【合作】俺が世界で一番大河のことを愛している

桐嶋大河派4人の合作二次創作 再掲
私の好きな二次創作です 主人公は男でも女でも


どうして最初の恋人ではないのだろう
最後の人だなんて、そんなおためごかしは欲しくない


元カノという存在が許せない。
元カノなんていなければいいのに。

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……桐嶋大河と結婚して、改めて認識したことがある。


それは、この男と暮らす「生活」というものは、
なかなかに珍しい……相当高度なテクニックで構成されている
ということだ。

たとえば朝。

起きて「うー、ねみぃ……」と言っているその間によどみなく、
ササササッと洗濯機を回し、顔を洗い歯を磨き、髪を整えて
また部屋に戻ってくる。

仕事のあと。

「つかれたわー……」とぼやくその数秒で、
上着を脱いで、玄関の靴をそろえ、こちらの顔色をすぐに判断して
「どしたん、なんかあった?」「あ~。もしかして……」なんて
パーフェクトな共感を示してくる。

休みの日に台所に立てば、普通汚すばかりのキッチンが
料理する前よりも綺麗な状態で戻ってくる。

2人で暮らす部屋のどこかが、故障したり欠けた時には
こっちが「困ったな……」と悩む前に、いつの間にか直している。

……全てにおいて頭が良くて要領がいい。

ダルそうにむにゃむにゃしているから、一見だらっと溶けている風で
何もかもを手際よく、高速で終わらせてしまう。

そして自分がする「生っぽいこと」……生活感のあることは全て、
本当に親しいただ一人にしか見せない。

そういう、本当に賢くて……スペシャリティのある男なのだ。

○○(付き合ってた時ですら、どこに洗濯物を
  干してたのかわからなかったし)

料理をしている姿は見せても、その食材をスーパーや
コンビニで買っているところは一度も見たことがなかったと思う。

シャワーを浴びて出てきた姿は普通に見せても、
浴槽に浸かっていたり、バスタブ掃除をしているところは隠しきる。

朝、ゴミ出しに行く姿は見れても、
ティッシュで鼻をかんだりするのを見たこともない。

秘密主義、何事においてもさらっと裏でテキパキ終わらせて
「最初からこうだった」とばかりにキレイな部屋で暮らしていた大河。

そんな大河が、結婚して初めての夜。

大河「あ~……。明日使うバスタオルが足りないかもしれん。
   今から洗濯していいか? もう遅い?」

と、まだ洗っていないタオルを見せた時。

大河「今からメシの材料買いにいくけど、一緒に来るか?」

と、近所の結構お高いスーパーに誘って来た時。

あんまりにも驚いて、見つからないように、じわーっと目に
溢れてくる涙をぬぐったことを覚えている。

この世界でたった一人、ただ一人にしか隙を見せない貴重な三毛猫。

その「一人」に自分が選ばれた理由がわからない。

オスの三毛猫のような男だ、こんな人、誰だって欲しいに決まっている。
『それ』がどれくらい奇跡的なのか、わからないほど人間はバカではない。

何万分の一の確率で、ほんの一秒だけ、人類の前に現れる三毛猫。

……夕飯を食べた後、お腹がこなれるまでまったりするリラックスタイム。

テレビの前の長いソファーに腰かけて、片足をソファーのへりに乗せた
ちょっとだけ行儀の悪い大河に、近づいていいのかまだ迷う。

○○「……お皿洗おうか?」
大河「なんで? テレビ始まるけど」
○○「いや……。大河がそこで見てるなら、そばにいくと邪魔かなって」
大河「はぁ~? 今さら躊躇するような間柄か? 俺ら」
○○「なんか大河って、ベタベタしたこととか好きじゃなさそうっていうか。
  人に甘えたり、イチャイチャしたりしなさそうだし」
大河「んなこと誰に言われたわけ?」
○○「言われてないけど。そうかなって思っただけ」
大河「……空いてますけど? 隣。来たら?」

