も心苦しかっただろう。
梶浦氏はKalafinaに対する思い入れがとても強かったのに自分の知らないところでKalafina復活が決まったことが残念であり、それに加えて一部ファンからのKalafinaに対する問い合わせが殺到してしまったため、例の声明文をXに投稿することとなった。だが、文面を見る限り梶浦氏はKalafinaの今後の活動には関与しないと思われるが、メンバー1人1人と永遠に絶縁するとまでは全く思っていないようである。だから少なくとも、今後のYKLのレギュラー歌姫からKEIKOが外されるといった心配は無さそうである。
一方YKLでは元々、「Kalafinaは単独で精力的にライブ活動を行っている」という理由からKalafina曲を演奏してこなかった。Kalafina解散後のYKLではKalafina曲のセルフカバーが解禁されたが、Kalafinaが復活するのであれば、今後のYKLでは再びKalafina曲の演奏が無くなる可能性は多いにある。そうなると、Wakanaはもちろん、HikaruもYKLに呼ばれなくなり、梶浦氏と疎遠になってしまうだろう。
Kalafinaが「Anniversary LIVE 2025」以降どのような活動をするかは不明だが、梶浦氏が関与しない以上は茨の道になるだろう。
もし新曲をリリースするとして、ソニーが関与するかどうかも不明だ。前編でも述べたとおり、ソニーはKalafinaの活動拡大のために梶浦氏をKalafinaの活動から少しずつ排除しようとした時期もあった。だが、梶浦氏がAimerに楽曲提供したFateの主題歌がAimer史上初となるオリコン1位を獲得したり、梶浦氏がLiSAに楽曲提供した鬼滅の主題歌も大ヒットしたため、今のソニーは梶浦氏を外す判断が間違っていたと認識しているだろう。そもそもKalafina自体が梶浦氏と仕事をしたいソニー側が始めたプロジェクトでもあるため、ソニーは梶浦氏に頭が上がらない。仮に梶浦氏プロデュースによるKalafinaが復活するなら、商魂たくましいソニーは梶浦氏が手掛けた「まどマギワルプルギス」の主題歌や「鬼滅無限城」主題歌をKalafinaに歌わせて大儲けしようとするだろう。だが、ソニーは梶浦氏が関与しないKalafinaに今はほとんど興味はない。そうなると、Kalafinaがアニプレ作品のアニメタイアップを取ってくるのは絶望的になる。
梶浦氏のFC会報より一部抜粋
そもそもKalafinaが毎年のようにアニメタイアップを取り続けられたのは、アニメの劇伴を梶浦氏が担当するついでに、主題歌の制作も梶浦氏に担当させてほしいという流れで決まった作品が多いからである。今後それが無くなると、かなり厳しい道のりになるだろう。
前編はこちら↓
番外編はこちら↓
この記事は前編、後編、番外編に分けて書き記す。以下の①と②の内容が前回公開の前編、③と④の内容が今回の後編、⑤が番外編である。
①梶浦由記氏事務所退社の真相
②Kalafina分裂、活動休止の真相
③Kalafina活動休止後のメンバー、梶浦氏の動向
1. Keiko / 2. Hikaru / 3. Wakana
④Kalafina再結成に至った経緯、梶浦氏激怒の真相
⑤Kalafinaに関する権利関係
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③Kalafina活動休止後のメンバー、梶浦氏の動向
Kalafina
プロデューサーである梶浦氏が所属事務所のスペクラを退社した後、活動の計画を巡ってKalafinaのメンバー間でも意見が別れた。ここからは、各メンバーの決断について説明していく。
1.Keiko
2020年にソロデビューしたKEIKO
1番最初に事務所を退社したKeikoは、3人の中で最も梶浦氏を尊敬していた。元々彼女は低い声がコンプレックスであった。Keikoはそんな低音域の声が上手く活かせる楽曲を作ってくれた梶浦氏に本当に感謝しており、梶浦氏に何も言わずに着いていくことを決めたとインタビューでも語るほどである。またKalafina時代には作詞した歌詞を提出する機会があったというが、3人の中でKeikoだけは提出しなかったということが本人のインタビューでも明らかにされている。それほどまでにKeikoの梶浦氏に対するリスペクト心は強く、KalafinaやFictionJunction以外でのソロ活動などをするつもりは全くなかった。当然Keikoにとって、梶浦氏抜きでKalafinaの活動を続けるという選択肢は無かった。
