【レビュー】VRアドベンチャーがSwitch向けに再構築され、アニメのような世界を楽しめる「東京クロノス&アルトデウス: ビヨンドクロノス ツインパック」

2024年08月14日 12:000

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「東京クロノス&アルトデウス: ビヨンドクロノス ツインパック」は、2024年8月1日に発売されたアドベンチャーゲームだ。2019年のVRミステリーアドベンチャーゲーム「東京クロノス」と、2020年のVRインタラクティブストーリーアクションゲーム「アルトデウス: ビヨンドクロノス」をNintendo Switchに移植、2本の作品をパックとしてまとめている。

「VRの臨場感で楽しめるビジュアルノベル」「体験するアニメ」としてVRゲームプレイヤーからの評価が高い2作品だけに、名前を聞いたことはあるものの、VR機器がないのでプレイできなかったという人には朗報といえるだろう。コントローラーとタッチスクリーンのどちらでも操作できるのに加え、演出やUI(ユーザーインターフェース)をNintendo Switch向けに最適化されている。

どちらの作品もストーリーが重要になっているため、本稿では先の展開について語ることはできない。要するに本稿ではネタバレはないということなので、安心して読み進めてほしい。

 

無人の渋谷を舞台にドラマを体験する「東京クロノス」



  

「東京クロノス」の舞台となるのは、無人となった2018年の渋谷。主人公の櫻井響介(CV:上村祐翔)はこの地で幼なじみたちと再会する。異常な状況だが、なぜ渋谷が無人になったのか、なぜ自分たちだけがこの場所にいるのかを誰も覚えていない。途方に暮れる響介たちだが、突如としてビルの壁面に「私は死んだ、犯人は誰?」という文字が映し出されて慄然とする。渋谷は謎の力で閉鎖された「クロノス世界」になっており、犯人を捜し出さないと脱出できないというのだ。

  

  

芯が強い二階堂 華怜(CV:石川由依)、天才物理学者として頭角を現している東国ユリア(CV:柚木尚子)、写真を趣味とする桃野 夕(CV:木戸衣吹)、優れた能力を持つのに加えて親の権力すら駆使して問題に当たる神谷 才(CV:朴璐美)と彼に絶対の信頼を寄せる両角 愛(CV:桜井しおり)、人の気持ちに共感できる蔭山 哲(CV:梶裕貴)、明るいムードメーカーの街小路 颯太(CV:植田圭輔)。このところ疎遠になっていたとはいえ、響介には彼らが人を殺せるとは思えない。皆が脱出の方法を探る中、誰も覚えていない8人目の幼なじみを名乗る少年・ロウ(CV:木村良平)が現れ、人を嘲笑するような態度で皆を混乱させていく……。

 

  

当時のVRゲームはアクションや非日常的な体験をさせるものが多かったが、本作は物語に注力しているのが特徴だ。疎遠になった幼なじみという微妙な関係性の中、相手が殺人犯であるかどうかを疑わなければならない。ある種の懐かしさと気まずさが入り交じった中での再会は誰にも覚えがあるものであり、プレイヤーの共感を呼ぶのだ。

渋谷が超常的な閉鎖空間となり、響介と幼なじみたち以外には誰もいないという舞台設定も面白い。響介たちは無人の店で思うままに物資を漁り、誰もいないスクランブル交差点に(近くの東急ストアから持ってきた)テーブルを並べ、キャンプ合宿のごとくカレーを調理するのだ。都市にディスプレイされて欲望を刺激する商品を好きに扱い、常に人で一杯のスクランブル交差点を独占する。まるで子どものような発想だが、だからこそこの瞬間は尊く、プレイヤーの感情移入を呼ぶ。子どもの頃、仲間の絆やキャンプの楽しさは永遠に続くものだと誰もが思っていたはずだ。しかし、その後の人生経験で、こうした瞬間もいつかは終わることを思い知らされることになる。それゆえに、思いもしなかった再会と楽しい時間に郷愁を覚えるのだ。

 

  

もともとがVRゲームだけあり、幼なじみたちの実在感に注力しているのもポイントだろう。皆はリアルなスケール感を持つ存在として描かれており、響介をぐるりと囲む様には小学校の大人数グループ的な心地よさがある。幼なじみが響介にぐっと近づいてくるシーンもあり、実在感も増す(ただ、今回はVRゲームではない。通常のディスプレイでは、もともとのVRゲームとしての演出意図を完全に再現できるものではないことは付記しておかなければならないだろう)。

声優陣も豪華で、アニメが好きな人にはたまらないはずだ。

幼なじみたちは犯人を捜し出し、「クロノス世界」を脱出することはできるのか? 気になる人はぜひ自分でプレイしてみてほしい。

  

未来の地下都市に再現された渋谷で展開する濃厚なSF「アルトデウス: ビヨンドクロノス」


 

