謝辞
令和6年5月1日〜5月31日にかけて「【第05回】名興文庫−紅梅の作品選評」企画を開催しました。
多くの方に注目していただき、とても嬉しく思っております。
ご参加くださった皆様、拡散にご協力くださった皆様、ありがとうございます。
企画詳細
「【第05回】名興文庫−紅梅の作品選評」の詳細は下記になります。
*企画告知のページはこちら
【題材】
「燕」
・「燕」を題材とした、心を震わすような小説を求めています。
【条件】
・総文字数2万字以内で完結済み
・作品内にキーワードがある文学作品であること
・Web小説投稿サイトで公開中であること
・シリーズものは不可
・応募は1人1作品まで
・作品の感想・講評の公開に同意できること
【ルール】
・作品のURLをリプしてください
・期限は令和6年5月31日まで
【その他】
・感想はブログに掲載します
・批評の希望があれば、その旨をツイートに記載してください
(特に言及がない場合、感想のみとします)
(批評を後から希望されても受け付けできませんのでご容赦ください)
・講評はブログにて記載します
総括
まず初めに、「【第05回】名興文庫-紅梅の作品選評」企画にご参加くださった皆様、拡散にご協力くださった皆様、誠にありがとうございます。今回は募集期間が終了してから総括を公表するまで期間が開いてしまい、申し訳ございません。
今回は題材を「燕」とし、作品を募集しました。ご応募のあった三作品とも、「燕」が効果的に登場しており、心洗われました。応募くださり、誠にありがとうございます。
お題「燕」と聞いて多くの方は鳥の「ツバメ」を思い浮かべたかと思います。実際に辞書で調べてみると、
①ツバメ科の小鳥
②「若いツバメ」の略。年上の女に可愛がられている若い男性
と説明があります。今回提示したお題の意図としては、上記二つを念頭に置いていました。ですがお題の読みを指定していませんでしたので、中国春秋戦国時代の国「燕」や、新潟県にある燕市を物語に組み込む作品が来たら面白いな、とも思っていました。
『日本うたことば表現辞典② ─動物編』によると、「ツバメ」は昔「つばくらめ」とも呼ばれていたそうです。お手元に辞書があれば是非「つばくら」「つばくらめ」で引いてみてください。「つばめ」の項に案内されると思います。
日本に馴染みの深い「ツバメ」はスズメ目ツバメ科に分類される鳥で、日本の夏鳥です。分布範囲は広く、『三省堂 世界鳥名事典』によると、「北部と南部を除いたユーラシア、アフリカ北部、北部を除いた北アメリカで繁殖し、冬はアメリカ南部・インド・東南アジア・フィリピン・インドネシア・オーストラリア・南アメリカなどに渡る」鳥です。
日本には3月下旬頃にやってきて、4月下旬から7月に卵を産みます。抱卵は主に雌が担当し、13日~18日後、雛が孵ります。20日~24日かけて雌雄協力して育雛し、雛は自立します。
日本に生息する「ツバメ」には「ツバメ」以外にも「リュウキュウツバメ」「コシアカツバメ」「イワツバメ」などの種類があり、見た目が少し違います。「リュウキュウツバメ」は沖縄や奄美大島などの南西諸島で見られる鳥であり、「コシアカツバメ」は北海道で数少ない夏鳥になります。
「ツバメ」は日本で古くから愛されてきた鳥であり、和歌や俳句では春の季語として詠まれています。『万葉集』巻十九には「燕来る時になりぬと雁がねは本郷思ひつつ雲隠り鳴く」という歌が収録されています。また、『日本書紀』には「しろつばくらめ」を献上したと記載があります。江戸時代に本草が盛んになった際、漢名の「越燕」「石燕」「土燕」が何を示すのか問題になったそうです。
そして忘れたくないのが『竹取物語』でしょうか。かぐや姫は求婚してきた貴族たちにそれぞれ宝物を要求し、そのうちの一つが「燕の子安貝」でした。「燕の子安貝」を探し求めた貴族は、腰を折って死んでしまいます。
「ツバメ」は害虫を捕食する益鳥であり、人家の軒先などに巣を作ることから、さまざまな言い伝えがあります。広く知られているのは「ツバメの巣づくりがある家は末広がりになる」でしょうか。『日本生活史辞典』によると、これは長野県飯山市にある言い伝えだそうです。他にも、「ツバメを殺すと火事になる」や「ツバメの家造りは天気が変わる」など、いろいろあります。
もし「燕」というお題で作品を書くとしたら、どのような物語を紡がれますでしょうか? 本企画が皆様の創作の一助となれば幸いです。
【参考文献】
『学研 現代新国語辞典 改訂第六版』学研プラス 2021.12
『三省堂 世界鳥名事典』三省堂 2005.5
『図説 鳥名の由来辞典』柏書房 2005.5
『日本うたことば表現辞典② ─動物編』遊子館 2000.6
『日本国語大辞典 第二版 第九巻』小学館 2002.3
『日本生活史辞典』吉川弘文館 2016.11
『日本の美しい色の鳥』エクスナレッジ 2016.12
『日本民族大辞典 下』吉川弘文館 2001.8
『街・野山・水辺で見かける野鳥図鑑』日本文芸社 2019.6
読了後の感想・評価
ご応募いただいた作品の内、条件に合致する作品を読ませていただきました。
下記にメンバーの感想を記載します。また、希望者の方には批評を記載しています。
尚、紹介の順番は作品タイトルの五十音順となっております。
