ライター 箭本 進一さんの評価レビュー

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人生を変えるほどの衝撃を内包する物語

観賞手段:CS/BS/ケーブル、ビデオ/DVD、劇場、動画サイト
ネタバレ
「伝説巨神イデオン」、特に劇場版を見た時の衝撃は未だに忘れることができない。人生を変えるほどの衝撃を与えたアニメであるといっていいだろう。
とある植民星で掘り出されたのは伝説の巨神。巨神は無限力「イデ」を持つといわれる代物で、これを危険視する異星人が血眼になって追ってくる。植民星の少年少女たちは、ただ生きるために巨神の力を借り、宇宙を必死で逃げ回るのだ。
キャラクターたちの群像劇は、同じ監督の「機動戦士ガンダム」から更に重みと深みを増していき、ある程度年齢を重ねていないと真価が理解できないところがある。例えば、異星人のエリートが失敗(主人公たちにとっての成功)を繰り返して墜ちに墜ちつつ巨神の力に魅せられていき、ついには敵(主人公たち)の船にご厄介になりつつ男泣きする、なんてシチュエーションは、社会人でないと辛さや重さが分からないだろう。
地球人は味方で善、異星人は侵略者で悪といったステロタイプで片付けられない物語も魅力だ。植民星の少年少女たちはただ生きたいだけなのだが、巨神や「イデ」を危険視する異星人たちとは分かり合えることがない。異星人としては、そんなものを持っているヤツは何をするか分からないし、矛先が自分たちに向けられるのであれば身を守らなければならないということだ。本作では異星人たちも自分の母星を「地球」と呼ぶ。悪の異星人が悪ゆえに戦争をするのではなく、「地球」を守るために戦うのだから本作の物語は奥深い。同じ人間なのに立場や価値観が違う、なのに関わり合わなければならない。物語のジャンルとしてはSFだが、描かれるのは現実的な悩みや苦しみであるということだ。筆者は当時小学生であり、本作で描かれる人の業や、人間臭い異星人たちが織りなすドラマといったところは未だ理解できなかった。しかし、親や教師といった分かり合えぬ相手との軋轢はあったので、理解されることなく逃げ続ける植民星の少年少女たちに感情移入していたことを覚えている。
とくに凄惨なのが劇場版である。「イデ」が発動し、全てが無に帰したのがTV版のラストであったが、劇場版で描かれたのは更なる修羅場であった。姉は女としての幸せを手にした妹を見て嫉妬に駆られ、その顔面に銃弾を何発も撃ち込んで殺害する。主人公が思いを寄せた美少女は生首となって無残に散る。多くのアニメでは聖域であったマスコット的な動物さえ例外ではないといった具合で、控えめにいっても地獄の様相だったのだ。こうした有様を目の当たりにした「イデ」は地球と異星の人々に絶望し、戦う当事者たちはおろか、その母星すらも念入りに破壊し、彼らを完全に絶滅させてしまった。命を落とした皆は霊のような姿となり、そこでやっと和解する。そして、輪廻転生が始まることと救世主の誕生を祝い、「ハッピーバースデー」の歌を歌うのであった。小学生だった筆者には、何が起こったのか分からなかった。皆はもう死んでしまった。ハッピーでもないし、バースデーでもないではないか。ただ、彼らがもうやり直せないほどに過ちを犯し、全てをリセットするしかなかったのは何となく理解できた。彼らはどうしていれば良かったのだろう?映画を見終えてしばらくは恐ろしくて仕方がなかったし、ずっとあのラストについて考えて続けてもいた。実は、今になっても答えは出ていない。彼らは人間であるがゆえに業や汚濁を内に秘めた灰色の存在であり、それゆえに「イデ」から見限られるしかなかったのではないか。つまり人は「イデ」から見限られ続けるのではないか?物事を黒と白に分けようとする「イデ」は正しかったのだろうか……と思考は巡り続ける。筆者にとって「伝説巨神イデオン」もまた、「人生を変え続けているアニメ」なのだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
ライター 箭本 進一
ストーリー
5.0
作画
5.0
キャラクター
5.0
音楽
5.0
オリジナリティ
5.0
演出
5.0
声優
5.0
5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-08-24 02:25:48

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