ライター 箭本 進一さんの評価レビュー
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観賞手段:CS/BS/ケーブル、ビデオ/DVD、劇場、動画サイト筆者にとって「人生を変えたアニメ」の一つは間違いなく「機動戦士ガンダム」だ。 1979年のリアルタイム放映時、小学生であった筆者は本作の物語を理解できず、ただガンダムやザクといったモビルスーツ(人型機動兵器)が格好いい、ということだけで視聴していた。話は難しいけれど、他のアニメと違っていることはおぼろげに理解していて、それは学校の友達も同様だった。だから筆者と友だちの「ガンダムごっこ」はモビルスーツになり切るものであった。カタパルトから射出されるガンダムを真似て「行きまーす!」と声を上げながらブランコから飛ぶ。掃除で床が濡れれば、3体のドムが並んで足を動かさずホバー走行するジェットストリームアタックのように3人並んで床を滑るといったもので、キャラクターやロボットになり切って戦う他作品のごっこ遊びとは一線を画していた。それは、話の複雑さゆえに、彼らがなぜ戦うかを理解していなかったことの反映であるのかも知れない。それでも、(当時のロボットとしては珍しく)飛行能力を持たないガンダムが、カタパルトから「飛び立つ」のではなく「射出」されることやその姿勢のリアルさ、人型の機体がホバーで移動することにおける兵器としての現実感……といった、「機動戦士ガンダム」ならではの特徴や魅力は敏感に捉えていたことが分かる。当時の主人公の定番であった勇猛な戦士ではなく、ナイーブで戦いに怯えるアムロにも感情移入していて、なぜか「や、やってやる。やってやるぞ。新型のモビルスーツがなんだ!」といった恐怖混じりのセリフを好んで真似ていたことを覚えている。 こうした中で蒙を啓いてくれたのが、当時勃興し始めていたアニメ雑誌の特集だ。アニメが今ほどに認められていない中、「機動戦士ガンダム」のどこがどうすごいのかを論ずる熱弁であった。五里霧中だったところに、光が差してきたような体験であり、筆者は語ることと伝えること、書くことの大切さを知った。現在ものを書く仕事をしているのも、こうした体験が影響しているのかも知れない。 熱狂のガンプラブーム。学校から走って帰り、定かならぬ入荷の噂に振り回されつつ周囲の模型店を巡った日々。ガンプラブームや映画版公開で社会現象となったガンダムと、大人たちから向けられる冷ややかな目、そして「なぜ大人たちはこの凄さを理解しないんだ」といった憤り。ガンダムについて語れることはまだまだ多く、誌面は幾らあっても足りない。 今や時代は変わった。ガンダムは共通言語の一つとなり、かつてのような憤りを覚えることはなくなっている。それでも「機動戦士ガンダム」の物語やセリフは奥深いものであり、様々な機会で見返す度に新たな魅力が発見できる。そうした意味で「機動戦士ガンダム」とは「人生を変えたアニメ」ではなく、「人生を変え続けているアニメ」なのだ。
プロレビュアー
ライター 箭本 進一
- ストーリー
- 5.0
- 作画
- 5.0
- キャラクター
- 5.0
- 音楽
- 5.0
- オリジナリティ
- 5.0
- 演出
- 5.0
- 声優
- 5.0
- 歌
- 5.0
満足度 5.0
いいね(0) 2024-08-24 02:20:30