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SCPにおける面白さの変遷

https://twitter.com/d_d_osorezan/status/965131957964177408?s=46&t=l1J4KkVrWGR7wb7QE0_6eQ

これについて話します。

2018年に投稿されたダ・ダ・恐山(ダヴィンチ恐山)のこのツイートは、SCPにおけるアイディアと媒体と変遷について、偶然それを示唆するものとなっています。今からSCPのことを知らない人に向けて「アイディアの枯渇に対してSCPを書いている人はどういう風に対応していったか」について話そうと思います。

SCPは怪奇共同創作サイトです。つまり、「怖いことについて一緒に創作していこうぜ!」というのが創作の基本となっています。遥か昔、米国にある/X/という掲示板に今ではSCP-173と呼ばれるものの写真と文章が投稿されました。この写真と文章は、背後にある秘密組織の存在と恐怖を喚起し、多くの人の創作欲を呼び起こしました。以来、SCPは「謎の秘密組織とそれに収容されるオブジェクトたち」をベースにして創作されるようになりました。詳しくは上「世界の歴史」(SCP側が記録する誕生経緯)と下「”SCP財団”という架空組織について」(ヴィレッジヴァンガードによるSCP自体の簡単な説明)を見てください。SCPの紹介自体が本題ではないのでリンクを紹介するに留めておきますが、SCPの基本は常に「謎の秘密組織とそれに収容されるオブジェクトたち」でした。

(参照: http://scp-jp.wikidot.com/history-of-the-universe-part-one)

(参照: https://www.village-v.co.jp/news/media/8395)

ですが、その方針は時代によって変化を遂げてきましたし、その変化は結構面白いです。最初は、SCP-173が狙ったように恐怖を狙いにくる記事が多いところから始まりました。

有名な記事の大半は、ほとんど最初期に投稿されました。EN(日本支部である"JP"に対して本家の英語サイトのことをこう呼びます)では、「SCP-682 - 不死身の爬虫類」、「SCP-963 - 不死の首飾り」、「SCP-076 - "アベル"」などが有名です。それぞれ「永遠に殺しても死なない怪物」「人の体を乗っ取る首飾り」「好戦的な古代人」と異常性もわかりやすく明快です。そしてこの表現は、作者の目的通りに読者を怖がらせることに成功していました。JPでは「SCP-040-JP - ねこですよろしくおねがいします」や「SCP-444-JP - █████[アクセス不許可]」などが有名です。それぞれ「覗くと幻覚に襲われる井戸」「人の認識を飛ぶ鳥」と恐怖を狙いに来ています。

もちろん、最初期においても恐怖の換気のみを目的にしたものだけが投稿されてきたわけではありません。ENでは「SCP-504 - 批判的なトマト」(もし一部のインターネットで三🍅のような絵文字があればそれはおそらくこれです)、「SCP-131 - "アイポッド"」が恐怖以外の感情を狙っています。特にSCP-131はシリーズIにおける屈指の癒し系として知られています。

「最近のSCPはゴテゴテと物語を付け加えて読みづらい」「JPからはラノベ臭がする」と批判があるときは、上のような記事、特にENのシリーズIが理想的な過去として挙げられます(私はシリーズIも全然好きですが、なんか右翼の想像する昭和みたいですね)。

恐山が指摘するものは、SCPの著者たちにとって「単純な恐怖は飽きられやすい」という身も蓋もない単純な問題系として湧き上がってくることとなりました。ここでSCPのクオリティコントロールの技法について紹介します。


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私が最近投稿した記事。他の人との共著だが、近年稀に見る高評価で嬉しかった

上の画像は、SCPにおける一般的な記事の形式を表しています。まずページのタイトルがあります。SCP-682で言うところの「不死身の爬虫類」はメタタイトルと呼ばれ、ページには表示されません。これが案外不便なので、回避策が何回か提案されましたがなかなか実現できていません。次に評価モジュールです。簡単に言えば「面白いか面白くないかを読者が自由に投票できるボタン」です。プラスの評価を記事に与えるのがupvote(UV)、マイナスの評価を与えるのがdownvote(DV)です。後者の略称が日本ではドメスティックバイオレンスを表すことは、サイトメンバーの間で深夜に言う冗談としてたびたび擦られまくっています。

