逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第33章 目覚めた虎、未来戦艦武蔵の咆哮

「あれが、白色彗星帝国の切り札か、なんという巨大さだ……」
 崩壊する要塞都市の火炎の中から、炎の中から転生する不死鳥のように、その常識を超越した巨体を浮かべてくる超巨大戦艦の圧倒的な威容は、眼前で見守る地球防衛艦隊の将兵をはじめ、あまねく地球人類の脳裏に本能的な恐怖感を植えつけた。全長一二キロメートルを超える、あのような巨大宇宙船の建造など、地球人類はおろかガミラスでも絶対に不可能であろう。
 つくづく、地球人類が宇宙全体のレベルでいえば後進的であることを思い知らされる光景に、『アンドロメダ』に座上する地球艦隊司令は暗然たる思いを抱いた。もし、二年前にイスカンダルからの技術提供がなければ、地球人がこの規模の艦隊を自力で建造できるようになるのに、あと何百年必要であったことか、今でこそ太陽系内という地球防衛艦隊にとってホームグラウンドともいうべき場所で、甚大な被害を受けながらもどうにか戦えているが、将来太陽系の外で未知の星間国家と戦わねばならなくなったとき、地球に未来はあるのだろうか。
 けれども、だからといってここでひざを屈するわけにはいかないし、将来の心配などは未来に続く現在を生き抜いてからである。
「敵巨大戦艦、エネルギー反応増大中!」
「要塞の崩壊の中でも無傷か、図体だけではなさそうだな。それに、あの強武装」
 オペレーターの慌てた声に、艦隊司令は憮然とつぶやいた。こちらに残存する戦力は、戦艦二〇隻、巡洋艦三八隻、駆逐艦五一隻と、数だけはまだなんとか揃っているが、大なり小なり損傷を受けていない艦は皆無といってよく、実質的な戦闘力は数の半分くらいと見積もるべきだろう。この弱りきった戦力で、あの怪物とどう渡り合うべきか。
「司令、拡散波動砲の第二射攻撃を!」
 そう叫ぶ副官の進言を、司令は首を横に振って拒絶した。
「無駄だ、エネルギーチャージのために動きを止めれば、あのハリネズミのような砲塔群のいい的だ。一発でも食らえば、即座に戦闘不能に陥ってしまうだろう。とてもチャージしている余裕はない」
「ですが、通常砲撃であの巨大戦艦にダメージを与えられるでしょうか?」
 その疑問ももっともであった。蜂の一刺しという言葉はあるが、こうも規模が違うと蚊の一刺しに感じてしまう。それでも、異星人とはいえ人間の作ったものである以上、壊れないはずはなく、なにか気づいていないところに勝機があるはずだった。
「あの規模では、たとえ『アンドロメダ』で体当たりをしても破れまい。ならば、やはり波動砲しかないのか」
 地球防衛艦隊のほとんどの戦力が、蟷螂の斧に成り下がってしまったことには腹立たしいが、彼はそれでもなお、なにかしらのアクションを要求される立場にあった。
「現在の艦隊の中で、もっとも損傷の少ない戦艦を四隻ピックアップせよ。『アンドロメダ』級の三隻は除外していい」
 ここで司令は非情な命令を下す決断をした。オペレーターが命令の意味がわからないままで、戦艦『土佐』、『ティルピッツ』、『ノースカロライナ』、『リヴァダヴィア』が、もっとも被害が少なく、全力発揮が可能であることを確認すると、彼は指揮下の全艦に通達した。
「全艦に告ぐ、『土佐』、『ティルピッツ』、『ノースカロライナ』、『リヴァダヴィア』は、拡散波動砲を敵巨大戦艦に向けて発射用意、他の全艦は前面に立ちふさがって、敵の攻撃から四隻を死守する。四隻は拡散波動砲のチャージが完了しだい、命令を待たずに発射せよ。前衛艦隊を巻き込んでもかまわん!」
 味方の犠牲をいとわない、その壮絶な作戦に全艦の乗組員たちは絶句したが、同時にそれしか勝機がないことも理解した。そうなると、地球艦隊のクルーたちも皆、宇宙の海の男(やや女性も含むが)である。『アンドロメダ』が自ら先頭に立って盾の役を果たそうとしているのに、地球の人々のためなら命はいらぬと、次々に四隻の前に壁となっていった。
 けれども、当然ながらズォーダーがやすやすそんなことをさせてくれるわけはなく、超巨大戦艦は一基がそれだけでピラミッドのように怪物じみて見える巨大な三連装砲塔をいっせいに旋回させると、まるで英雄ヘラクレスに襲い掛かる百の首を持つ大蛇・ヒドラのように数え切れないほどの弾丸を吐き出したのだ!
