ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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銀河の歴史がまた1ページ

観賞手段:ビデオ/DVD、動画サイト
ゴールデンウィーク、夏休み、年末年始など、長期休暇に一気見したいアニメの筆頭が「銀河英雄伝説」(1988年)。本編110話、外伝52話の大ボリュームである。
遠い未来、人類は「銀河帝国(帝国)」「自由惑星同盟(同盟)」「フェザーン自治領」という3つの勢力に分かれ、帝国と同盟が激しく戦っていた。帝国の「常勝の天才」ラインハルトは姉を後宮から取り戻すべく軍人となって武勲を重ねる。その前に立ちはだかるのが同盟の「不敗の魔術師」ヤン。劣勢の中でラインハルトに完勝させずに味方を救う様は、正に魔術師である。対照的な2人の英雄によって、帝国と同盟の争いは混迷を深めていくのであった。
本作は、宇宙時代の架空史を舞台とした歴史ロマンであり、ミクロからマクロまで実に様々な面白さがある。クラシックをバックにした宇宙艦隊の大会戦は、本作においては比較的ミクロな方の面白さだろう。新進気鋭の将校たちを率いて宇宙を堂々と進軍するラインハルトと、絶対不利の状況を優れた洞察力や奇策で覆すヤンの姿には戦争ものとしての魅力がある。そして、3つの勢力国家レベルで繰り広げる戦略や謀略はマクロの面白さ。社会情勢の変化や民意で戦いの大枠が決まっていき、こうしたうねりに皆が巻き込まれて変転する様にスリルと見応えがある。さらに、愛憎渦巻く宮廷劇や少年の成長物語、世代交代劇に恋愛まで絡んでくるのが本作。様々な視点で歴史を眺めていく本作は群像劇という表現でもまだ足りない。まさに歴史の面白さを堪能できる作品だ。
「銀河英雄伝説」はSFに分類される物語だが、女性ファンが多いことでも知られている。理由の一つは、活き活きとしたキャラクターたちにある。ラインハルトは戦争の天才にして激情家だが、戦う理由は後宮から姉を取り戻すこと。幼い頃からの親友であるキルヒアイスにだけ本心を吐露する様が感情移入を呼ぶ。対するヤンは困難な作戦を次々と成功させるが、本人は歴史家志望。おまけに生活能力皆無で、被保護者の少年に面倒を見てもらっている有様なのが面白い。このように、本作のキャラクターは英雄としての側面と人間臭さが同居した、リアルで複雑な人々だ(もっともっと沢山のキャラクターを例に挙げたいが、残念ながら紙幅が足りない)。登場するキャラクターの年齢層が非常に広いこととあわせ、今でいうところの「推し」が1人や2人どころではなく、もっと沢山見つかることだろう。
年齢を重ねて見返すのであれば、社会人としての共感もできるはずだ。ラインハルトの属する帝国は長い歴史で腐敗しており、無能な特権階級がはびこっている。ラインハルトが何かする度に彼らが嫉妬や恨みで足を引っ張ってくる有様だ。ヤンの同盟は民主主義といえ理想郷にはほど遠く、戦場にも出ない政治家が支持率のために出征を命じてきたりもする。2人(特にヤン)が、こうしたしがらみの中で同志とともにもがく有様は、社会人であれば深く共感できるだろう。
「銀河英雄伝説」は一定の年代のオタク男性の多くが通ってきた道。本作の影響で歴史に関心を持った人も少なくない。SFかつ歴史物としての側面も強い、と聞くと尻込みする人もいるかも知れないが、前述したように本作には様々な魅力が存在しており、間口は広いと感じられる。そして今は110+52話を配信で一気に見ることができる。まさに大河ロマンだが、大河であるがゆえに毎回の引きも強く、止め時を見失ってしまう。有名な「銀河の歴史がまた1ページ」とは次回予告のフレーズだが、本作のページはめくってもめくってもまだまだ先が残っているのである。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-04-30 17:56:34

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