また、Keikoは2016年の「Yuki Kajiura LIVE Vol.#13」を軽い気管支炎のため欠席したあたりから体調不良の日が多く、不眠症などの持病があった。ワンマンライブが体力的に最後まで持たないなどの問題も抱えており、体調が万全とは言えない状態が続いていた。そのため、Keikoは梶浦氏の事務所退社に合わせて一度休養し、落ち着いた頃に梶浦氏プロデュースのもとでまたKalafinaの活動を再開したいと考えていた。
事務所を離れて梶浦氏のもとで活動を再開する準備として、Keikoは2017年末にKalafinaの商標登録を出願。当初のKeikoの計画では、Kalafinaメンバーは全員梶浦氏の後を追ってスペクラを退社した後に一定期間の休養をとり、その間に商標権を獲得。諸々が落ち着いた頃にまた梶浦氏のもとでグループの活動を再開するつもりであった。だが結果的にその計画は難航し、商標権の出願も取り下げになった。その頃にはKeikoはもう芸能界引退を考えていた。そうして休養している間にスペクラはKalafinaの正式な解散を一方的に決定し、発表した。当時公式SNSアカウントを持っていなかったKeikoはグループについて言及する場がなかったため、梶浦氏の公式サイトで臨時的なコメントを出した。
梶浦氏は梶浦曲以外を歌う機会がほとんど無く10年間縛り付けられていたKalafinaメンバーを少し不憫に思い、一度3人とはあえて距離を置くことにした。一方のKEIKOは体調不良とKalafina解散に伴い一時は引退も考えていたが、休養を経て体調が回復。加えてKEIKOが復帰後も梶浦曲以外を歌うつもりがなかったことを受け、梶浦氏とM氏はKEIKOに「Yuki Kajiura LIVE」(以外YKL)への出演を打診。KEIKO側も快諾し、彼女は梶浦氏のもとでステージ復帰を果たした。
YKLに出演したKEIKO (2024年)
その後は音楽関係者の後押しもあり、元々あまり乗り気ではなかったソロデビューを果たすことに。たが、梶浦氏リスペクトの姿勢は変わらずであるためもちろんFictionJunctionの活動には継続して参加し、ソロ1stアルバムのリード曲でも梶浦氏に作曲を依頼。ソロデビュー後初のアニメタイアップ曲「夕闇のうた」は梶浦氏全面プロデュースとなった。当初のライブではソロの持ち曲が少なかったためKalafinaのカバーも披露していたが、May'nをライブのゲストとして呼んだ際に2人で披露した「to the beginning」が酷評。以降、YKLでKalafina楽曲を披露する機会が出来たこともあり、KEIKOのソロライブではKalafina楽曲が封印されている。
2.Hikaru
2020年からH-el-ical//としてソロ活動をしていたHikaru
Keikoの事務所退社から約半年後にHikaruもスペクラを離脱。Keikoと同様にHikaruも梶浦氏抜きでのKalafinaの活動はあり得ないと判断した。Keikoと異なる点といえば、Hikaruは以前からソロデビューに興味を持っていたこと。Kalafina時代にカドカワのインタビューで、いつかKalafinaだけでなくソロアーティストHikaruとしても活動したいと明かしている。
Keiko離脱に伴い実質的にKalafinaの活動が不能になったため、Hikaruはオタ活関連のコラム執筆や、ソロでのライブなど自分がやりたい活動を開始。だが、それらのソロ活動をするためにスペクラに所属し続ける必要はないと判断し、スペクラ退社を決意。また、Kalafina時代後半には歌い方を変えたせいか、それとも多忙スケジュールで喉を酷使したせいか、かつてのように高音域の曲を地声では歌えなくなっていた。そのため、Keiko同様一定期間の休養を取りたかったのだろう。
スペクラ音楽部門のアーティスト契約では、よほどの円満退社ではない限り、退社後1年間は他の事務所には所属出来ないとされていたため、Hikaruも約1年間は表立った活動を自粛。退社から1年後の2019年秋から新事務所Hifumi Inc.に移籍し、ソロプロジェクトH-el-ical//としてデビューすることを発表した。また、Keikoと同様にソロでの持ち曲が少なかった当初はKalafina曲をライブでカバーしていたが、「Kalafina曲を1人で歌うのはやはり寂しい」(インスタライブ等での発言より)という理由と、YKLでKalafina曲を披露する機会が出来たという理由で、HikaruもソロライブではKalafina楽曲を封印している。
