12 自分の実戦デビューっすよ
壁の建築を進めること数日。
ターニャ隊、ソーニャ隊もだいぶ戦い慣れてきたので、ここで満を持して指揮官のベッキーに登場してもらうことにした。
彼女は配下の八名がどんどん実戦経験を積んでいくのを見て、ずっと「ズルいっす、自分も戦いたいっす」って主張してたからね。ずいぶん待たせちゃって申し訳なかったけど。
「さて。ベッキーにはこれから、みんなを指揮して安全に戦えるようになってほしいんだけど」
「あの……指揮だけっすか。できれば自分も戦いたいっすが」
「もちろん戦ってもいいよ。ベッキー、ターニャ隊、ソーニャ隊……この三つの戦力をどう配置して、どんな風に統制を取って戦うか。みんなで意見を出しあって試行錯誤しながら、君たちなりのスタイルを掴んでいってほしいんだ」
僕がそう言うと、ベッキーは不安そうな表情から一転、満面の笑みを浮かべる。
「よし。
そうして、ベッキーたちはあれこれと話しながら周囲の警戒を始めた。そう……彼女たちは戦乙女隊と書いてヴァルキリーズと読むことになったのである。
というのもね、僕がベッキーの配下を「ターニャ隊」「ソーニャ隊」って呼んでいたら、ベッキーがめっちゃ落ち込んじゃったんだよ。どうも
それで、みんなで喧々諤々の議論をした結果、最終的にはベッキーを筆頭にターニャ隊、ソーニャ隊を合わせた計九名の部隊をまとめて「
「さあ、まずは自分の実戦デビューっすよ!」
ベッキーが張り切っていると、ちょうどいいところに
両腕に纏っている魔力には彼女の「減速魔法」が込められており、接触時間に比例して敵の動きが遅くなっていくらしい。といっても、犬鬼くらいだと一撃で始末できるから、効果を実感する暇はないだろうけど。
「うんうん。ベッキーは普通に強いなぁ。戦い方が魔法と上手く噛み合ってる……戦闘が長引くほど有利になっていくっていうのは、いい魔法だよね」
残念ながらベッキーの魔法は合成魔術にすると減速効果が極端に落ちてしまうため、近接戦闘に振り切って鍛えてきたんだとか。いい判断だと思う。特に素早さを武器に戦う魔物なんかにとって、彼女は天敵と言っていいだろうね。
新生
ターニャ隊の方は、草罠のエリサが
ソーニャ隊の方は、ヌゥムが
――さてと、僕は建築の続きをやっていこうか。
この森をぐるりと囲む壁は、東の村落を起点に建築を始め、現在は北の領都ピスカチオ市に到達したところである。ここからさらに西にぐるりと壁を伸ばしていって、女性刑務所の方まで壁を繋げていこうと思う。
もちろん地面は平坦ではないから、掘ったり埋めたりいろいろと手間はかかるけど。ただ、この島で初めて見る魔樹・魔草なんかも色々とあったから、整地をしているだけでも収穫が多かったかな。
時間を忘れ、無心になって作業を進めていく。
現在、亜空間にはたくさんの人が暮らしている。
まずは保護した実験被害者たち。彼ら彼女らは現在小人たちが世話をしてくれているけど、回復にはしばらく時間がかかるだろう。
次に、捕らえた実験関係者。彼らは皆、罪人のように魔力制限の首輪をつけて、独房に入ってもらっている。世話用の
あ、そうそう。女性の特務神官が持っていた神殿の「秘宝」とやらをいくつか押収したから、それについても詳細が解析できたんだよね。
便利そうなのは、真偽の天秤、隠形のペンダント、浄水筒あたりかな。魔道具の構造が洗練されていて、なかなか勉強になったよ。とはいえ、機能の核になっているのはどれも魔宝珠だから、まるきり同じものを量産するのは現状では難しい。僕がみんなの装備品を製作する際には参考にさせてもらおう。
なんてことを考えながら。僕はベッキーたちの戦闘の様子を確認しつつ、長い長い壁をひたすら建築していった。西の女性刑務所に到達するには、もう少し時間がかかりそうだ。
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