逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第20章 要塞対要塞、要塞対超戦艦

熾烈を極めるライナ星域攻略戦
なんとか敵惑星ふたつを破壊することに成功するものの第2第5艦隊は被害甚大
第6艦隊は壊滅してしまう
残る敵惑星は4つ
はたしてボラー守備軍の死守を突破して作戦を成功させることは可能なのだろうか……

ライナ第5惑星ジュラーウリク
「チィッ、まったく頑丈な要塞だ!」
第7蹂躙艦隊は敵惑星を目前にして3基のゼスバーゼ型機動要塞に行く手を阻まれていた。
「ボラーの技術力もあなどることはできんな……」
メルダース司令は旗艦ゴルバ1号機の艦橋で忌々しげにつぶやいた。
彼の指揮する第7艦隊もゴルバ型機動要塞3基を配していたが、敵要塞の装甲はゴルバの主砲であるα砲さえ跳ね返し、敵要塞の防衛線はまったく突破できそうになかった。
幸い敵要塞のエネルギー砲もゴルバの偏向バリヤーが無効化できていたがこのままこう着状態が続くのはいかにもまずかった。
なぜならここはあくまで敵地でありこのまま長引けば敵は奇襲されたことによる態勢の乱れを回復し攻勢に出てくるのは間違いないからである。
「これ以上長引かせるわけにはいかん、なにかあの要塞に弱点は無いのか」
さしものメルダースもそろそろあせりを隠せなくなってきていた。
敵要塞はそれぞれが1基のゴルバと相対する形をとり、ゴルバがジュラーウリクを主砲の射線に入れようとすればすぐに移動して盾になっていた。
「敵要塞の拡大画像を出せ」
メルダースはパネルに大写しになったゼスバーゼの映像を食い入るように見つめた。
「……全身装甲の塊だな……どこか開口部は……ぬっ、あれは!?」
ゼスバーゼの球状構造物のたった一点にごく小さいけれど開いた部分が見えた。
「敵艦載機の射出口か……」
それはゼスバーゼのいくつもある球体の影になっていてわかりづらいが、はっきりとわかる唯一の開口部であった。
「α砲の照準をあの発進口に絞り込めるか?」
「難しいですね、外側の球体に隠れるようになってますから……それにこの距離では」
元々α砲はピンポイント射撃をするようにはできていない。
さらに距離が離れていては元々なぎはらうための兵器であるα砲はエネルギーが拡散してしまって威力が半減する。
「やむをえんか、全要塞前進、近接戦で一気にけりをつけるぞ!」
「しかし! それでは敵要塞のエネルギー砲の威力も増大します。いかにゴルバのバリヤーとて耐えられるかどうか」
「かまわん、どうせ時間が経てばこちらが不利になっていく一方だ。ボラーの要塞ごときにこのゴルバはやられはせん!」
メルダースはいちかばちか、ゴルバの耐久力にすべてを賭けることにした。
「全速前進」
接近するにつれてお互いの砲撃の威力はいやがうえにも増大していった。
ゴルバのバリヤーもビリビリと揺さぶられるが敵要塞もゴルバの砲撃にわずかながら振動する。
「敵戦闘機、さらに多数来襲!」
「かまうな、蹴散らせ! そうら敵もだいぶ焦ってきたようだぞ!」
ゴルバは内蔵されたビーム砲とミサイルで接近してくるボラー戦闘機をなぎ払いながら進撃を続ける。
「砲手! 敵発進口に照準を合わせられるか?」
「あともう少し接近してください。一発でしとめてみせます」
「よかろう。操舵手、このまま前進せよ」
しかしそうしているあいだにもゴルバも敵要塞の高出力砲の近距離連続射撃を受けて震える。
「司令、これ以上敵の攻撃を受けてはバリヤーも長くは持ちません」
「うろたえるな! このゴルバはこの程度ではやられはせん」
しかし乗員の士気のためにそう鼓舞したもののメルダースもそろそろ限界だと感じていた。
「砲手、まだか!?」
「今有効範囲に入りました」
「よし、全要塞、照準を集中させよ。砲手、一撃でしとめろ、もし外したりしたらその役に立たない目玉をくりぬいてやるからそう思え!」
「了解!」
砲手はようやくゴルバの主砲でも狙えるほどに近づいた敵の艦載機射出口に狙いを定めた。
