終盤戦で際立ったベテラン捕手の妙 DeNA戸柱恭孝が離脱の山本祐大に伝えた言葉

伊勢大夢(右)に声をかけるDeNA・戸柱恭孝=1日、横浜スタジアム(撮影・荒木孝雄)
伊勢大夢(右)に声をかけるDeNA・戸柱恭孝=1日、横浜スタジアム(撮影・荒木孝雄)

DeNAが2日、3位を確定させて3年連続のクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた。今季正捕手として攻守の中核を担った山本祐大が、9月中旬に故障離脱。苦しい戦いを余儀なくされた中、際立ったのはベテラン捕手の存在だった。プロ9年目の34歳、戸柱恭孝(やすたか)の献身性が光った。

2球目で違和感

1日に横浜スタジアムで行われた広島戦。3-1の八回に2番手でマウンドに上がった伊勢大夢(ひろむ、26)の2球目に、戸柱はミット越しに違和感を持ったという。「いつもの大夢の投げ方と、球の質がちょっと違う」。1人目の打者を打ち取るとすぐに伊勢に声をかけ、投手コーチとトレーナーを呼んだ。

伊勢はこの日で3連投。甲子園から移動日なしのゲームということもあり、疲労からか背中に若干の張りがあったという。普段から「体は強いんで」と自負する右腕。無理すれば投げられそうだったが、戸柱から諭された。「けがしたらなんの意味もないよって。トバさん(戸柱)といろいろ話して、降りるという選択をしました。本当に感謝しています」と伊勢。7球での緊急降板となったが、後を継いだディアスらの好リリーフで接戦を勝ち切った。

「人を見るのが好き」

実は、試合前から戸柱は伊勢に対し、おかしいなと感じていた。「調子どうや。体はどう?」。いつも交わす会話の反応が、「ちょっと大夢らしくなかったんで」。

山本の台頭で今季は出場機会が大幅に減った。その中でも、投手陣とコミュニケーションを絶えず取り続けてきたからこその気づきだった。「あいつが欠けちゃったら、チームとしては痛い。気づけてよかった」と戸柱。幸い、伊勢の状態も大事には至らなかった。

「人を見るのが好き。目ちっちゃいんですけど」と笑う背番号10の気配りは、投手陣だけにとどまらない。球宴を挟んで9連敗と苦しんでいた8月上旬、チーム状況を気にかけていたのは山本だった。敗戦の責任を背負いこんでいるように見えた後輩に、自身の経験も踏まえて声をかけた。

「勝つことは大事だけど、まずは当たり前にできることをやろう。しっかり捕る、投げる、止める。抑えるためにシンプルに考えよう」

山本にとってプロ7年目で初めて、正捕手としてシーズンを過ごしていた。しんどさも感じていたタイミングで、背中を追い続けてきた先輩捕手の言葉はストンと腹に落ちたという。

「何やっても打たれる、何やっても抑えられない。裏をかいた配球が全部表になったりとか…。大事な時に点を取られるっていう負のスパイラルが続いていたときに、トバさんが一旦やれることをやってみたらと言ってくださって。それが自分の中でスパイラルを抜けられるきっかけの一つでもあった。ライバルですけど、一緒に戦っている感じはすごいします」(山本)

早出練習は欠かさず

昨オフ国内FA権を行使せず、戸柱は残留を決めた。伊藤光を含めて出場機会を3人で分け合った昨季とは立場はガラッと変わり、シーズン当初は心の置き所が難しかった。それでもサポート役に徹しながら、「諦めたら終わりだから。出たときにしっかり結果を出せるように」と日々の早出練習を欠かさなかった。試合中に受けた死球による山本の負傷離脱後は7試合で先発マスクをかぶり、2試合で完封勝ち。ここぞの一打も放ち、正念場のチームをどっしりと支えた。

山本には、「すぐに治してこい。つなぐからな」と伝えてある。「祐大がなんとか頑張ってきたから。こんな負けられないタイミングで出番が回って来るとは思わなかったけど、僕もいい経験できてますよ」。クライマックスシリーズ(CS)突破、そしてその先へ。懸命にリハビリに励む山本のためにも、まだまだ勝利を積み上げていく。(川峯千尋)

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