「敵巨大戦艦、発砲!」
「応急修理準備、急げ!」
 たちまち降り注いできた巨大戦艦の砲撃が、『アンドロメダ』を揺さぶり、主力戦艦の装甲をもぎとり、駆逐艦を粉砕する。それでも、起死回生の可能性を託された四隻の戦艦は、涙を呑んで拡散波動砲の準備を整えていく。
 しかし、超巨大戦艦の火力はあまりにも強く、このままでは彼らの命をかけた壁も、エネルギーチャージまで持ちこたえられそうもなかった。
「くそっ、やはり火力が違いすぎるのか……」
 だが、そこでまたもやフェアプレイなどどこの世界の話だという反則王がしゃしゃり出て、この時代の反則王にイエローカードを突きつけた。
「司令、遠距離コスモレーダーがホワイトアウト、強力な妨害エネルギーです」
「なにっ、敵の攻撃か?」
 司令は最初そう思ったが、遠距離から好き放題に大口径砲を撃ちまくってきた巨大戦艦の砲火がやんでいることから、これが別の理由にあることを知った。しかし、原因調査を命じはしたが、とにかく近距離用レーダー以外はすべて使い物にならないというだけで、それ以上はわからなかった。
「いったい、どういうことだ。太陽黒点の変化でもあるまいに」
「ですが司令、これは好機では? 敵巨大戦艦もレーダーが使えなくては、こちらを狙えません。逆にこちらは手動照準でも、敵があの大きさですし、拡散波動砲ならば多少の照準のズレなどは問題になりません」
「うむ、こうなれば天の助けと思うことにしよう」
 もちろん彼らは、それが惨状を見かねた『武蔵』が、いつのまにか得意になってしまった電波妨害を仕掛けてきたことに気づけるはずもなかったが、たとえ遠距離砲撃ができなくなっても、超巨大戦艦が沈黙したわけではなかったのである。
 ズォーダー大帝は超巨大戦艦のコンサートホールほどもある大艦橋で、突然レーダーが使い物にならなくなって焦る管制員を一喝すると、慌てた様子など微塵も見せずに悠然と広大な大艦橋の全体に響き渡る声で命令を下した。
「船体各部の、一番から五〇番までの砲塔を切り離せ。遠距離攻撃がだめならば、艦隊戦で奴らに己の無力さを思い知らせてやるのだ!」
 傲慢なまでの自信に溢れた命令は、浮き足立ちかけていた管制員たちの感情を静める効果を存分に発揮した。司令官は、常に慌てず騒がず、部下が安心してポテンシャルを一〇〇パーセント発揮できるように勤めなければならないという義務からすれば、ズォーダーもまた一級の戦闘指揮官であった。
 落ち着きを取り戻した管制員たちによって、命令はただちに伝えられて、超巨大戦艦の船体の各部に配置された、近距離用の小型砲塔、それでも普通の戦艦以上の大きさを誇るそれがターレットごと船体から切り離されて、形態を変化させて異形の戦艦となっていく。これこそ、以前デスラーに援軍として送られた『アスタロス』と『ケール』と同型の殲滅戦艦であった。超巨大戦艦ガトランティスは、ただでかいだけの戦艦ではなく、こうして様々な戦況に対応できるだけの汎用性の高い装備もかねそろえているのだ。
 地球艦隊は、その総勢五〇隻の大型戦艦による大艦隊が接近中ということは、レーダーに頼らなくても望遠鏡を使った監視だけで即座に知ったが、先の攻撃で失われた艦も多く、地球艦隊の残りは拡散波動砲の準備中の四隻を除けば、戦艦八、巡洋艦二〇、駆逐艦二五隻にまで減少している。これで、あの悪魔のような艦隊を迎え撃たねばならないのか、しかし、退路はすでにない。
「全砲門砲撃用意、エネルギーが尽きるまで、怒りを込めて撃ちつくせ!」
 その瞬間、地球艦隊のショックカノンと殲滅戦艦軍のビーム砲が交差し、双方に命中と炸裂の炎があがった。
 しかし、無傷の殲滅戦艦軍はともかく、疲労困憊した地球艦隊では耐久力に最初から差があった。
「司令、艦隊の半数が撃沈破されました! 本艦も二番砲塔大破、機関出力も低下しています」
「おのれっ! たった一斉射でこれか」
 質と量ともに、敵のほうが圧倒的だった。対して敵には十隻程度に軽い損傷を与えられただけ、いかな『アンドロメダ』とはいえ、無敵でもなければ不死身でもない、このままでは次の斉射で全滅してしまうだろう。地球で見守る連邦市民たちも、思わず目を覆いかけたとき、突然敵の隊列がわずかに崩れた。
「『ヤマト』です。『ヤマト』が敵艦隊の背後から攻撃しています」