*敬称略とさせていただきます。
『在りし日の思い出』|作家A
*感想・批評希望
燕の巣がある家は幸福になる──その言葉を信じていた幼い頃の松木重信。けれど訪れた現実は幸福から遠ざかる出来事だった。48歳になったある日、燕が飛んでいく姿を見た重信は……。
お題「燕」に真正面から取り組んでくださり、ありがとうございます。重信が燕を通じて思い出す苦しい過去に心が痛み、けれど大人となってその苦しみを少しずつ乗り越える姿に、愛しさを感じました。重信が8歳から48歳までの物語であり、どの時代をどの程度の文章量で描くのか、調整が大変だったと思います。本作は重信の成長に断絶を感じる部分が非常に少なく、重信のつらさが最後軽くなる様子にほっとしました。企画に合わせての文字数にしてくださったのだと推測しますが、できれば長編のバージョンを読んでみたいです。
本作は主人公である重信の8歳から48歳までの成長が描かれていることから、重信という人物の説得力が欠けると途端に物語としての強さが減ってしまう特徴があります。ですが作者様はその難しい部分をきちんと抑え、幼い重信とその後の重信に流れがありました。また、最後に重信の勇気と成長があり、読了感が良く、お題「燕」にふさわしい作品と思いました。
読んでいて感じたことですが、作者様はどこか「きちんと書かないといけない」と思われているような気がしました。本作は8歳から48歳までの重信を描いている作品であることから、ある程度の説明は必要ですし、説明が不足しすぎれば物語としてまとまりがなくなってしまいます。ただ、もう少し「わざと描かない・行間を読ませる」という表現をなさっても大丈夫だと思います。本作を執筆された作者様なら、読者に委ねる表現ができると信じています。
ご応募、ありがとうございました!
『飛燕の導き』|タイメロン
*感想・批評希望
百貨店で行うイベントの企画書を探してほしい──皆乃の依頼を受けたのは燕尾服を着た男性。高名な探し屋である彼はさっそく探し始めるが、なかなか見つけることができず、そんな男性の様子に皆乃は……。
お題「燕」でどのような物語を拝読できるか楽しみにしていたのですが、まさか燕尾服を着た男性が登場する物語の応募があるとは予想できず、とても嬉しかったです。また、ミステリー要素も含んだお話で、読んでいてわくわくしました。男性と皆乃の関係性や皆乃の優しさに、読了後ほんわかと優しい気持ちになりました。素敵なお話で、シリーズもので読んでみたい気がします。
皆乃と燕尾服の男性のキャラクターが行間から浮かび上がるように色鮮やかで、全体のテンポも良く、あっという間に読んでしまいました。物語の最後が、なるほどこう来たか、と嬉しくもあり、読めて良かったなぁとほっこりしました。
このテンポの良さは本作の良き部分でもあるのですが、少し物足りなさも感じます。本作が一人称で皆乃の感情に寄り添っている描き方であれば、また違ったかと思うのですが、本作は心地良い距離感の三人称で描かれています。三人称である強みを活かした描写──例えば皆乃のお節介や過去についてを丁寧に描くといった、作品に深みを与える要素を丁寧に描くのも良いのではないか、と感じます。そうすることで、物語の時間軸がよりくっきりと、登場人物の存在感がよりはっきりと、なるように思います。ご検討ください。
ご応募、ありがとうございました!
『ぬるめ』|津多 時ロウ
*感想・批評希望
信子という名前の女性と出会った響一郎は、彼女の望むままに駆け落ちをし、独りになってしまった。両親のいない間田んぼの世話を頼まれた響一郎は、一人の老人と出会い──。
音の響きと色の美しさにハッとさせられ、そこに住む人々の営みにじんわりと温かい気持ちが広がりました。田んぼに関する描写は実体験が元となっているのでしょうか。とても興味深かったです。また、満州についての記述は、私の父方の親族が実際に満州へ派遣され命を落としたこともあり、戦争の理不尽さに思いを馳せました。最後、ツバメの姿が苦しみを遠くへ運んでくれたかのようで、嬉しくなりました。本作を執筆してくださり、ありがとうございます。
本作は響一郎が直面した予想外の出来事で傷ついた心を、日々の暮らしを通じて少しずつ癒やしつつ、三郎さんとの関わりからそれぞれの苦しみに心を寄り添わせる、『ぬるめ』というタイトルに相応しい優しさに包まれた作品でした。最後、響一郎が浮かべる表情は、実家に帰ってから過ごした日々があったからこそ浮上したものであると思っています。
本作を拝読して少し残念に思ったのは、響一郎の東京での生活がほとんど見えてこない点でした。実家での生活が自然豊かであるのはとてもよくわかったのですが、東京での生活はどのようなものだったのでしょうか。その描写があれば、どうして信子は響一郎の元から去ってしまったのかを推測することや、実家での日々が響一郎にとっていかに大切だったか、そしてそこに流れる緩やかな空気感を、行間から味わえるのではないかと思います。ご検討ください。
ご応募、ありがとうございました!
今後の予定
企画は今後も行う予定です。
その際はX(旧Twitter)を通じて募集します。
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今後とも応援のほど、何卒よろしくお願いいたします。