Hikaruもなかなかにこだわりの強いタイプであるため、移籍先のHifumi inc.も3年間の契約期間が終了した後に契約更新をせずに退社。ここでH-el-ical//としての活動を終了して、アーティスト名はHikaruに戻る。そしてFC運営会社のオクルトノボルとエージェント契約を結んだが、こちらでも会社側との意見の相違があり半年間で契約終了となった。以降はフリーランスでマイペースに活動している。
YKLに出演したHikaru (2024年)
梶浦氏はKalafina復活を熱望するファンの声も受けて、YKL Vol.#16からKalafina曲のカバーを解禁することを決意。YKLレギュラー歌姫のKEIKOはもちろん、Kalafina曲を歌う機会を失っていたHikaruもYKLに呼んでKalafinaカバーを披露することとなった。それならWakanaも呼べよっていうのがファンの意見ではあるが、梶浦氏とWakanaの共演が実現しなかったのは後述のとおり。
3. Wakana
2019年にソロデビューしたWakana
Kalafinaメンバーの中で唯一所属事務所スペースクラフトに残留することを決意したのはWakana。不調を抱えていて休養を取りたかったKeikoやHikaruとは対照的に、Wakanaは休むことなくソロでも音楽活動を継続したいと考えていた。そもそも、WakanaはKalafina初期のMayaがグループから脱退する際に、自分もソロ活動がしたいからと言ってKalafinaからの脱退を申し入れた過去があるほど。その当時のKalafinaは「空の境界」の主題歌を歌う為だけに結成されたグループであり、活動の先行きが不透明だったため脱退を申し入れたとも考えられるが、その後すぐに「空の境界」以外のアニメタイアップが決まりグループの存続が約束されたため、Wakanaは何とかKalafina脱退を思いとどまった。
その後もWakanaはKalafinaとFictionJunctionの活動で多忙なため、長年夢見ていたソロ活動をすることなど当然不可能であった。そして結果的に、約10年間梶浦楽曲ばかりを歌うことを強いられた。決して梶浦楽曲に嫌気がさしたなどの理由ではないが、梶浦氏の事務所退社とKalafina活動休止に伴い、梶浦楽曲とは離れて新たにソロ活動をすることを決意した。(とはいえ、Wakana本人がKalafina時代の活動を無かったことにしたかった訳ではないので、WakanaソロライブではKalafina曲のカバーは普通に披露されていた。)
Hikaru同様に一度スペクラを退社してからソロデビューの道もあったが、そうなると1年間は他の事務所に所属出来なくなるし、事務所やレーベルに所属していないと圧倒的に不利になる。それは実際、Wakanaのソロアルバムの楽曲と、フリーランスになった後のHikaruソロ楽曲を聴き比べれば一目瞭然である。明らかにWakanaソロ楽曲のクリエイター陣のほうが豪華であり、サウンドも生楽器が中心でレコーディングやMV撮影にもそれなりに予算がかけられている。一方、フリーランスになってから発表されたHikaruの楽曲はずっと同じクリエイターが手掛け続け、YouTubeに公開されているLyrics VideoのShort Versionも明らかに低予算である。Wakanaは梶浦氏やKEIKO、Hikaruとの共演よりも、ソロアーティストとしての安定を選んだという訳である。
そして、WakanaがKalafina解散後に梶浦氏やKEIKO、Hikaruと距離を置くことになったのは確かに事務所の意向もあるが、実はWakana本人の意思が大きい。なぜなら、スペクラを退社した梶浦氏と、現スペクラ在籍アーティストとの共演が完全に不可能な訳ではないからである。
FictionJunctionのKAORI(織田かおり)は2018年の9月までスペクラ所属だったが、同年6月~7月にかけて行われたYKL Vol.14には普通に参加出来た。梶浦氏の退社が2018年の2月であるから、既に退社した梶浦氏と、まだスペクラ所属だったKAORIは同じステージで共演出来たということになる。そして、2019年2月に行われたフライングドッグ主催のアニソンフェスである「犬フェス」では、実質的に活動休止状態であったFictionJunction YUUKA(以下FJY)が一夜限りの復活を果たす。FJYボーカルのYUUKA(南里侑香)はスペクラ所属だが、梶浦氏との共演が実現した。