 そう、別行動をとっていた『ヤマト』が、転進して殲滅戦艦軍の背後から攻撃を仕掛けたのだ。もちろん、たった三隻での威力などはたかが知れていたが、先の攻撃とは違って全速で肉薄をかけながら攻撃してきたので、さしもの殲滅戦艦に乗る兵といえども背中に貼りつかれる焦りから一瞬の隙が生まれてしまったのだ。
「土方提督か、肉を切らせて骨を絶ちにいくのはさすが『ヤマト』といったところか。よし、敵の隊列が乱れたところに砲火を集中しろ」
 逆襲に転じた地球艦隊は、残りの火力を振り絞ってありったけの攻撃を隊列の乱れた一角に叩き込んだ。その射線上にいたのはたった三隻ではあったが、いかな殲滅戦艦といえども三十隻の集中砲火を浴びてはひとたまりもなく、エネルギー炉や弾薬庫を撃ちぬかれて爆発四散した。
「やった!」
 轟沈する異形の戦艦を見て地球艦隊のクルーたちから歓声が上がったが、それは所詮五〇隻の中の三隻であり、戦力としてはほとんど減少してはおらずに、むしろ怒りを買ってしまう結果となり、包囲されての集中砲火を受けることになってしまった。
「第三砲塔被弾! 右舷ミサイル発射管室応答なし、コンピュータールームに火災発生、司令、敵は我々の退路を絶つつもりのようです」
「くそっ、やはり戦力が足りないのか!」
 残念だが、これまでの戦いで威容を誇っていた地球防衛艦隊も消耗しきってしまっていた。万全の状態であれば、たとえ相手が未知の巨大艦でも渡り合うだけの自信はあったが、いかなヘヴィ級チャンピオンといえども、タッチで次々と元気な敵に出てこられたのでは必ずやられてしまう。
「戦艦『ネメシス』『カシオペア』、機関損傷、戦闘不能!」
「くそっ……」
 とうとう戦力の要であるアンドロメダ級の二隻までもがやられてしまった。この『アンドロメダ』自身ももう火砲の半分がやられてしまい、残存艦隊も残るは時間の問題となっている。
「波動砲準備中の四隻は、どうだ?」
「……」
 無言で首を振った副官の答えに、艦隊司令はあまりの力の差に愕然となって肩を落とした。
「地球防衛艦隊の奮闘も、ここまでか」
 刀折れ矢付きながらも我ながらよく戦ったが、もはや進むも引くもかなわない。『ヤマト』がまだ敵艦隊の後方から援護射撃を送ってくれているが、焼け石に水でしかなかった。
 だがそれでも、地球艦隊に残った最後のやるべきことを生かすために、艦隊司令は死を覚悟した。
「『ヤマト』へ連絡、敵艦隊は防衛艦隊が可能な限り食い止めておく、巨大戦艦への攻撃はまかせた、後は頼むと!」
 それは、防衛艦隊を捨て駒にして地球の未来を『ヤマト』にたくそうという、かつてイスカンダルへと見送ったときのような悲壮な決意であった。
「地球防衛艦隊の諸君、これまでよく戦ってくれた。残念ながら我らは力及ばなかったが、我らの意思は『ヤマト』が継いでくれるだろう。至らぬ指揮官であったが、せめて私もともに地球の未来のためにここで捨て石となろう、諸君、絶対に敵艦隊を『ヤマト』に向かわせるな!」
 司令の激が飛び、生き残った地球艦隊の乗組員たちはいっせいに歓声をあげて、疲れきった体から最後の力を搾り出した。もとより地球を守るために志願して地球防衛軍に入った彼らは、その最後に最高の目標を得れたと喜んだ。
 『ヤマト』は、最後の通信を送ってきてから一切の通信を拒否する『アンドロメダ』に、死に急ぐなと叫んでいたが、その言葉はもとより彼らを死地から救い出す術を持ってもいなかった。死力を尽くしたにもかかわらずに、史実同様全滅に瀕した地球艦隊、けれどそれをよしとしないものは、もはや電波妨害で変えられる戦況、彼らの力だけで挽回できる戦況ではなくなったと、あえて彼らの覚悟を無駄にするべく、待ちに待ったその強大な力をついに解放することを決意した。

「全兵装封印解除、全砲門及びミサイル発射用意、目標敵艦隊」
「了解、全兵装にエネルギー充填、砲撃用意」
 藤堂艦長の命令を荒島中尉が復唱して、戦艦『武蔵』は長い間その身を隠していた隠れ蓑を震わせながら、抑える必要のなくなった破壊力を存分に発揮するために虚空にその巨影を進ませ、この時代では宇宙最強の凶器としての本分を取り戻していく。
「取り舵一〇度、ようそろ」
「一番から四番主砲、右舷へ旋回、各砲自動照準、追尾誤差修正完了」