ちょいちょい、と指先でこちらを呼び寄せる、そのいたずらな仕草。

1つのソファーに2人で座って、洋画を見たりバラエティ見たり。
時には度数の低いお酒を飲んで、ふにゃっとしている横顔を眺める。

大河「あー、酔ったかも」

なんて言って、無防備にぽすっと肩に頭を乗せられると
身体の芯からかーっと熱くなってしまう。

大河「手ぇつないでいい?」

小さな声で呟いて、そっと握られたその手がひんやりしてて、なめらかで苦しい。

これが魔法使いの手なんだって、毎回痛感する。
剣を握っていない、傷のないその手。

自在に雷も、炎も、あらゆる光を操る魔法の手。

大河「今日は……一緒に寝る? まだ寝ない?」

完全に気を許すと、外で話す時よりもぐっとラフな喋り方になるよね。
普通の男の子みたいな、……いつものスカした声をやめるよね。

大河「……コーヒー飲みたいけど、淹れんのめんどいな。
   んー……。後にすっか……。迷うわ」

大河。

大河、他の誰にも見せたくない。

どんな陳腐な、ありがちなシチュだって、やる人がやれば危険すぎるんだよ。
たやすく人生が狂うくらい。むやみに道を踏み外すくらい。

大河「カツ丼食べたい。食べたくない? ないか」

若い男の子みたいなことを、……実際若い男の子なんだけど、
ぽつりとこぼしたりする姿。また1つ、こっちに気を許したね。

……忘れたくないと思う。大河の一挙一動、その息づかいさえ。

夜にベッドインする時だって、たまに目が合うと、にこーって笑ってくるからずるい。

大河「何笑ってんの。集中できなくなるからやめて」

やめ、なさ、い、とリズムをつけて頭をちょいちょい撫でられると
この世の天国にいるみたいだった。

○○(つながっていてももっと欲しくなる。
  今すぐ化け物に変われるのなら)

このまま、誰にも見られていないチャンスにのっとり
大河をまるごと食べてしまいたい。

カマキリみたいに。バリバリと、衝動にまかせて。

そしたらどんな顔するんだろうって思う。
いてぇ、って言うかな。焦るかな、恐怖を感じる?

怯えた顔するなら、ここでだけにして。
どんな最悪の表情も、他の人に見せたくない。こんなにも。

○○(不穏なことを考えてしまうのは……。
  こっちに自信がないからなのかな?)

いわゆる営みってやつを終えて、シンクで水を飲んでいたりすると
フッと大河の姿が見えなくなったりする。

気配を消すのがうまいというか……。
たぶん本気になられたら、音もなく消えてしまうんだろうと思う。

○○「大河ー……?」

寝室、大河の部屋、自分の部屋、と順繰りに戸を開けて
最後にリビングから外に繋がる窓を開く。

○○「ベランダにいたんだ」

都会の夜景の中で、満ち足りた表情で外をながめている。

ラフな格好でサンダルをつっかけて、ベランダの壁にもたれて
ぼーっとしている大河を追いかけ、自分もそのまま外に出た。

○○「寒くない? 夜は冷えるよ」
大河「ちょっと汗かいたからね。風浴びて冷ましてる」
○○「お風呂沸かそうか?」
大河「いいよ。適当にシャワるし、この、さ……。
   なんでもない時間みたいの良くない?」
大河「俺、生きてたんだなーって実感するわ。
   生きてていいんだなって」 
○○「いきなり深そうなこと言うね」
大河「えー、思わん? 一度きりの生を謳歌しちゃうよね~」

事後に少しだけ、ほんの少しだけ湿ってハネている
その後ろ髪を見ているだけで胸が詰まる。

見せないでほしい。他の誰にも、一生金輪際。
そんな風にくつろいで、完璧じゃないところを誰にも。

○○「……元カノともこんなことしたのかなって思うと、
  嫉妬でぐちゃぐちゃになる。そんな自分がいや」
○○「大河の一生の最初が自分じゃなくて、一秒でも他の人と
  それを共有していた事実がいや。そんなの一生消えないじゃん!」

なんで産まれた瞬間に、自分と出会って、死ぬそのラストまで、
自分だけと一緒にいてくれないんだろうって思うだけで気が狂いそうになる。

大河「なんもしてないけどね」
○○「証拠がないでしょ。キスもエッチもしてないなんて。
  最初に聞いた時ないわって思った。ありえないよ」
大河「そうかなー」
○○「大河と付き合っててそんなことありえる? 彼女の特権なのに。
  何もしないで別れるなんてできない! 自分なら!!」

自分だったら我慢できないし、付き合うって決まったその日、
その時に全力ですがりつきたい。掴みかかりたい、譲りたくない。

いつどうなるかわからないんだから。
していい時にしたいと思うのは、ごくごく当然のことだと思うから。

大河「と、言われましても案件だな。してないもんはしてないし。
  事実を捻じ曲げていくのも、逆にどういうつもりだよってならん?」
○○「元カノがいるのがいや」
大河「……そっか。いやか」

困った顔で笑うその表情が、好きで好きで、だからめちゃくちゃしんどくなる。

○○「自分が世界で一番、大河のこと愛してる」

こっちがめちゃくちゃ重たい感じで言うと、

大河「おー……。まじか」

って軽く返してくる。

○○「マジか、じゃない! こっちは真剣に、人生賭けて愛してるんだよ!!」

命だってあげてもいい、なんて。
そんなの、元カノだってそう思ったよね。

わかってしまうから怖くなる。

命を賭けてもいい、なんてレベルじゃない。
大河に命をあげたいと、自然にせっぱつめてくる男だから。

桐嶋大河は、そういう男だから。

○○(でもこんな、余裕ないとこ見せたらフラれるかも。切り捨てられる?)
○○「嫌になった? 醜いヤキモチ焼くから。いらなくなった?
  捨てたくなった? ウザいよね。ごめん……」
大河「こっち見て」