なにせチャンスは一度きりだ、もし仕損じれば敵ももう二度とこちらに射出口を狙わせるような真似はしないだろう。
「よーい……てっ!」
砲手はギリギリの緊張のなかでα砲の発射ボタンを押した。
ゴルバの巨大な砲口から真っ赤な閃光がほとばしり、ゼスバーゼの一点に吸い込まれていく。
「どうだ?……ぬわぁ!?」
突如ゼスバーゼが全体から強烈な光を放った。
次の瞬間ゼスバーゼは熟れすぎた果実が裂けるように無数の亀裂を生じさせたのち、爆発した。
「姿勢制御! 持ちこたえろ!」
ゼスバーゼの爆発は当然のように至近にいたゴルバをも巻き込んでいた。
強烈な熱波と飛んでくる破片にゴルバは強靭な装甲でどうにか耐える。
「被害報告、急げ!」
衝撃波が収まったあとメルダースは急いで状況把握に努めた。
もしこれでゴルバの機能に重大な損害が出ていればどうしようもない。
だが上がってきた報告によると小規模な損傷はあっても応急修理でどうにかなる程度のものだけであってメルダースは胸をなでおろした。
「よし、これで3対2だ。ゴルバ2号機、3号機はそのまま敵要塞を押さえろ! 我が要塞は敵惑星への攻撃を開始する」
「了解、全速前進!」
メルダースのゴルバ1号機は敵要塞の残骸のなかを加速してジュラーウリクへ接近していった。
「α砲用意」
ゴルバの主砲がジュラーウリクへ向けられる。
しかし敵もむざむざやられるのを黙ってはいなかった。
1機の敵要塞がゴルバ2号機に背中を見せるのにもかかわらずに反転してゴルバ1号機へ砲門を向けてくる。
「敵弾来ます」
砲撃によってゴルバの巨体が揺らぐ。
「どうした、姿勢制御がうまくいっていないぞ!」
「惑星の引力圏につかまり始めています。ここでバランスを崩せば一気に落下する危険性が!」
つまり現在ゴルバは惑星の引力との釣り合いの微妙なバランスのうえに浮いているということになる。
いくら頑丈なゴルバといえども惑星に墜落してはひとたまりもない。
「α砲はどうだ!?」
「すでに有効射程には……しかし今発砲すれば反動を吸収しきれずどうなるかわかりません」
「かまわん! このまま待っていても状況は好転しはすまい、撃て!!」
「り、了解……発射!!」
ゴルバの主砲から最大出力のα砲がジュラーウリクへ向かって放たれた。
同時にゴルバも反動で重力バランスを失い、急速に失速していく。
「エンジン全開、姿勢制御急げ!!」
メルダースは座席から放り出されそうになるのをこらえながら必死で激を飛ばした。
すでに波動砲級のエネルギーを叩き込まれたジュラーウリクはコアに変動をきたして崩壊を始めている。
「全艦緊急離脱急げ! 惑星の爆発に巻き込まれたらこのゴルバとてひとたまりもないぞ!」
交戦を続けていたゴルバ2号機と3号機が慌てて逆噴射をかけて離脱していく。
「姿勢調整完了、離脱します!」
「よし、急げ!」
そしてメルダースの1号機も推力をあげて浮上していく。
だが、そのときゴルバ1号機の上空に黒い影が覆いかぶさった。
「し、司令、上空に敵要塞が!」
「なに!?」
そこにはさきほどまでゴルバ2号機、3号機と交戦していたはずのゼスバーゼ2機が1号機に向けてゆっくりと降下してきていた。
「馬鹿な、このままでは奴らもまきぞえを受けるぞ、なぜ離脱しない!」
その2機はゴルバの頭上を押さえるように遷移すると一直線に1号機に向かってきた。
「くっ! 道連れにする気か、回避だ、回避しろ!」
「間に合いません、衝突します」
恐らくその2機のゼスバーゼの艦長は自らの目の前でジュラーウリクが破壊され、己の進退が窮まってしまったのを悟って自ら死を選んだのだろう、ボラー連邦では人間の命がなによりも安い。
膨大な質量を持つゴルバはとっさに向きを変えることができずに2機のゼスバーゼに押さえ込まれるようにして接触してしまった。
「ぬううぅぅ!! 振り払え!」
「無理です、完全に押さえ込まれてしまっています。敵惑星爆発まであと20秒!!」