これらの状況を踏まえると、当人同士の気持ち次第では長期のツアーはともかく、一夜限りのライブで梶浦氏とWakanaが共演することなど別に不可能では無かったのである。だが、結局それは叶わなかった。結婚を機に仕事をセーブしているYUUKAはともかく、普通に歌手活動を継続しているWakanaまでもが日本武道館で行われた梶浦氏の30周年記念公演「Kaji Fes 2023」にさえ出演しなかった。
現在もスペクラに所属するYUUKA(左)とWakana(右)
梶浦氏側は別にWakanaと仲が悪くなった訳でもないので、良いタイミングがあればWakanaと再び共演することも考えていた。だが、FictionJunction以外にソロ活動等を行っていたKAORIやYURIKO KAIDAとは異なり、KalafinaとFictionJunctionを兼任していたWakanaとKeikoは2008年から10年間に渡って梶浦楽曲以外での音楽活動をする機会がなかった。そのことを梶浦氏は「同じユニットで、自分たちが何一つ希望を(曲について)述べられない、与えられた曲を力いっぱい歌うしかできない、歌い手として非常に不自由な状況下で、自分が歌いたい曲を歌うチャンスを一回も与えられずに彼女たちは10年間歌ってきたんですよ。」と語っており、歌姫たちに対して今後は自分の歌いたい曲を歌っていってほしいというメッセージを示唆したほどである。
そのため、Kalafina解散後も梶浦曲以外での音楽活動を考えていなかったKEIKOを梶浦氏はFictionJunction、YKLの歌い手として呼び戻したが、別のクリエイターとやりたい音楽活動を行っているWakanaを梶浦氏側からFictionJunctionやYKLの歌い手としては呼び戻しづらい状況となっていた。Wakana側も梶浦氏側からオファーがなければ、FictionJunctionやYKLの歌い手に復帰したいとは言い出せない。両者の共演が6年以上途絶えているのは以上のような経緯からである。
両者の共演が実現しなかったのはスペクラのせいだと思われがちであるが、実際は事務所の意向だけでなく当人同士の意向も原因であるのだ。
④Kalafina再結成に至った経緯、梶浦氏激怒の真相
こうしていろいろ拗れて分断されてしまった梶浦氏とKalafinaメンバーたちであったが、4人とも心の底ではそれぞれのソロ活動を継続しつつ、Kalafinaとしての活動も再開できないかという思いがあったようだ。だがKalafinaは売れるにつれ関わるスタッフがどんどん増え、それぞれに利害関係があるため、梶浦氏やメンバーの判断だけでKalafinaを復活させることは困難であった。そもそもKalafinaの解散は事務所であるスペクラが勝手に決めて、梶浦氏やKeiko、Hikaruには事後通告したほどである。(梶浦氏やKeiko、Hikaruはあくまでも解散するつもりはなく、状況が落ち着くまでグループとしての活動を休止するという認識だったようだ。)Kalafina関係者の利害関係については番外編にまとめたためそちらをご覧いただきたい。
Kalafinaが再結成されることとなった経緯についてはまだ不明な点が多いが、やはり3人揃って歌っている姿をまた見たいというファンの声がメンバーを後押しした形になるのだろう。KEIKOとHikaruはYKLをはじめとするライブやYouTube配信等で頻繁にコラボしていたが、Wakanaが居ない、Kalafina復活してほしい、YKL等でWakanaパートをカバーするJoelleやLINO LEIAの声は曲に合っていないといったコメントを大量に浴びて来たのだろう。
そして、スペクラに残留したWakanaを含めた3人でKalafinaの名前を使ってライブをするには、やはりスペクラが主導権を握ることとなった。スペクラが主導権を握っていることに加え、メンバーの所属事務所もバラバラであるためメンバーも事務所を飛び越えて下手に動くことが出来ず、結果的に梶浦氏には相談することなく話が進んだと考えられる。
芸能界はこの辺のルールが厳しい。例えば、ある女優が朝ドラヒロインのオーディションに合格したとしても、ヒロイン正式発表の日までその事実を家族にすら伝えてはいけないという守秘義務があるのである。今回のKalafinaのケースも同様で、スペクラを離れてプロデューサーを一度退いた梶浦氏をメンバー3人は赤の他人扱いせざるを得なかったのである。(もちろん3人とも心の底では梶浦氏を赤の他人だとは到底思っていないだろうが。)
