第45話「断罪の剣」
繭のようなものを破って現れた異形は、凍えるような雰囲気を纏っていた。
だが、それだけだ。
魔力も何も感じられない。
その好戦的な言葉とは裏腹に、ただ黙って周囲にいる者たちを見据えている。
それがひどく気味の悪いことに思えた。
狂乱して襲いかかってきたとしても太刀打ち出来るかどうかもわからなかったが、何もせずに佇んでいるだけという状況はますます混乱を生む。
「おう、どうしたぁ、化けモン。そっちから来ねえならこっちから行かせてもらうぜえ?」
おろおろとしていたクラリスが止める間もなく、ベルガーが騎乗していた飛竜から激しい火焔が吐き出される。
蒼黒い異形の身体に直撃したそれは、他の竜騎兵のものよりも遥かに強力な一撃だった。
その勢いは留まることを知らず、異形の身体を焼き尽くさんとする。
――だが、何も起こらなかった。
異形はただそこに立っているだけで、防御をするような動きすらない。
両の脚でしかと大地を踏みしめ、灼熱のブレスを受け続け――さしもの飛竜も疲弊したのか、その吐息の勢いは弱まり、完全に止まった。
その光景を見た他の竜騎兵たちがざわつく中、ベルガーは強敵を前に見せる獰猛な笑みを浮かべた。
「やるじゃねえか。あの白い化けモン共とは格が違うみてえだな」
『……』
異形は何も答えない。
そこに立ち、次なる攻撃を待ち構えているように見える。
クラリスはやっとのことで状況の整理を終え、早鐘を打つ心臓を宥めるかのように胸元に手をやり深呼吸をしてから言った。
「ルドルフ・ベルガー。もう、やめてください。貴方の飛竜の攻撃は通じないとわかったのなら、それで十分でしょう」
「なぁにが十分だってんだ?」
剣呑な目付きで睨みつけられたが、鋭い眼差しを向けられるのはあの大英雄によって慣らされている。
クラリスは怯まずに言った。
「先程までの化け物たちにはとても言葉が通じるようには思えませんでしたが、この異形なる者は話を理解するだけの知能があると思われます。まずは冷静になり、話を聞かねばなりません」
「……話が通じる通じないの問題じゃねえんだ。こいつはあの白い化けモンと共にあの上空の裂け目から落ちてきやがった。同族同類なんだよ、わかるだろ? なあ」
覚えの悪い生徒に言い聞かせるような口振りだった。
あの白い化け物はゼナンの地に侵略しようとした。
そして、この蒼黒き異形は白い化け物と共に現れた。だから討伐して然るべき。
「彼の異形はまだ何もしていません」
「何かしてからじゃおせえんだ。そんくらいわかるだろ?」
「対話も試みずに何が遅いと言うのですか!?」
「それならもうあの化けモンが言っただろうよ。求めてるのはつええ奴だと。アレは戦うことしか頭にねえ。おい、アレを焼き尽くせ!」
「……!!」
他の竜騎兵たちに命じたベルガーもまた、己が騎乗する飛竜に火焔を吐き出させる。
クラリスは即席の結界を作り、凄まじい炎に包まれそうになっていた異形の者を守るかのように張った。
しかし飛竜のブレスはあまりにも強力で、位階の低い結界術式などほとんど無意味であった。術式が破壊され、異形が火焔を一身に浴びる。
「くっ……!」
「なあ、俺ァさっき言ったよな。嬢ちゃん」
「え……な、何を」
「死にたくなかったら邪魔するなってよ」
大竜将が槍を天空に掲げた瞬間。
飛竜の火焔が、クラリスに向かって放たれた。
「っ!? ら、雷光よ!」
詠唱の暇さえない結界術式。
抑えきれないと悟り、もはやこれまでかと思ったが炎はすぐに治まった。
「……?」
「少尉っ!!」
「えっ……」
竜騎兵が凄まじい速度で旋回し、槍を構えてクラリスの背後から迫る。
予想外の事態に反応が遅れたクラリスが棒立ちになっていたが、咄嗟に声を上げて駆けてきたイリア一等兵がクラリスを突き飛ばした。