この評価モジュールの数値が-3を下回るとページ最下のディスカッションに削除通知なるものが出され、72時間以内に評価が-2を上回らないと記事が削除される旨が著者に通知されます。著者はこれを見て諦めて自分で消すなり、自然の成り行きに任せるなり、改稿を加えて削除を回避しようとするなりをします。

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つまり、SCPウィキは「つまらない記事は削除する」という方針で運営されています。これは書く側にとっても、そして大抵消す側にとっても大変なことです。

私も何度も記事が削除されたことがあります。経験していない人には分かりづらいところがあると思いますが、丹精こめた記事が消えるのはなかなか辛いです。そうならないよう著者は批評を募って問題点の改善を試みます。

おそらく、このシステムが長期間に渡る創作の中で潮流の変化をもたらしました。「単なる怖いモンスターしか描けていない」というのは、批評する側にとってもっとも言いやすいポイントです。この点についてはSCPの本サイトには無数の蓄積があるので、私は代表的なリンクをいくつか挙げるだけで説明することができます。

(参照: http://scp-jp.wikidot.com/mackenzie-pitfalls)

(参照: http://scp-jp.wikidot.com/alors-comme-ca-vous-voulez-ecrire-sur-saphir)

(参照: http://scp-jp.wikidot.com/how-to-become-a-better-critic)

上『マッケンジー博士の「SCPのよくある落とし穴」講座』は既存のSCPオブジェクトが既にやっていることについて記述しています。つまり、不死身の爬虫類やアベルといった記事はもう既に存在し、似たものを新しく投稿する必要はないということを主張しています。中「それで、あなたはSAPHIRAについて書きますか?」は、SCP記事で登場する一つの要注意団体をどうやって描くべきかについて記述しています。SCPウィキにおけるエッセイの多様性を示すために例示しました。SCPにはさまざまな目的のエッセイが存在しています。下「よりよい批評家になるために」は批評をするためにやっていいことと、やってはいけないことを記述しています。列車事故のようなに通常の基準を満たしていない記事には優しくなり、努力賞のようなギリギリの記事には代案を示し、面白い記事には賛辞を送る……そういうことが書いてあります。

より面白くする工夫が行われると必然、初期のSCPに見られていた独特な面白さは減じていきます。これはサイトが存続し続けるためには不可避の変化でした。恐山に返じて言うなら、この時著者たちは古臭い石炭でなくて、石油を見つける必要があったのです。

今からどのような面白さが次に目指されていったのかについて話します。比喩的に言うならば、新たな燃料石油はどんなものだったのか?です。

まずオブジェクトの起源がどのようなものであるかが重視されるようになりました。その営みの一つが要注意団体です(JPでは初期から‪日本生類創研‬などが出ていますが、それはJPがENより後発だからです)。世界の歴史 part1にはSCPのホストサイトがwikidotに移ったとき、世界オカルト連合やマーシャル・カーター&ダーク株式会社が生まれたと記述されています。また、時代をやや飛ばすことを許してもらえるならば、新たな石油資源とは「複雑さ」でした。

「SCP-3999 - 私は私に起きることすべての中心にいる」のストーリーを私は一行で説明することができません!「SCP-3125 - 逃亡者」を読解するのにはSCP-2256など前提情報を知る必要があると公式で言われています。新たに誕生した要注意団体、第五教会の記事は一見して意味がありそうだがよく見ると全然読解できない文章を大量に載せることで知られています。補足として、これらの難解で複雑な記事と単純な恐怖を狙った文章はサイト内で並列して書かれ、なんなら一つの記事に両立していたこともあることは重要です。「SCP-3074 - カフカの駐車場」はウクライナのチェルノブイリ発電所にある駐車場です。そこにある電話口から聞こえる声が恐怖を感じさせる一方で、意味深な舞台、「区画、ゾーン、数字または文字」という言葉について考察をさせてくれます。