スペクラが頭を下げて「Kalafina Anniversary LIVE 2025」のディレクションを梶浦氏に、サポートバンドをFBMに頼んでいればファンは一番納得しただろう。もしくは、せめてスペクラが事前に「Kalafina復活にあたり梶浦さんの楽曲を大切に使わせて頂きます」と梶浦氏サイドへ一言通告すれば平和的に解決したかもしれない。(実際は梶浦氏は一度プロデューサーを退いているため、スペクラが梶浦氏サイドに報告する義務は無いが。)
梶浦氏がXに投稿した声明文。これによりメンバー3人やスペクラに対する批判コメントが殺到した。
結局スペクラのプライドが許さなかったため、上記のようなファンが期待するシナリオは実現しなかった。そして、Wakanaソロ活動のサウンドプロデュースを担当する武部聡志が音楽監督として同ライブに携わることとなった。案の定SNS上では大炎上となってしまった。
メンバー3人もKalafina復活の際には梶浦氏に携わってほしかっただろうが、結果的は主導権を握るスペクラには逆らえずに守秘義務を全うし、梶浦氏には報連相せずに計画を進めたというのが事実であろう。非常に残酷ではあるが、もし3人がスペクラからの指示に従い守秘義務を全うしたのなら、それは芸能人としては正解である。仮にここで、元プロデューサーとはいえ一応は部外者として扱わないといけない梶浦氏に報連相をしてしまったメンバーは口が軽いと見なされ、周囲の関係者からの信用を失ってしまうことにもなりかねない。メンバー3人も心苦しかっただろう。
梶浦氏はKalafinaに対する思い入れがとても強かったのに自分の知らないところでKalafina復活が決まったことが残念であり、それに加えて一部ファンからのKalafinaに対する問い合わせが殺到してしまったため、例の声明文をXに投稿することとなった。だが、文面を見る限り梶浦氏はKalafinaの今後の活動には関与しないと思われるが、メンバー1人1人と永遠に絶縁するとまでは全く思っていないようである。だから少なくとも、今後のYKLのレギュラー歌姫からKEIKOが外されるといった心配は無さそうである。
一方YKLでは元々、「Kalafinaは単独で精力的にライブ活動を行っている」という理由からKalafina曲を演奏してこなかった。Kalafina解散後のYKLではKalafina曲のセルフカバーが解禁されたが、Kalafinaが復活するのであれば、今後のYKLでは再びKalafina曲の演奏が無くなる可能性は多いにある。そうなると、Wakanaはもちろん、HikaruもYKLに呼ばれなくなり、梶浦氏と疎遠になってしまうだろう。
Kalafinaが「Anniversary LIVE 2025」以降どのような活動をするかは不明だが、梶浦氏が関与しない以上は茨の道になるだろう。
もし新曲をリリースするとして、ソニーが関与するかどうかも不明だ。前編でも述べたとおり、ソニーはKalafinaの活動拡大のために梶浦氏をKalafinaの活動から少しずつ排除しようとした時期もあった。だが、梶浦氏がAimerに楽曲提供したFateの主題歌がAimer史上初となるオリコン1位を獲得したり、梶浦氏がLiSAに楽曲提供した鬼滅の主題歌も大ヒットしたため、今のソニーは梶浦氏を外す判断が間違っていたと認識しているだろう。そもそもKalafina自体が梶浦氏と仕事をしたいソニー側が始めたプロジェクトでもあるため、ソニーは梶浦氏に頭が上がらない。仮に梶浦氏プロデュースによるKalafinaが復活するなら、商魂たくましいソニーは梶浦氏が手掛けた「まどマギワルプルギス」の主題歌や「鬼滅無限城」主題歌をKalafinaに歌わせて大儲けしようとするだろう。だが、ソニーは梶浦氏が関与しないKalafinaに今はほとんど興味はない。そうなると、Kalafinaがアニプレ作品のアニメタイアップを取ってくるのは絶望的になる。
梶浦氏のFC会報より一部抜粋
そもそもKalafinaが毎年のようにアニメタイアップを取り続けられたのは、アニメの劇伴を梶浦氏が担当するついでに、主題歌の制作も梶浦氏に担当させてほしいという流れで決まった作品が多いからである。今後それが無くなると、かなり厳しい道のりになるだろう。
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