こわごわ顔を上げて、街の明かりに照らされた大河の顔を見た。

どんなに空が暗くっても、少しの光でキラキラ輝く、その輪郭をこの目に焼きつけた。

○○「っ……」
○○(もう見られないかもしれないし)

もし、そうなってもきっと毎日思い出すだろう、って……。
確信させる魅力が大河にはあった。

大河といる一瞬が、大河のいない一生を簡単に超えてくる。
そういう魔力が目の前の男にはそなわっていた。

大河「……焦ることなくない?」
○○「え?」
大河「あと50年……。や、今の平均寿命とか俺は知らんけど。
   5、60年は一緒にいるのにさ。今グズる?」
大河「後で『うわー、あの頃すごい焦ってたわ恥ずかしー』って
   思うかもよ、今夜のこと。もう忘れてーって俺に言うかもね」
○○「…………」
大河「ジジイになったら、や?」
○○「嫌じゃない」
大河「ゆーて俺はイケオジになるよ。お前が隣にいればだけどね。
   いない時は……知らん。ひどいことになるんじゃない?」
大河「つーかその時はもういいかな。もう恋愛とかしないかも。
   むいてなかったんだなって諦めるよ」

それは大河の気持ちであって、フリーになった時、周囲が
放っておいてくれるとは到底思えない。

……肺を潰すように息を吐いて、何度でも言わずにいられない。

○○「世界で一番大河のことを愛してるよ」
大河「…………」
○○「世界で一番大河のことを愛してるよ!」
大河「ちゃんと聞いてるよ。……なぁ、明日ドリアとか作っていい?
   なんかおもたーいソースとチーズを腹に溜めたい」
大河「その後スカーッとする炭酸とか飲みたくない?
   酸っぱいのもいいな。適当に買っておくか」
○○「軽くなれなくてごめん」
大河「重いの嫌いとか言った覚えもないからね」

どこから取り出したんだろう。

もしくは、リビングのテーブルから。
冷蔵庫の扉の裏から持ってきていたらしい一枚のチョコを
大河がこちらに見せてきた。

大河「食べる? さっき、かなりカロリー使っただろ」
○○「……食べる」
大河「ん。じゃ、半分で」

パキ、と板チョコを口で割った大河が、大きな欠片の方を
……銀紙がついた方のチョコをこっちに手渡してくる。

○○「ありがとう……」
大河「○○、勝負しようぜ」
○○「しょ、勝負って何? 唐突」
大河「世界で一番大河のことを愛してる、ってそっちが
   この人生で何回俺に言うか数えててやる。てか、
   そっちもね? カウントしてて。公正に」
大河「そんで、それが万回いったら……なんでも1つ
   好きなものをやるよ」
○○「命でも?」

最初に命を奪う想像をしてしまうのは、そうしてしまえば
つらい想像から抜け切れるとわかっているからだ。

殺してしまえば、誰かに奪われることは永劫ない。

大河「命でも」

物騒なこっちの言葉にも、平然と回答できる大河の知能がわずらわしい。

もっとギョッとしてくれてもいいのに、してくれないのは。
慣れてるからだ。命を求められることに。

それくらい狂おしく、他人から要求されることに。
己の全てを狙われることに。

大河「命でも、元カノの記憶でも、腕でも足でも顔でもさ。
   痛いのはいやだけど、一応これで延暦寺四天王なんで」
大河「一か所だったら耐えられるかな。……どお? すごくない?
   ダンナが四天王って。かっこいいねー。超強い」
大河「目が足りなくなっても、手足が欠けても四天王なら強い。
   お前くらいなら守れるよ」

自分のことを格好いいなんて思っていないのが
丸わかりの口ぶりで大河が笑う。

大河「何年かかるかな」
○○「……世界で一番大河のことを愛してる」
大河「1回目?」
○○「世界で一番大河のことを愛してる」
大河「うんうん、2回目。ぶはっ、途方もねえなあ」
大河「俺もはじめての人生なんでね、試行錯誤していきますわ」
大河「……一緒に行くよな?」

もちろん、当然、永遠に。

……答えようとして、微笑む大河のその目を見つめた。

薄い茶色の瞳。人外ではなく、人間の目。

○○(この気持ちが伝わればいいのにな)

口から発するその言葉より、心でこんなに想っている。
大河。

世界で一番、大河のことを愛している。

愛してるよ、大河。






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