複雑さとは、考察をすることで生じる面白さでした。「[プロトコル4000-ESHUに基づき編集済]」は、少し風変わりな形式を用いてオブジェクトを描写しました。それはオブジェクトに決して名前をつけてはいけないというものです。なのでその報告書には標準空間の外側に位置する森だとか、問題のSCPはとか、直接名辞を避けた言い回ししか使われていないんですね。このことは一見してわからなかったため、多くの人が読解に時間を費やしました。その森がどういう法則に支配されているのか、ジェイパーズ博士の末路、名のないウサギの目的とは何か、さまざまな謎が明らかになっていくうち、私も気持ちの良い読後感を得たのでした。

複雑な読解を要する記事の頂点は、「SCP-5000 - どうして?」です。メタタイトルからもわかるように、読者が思わず「どうして?」と言いたくなるような文章で構成されています。SCP-5000に関する謎は多すぎて、とてもここに書き切ることはできません。これまで多くの人間の間で人類の味方と考えられていた財団が突如人類の殲滅を宣言し、アベルや不死身の爬虫類、リヴァイアサンといった古典的なオブジェクトがたくさん解放されました。主人公が道を歩いていると財団の機動部隊の指揮官は何故か自分の兵士を刺しており、倫理委員会は人類滅亡の作戦に同意していました。この謎は多くの人を惹きつけ、ネットで調べるとすぐにさまざまな思考の跡を見ることができます。

複雑さをベースとする石油燃料は、なんとたくさん埋蔵されていました。これがSCPウィキの寿命を伸ばした事実がある一方で、難解な記事は書くのが難しく、読者の方も読解に多大なコストを要求されるなどの問題も顕在化していました。

(ちなみに、複雑さの先に行くと見えるものもあります)

以上の石油資源の発見方法がSCPの「怖いことについて一緒に創作していこうぜ!」の「怖いこと」だとしたらもう一方は「一緒に」です。つまり、カノン化とシリーズの側面です。ENでもOG43や120の記録書庫よりなどメガカノンは盛り上がりを見せていますが、せっかく私が話しているので卑近な引用をお許しください。

舞台を移してJPでは、複雑さの追求は「懐中銃教会」「帝国」などが進めていく一方、カノンが起っていました。最初期にはわるい財団、〈オフィサー、ドクター、ソルジャー、スパイ〉が成立し、遅れて1998年、スシブレード、ファウンデショーンコレクティブなどと次々とカノンが成立しました。

ここでカノンという用語の意味について紹介します。「カノン」(canon)は判断基準、(宗教的な)聖典などを意味する英単語で、SCPではおおむね共有された設定のことを指します。

『カノンは存在しないなんて考えは時々だけれどもちょいとバカっぽい考え方になる。俺たちが何も持ち合わせていないなんて事はない。俺たちには、触れ合わせたり、混ぜ合わせたり、ちょい足ししたりできる物がいっぱいある。何を信じ、何を受け入れてこの世界の中心に据えるかはあんた(そして読者)次第。それは作者がそういった意図や筋書きを盛り込めてないって意味じゃないけど、協力するってことは革新の王道なんだ。』(カノンハブ-JP冒頭より引用)

これらが結局何をやったかと言うと、記事同士を密に繋げて「SCP財団が存在する」などの大半に膾炙している共通見解と個々人の書く記事にある設定の間に独自の判断基準を設けることです。すなわち、「財団が悪いことをする」「財団が秘密組織でなくなっている」などです。そうすることでより新しい話をすることができました。カノンが存在することで、メインの設定では回収できない話をすることができ、創作の幅がより広がりました。言うなれば、マインクラフトで言うところのModのようなものです。著者たちは、カノンに基づいてもっと新しい創作をすることができました。

カノンを導入することで、そこにはさまざまなジャンルが生まれました。ホラー、SFは財団という設定と特に親和性が高かったのですが、それ以外ができるとわかった時の熱狂はカノンのムーブメントを引き起こしました。

扶桑記のジャンルを言い表すならば、歴史モノです。かつて創作が始まったときには、どこからともなく現れていた秘密組織SCP財団。その団体が日本に来るときどうだったのか、それを歴史的な観点から語っていく試みがこのカノンです。土着の収容組織蒐集院との合併、近代の起りに関する揉め事、あの団体の歴史的な起源とは、それらに関する答えの一端が提示されています。