 左旋回し、すべての主砲を地球艦隊を取り囲む殲滅戦艦軍へと向けた『武蔵』は、最後の最後まで姿を見せない陰軍の位置から動く気はないとはいえ、ようやくめぐってきた全力発揮の機会に一部の暴れん坊を歓喜させ、その他ほとんどの常識人たちに快い緊張を与えて、かつてのボラー艦隊戦以来抑え続けて耐えに耐えていた本当の力を再び蘇らせて、獲物をめがけて主砲とミサイルの照準を合わせる。
「荒島、とうとうこの時が来たな。外したら笑ってやるから無様な砲撃をするなよ」
 おこぼれに預かるかのように地球艦隊を攻撃している生き残りのデスバテーターに、絶対に逃れられない対空砲火の網をかぶせる準備をしながら茶化してくる葉月中尉の軽口に、荒島中尉は悪魔のように口元をゆがめて笑った。
「まかせとけ、一隻や二隻なんてケチなことは言わずに、まとめて粉々にぶっ飛ばしてやるぜ!!」
 彼には地球を救うというよりも、今は好き放題に暴れられるという快感のほうが大きかったが、それが結果的に地球の平和につながるならそれもよかった。下町のチンピラのように好戦的な気配を漂わせながらも、彼は『武蔵』の凶暴さを最大限に引き出すために、持ちえる全ての技量をコンソールと自らの部下に叩きつけていく。
「そうだ艦長、この際”アレ”を使いませんか?」
 ただし、人生で一番楽しそうにしている荒島中尉が暴走しすぎないように、周りの常識人がストッパーになる必要はあった。荒島中尉は調子に乗って、まだ一度も撃ったことのないこの『武蔵』最強の兵器の使用を持ちかけたが、それはさすがに藤堂艦長も却下した。
「だめだ、あれを使うには『ヤマト』も地球艦隊も近すぎる。当然波動砲も無限β砲もだめだ。贅沢を言っていないで、さっさと主砲を撃て!」
「り、了解! 全砲門……発射ぁ!!」
 その瞬間、『武蔵』の計一二門の五一センチ三連装衝撃波砲が同時に青白い光を吐き出した!
 虚空を切り裂き、超エネルギーの破壊光線が地球艦隊をなぶり殺しにしようとしていた殲滅戦艦群へと突き進み、その全てが貫通した。
「撃沈、六隻です!」
 本気で放たれた『武蔵』の攻撃は、この時代では強固なはずの殲滅戦艦の装甲をものともせずに、まるで『ヤマト』が復活して初めて沈めたガミラス高速空母のように反対側へと貫通したのち爆砕させ、さらにその先にいた別の殲滅戦艦をも同じ目に合わせて、それでもなお勢いを衰えさせずに、流星のように飛び去っていったのだ。
 これで、平常心を保ちえた人間は敵味方ともに存在しえなくなった。両陣営とも、金属と非金属と、有機物だったものに分解させられて燃え尽きようとしている六隻の殲滅戦艦に視線を奪われて、いったいなにが起こったんだと、部下と己の感覚に問いかけたが、当然ながらその答えが出るはずはなかった。だがそれも、さらに飛んできた光束によって、さらに五隻が同等の目にあうと、それが非現実的ながらも現実であることを認識させられた。
「何者だ、地球軍の新手か?」
「どこの味方だ?」
 双方で一八〇度違う叫び声が上がり、レーダー手たちは砲撃が来た方向に全神経を集中させて索敵したが、その方向には当然ながら何もなく上官をいらだたせたが、それで攻撃が終わりではなかった。
「全発射管、撃ーっ!」
 姿を隠したままの『武蔵』から、今度は側面六門だけではなく、これまで使わなかった後部舷側の四〇門のミサイルVLS発射管から、対空用ミサイルが零式空間魚雷のステルス保護されたケースに包まれて放たれ、デスバテーター編隊の直前でケースがはじけるとともに、数百の小型ミサイルとなって襲い掛かった。
「全機撃墜! 葉月、お前も派手にやるな」
「ふっ、お前にばかりおいしいところをやるか」
 不良コンビが余裕の声をあげている中で、デスバテーターは残らず炎の塵となって消え去り、残ったわずかなイーターⅡは護衛対象を失ってむなしく宙をさまよった。
わずかに三回の攻撃で、地球艦隊を追い詰めていた彗星帝国の部隊は半壊に近い損害を受けてふらついたが、『武蔵』はなおも手を緩めない。
「主砲、第三斉射用意。これで、敵の指揮系統を完全に破壊する」
 『武蔵』の四基の主砲塔がさらにターレットを電磁回転させて、砲身を残余の殲滅戦艦に向けていく。
「撃て!」
 光芒の第三攻撃の前に、殲滅戦艦軍はさらに七隻を撃沈されて、まだ二十八隻が残っているものの、訳もわからないまま次々に沈められていく味方を見た彗星帝国軍の将兵たちはパニックを起こして、目の前の地球艦隊を攻撃することを忘れてしまった。こうなるといくら強力な兵器でも、その威力を発揮することはできない。目に見えて敵の砲撃の密度が薄くなっていき、死に体だった地球艦隊はぎりぎりのところで出血死を免れた。