いつもであればそのような衝撃を受けても微動だにしないクラリスだが、混迷の極みにあった彼女の身体はまるで戦闘訓練を受けていない人間のように軽々と押し出されて地面に転がる。
数瞬。
何が起こったのかを理解したクラリスは、上半身を起こして自身を突き飛ばした者の方を見た。
血が滴っている。
最初に理解したのはそれだった。
そしてすぐに何が起こったのかも理解したが、クラリスはその現実を拒否したくて何度も瞬きをした。だが、結果は変わらない。
竜騎兵の槍によって胸元を串刺しにされた女性軍人の身体が、天空に掲げられていた。
彼女は口から血液を垂れ流しながら、全身を痙攣させている。
それはもがいているのではない。既に絶命したその瞳からは虹彩が消え、ただ身体がびくびくと痙攣しているだけだった。
「い、イリア……一等、兵……?」
クラリスがまるで救いを求めるかのように彼女に手を伸ばすが、届くはずもない。
一撃で心臓を貫かれたイリア一等兵の身体から、鮮血が流れ出る。
歓喜の声が上がった。
クラリスはその方向へと目をやる。
「よぉし、よくやった」
「大竜将閣下の仰せのままに」
まるで敵の大将を討ち取ったかのように声を上げているのは他の竜騎兵たちだった。
誰もが帝国の軍人を仕留めた者を褒め称えんがために、歓呼している。
「い、イリア一等兵が……!」
「ふ、フレスティエ少尉! 早くその場からお逃げくださ――」
小隊の者の声を掻き消すかのように、雷が大地を穿った。
それは聖剣セプス・エクレイルに宿る魔力によって引き起こされたものだった。
落雷が直撃したはずのクラリスは、ゆらりとした動作で起き上がりぶつぶつと何事かを呟きながら聖剣を振るう。
「……さない……絶対に、許さない……」
「ほぉぅ、いい魔力だ。おいてめえら、相手してやんな」
即座に槍を構えた竜騎兵が四方からクラリスへと襲いかかるが、彼女の全身から発せられる凄まじい雷撃が飛竜共々騎乗していた兵士たちを穿った。
断末魔さえなく、竜騎兵たちは黒煙を上げながら黒焦げになって絶命する。
大声を上げて笑ったのは大竜将だった。
「いいねえ。いい魔力だ。よぉし、気に入ったァ。あの化けモンの前にまずは嬢ちゃん。おめえから片付けてやる」
「……許さない!!」
戦場を落雷が穿ち、耳を劈くような轟音が上がる中、クラリスはベルガーに向かって跳躍した。
凄まじい速度で迫ったクラリスの聖剣による一撃がベルガーを襲う。
だが、それは槍によって難なく防がれた。
「嬢ちゃん、そいつぁダメだ。殺気が溢れ過ぎてどこを狙ってるのかすぅぐにわかっちまう」
「黙れ!!」
少女はこれまでに一度も発したことのない大音声で罵声を浴びせ、即座に聖剣の力を借りて魔力を増幅。
爆発的な威力を有した雷が大竜将を穿つ。
が、天空に掲げられた槍が雷を一身に受け止め、ベルガーの全身から凄まじいまでの魔力が溢れ出した。
「うおおおおおおおぉぉぉッッ!!」
禁術に相当する威力の雷轟術を、自らの身体から発せられる魔力で受け止め、それを相殺してから槍を振るった。
「いい一撃だったぜえ、嬢ちゃん!!」
「許さない許さない、絶対に許さない……!」
「しかし、嬢ちゃん。そいつぁいけねえ。冷静になって回りを見ねえとなぁ」
激しい雷がベルガーを襲うが、全身から魔力を放出している彼はもはや槍だけでそれを受け止めてみせた。
「……!!」
「人の話を聞けよ、嬢ちゃん。もういっぺん冷静になって、回りをよぉく見てみろ」
頭に血が昇っていたクラリスは荒い呼吸を尽きながら、横目で周囲の状況を確認して――聖剣をその手から落とした。
フレスティエ小隊の面々の亡骸が槍によって掲げられている。
先に絶命したイリア一等兵を除くすべての者が、串刺しにされて、その身体から鮮血を垂れ流していた。
