アーカイブ「話の肖像画」

コメディアン・志村けん<5>ドリフの笑いは5人で分担、生の舞台に妥協一切なし

2006年3月24日付の産経新聞に掲載した連載「話の肖像画」のアーカイブ記事です。肩書、年齢、名称などは掲載当時のまま。

バカ殿様のコント魂

――「8時だヨ!全員集合」は公開生放送でした。スケジュールは厳しかった?

木曜日がネタ作りで、次の次の週のネタを考えます。少年少女合唱隊のコーナーは当日内容を決めていましたが、そのほか全部のネタが決まるまで木曜は帰れない。金曜日に立ち稽古(げいこ)して、翌日の台本をチェックです。その段階でアドリブも出していかないといけないし、直しを入れていく。そして土曜日が朝10時からリハーサルして、夜8時から本番。今でも自分のコント番組では同じような作り方をしています。

――「全員集合」では、ゲスト歌手もコントに参加するのが新鮮でした

歌手の方は待ち時間が長かったと思いますよ。歌合わせよりコントの合わせがメーンでしたから。テレビでは分からないけれど、コントが終わって最初に出る歌手も大変。後ろでは舞台セットを片付けたり大騒ぎで、前の場面で水を使っていたらステージはびしょびしょだし。お客さんは、「こうやってセットを片付けるんだ」と後ろを見ているのに、登場しなくてはいけない。そのコーナーは新人歌手が多かったのですが、鍛えられたと思います。

――ザ・ドリフターズに入って得たことは何ですか

生の舞台をやっていたので、妥協をしないということですね。特に、いかりや長介さんの物の作り方というのは、「このぐらいで何とかなるだろう」という妥協が一切ない。あとはグループですから、5人の分担ということを学びましたね。

――分担とは?

最初はまずぼくが出て高木ブーさん、仲本工事さんと、登場順が決まっていた。だんだんウケてくると順番が変わって、ぼくが最後になった。そのとき志村はのってて楽しそうに見える。でも、そのネタやノリは、「志村はここでどうする?」って確認され、「こうやりたいです」というと、「じゃあ、その前の振りはこうしよう」と、きちんと後がうけるように考えてあるんです。ほかに面白いネタが出れば登場順も入れ替わる。笑いにも伏線があるわけです。ぼくや加藤茶さんがうけているようにみえても、それは5人のものというのは徹底していました。

――1人では、あの笑いはできないのですね

コントは、理不尽なことをやるから、納得させる理由が必要なんですね。「こんなこと普通は言わないけど、こういうことを前にやっておけばいける」とか。笑いの間(ま)も、多少みんな違うけれど教えられるものじゃない。正解の間はそんなに多くはないですよ。ドリフでいえば「遅い!」とか「もっと早く」程度。コントが受ける間というのは多分、コンマ何秒の世界だろうけど、ドリフのメンバーはそれがお互いに分かるんですよ。

(聞き手 田窪桜子)

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