「地球艦隊、隊列を整えています。どうやら突撃態勢に移行しているもようです」
「まだ戦うつもりか……」
 見上げた闘志だと、藤堂艦長はこのまま殲滅戦艦軍を『武蔵』単独で撃滅しようとしていたのを思い直して、椅子の肘掛を指で二、三回叩くと命令を変更した。
「荒島、次の砲撃で敵艦隊の中央に穴を開けろ」
「了解」
 荒島中尉が第四斉射に向かうと、次に藤堂艦長はシューティングスター隊が待機状態なのを確認すると、全員を歓喜させる命令を下した。
「シューティングスター隊へ伝達、電波、光学妨害を局地的にのみおこなうぞ。『武蔵』の姿を、地球のテレビ中継から隠せ。玉将へ続く道を地球艦隊に作る!」
「艦長、それはつまり!」
「そうだ、雑魚はまとめてこの船に引き付けるぞ! ステルス解除、姿を現せ!」
「了解!」
 その瞬間、長い間闇に隠れ続けていた戦艦『武蔵』は、その雄姿を現した。

 全長三二五メートル、全幅六〇メートル
 五一センチ三連装衝撃波砲四基一二門

 この時代でもそう巨大とはいえない平均的な姿ながら、二百年のあいだに育まれたテクノロジーを秘めた巨影が現れるやいなや、その砲撃によってさらに四隻の殲滅戦艦を吹き飛ばしたとき、彼らは初めて姿なき加害者の姿を確認し、殲滅戦艦軍の艦長たちは行き場なく溜め込んできた殺意をそれに向かって解放した。
「あの艦を殺れ!」
 満場一致の命令が飛び、殲滅戦艦軍の残余は『武蔵』へとターゲットを変えた。が、そのために方向転換をおこなった結果、地球艦隊がノーマークとなり後ろをすり抜けられる結果となって、さらに飛んできた砲撃が四隻を粉砕したものの、どうせ瀕死の少数艦隊になにができるものと無視して、一気に全砲門とミサイルを放った。
 その光景は壮絶としか言いようがないものであった。半減したとはいえまだ二〇隻を誇る大型戦艦の一斉砲撃である、いくら相手が恐るべき大火力を誇る艦であろうと粉々に粉砕されて原型もとどめないであろうと、復讐心を猛らせて殲滅戦艦のクルーたちは思った。
 だが、放たれたレーザーがすべてはじき返され、ついで命中したミサイルの爆炎の中から何事もなかったかのように無傷の姿を『武蔵』が現すと、怒りは恐怖へ、恐怖は恐慌へと変わった。
「化け物だ!」
 もっとも、この程度のことは『武蔵』からすれば当たり前のことで、二百年にも及ぶボラー連邦との戦争で鍛え上げられた軍事技術は伊達ではなく、単純な装甲一つに及んでも金属原子の配列一つに及ぶまで精密機械のように組み上げられており、基礎構造こそこの時代のスペースチタニウム合金と同じだが、この時代でいえば小口径の波動砲並みの威力を持つ二五世紀レベルの艦砲を食い止められるのだ。すなわち、この時代の通常砲撃などは火縄銃でティーゲルを撃つようなもので、最初から効くはずがない。
「撃て、撃つんだ!!」
 恐怖に我を失った彗星帝国の兵士たちは、それ以外の思考をダストシュートに放り込んでしまったようにひたすらに攻撃を繰り返し、そのことごとくがはじき返されると恐慌はやがて絶望へと変わっていき、そして『武蔵』の砲撃の餌食となっていった。
 また一隻、胴体を撃ち抜かれた殲滅戦艦が業火となって燃え尽きていく。彼らも、船乗りや軍人としての能力でいえば『武蔵』の荒島たちに劣らず、むしろ勝っているといえる実力を持っていたが、あまりにも船の性能が違いすぎた。
 また、地球艦隊でも『武蔵』の存在は捉えてはいたものの、ビデオパネルに投影しようとするとなぜか画像が乱れてしまい、まるでゴーストのようなそれの正体を掴めずにいた。これは『武蔵』の四方に配置したシューティングスターが特殊な光粒子をばら撒いて、地球艦隊の映像処理機械では捉えられない様にしたのである。これは当初から地球側陣営に姿を見られたくない藤堂艦長が、都合よく彼らにだけ姿を隠す方法はないものかと黒田大尉に相談して、シューティングスターの四機連携での光学妨害スクリーンをこの戦いに間に合わせていたのだ。ただ、シューティングスターが四機揃わねば使えなく、その間には当然シューティングスターを使えないためにこれまで温存してきたが、やっとそれを解禁したのだ。
が、その反面で『武蔵』の姿を直視できる彗星帝国殲滅戦艦軍の者たちには、その姿はまさに悪鬼となって映った。
「化け物め」