「あ……ああ……」
「クラリスの嬢ちゃん、おめえは強い。もうちっとばかし鍛え上げりゃ、俺とガチでやり合えるくらいにはなるかもしれねえ。だがなぁ、部下は違うんだ」
クラリスは既に果てた部下たちの亡骸を前にして、これまで感じていた激しい怒りが消え去り、その場にぺたりと座り込んでしまった。
その様子を見た大竜将は愉快そうに笑い、竜騎兵たちも嘲りの声を上げる。
「完全実力主義。いいねぇ、帝国のそういうところは好きだぜぇ。でもなぁ、いくら力が強くても経験が浅くちゃどうにもならねえこともあるもんだ。こんな年端もいかねえ嬢ちゃんに指揮を任せてるようじゃ、帝国もまだまだだよなぁ――おい、そう思うだろ、そこで突っ立ってる化けモンよ」
蒼黒い身体の異形は、目の前で起きた出来事をただ黙して見ていた。
その表情から感情を窺い知ることは出来ない。
ベルガーは好戦的な笑みを見せて、槍を振るった。
「次はてめえの番だぜ」
大竜将の全身から魔力が迸り、それが槍の穂先へと集中する。
クラリスの攻撃で反撃や防御さえすることも出来ずに死亡したのは数名程度。
フレスティエ小隊の隊員の亡骸を雑に放った竜騎兵たちが、蒼黒い異形を取り囲むために陣形を整えようとした矢先。
何かが大地を駆ける音が響き渡り、音の主が嘶きを上げてその場で大きく上半身を上げて立ち止まる。
巨大な身体をした白馬に騎乗した、金髪に黒い鎧を纏った騎士が腹の底に響くような声で言った。
「この惨状は一体何事か。答えよ、ゼナン竜王国の者よ」
「……おおぅ。これはこれは」
鋭い眼光をした騎士は、クラリスの姿を見つけた。
その場に座り込み、呆然自失の状態の彼女を見据え――かすかに瞼を閉じる。
「いつぶりだぁ、デュラス将軍。いや、今は大英雄と言った方が良かったか?」
「これは何事かと聞いている」
クロードは周囲にいる竜騎兵たちを睥睨した。
歴戦の強者たる竜騎兵たちも、その眼光だけで一瞬の怯みを見せる。
「何事もなにもなぁ。俺たちはあの化けモンを始末しようとしただけだ」
「ならば、何故貴公の指揮下の者が、我が帝国軍人に刃を向けたのか」
「そこの嬢ちゃんが邪魔立てしたからよ。命が惜しかったら邪魔だけはすんなって言ったのに聞かねえもんだから、経験不足のガキに戦場の何たるかを教えてやったんだ」
「あの異形の者は貴公らに手出しをしたのか」
「これからするだろうよ。早急に始末しなきゃならねえのさ」
「では、帝国軍人は無下に蹂躙されたというわけだな」
クロードの眼光がベルガーを射抜くように見据える。
大竜将はこれから起こることを予想して全身を震わせながら下卑た笑みを見せる。
「そういうわけだ。間に合わなくて残念だったな、大英雄さまよ」
「私は私の出来ることで彼らの無念を晴らすだけだ」
「そうかいそうかい。――おめえら! こいつを焼き尽くせ!!」
ベルガーが叫ぶと同時に、いつの間にかクロードを取り囲むように配置されていた飛竜たちが一斉に火焔を放った。
クロードは神剣リバイストラを掲げ、それを振るう。
凄まじいまでの神気が火焔を防ぎ、大英雄はおろか、その馬にすら傷1つつきはしない。
「ちっ、神剣の前にゃ小細工は無駄か。なら物量で押し潰すまでよ!!」
数十からなる竜騎兵が一斉にクロードへと襲いかかる。
その巨大な顎や爪が迫りかかった時、飛竜とその背に騎乗していた兵士たちが一瞬で切り裂かれた。
凄まじいまでの血煙と肉片が空中にばら撒かれる中、目を見開いた大竜将へと向けてブレンダンが駆ける。
即座に槍を構えたベルガーだったが、神剣リバイストラがその頑丈な槍を紙細工を破るかのように斬り捨てた。
「な、なぁっ……!? クソが!!」
ベルガーの飛竜が火焔を吐き出そうとしたが、顎が開く前に神剣がそれを貫く。