このままではゴルバはジュラーウリクの爆発に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう、メルダースはここで一生分の知恵を使うつもりで考えた。
「敵要塞と接触しているα砲を撃て!」
「え、そ……」
「黙れ!! 撃つんだ!!」
「は、発射!」
瞬間、猛烈なエネルギーが圧縮されて暴発し、大爆発を起こした。
いかなゴルバの強固な装甲もひしゃげて裂ける。
しかしその爆発の影響でゴルバとゼスバーゼのあいだにすきまができた。
「α砲大破! さらに各部に火災発生!」
「かまわん、ワープだ」
「えっ! ですが!」
「どこでもかまわん! 今はこの状況を逃れられればそれでいい!!」
「はっ!!」
そして操舵手が緊急ワープのボタンに手をかけたそのとき。
「敵要塞発砲!!」
「ああっ、敵惑星爆発します!!」
ゴルバの上下で強力なエネルギーが炸裂する。
敵要塞のエネルギー砲、ゴルバのワープ回路、ジュラーウリクの爆発の衝撃波が同時に白い閃光となった。

ライナ第1惑星バムストーク
「敵3番要塞撃破!」
「よし、そろそろ潮時だな」
第8蹂躙艦隊司令サーグラス准将は旗艦である改グロデーズ級戦艦『ミラ』の艦橋で満足げにつぶやいた。
彼の指揮する5隻の改グロデーズ級戦艦からなる部隊は3機のゼスバーゼ級要塞を相手にすでに2機を撃破し、自軍には損害なしの一方的優勢な状況にあった。
敵要塞の吐き出した艦載機も無限β砲と敵要塞砲の撃ちあいに巻き込まれてほとんど残っていない。
「これだけの戦艦があと10隻あればこのような無茶な作戦を強行しなくても済んだものを、今回だけでも何人の同胞が逝ったことか……」
いまや残る敵要塞は1機のみ、もはやこのグロデーズ艦隊の前をふさぐものはないと思われた。
だがボラーもこの超戦艦を前にしてただ手をこまねいているだけではなかった。
「サーグラス准将、左舷後尾に空間歪曲反応、敵艦隊がワープアウトしてきます!」
「なに!?」
第8艦隊の後方の空間が揺らいだかと思うと次々にボラーの艦隊がワープアウトしてくる。
「敵編成は空母20、戦艦4、護衛艦多数」
「なんと、大機動部隊ではないか、それだけの数がいったいどこから。ちっ、艦隊各艦は護衛戦闘機を射出せよ、残る敵要塞を撃破し一気に任務を完了させる」
改ゼスバーゼ級には軽空母並の航空隊が防衛戦力として搭載されている。
しかしそれでも20隻以上の空母を相手にするにはあまりにも少なすぎた。
「敵空母艦載機多数発進、約600機です」
「ちっ、こちらの戦力100機程度では止められんな、しかしいったいどこから……」
この突如出現した大艦隊は実は先に第2第5艦隊が惑星アルクリムで戦った機動部隊でアルクリムが破壊されたあと急報を受けて駆けつけてきたのだった。
たちまち激しい戦闘が開始されどちらのものともわからぬ機体が堕ちていく。
だが敵機の数に比べて護衛機の数はあまりにも少なすぎた。
「敵機、急速接近、護衛戦闘機隊突破されました」
「ちいっ、かまうな、対空砲火全力射撃、敵要塞は本艦と2番艦に任せて3,4,5番艦は敵惑星を破壊せよ!」
グロデーズ級は比類ない火力を誇るが反面巨体が災いして機動性が低い。
もちろん頑強な船殻と数百門に及ぶ対空砲で鉄壁の防御を張っているが360度完璧に守れているわけではない。
戦って負けはしないだろうが面倒な相手に付き合ってやるつもりはサーグラス准将には微塵もなかった。
「全対空兵装自動迎撃開始、無限β砲目標敵要塞をロック」
たちまち驟雨のごとき対空砲火がボラー艦載機を蹴散らす。
しかし敵機も対空砲火のわずかなすきまを見つけては攻撃を仕掛けてきた。
「左舷に被弾、されども損害を認めず」
「後尾に命中、機銃砲塔2基損失するも内部への貫通なし」
命中の報告が間断なく入ってくるが損害らしい損害報告はひとつもない。
これが従来の艦であればプレアデス級でもすでに火を噴いているはずの攻撃を受けながらである。
けれどもサーグラス准将はまだ油断してはいなかった。
