“巨乳”と“キャストオフ”を両立させる努力! ダイキ工業の美少女フィギュア開発、秘密の舞台裏!【ホビー業界インサイド第63回】

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日本市場向けフィギュアは、クオリティが高くて生産数の少ない贅沢品!


── PVC製の完成品フィギュアは中国での生産だそうですが、どこが難しいですか?

小川 金型は機械で製作するので、それほど大変ではありません。ただし金型でPVCのパーツを抜くと、必ずパーティングライン(型と型の継ぎ目)が生じてしまいます。パーティングラインの段差を消すために、磨く工程はすべて手作業です。その磨き作業に、手間がかかります。それと、顔は必ず別パーツにしないといけません。

── 顔だけ? なぜですか?

小川 顔に不良品が出た場合、すべてやり直しになってしまうからです。1割ぐらいは不良品が出てしまうので、それを省いていかないといけません。また、頭はPVC樹脂の塊なので、硬化するときに収縮して形が歪んでしまいます。ですから、頭の内部にコアを作って、そこに顔のパーツをはめ込む構造にしています。そうやって肉厚をかせいで、収縮しないようにしています。こうして手間をかけてパーツを分けるとコストが跳ね上がるので、日本向けのPVC完成品は高くなってしまいます。いっぽうで、中国向けのフィギュア製品は、日本向けに比べて3割ぐらい安いんです。その代わり、パーティングラインが残っていたり、塗装がズレていたりする。中国のユーザーは細かいことを気にしないので、それでも売れるんです。


── 品質が落ちても、安いほうがいいと考えるんでしょうか?

小川 確かに、「安く買えるに越したことはない」と考えています。それと、日本のメーカーはSNSで細かな欠点を指摘されることを嫌がりますが、中国のメーカーは気にしないからでしょうね。品質上の欠点を気にするぐらいなら、10~20万円ぐらいの高額製品を買えばいい、という考え方をしているんです。中国製のPVC完成品を輸入販売しようかと思ったこともありますが、原型の出来はいいのに、製品としてのクオリティが低すぎて断念しました。パーティングラインは残っているし、成形時の歪みも出てしまっています。また、肌の部分にエアブラシで影を塗ってないから、肉感がありません。磨き作業をていねいにやってほしいと頼んでも、こういう製品を作っている工場は面倒がって受けてくれません。

── それは、フィギュア文化の違いなのでしょうか?

小川 文化の違いというより、単に日本向け製品は生産数が少ないんです。僕たちの製品は、せいぜい1種類のフィギュアが千個ぐらい。だけど、中国国内向けのPVCフィギュアは10~20万個つくっています。たとえ3倍のお金を払っても、1万個にも満たないような日本向け製品は、中国の工場にとってうまみがないんです。

── つまり、求める品質は高いのに生産数が少ないから、敬遠されてしまうわけですね。

小川 そう、ただ要求の厳しいだけの製品になってしまっている。だから、引き受けてくれる工場が少ないんです。それと、中国の物価の値上がりに日本が追いついていません。日本の物価がいつまでも上がらないので、日本人と組んでいても美味しくないわけです。

── だけど、かつては中国の工場も日本向けフィギュアも喜んで作ってくれていたのではありませんか?

小川 ウチがPVC製フィギュアを始めた当初は、フィギュア1体で工員をひとり雇えました。いまは10体でないとひとりを雇えません。当時は、中国の人件費が1か月6千円ぐらい。今は6万円です。最低でも、3万円ぐらいじゃないでしょうか。工場としては、かつての10倍の生産効率を上げないといけません。2000年代初頭は、製造コストなんて気にせずフィギュア製品を作っていました。気にすることがあるとすれば、PVCの原材料費ぐらいでした。

── 材料を使う量ですか?

小川 ほら、PVCって石油製品じゃないですか。原油価格の変動によって、フィギュアの値段が左右されてしまうんです。


── とは言っても、2006年の「フィギュア王」誌の新製品コーナーを見ると、PVC完成品フィギュアは高くても1万数千円、安いものでは3~4千円代です。

小川 北京五輪(2008年)までは比較的、中国の人件費は安かったんです。五輪のあと、どんどん人件費が上がってしまって、それがフィギュアの価格に跳ね返るようになりました。今回の新型コロナウイルスの影響でノベルティグッズの生産が落ち込み、PVCの工場がかなり潰れてしまいました。そのため、今後のウチの製品の見積もりも1割とは行かないまでも、少し高くなっています。

── すると、ますますPVC完成品フィギュアは贅沢品になっていきますね。

小川 そうですね。金型費を償却した1~2年前の製品を再販しようとしても、当時そのままの値段では出せません。人件費の高騰が、いちばん響いています。

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