口内で溜まっていた爆発的な炎が体内で暴走し、飛竜は苦しげに呻いてのたうった。
その顎から引き抜かれた刃が、ベルガーの右腕を深々と切り裂く。
「ぐぅっ!? ひ、退け! 退けぇッ!!」
ベルガーは右腕を抑えるようにしながら、飛竜の腹を激しく蹴ってその場から飛び退った。
数十メートル以上離れた場所に移動した飛竜は、苦しげな声を上げながら羽ばたく。
あまりにも速いクロードの斬撃を見破った者は誰1人存在しない。
「おめえら! 退け! こいつにゃ勝て――」
神剣リバイストラから放たれた無数の衝撃波が、空中を舞っていた数十の竜騎兵を一瞬にして切り刻んだ。
わけもわからず、気が付いた時には絶命している。
それが大英雄クロード・デュラスを敵にした者の末路だった。
「ブレンダン。少し休んでいろ」
クロードは白馬から降り立ち、神剣を構えた。
自分の置かれた立場を本能で察したベルガーが飛竜に指示を出した時、その首に神剣の刃が触れていた。
「……っ!」
「ゼナン竜王国の四竜将が1人、大竜将ルドルフ・ベルガーよ」
いつ背後を取られた?
この男は、いつこの飛竜の上に跳んできた。
そもそも、あの状況からどうやってこの距離を移動した?
ベルガーは大量の冷や汗を流しながら、続く言葉を待つ。
「我が帝国軍人を殺害せしめた代償、貴様の首のみで贖えるものではない」
「……ッハァ……ハァッ……!!」
「飛竜を用いてゼナン竜王国へと帰還し、竜王へと告げよ。『停戦条約を反故にした報いは必ず受けてもらう』と」
命の危機から過呼吸状態に陥っていたベルガーの耳元で最後の言葉が紡がれる。
「今なお貴様の首が胴体と繋がっているのはそのためである。ゆめゆめ、そのことを忘れるな」
クロードはそれだけ伝えると飛竜から飛び降りた。
大竜将は血湧き肉躍っていた先程とは違う、激しい身震いをしながら重傷を負った飛竜に命じて撤退を促した。
中隊規模だった竜騎兵は、ベルガーを除き誰1人空を舞うことはない。飛竜を含めたそのすべてが既に絶命していた。
クロードはそれを尻目に、クラリスのもとへと駆け寄った。
「フレスティエ少尉。無事か」
「あ……か、閣下……? 私、私は……」
「落ち着け。ゼナンの者たちは既にいない」
「い、イリア一等兵が私を庇って……エリック二等兵も、みんなも……ああ、あああ!!」
「大丈夫だ。今は何も考えるな」
神剣を鞘に収めたクロードは、クラリスを抱きかかえる。
ブレンダンが察したかのように近寄ってきた。
「フレスティエ少尉をグランデンに戻してくれるか」
『ブルル……!』
「……お前にもずいぶんと無茶をさせた」
ブレンダンの足取りはどこかおぼつかない様子に見えた。
街中を駆け抜け、門扉を飛び出し、こうしてこの場まで全力で駆けてきたのだ。
老いた馬にとっては過酷そのものだっただろう。
「お前が私以外の者に決して騎乗を許さないことはわかっている。だが、今回ばかりは――わかってくれるな?」
クロードがブレンダンの目の前で言うと、顔を舐められた。
「私はいい友を持った――」
クロードがそう呟いた時、背後でズドンとまるで砲撃が地面に直撃したかのような地響きが起こった。
そちらに目をやれば、これまでその場の趨勢をただ見つめているのみだった異形の者が、にぃっと笑みを浮かべる。獣のような犬歯が剥き出しになった。
『――強者、来タレリ』
「貴公は何者か?」
『我ガ相手ニ相応シキ傑物。ソノ全テヲ懸ケテ我ヲ討チ取ッテミセヨ!』
蒼黒き異形の体内から爆発的な魔力が発せられる。
あまりにも禍々しい魔力がクロードの全身を痺れさせるかのように威圧してくる。
それを見た瞬間、クロードに抱きかかえられていたクラリスが悲鳴を上げて暴れた。
「ひ、ひぃっ……! ひぃぃ!!」