 憎憎しげに吐き捨てた兵士の乗る殲滅戦艦が、一瞬で粉砕されて消えていく。アンドロメダ星雲をはじめとして数え切れないほどの彗星帝国に蹂躙されて滅亡していった星星の人間たちの味わってきた絶望を、めぐりめぐって今度は彼ら自身が味わわされていたのは、残酷だが皮肉としかいいようがない。まるで牧場に侵入した狼のように、『武蔵』によって殲滅戦艦軍が文字通り殲滅されたのは、それから二分後のことであった。
「さてと、これだけ暴れれば超巨大戦艦の注意もこっちに向くな、もう一仕事いくぞ」
 昼食をとったらまた営業に行こうと言うサラリーマンくらいに気楽な雰囲気を漂わせながら、藤堂艦長は山城中尉に『武蔵』の進路を超巨大戦艦に向けさせた。
 この殲滅戦艦軍の一方的な敗北は、当然ながらズォーダー大帝の知るところとなり、彼は『武蔵』を地球軍の秘密兵器かと警戒する一方で、接近しつつある『ヤマト』と地球艦隊の残存部隊にはさらなる殲滅戦艦で攻撃させ、自らの超巨大戦艦には主砲の発射準備を命じた。
「この『ガトランティス』が誇る主砲を受けて、宇宙の塵となるがよい」
 超巨大戦艦の艦底部に収納されていた超巨大な大砲がシールドを外されて、『ヤマト』がすっぽり入りそうな砲口が、その照準を『武蔵』に合わせた。この兵器は文字通りガトランティスの主砲で、その全長だけでも七、八キロメートルはあるすさまじいものだが、破壊力も史実では一発で月の形が変わるほどの威力を発揮し、宇宙空間にまでその破片を巻き上げたほどの常軌を逸した破滅的なものを持っている。確かに、これが命中したらいかな強固な艦でも一撃で消し飛んでしまうと思われた。
 なのだが、向けられたほうの『武蔵』では大した圧力を受けてはいなかった。
「でかい砲だな。暗黒星団のマキラ型浮遊要塞の甲イプシロン砲並みの口径があるな」
 黒田大尉は、若い頃に暗黒星団に留学したときに見た、かつてのゴルバ型浮遊要塞の後継として暗黒銀河の深部に配置されている巨大要塞の主砲を思い出してしみじみと懐かしそうにつぶやいた。もっとも、マキラ型浮遊要塞は暗黒銀河に充満する暗黒物質を伝導体として宇宙空間から無限にエネルギーを吸収し、敵が近づいてきたら射程一〇〇天文単位(ほぼ太陽系の直径に相当)にも及ぶ甲イプシロン砲ですべてを破壊する地獄の門番なので、まともに戦えばこの『武蔵』など勝負にもならない。というか暗黒物質のない暗黒銀河の外ではエネルギーを得ることができないので、実戦に使われたことは一度もない置物でもあるのだが、あれと比べれば当然はるかに劣るとはいえ、いくら『武蔵』の防御力であろうとさすがに耐えられない巨大砲を目の前にして、『武蔵』の誰もが落ち着いていた。
「艦長、避けますか? それとも相殺しますか?」
 実際、どちらもこの『武蔵』ならば簡単にできるのだ。二百年の間に蓄積された軍事テクノロジーは新兵器だけでなく、単純な兵器の性能、戦艦ならば主砲の火力や機動力も大幅な進歩をとげていて、三百年前に槍と弓矢を中心にした中世的な軍隊が銃と大砲の前に消滅を余儀なくされたように、以前のボラーの巡洋艦や駆逐艦のような、同世代の相手でもなければやられる心配などはかけらもしていなかった。
「地球艦隊が狙われるとやっかいだ。砲撃して破壊せよ」
「了解、第一、第二主砲発射!」
 光子の塵を振りまきながら『武蔵』の射線が超巨大戦艦の巨大砲の付け根に直撃して、これを根元から丸ごともぎ取っていった様には、間接的にそれを見ることになった『ヤマト』や地球艦隊のクルーたちは背筋が凍りつくような思いを味わった。
「モ、モンスター……」
 アメリカ戦艦『サウスダコタ』の艦長は、姿を見せずに破壊を振りまく未確認艦をゴーストからモンスターへと拡大させたが、それすら過小評価であったといわざるを得ない。
 しかし、最大の衝撃を受けたのは彗星帝国大帝ズォーダーだったのは言うまでも無い。彼は未確認の地球艦が発砲したのは見ていたが、所詮遠距離からのめくら撃ちと歯牙にもかけていなかった。これは、地球の同規模の艦、『ヤマト』や『アンドロメダ』を基準にすれば当然の判断ではあったのだが、彼の玉座のような司令席に突如として激震と、続いて非常警報が鳴り響いたときには、何が起こったのだと怒鳴らずにはいられなかった。
「しゅ、主砲大破! 砲基部に敵弾が命中して貫通、修復不能です」
「なんだと!? 馬鹿な、たかが戦艦一隻の砲撃など、当たったところで何ほどのことがあるというのだ!」
