ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

»一覧へ

新たに学生や社会人となった人たちに見て欲しい

観賞手段:テレビ、ビデオ/DVD
春になるたび見返したくなるアニメのひとつが「SHIROBAKO」。
ひとことでいえばアニメ業界を舞台としたお仕事ものだが、新たな世界に飛び込んだ主人公たちが社会人として、人間として悩みつつ成長していく物語としての側面が強く、新たに学生や社会人となった人たちに見て欲しい作品だ。
あおい、絵麻、しずかは、高校の学祭で自主制作アニメを作り上げる。卒業後は業界入りし、いつか自分たちのアニメを作ろうと誓い合うのだった。しかし、現実はそう甘くない。あおいは制作進行、絵麻はアニメーター、しずかは声優としてアニメ業界に入ったが、新人の彼女たちは様々なトラブルや自分の力不足で辛い思いをすることも。それでも3人は夢に向かって少しずつ歩んでいくのだった。
本作が描くアニメ業界は実にリアルだ。制作は常に遅れ続け、折角作ったシーンも監督や原作サイドの意向で突然リテイクが出される。スタッフも一枚岩ではなく、ちょっとした行き違いや思い込みで揉めごとが起こったりもする。創作の理想に燃えた者たちが集っているはずのアニメ業界も、突き詰めれば現実の「職場」であるということ。学生諸氏や新社会人諸氏は「なんでこの人たちはちゃんとしていないんだろう」と驚くかも知れないが、これが職場のリアルなのだ。そして、3人は理想と現実の狭間に直面する。あおいは自分に長期的なビジョンがないことに気付き、絵麻はアニメーターとして上手く描けないということでドツボにはまり、しずかに至ってはデビューすらままならない。「自分はもっと上手くやれるはずだった」というひと言はあらゆる視聴者の心に深く深く突き刺さるのである。しかし、そうした現実にも小さな奇跡は起こる。無茶な変更に対応できるのも、いがみ合っていたスタッフたちが手を取り合えるのも、皆が理想を追っているから。そして今日も完成品がギリギリのタイミングで納品され、アニメはひとまず無事に放映される。こちらも職場のリアルであり、世界はこうした小さな奇跡の連鎖で回っていることに改めて気付かされるのだ。
そして、本作は主人公たち新人だけでなく、スタッフたちのドラマも描かれることで深みが増している。かつてヒットを飛ばして天狗になったが、作画崩壊アニメを世に出してしまった監督と演出家、3DCGという新技術に脅威を覚えるアニメーター、軽薄な編集者など、様々な年齢・立場の人々がリアルに造形されていることで、繰り返しの視聴に耐えうる強度を得ている。本作の放映は2014年だが、10年を経た今見返すと、新たな気付きもあるだろう。
社会人として生きるというのは大変なこと。好きでも、才能があると思っていても、頑張っても、(誰が決めたか分からない)成果という物差しで相対化され、思うように進めない。それでも人を支えるのはあの日抱いた理想や初心であり、これがあるから頑張れる。新たな物事が始まる春だからこそ視聴したいアニメだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
4.5
キャラクター
4.5
音楽
4.5
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
4.5
満足度 4.5
いいね(1) 2024-04-01 14:45:58

ログイン/会員登録をしてコメントしよう!