「アルトデウス: ビヨンドクロノス」で描かれるのは、「東京クロノス」の300年後。世界は超巨大生物「メテオラ」の襲撃を受け、人類は地下都市に逃れていた。そんな中、主人公・クロエ(CV:鬼頭明里)は、巨大な人型都市防衛兵器「アルト・マキア」を駆り「メテオラ」と戦う。彼女を駆り立てるのは、人類への愛や使命感ではなく、ただ復讐心のみ。親友のコーコ(CV:奥野香耶)を喰らった「メテオラ」をこの手で殺すべく、今日も戦い続けるのだった……。

  

  

「東京クロノス」が「VRの臨場感で楽しめるビジュアルノベル」なら、「アルトデウス: ビヨンドクロノス」は「体験するアニメ」だろう。

大きな見所の一つは、身長400メートルの巨大ロボット「マキア」の操縦をVRゲーム的な手法で体験できること。クロエの一人称視点から「マキア」の操縦が描かれることで、プレイヤーはアニメのような体験ができるのだ。

空中に浮かぶコンソールに手を当てて認証を行い、起動コードを入力。全天スクリーンに外の様子が映し出され、クロエの手は愛機「アルト・マキア」の手となる。敵の攻撃を「ミラージェネレーター」を操作して受け止めて反撃開始。Joy-Conの[L][R]スティックを倒して2つに分割されたレールガンのパーツを掴んで組み合わせ、[ZL][ZR]で発射する。ゲーム機へ移植された関係上、もともとのVRゲームと全く同じ体験というわけにはいかないが、ロボットアニメが好きな人には嬉しい体験となるのではないだろうか。

  

 

 

 

  

「東京クロノス」に引き続き、本作の人間ドラマも重い。クロエは遺伝子操作で作られた「デザインドヒューマン」であり、戦闘能力は高いものの感情は薄い。そんな彼女に喜怒哀楽や人としての心を教えたのがコーコである。クロエにとっては誰よりも大事な存在だが、そんな彼女は「メテオラ」に喰われてしまった。

今は「アルト・マキア」の操縦をサポートする「人工拡張認識結晶」であるノア(CV:花守ゆみり)がそばにいるが、コーコをコピーしながらも似ても似つかない彼女の存在は、クロエにとって何の慰めにもならない。クロエは過去の後悔を引きずりつつ「メテオラ」への憎しみを燃やし続けるのだ。ゲームを進めるごとに明らかになっていくコーコとの過去と、クロエが抱く想いの深さ。ノアもクロエのことを心配し、いろいろな手段で彼女の気を引こうとするのだが、半ば自暴自棄になっているクロエにその想いは届かない。この世に存在しない死者を中心に、死を受け入れられない者と死者のコピーが報われぬ思いを一方通行で発信しているというわけで、実にディープ。関係性萌えの人にはたまらないだろう。

  

  

本作はAR的な考え方が世界観に組み込まれているのも面白いところだ。クロエを始めとする作中の人々はARデバイス「グライアイ」を常に装着しており、目に見えるのは現実の光景とARの表示が渾然一体となった世界である。「グライアイ」には周囲の会話を解析することで選択をサポートするAI「リブラ」がインストールされており、決断を迫られる場面では文字通りに選択肢が眼前に浮かび上がる。つまり、アドベンチャーゲームの選択肢を自然な形で取り入れているということだ。

人類が住む地下都市「A.T(Augmented Tokyo)」は、東京の渋谷を思わせるような街区にきらめく「テクスチャ(AR広告)」が浮かぶ、華やかな場所だ。しかし、ひとたび「グライアイ」を操作して「テクスチャ」を排すれば、そこには灰色の地下都市という現実が姿を現す。人々は「メテオラ」に地上を追われた辛い現実から目を逸らすため「テクスチャ」に耽溺しているというのだ。単なる空想ではなく、AIの過剰な介入や氾濫する広告といった現実にある問題がベースになっており、風刺的で面白い。

この他、SFを読む人であれば興味深いさまざまなキーワードも散りばめられているため、SF好きにもお勧めできる作品といえるだろう。

 

 

 

 

 
(文/箭本進一)

タイトル情報

■「東京クロノス&アルトデウス: ビヨンドクロノス ツインパック」

・対応機種:Nintendo Switch

・ジャンル:アドベンチャーゲーム

・キャラクターデザイン:LAM

・プレイ人数:1名

・音声言語:東京クロノス:日本語

     アルトデウス:日本語、英語

・対応言語:東京クロノス:日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)

     アルトデウス:日本語、英語、中国語(簡体字・繁体字)、ドイツ語、フランス語

・開発:イザナギゲームズ(IzanagiGames, Inc.)/MyDearest株式会社(MyDearest Inc.)

・販売:イザナギゲームズ(IzanagiGames, Inc.)

・価格:7,480円(税込)

・発売中

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