1998年のジャンルを言い表すならば、近未来SFモノです。最初は素朴に無限のリソースを持つ秘密組織として考案されたSCP財団。その団体が秘密組織であることをやめ、表社会の諸々に姿を表します。それはこれまで隠していたものが大衆に露見するということでもありました。だがそれだけで話は終わらず、財団よりもたらされた技術によって人類は更なる躍進を遂げます。さまざまな災害に遭遇しつつも、決して前進を止めることのない人類を描いたカノンが、当カノンになっています。

スシブレードのジャンルを言い表すならば、日曜の朝に放送されているような子供向けアニメです。回転する寿司が存在する世界。この世界では誰も彼もスシブレードに魂をかけて挑んでいます。ある意味でジョークのように見える記事群は、思ったよりもスシブレードとは何か、スシブレードにおいて財団ができるのは何か、真剣に考えています。

この他にもカノンは多数存在し、ENにはさらに死の終焉、追憶のアディウムなどがあります。死の終焉では、人が死ななくなった世界において哲学的な思索が繰り返されます。死神が鎌を置いたことによって、人は誰も死ななくなったのですが、それは実はとんでもない出来事であることが明らかになりました。追憶のアディウムでは、考案当初素朴に「肉を操るカルト」と考えられていた要注意団体であるサーキックカルトにピックアップが与えられています。民俗学的言語学的に考察が進められ、重厚な情報量と実在の知識に裏付けられた英雄譚です。

少し長くなりましたが、もっとも重要な主張は如何なる今の創作も過去の創作とは無関係ではないということです。それは「財団」という団体を通してもっとも顕著で、創作を進めるにつれ埋められた設定の穴、時代ごとに設定の変遷があり、またカノンなどによっては異なった扱いを受けることがあります。つまり、石油燃料は使用するごとに新たな地層がフィードバックされていくのであって、ただ燃やされているだけではありません。

以上です

追記: これを書いた後、本当に書いた後になんとなくツイートを眺めていたら過去の私の返信が残されていました。しかも恐山がそれに返信しているし。インターネットタトゥー 

クレジット

Title : SCP-682 - 不死身の爬虫類
Author : C-Dives
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-682
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-963 - 不死の首飾り
Author : Dr Devan
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-963
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-040-JP - ねこですよろしくおねがいします
Author : Ikr_4185
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-040-jp
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-444-JP - █████[アクセス不許可]
Author : locker
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-444-jp
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-504 - 批判的なトマト
Author : Dr Devan
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-504
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-131 - "アイポッド"
Author : Dr Devan
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-131
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-1809-JP - 礎撃
Author : carbon13MisharySansyo-do-Zansyo
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-1809-jp
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-3999 - 私は私に起きることすべての中心にいる
Author : fumeinadebaisu
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-3999
License : CC BY-SA 3.0などの表記

Title : SCP-3125 - 逃亡者
Author :C-Dives
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-3125
License : CC BY-SA 3.0

Title : SCP-3074 - カフカの駐車場
Author : C-Dives
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-3074
License : CC BY-SA 3.0

Title : [プロトコル4000-ESHUに基づき編集済]
Author : fumeinadebaisu
Source : http://scp-jp.wikidot.com/taboo
License : CC BY-SA 3.0などの表記

Title : SCP-5000 - どうして?
Author : C-Dives
Source : http://scp-jp.wikidot.com/scp-5000
License : CC BY-SA 3.0

Title : わるいざいだん -確保・収容・支配-
Author : tokage-otoko 一同
Source : http://scp-jp.wikidot.com/canon-jp-2
License : CC BY-SA 3.0

Title : 〈オフィサー、ドクター、ソルジャー、スパイ〉ハブ
Author : 〈ODSS〉カノン構想会議
Source : http://scp-jp.wikidot.com/officer-doctor-soldier-spy-hub
License : CC BY-SA 3.0

Title : 1998年 ハブ
Author : '98プロジェクト参加者一同
Source : http://scp-jp.wikidot.com/1998-hub
License : CC BY-SA 3.0などの表記

Title : スシブレード ハブ
Author : スシブレード製作委員会
Source : http://scp-jp.wikidot.com/sushiblade-hub
License : CC BY-SA 3.0

Title : ファウンデーション・コレクティブ ハブ
Author : 一同
Source : http://scp-jp.wikidot.com/foundation-collective-hub
License : CC BY-SA 3.0

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