福島被災地フィールドワーク合宿に参加して

山本裕子

 

合宿2日目の朝、この日は貸切バスに乗って富岡町、双葉町、南相馬市の原発事故後の現在の様子を見て回る予定だ。ホテルを出発する時のバスの中の放射線量を辻内先生が測ってくださった。0.17マイクロシーベルトであった。9時にホテルを出発し、浜街道を通り、海沿いの富岡漁港が見える場所でいったんバスを下車した。海に着くまでの放射線量は0.14~0.17マイクロシーベルトであった。富岡町の市街では、今もなお0,1マイクロシーベルトを超える放射線量があることが分かった。

 バスを降りると目の前に海が広がっている。富岡漁港の後ろには福島第二原発も見える。東日本大震災の時には、大津波がやってきて、今立っているあたりはすべてが流されてしまったという話を聞いた。富岡川が海に流れ込んでいるあたりも、津波で押し寄せた海水が川を逆流して、橋が壊れてしまうほどだったそうだ。今、目の前に見えている富岡町の自然豊かな光景は、日本の夏休みの原風景のような穏やかな景色だが、これが当たり前ではないのだということを、現場に立って改めて感じた。
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 次に、富岡町にある「リプルンふくしま」という特定廃棄物埋立情報館を見学した。ここは、環境省が汚染土壌の埋立処分の安全性について情報発信することを目的に建設された施設だ。「リプルン」とは、「リプロデュースする」の頭文字「リプ」とおしまいの文字「る」に「ん」をつけて命名されたとのことだった。施設は新しく大変きれいで、展示物もただ見るだけでなく、触れたり、動いたりする工夫がされていて、飽きずに見て回ることが出来る。リプルンのスタッフであるガイドさんに一つ一つ丁寧に説明も聞くことができた。

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リプルンの建物前の放射線量は0.074マイクロシーベルトで、今日測定した中では一番低い値だ。ホテルを出てからここに来るまでの線量はずっと0,1マイクロシーベルトを超えていた。つまり、リプルンの施設周辺は特に丁寧な除染が行われているのだろう。

 施設の敷地内には、実際にモニタリングを体験できるフィールドが用意されていた。情報館の建物の裏手が小高い丘になっていて、線量計を持って自由に散策できるのだ。私たちも線量計をお借りして、モニタリングフィールドを散策した。

モニタリングフィル―ドに入るまでの歩道は、0.1マイクロシーベルトを超えることはなかったが、一歩、草むらや木々の間に入ると線量はすぐに高くなる。除染されているところだけが線量が低いのであって、そうでないところはまだたくさん残っている。少し手を伸ばすだけで、安全とは言えない場所に手が届いてしまう状況だということが分かった。

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その次に原子力災害伝承館の見学へ向かった。途中、夜ノ森公園、旧富岡二中前のバス停と、高津戸・清水前太陽光発電所のソーラーパネル前で下車し散策した。放射線量は、夜ノ森では0.18~0.20マイクロシーベルト、富岡二中前のバス停では0.22マイクロシーベルト、バス停そばの街路樹とその根元の土の中では0.28マイクロシーベルトまで上がった。除染されていない場所は、どこにでもあるのだと分かる。

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 原子力災害伝承館は、昨年のゼミ合宿で初めて見学し、今年の春にも訪れ、今回で3回目の見学であった。これまでなかなか見ることのできなかった、映像展示を中心に見学することができた。伝承することの大切さについて考えるきっかけともなった。

 その後、「俺たちの伝承館・もやい展」へと向かった。俺たちの伝承館は1年前に開館したばかりの新しい施設である。先ほどの原子力災害伝承館と同じ「伝承館」という名前が付く施設だが、俺たちの伝承館は、アーティストや被災された方々の思いが込められた場所であることが感じられた。展示の見学のほかに、館長さん、語り部さんのお話を伺って、被災された方々の思いを現地で直接聞かせていただく機会となった。改めて伝承すること、語ること、聴くことの重要性に気付くことができた。

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 本日のフィールドのワークの最後は、双葉屋旅館にて、イスラエルの高校生たちとの交流イベントに参加した。イスラエルは、現在もパレスチナ問題でガザ地区と争っている。今回交流した高校生たちの学校も被害を受けて、安心して暮らすことができない状況にあるという。福島の原発災害の被災者とは、当たり前だった毎日の生活を突然奪われた点が共通している。イスラエルの高校生たちは、今、自分たちが置かれている状況について、これまでの生活について、これからの希望など、素直な自分の気持ちを語ってくれた。戦争が終わって元の生活に戻りたい、という思いは十分に伝わってきた。その思いは、福島原発の被災者の方々が、元の生活に戻りたいと思うのと似た気持ちなのだろうと想像した。

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