「! もはや猶予はない。ブレンダン、クラリスを頼むぞ!」
『ブルル!』
狂乱状態のクラリスを無理やりブレンダンに跨らせて、その馬体を押した時、青黒き異形の全身から紫電が迸った。
凄まじい落雷が大地を穿ち、異形の瞳からは炎が爆ぜ、口からは凍えんばかりの吐息を溢れさせている。
その異形が力を込めて闘気を放った時、周囲の地面が陥没していった。そして。
『強者ヨ。剣ヲ構エヨ』
「……是非もなし。神に近しきその力、放っておくわけにはいかぬ。来るがいい」
クロードが鞘から神剣リバイストラを抜き放った時、異形が大きく跳躍し、大英雄に向かって襲いかかる――。
◆
「こんなところかな」
僕は両手に持っていた魔力で編み出した剣を消した。
周囲には白い化け物たちの遺骸が煙を上げて転がっている。
「少しやり過ぎたかな……まあいいか。デュラス将軍が責任取ってくれるみたいだし」
周囲の建物は上位位階の術式によって残らず破壊され、石畳も遥か遠くの道に至るまでめくれ上がってめちゃくちゃな状態になっている。
この身体でどこまでやれるか試した感じだけど、所詮は人の身体か。
どうにも重苦しい気分になる。
この程度で疲れるようじゃまだまだかなと頭を掻いていると、すぐ近くで寝っ転がっていたぼさぼさの髪をした少年が言った。
「気分はどうだよ、この化け物野郎」
「あまり良くないよ。それより君はどうなんだい? 竜族の身体をずいぶん長いこと維持したみたいだけれど」
「ご覧の有り様だよ、ちくしょう……。胃の中身全部吐き出しそうだ……」
ローブ姿の少年はもう竜族の姿を維持し続けられなくなってしまい、魔力もすっからかんの状態だった。
地面に身体を放り出して仰向けになりながら悪態を吐いている。
「あんだけしぶとい奴らは、ミルディアナの天魔以来だ。まったく、こんな短期間で2回もあんな化けモンの相手させられるこっちの身にもなりやがれ……」
「うん……暴走した天使と、失敗作の魔導生物。どっちも似たような感じではあったけど」
元が天使だった天魔の魔力耐性と、同等以上の耐性を持つ魔導生物。しかもそれが失敗作らしいというのだから驚きだ。
キアロ・ディルーナ王国の技術力は数百年前とは比べものにならないのかもしれない。
成功作と思しきモノとは戦えなかったのが残念だけど。
白い化け物が襲いかかってくることはもうない。
この街に押し寄せてきた奴らは出来るだけ早急に処分した。
外壁を這い上ってきた奴もいるけど、あんな化け物が他の場所でも暴れていたら大騒ぎになっているはず。だけど、それもない。
死者の姿も、もはやなくなった。
この街での戦闘は終了したと判断してもいいだろう。
そう思って、何気なく西方へと目を向けた瞬間――爆発的な魔力が迸り、それがグランデンの街中にまで届いたのをこの身で感じた。
「な、何だよ今の馬鹿みてえな魔力は……!? ランベール中将よりやべえ奴でもいるのか!?」
「――サタ、ン?」
「あ? なんだって?」
――私は思わず目を見開いて、西方の地の魔力感知を行った。
だが、もはや感知するまでもなく、大地を穿つ落雷が発生しているのを悟り、懐かしき感覚を覚えずにはいられなかった。
この殺気立つような魔力は、間違いない。あいつだ。何故こんなところにいる? 今までどこで何をしていた?
「おい、テオドール?」
お前なのだろう、サタン。
待っていろ。今すぐにそこに向かう。
私はこの身で使える最大級の魔力を操り、風迅術式を全身に纏って飛び立った――。
書籍第1巻が本日発売となります。
(Amazonなどの通販サイトや電子書籍は21日以降になると思われます)
活動報告にて、1巻に登場するキャラのラフ画像合計9名分を公開していますのでそちらも併せてチェックして頂けると嬉しいです。
是非、よろしくお願い致します。