アーカイブ「話の肖像画」

コメディアン・志村けん<7>テレビだけやっている人は計算できないお客さんの笑い

2006年3月26日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

バカ殿様のコント魂

――今の若いお笑い芸人たちは、どう映りますか

「一生、この仕事で食っていくんだ」っていう覚悟がないよね。前に若いお笑いグループの人に、「どうしたいのかよ」と聞いたら、「できれば島田紳助さんみたいに自分の番組を持ちたい」という答えが多かった。「思い出ができればいいんですよ」というのもいた。

――人を笑わせて喜ばせたいとかは?

そんなの聞いたこともないね。若いやつらは「お笑いをやっていればもてる」と思っている。お笑いブームの人たちの笑いは、悪いわけじゃないけど漫才などの寄席芸でしょ。ぼくがザ・ドリフターズからやってきたのは寄席芸ではない。笑いという点では一緒だけど、違うタイプのものだと思っています。

――テレビ番組の作り方は違いますか

ドリフをやっているときは、ディレクターはぼくらより立場が下なんです。大学を出てお笑いも何も知らない人だから、ぼくらが、「ここはこう撮るんだよ」と教えていた。今は逆になってきて、ディレクターが番組をリードしていますね。

――それが視聴率競争につながるのですね

そういうことです。だから「とにかく毎週、新しい企画、企画」となる。ディレクターも1つの番組に3人ぐらいいて、自分の放送回で手柄をあげようとするから番組の色がばらばらになっちゃう。そうなると芸人は、ただの商品です。

――そうならないためにどうすれば。

自分の番組を持っているなら、10分間でも自分たちのネタのコーナーをやればいい。大変だけど、そうすると番組がそいつらのものになっていくんです。テレビ局側の提案に合わせてやっていてもだめですね。

――今、「8時だヨ!全員集合」のような番組が生まれないのはなぜですか

金と時間がものすごくかかるからですよ。時間をかけてリハーサルやるより、ほかの番組に出てゲストでお茶を濁して、1日で2本ぐらい撮るほうが事務所も楽でもうかるでしょう。

――そうなんですね

ぼくは10年以上「全員集合」をやっていたので、常にお客さんのことを想像しながら作るし、それがくせになっています。でもテレビだけやっている人はそれが計算できないから、勝手に自分が楽しいようにやっていく。楽しいことをやるのは鉄則だけど、あまりに自慰行為に走ると、見ているほうは置いていかれる感じになるんですよ。今は、大人が見るコントがないとよく言われます。放送翌日に話題になったり、子供たちがまねするようなものもない。寂しいですね。

(聞き手 田窪桜子)

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