 彼は激昂したが、メインモニターに跡形も無くもぎ取られた主砲を見るに当たって、それが現実であることを知り、同時にあの艦こそが地球側が温存してきた真の切り札であり、想像を絶した秘密兵器であると考えて、射角をとることのできるすべての砲塔に集中砲撃をおこなうように命じた。
「あの艦、あれを沈めるのだ。このガトランティスの全火力を持って宇宙の塵にしてしまえ!」
 たちまち、超巨大戦艦に文字通り山積みにされた砲塔群が一斉に『武蔵』を指向し、発砲してきた光景にはさしもの『武蔵』の藤堂艦長も反射的に「回避!」を命令し、急加速で射軸を逃れた『武蔵』のいた場所に悪意でできた天の川が現出すると、思わずほっと息をついた。
「いかんいかん、つい乗せられてしまった」
 さすがにあれには少しびびってしまって、藤堂艦長は頭を掻いたが、主砲を壊したとはいえ、もしこれだけの砲が『ヤマト』や地球艦隊に向くとと思うと、次の瞬間には攻撃の強化を命じていた。
「荒島、砲撃を続行。超巨大戦艦の砲塔群を全滅させろ」
「了解!」
「艦長、超巨大戦艦より小型の反応がさらに展開、先の砲台戦艦と同じと思われますが、地球艦隊のほうへと向かっています。こちらはいかがいたしましょう?」
「まだいたのか……数は二十隻か、かまわんこのまま攻撃を続ける。地球艦隊と『ヤマト』の底力を見せてもらおうではないか」
 さすがに分身の術までは使えないので、『武蔵』は二方向の敵に対して主砲を撃ち分けることができずに、超巨大戦艦への攻撃のみを命じたが藤堂艦長はここでこそ『ヤマト』の真価が発揮されるのではと、期待すら覚えていた。
「こちらはこちらの仕事を完遂せねばな、撃て!」
 いくら『武蔵』が強力だとはいえ、敵を殲滅すればそれで勝ちというほど簡単なわけではない。『武蔵』の主砲射撃が超巨大戦艦の主砲一基を吹き飛ばす。それは、豆粒ほどに見える小さな艦が、一方的に像を攻め立てているといった信じがたい光景で、さっきの一撃がまぐれでもなんでもないことを思い知らされて、彗星帝国の兵士たちは「怪物だ」「化け物だ」「撃て、撃て!」と『ヤマト』などは無視して、恐怖を振り切るように砲撃を集中したが、そのすべてが跳ね返された。
「地球人に、あんな艦を作るテクノロジーがあったのか!?」
 決して表面には見せないものの、ズォーダー大帝はまだ地球を侮っていたかと舌打ちした。考えてみれば、自分たちもガミラスの技術を得て、画期的な新兵器である火炎直撃砲を短時間で開発している。ならばなにかのきっかけで、地球側に予想だにしない超兵器が出現しても不思議ではない。さらに、一隻しかいないのもメダルーサと同じくそれしか間に合わなかったと考えれば納得がいく。
「うろたえるな、砲の一つや二つを失った程度でこのガトランティスはびくともせん! サイドバーニアを噴射して、あの小うるさいハエを吹き飛ばせ!」
 ズォーダーの一喝で兵士たちは、不滅の帝国の宇宙の支配者たる大帝が自分たちにはついていることに落ち着きを取り戻して、側面に回り込もうとしているこしゃくな敵艦を振り払うために、猛烈な衝撃波を発生させて攻撃を仕掛けた。
「衝撃波来ます」
「ちっ! 取り舵いっぱい、重力アンカー起動」
 『武蔵』はふんばって高圧に耐える。機関出力もこの時代のものより格段に上回るのでその気になればこんなものはなんでもないし、シューティングスターも軽く受け流したが、彼らの見ている前で、巨体の反面意外にも身軽な超巨大戦艦は船体各部のエンジンを全開にして、荒島たちが唖然としている前を通り過ぎていって、その衝撃波の余波が地球艦隊や『ヤマト』が巻き込みかけて、何隻かが衝突しそうになったのでぞっとした。
「『ヤマト』は!?」
「無事です。地球艦隊も隊列を再編中」
「これは、どうも超巨大戦艦をなめすぎていたな。二百年前のものだと、我々も自分のテクノロジーに溺れていたか」
 つい忘れそうになるが、『武蔵』にとって地球艦隊や『ヤマト』がやられればそれで負けも同然であるから神経質にもなる。楽勝ムードが漂いかけていた『武蔵』の艦橋に、自分たちの勝利は薄氷の先にあるのだという意識があらためて芽生えた。
「荒島、先に動力部を破壊して敵の行動力を封じる。敵の左翼に砲撃を集中しろ」
「了解、全砲塔に告ぐ、砲撃目標指定変更」
