ぼくは医療界のエースは外科医だと思っている。特に心臓血管外科はエース中のエースだ。それに比べれば感染症屋なんて下賤な存在で、格下だと思っている。ずっと昔から。 以前から「家」に例えるのだけど、心臓外科とか脳外科は玄関とか客間。感染症科は「便所」である。この話は何度もした。ただし、「便所」が汚かったり、詰まっていたり、壊れていたり、「なかったり」する家はろくな家ではない。質の高い便所は「良い家」の大前提である。 外科の先生は良い意味での高潔さというか、プライドを持つべきだと思っている。2008年に神戸大の教授になったとき、術中抗菌薬の選択が間違っていたので心臓血管外科の大北教授の教授室に行って直談判したことがある。あの抗菌薬では術後の感染症が増えるだけだと直訴したのだ。学会のシンポジウムか何かで宣伝された薬らしい。 大北先生は高潔なプロ中のプロで、患者のアウトカムを第一義とする。すぐに抗菌薬をセファゾリンに替えてくれた。その後、神戸大の心臓外科の感染周りはすべて我々に丸投げである。これがほんとうの意味での「プライド」だと思う。 半ちくな外科医は中途半端なプライドしか持たないので、こういう潔さがない。全部自分で抱え込もうとする。客間で応接していればいいのに、便所掃除やパイプの詰まりにまで口を出そうとする。そんなことは下賤な者たちに丸投げしてくれればよいというのに。できもしないパイプ作業に手を出すから大惨事になる。往時の外科感染症学会がその極みで、非科学的で夜郎自大な暴言ばかりで閉口した。外科医はもっとスマートで、かっこよくなければならぬ。 手術だけに邁進するのが外科医の本分で、それができる環境は若手外科医を魅了するだろう。「雑用」は我々下賤の者にまかせておけばよいのだ。