 超巨大戦艦は、そのあまりの巨体ゆえに通常の戦艦のように艦尾にロケット式に装備されたエンジンだけでは間に合わず、両舷にジェット機のように突き出た翼に片翼四基の補助ブースターが装備されているのだ。ゆえに、それを破壊してしまえば超巨大戦艦はまともに身動きがとれなくなるはずなのだ。
「照準、よし」
「ようし、撃て!」
 もう一度『武蔵』の主砲が吼えて、超巨大戦艦の左翼を破壊する。これで超巨大戦艦は右に旋回するしかできなくなるはずだ。
 だが、動けないながらも猛射をかけてくる超巨大戦艦はなおも弱ったきざしを見せずに砲撃をかけてきて、巨体が伊達ではなく、そのタフさ加減には荒島や葉月を呆れさせた。
「なんてしぶとい奴だ!」
 この『武蔵』の攻撃をこれだけ受けてもなお反撃してくるとは、超巨大戦艦の強靭さもともかくだが、まったく攻撃を衰えさせる気配の無い敵の士気の高さには驚かされた。普通これだけ一方的に殴られたら意気消沈しそうなものなのに、そんな気配はさらさら見当たらない。藤堂艦長は、敵の士気低下を計算に入れていたことが崩れていくのを感じた。彼はズォーダー大帝を歴史の資料でしか知らないが、宇宙はすべて自分のものと豪語する独裁者だったというから、決して敗北などは認めないのかもしれない。そしてその想像は当たっていた。
「彗星帝国ガトランティスに敗北はない!」
 ズォーダー大帝は被弾して乗組員たちが動揺するたびにその士気を鼓舞し、まるで超巨大戦艦の不死性を象徴するかのように君臨していた。
 再び数十門の巨砲がうなって『武蔵』を襲う。
「くそっ、いい加減しつこいな」
 『武蔵』の砲撃も超巨大戦艦を痛めつけているが、図体がでかすぎてこちらの攻撃力が最強でも全体のダメージにはなかなかならない。『武蔵』の攻撃で痛めつけて、あとは『ヤマト』らにまかせようという算段も、これでは時間がかかりすぎる。
 さらに、藤堂艦長を焦らせる報告を神村少尉が叫んだ。
「敵、大型戦艦軍、『ヤマト』以下地球艦隊と接近戦に入ります」
「いかん、隊列が乱れた今襲われたら危険だ。荒島、援護砲撃だ」
「無理です。双方が近づきすぎていて、この位置では地球艦隊まで吹き飛ばす危険があります」
「おのれっ!」
 藤堂艦長は、先祖の面影を少し残す顔をゆがめて、ここまで来てと歯噛みした。だが、そんな艦長に、艦長と旧知である黒田大尉が友達に声をかけるように言った。
「艦長、いくら『武蔵』でも一から十まで全部するなんて無理ですよ。ここは『ヤマト』と地球防衛軍を信じましょう。彼らの力で勝利してこそ、地球も得るものがあるって、歴史に介入しようと決めたときに決めたでしょう」
「……そうだな。よし、このまま超巨大戦艦への攻撃を続行」
 『武蔵』はさらに砲門を開き、超巨大戦艦の装備を吹き飛ばす。二十三世紀のモンスターと、二十五世紀のモンスターは共に自らこそが最強だといわんばかりに果てしない死闘を続けた。

 そして、傷ついた体を必死に起こして超巨大戦艦を沈めようとする地球艦隊を守るように前に出た『ヤマト』は、全砲門を敵大型戦艦軍に向ける。
「総員、これが最後の戦いだ。ひたすら前のみを見て進め!」
 すでに超巨大戦艦は『武蔵』の攻撃で中破して、こちらに向かってくるものが最後の艦隊戦力であると考えてまず間違いはない。むろん『ヤマト』も無傷ではないが、ここで『ヤマト』と地球防衛艦隊が生き残ることによって歴史が変わるのならば、これを撃破する以外に地球の未来を救う手段はない!
「敵艦隊、『ヤマト』正面、射程距離に突入」
〔こちらコスモタイガー加藤、全機補給完了、いつでもいけるぜ!〕
〔徳川だ。機関室、全力発揮に支障なし〕
「『蝦夷』『メリーランド』より入電、我ら今だ士気旺盛なり」
「主砲、副砲ともに異常なし、照準誤差修正」
「空間磁力メッキを展開するぞ。こんなこともあろうかとと思って用意しておいてよかった。一分しかもたんが、ほかにもこの際あるだけの装備を全部使い果たす気でいくから安心して戦え、古代」
「波動エンジン出力一二〇パーセントを維持、古代、いいぞ」
 二〇隻の無傷の大型戦艦を相手にして、まだ誰一人として負けることなどは考えていない。負けること、すなわちそれは地球の終わりを意味する。古代もまた、最後の最後まで戦い抜こうと、最後の号令をかけた。
「ヤマト、発進!」


第33章

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