「敵惑星への攻撃はまだ行えないか?」
「はっ、すでに射点にはついておりますが敵艦載機の攻撃と軌道上の迎撃ステーションの攻撃によって手間取っているようです。
「多少の損害は無視してでも敵惑星破壊を優先せよと伝えろ。こちらも敵要塞破壊を急ぐぞ、無限β砲発射!」
グロデーズ2隻の無限β砲が残った敵要塞を飲み込む。
「敵要塞、大破!」
敵のゼスバーゼ級要塞はかろうじて破壊はまぬがれたようだがその球体のあちこちはひび割れておりエネルギー反応も急速に衰えている。
「とどめをさすぞ、エネルギーチャージ急げ。別働隊はまだか!?」
そのとき、別働隊の3隻から同時に無限β砲が放たれた。
進路上の物体をなぎ払って赤色の破壊光線が一直線にバムストークに吸い込まれていく。
「敵惑星、コアの臨界を突破、爆発します!」
次の瞬間、バムストークは波動砲すら越える超エネルギーに耐えられず膨れすぎた風船のように破裂した。
「よし、反転離脱!」
「は、敵要塞はいかがするので?」
「死にぞこないのガラクタなどほおっておけ! 我が艦隊はただちに他部隊の援護に向かう」
サーグラス准将はこの状況下でも冷静に戦局を見ていた。
改グロデーズ級を有する自分の部隊すらこれだけ手間をかけられたのだ、旧式艦やよせあつめの艦で構成された第5第6艦隊はどうなっているかわからない。
「現在の我が軍の作戦状況はどうなっている?」
「はっ……第2、第4惑星の破壊に成功、第2艦隊第5艦隊は多大な損害を受けたものの離脱に成功、第6艦隊は全滅、第3艦隊は確認がとれません。あとの惑星ではいまだ交戦中です」
想像以上の損害だった、やはり敵の重要拠点に攻撃をかけるにはまだ早すぎたのだ。
それでも計3つの惑星を破壊できたのは驚くべきことだったが2度目がない以上全部の惑星を破壊しなくては成功とはいえない。
「急がなくては、本艦と2番艦は第3惑星へ、第3第4番艦は第5惑星、5番艦は第6惑星へ急行する」
まだこのグロデーズ5隻には充分余力が残されている。
これを援軍に差し向ければ戦局打破も可能と思われたが。
「司令、補給基地のグノン司令より緊急入電、ライナ星系へと向かうボラーの大艦隊を捕捉、隻数およそ600!!」
「なんだと! くっ、事態を知って駆けつけてきたのか、だがこうも早く来るとは……」
実はそれは偶然にもこの翌日に艦隊すべての補給と強化を行うためにライナ星系へと向かっていたボラーの第2主力艦隊であった。
彼らの作戦はある意味では早すぎたがある意味では遅すぎたのだ。
「司令、これに背後を襲われたら我々は」
考えるまでもなく、全滅しかない。
「おのれ、なんて数だ、全艦反転、我が艦隊はこれより接近しつつある敵艦隊への迎撃に向かう」
サーグラス准将はたった5隻の改グロデーズ級とわずかばかりの護衛艦で600隻の大艦隊を足止めする覚悟を決めた。
「これではとてもほかの艦隊に援軍を送る余裕はない……苦しいだろうがなんとか頑張ってくれ」
「反転右140度、ワープ開始します」
第8蹂躙艦隊は後ろ髪を引かれる思いでライナ星系をあとにした。

だが、いまだ戦いが続いていた第3、第5、第6惑星では自身の敵と戦うことで精一杯だった。
「ふん、ボラーも多少は楽しませてくれるな」
第3惑星ベムグラードを望みながら第1前衛艦隊司令ミヨーズ大佐は旗艦ガリアデスの艦橋でニヤリと頬をゆがめた。
彼の率いている第1艦隊の攻撃目標とされている第3惑星はこのライナ星系の指揮中枢であり防衛についている艦隊も最精鋭が集っている。
緒戦こそ奇襲が成功したため慌てて浮上してくる敵を狙い撃ちにできたが、敵も初期の混乱を回復すると艦隊を地上基地の援護のもと上昇させ衛星軌道上に布陣して第1艦隊を迎え撃ってきたため今激戦が繰り広げられていた。
「右翼の部隊を下がらせろ、深追いするな、敵を中央に引き付けるのだ」
ミヨーズは戦況を見ながら配下の艦隊に指示を出していた。
このまま敵が立ちふさがっていたのでは後衛の第4殲滅艦隊のα砲搭載戦艦が射程圏内へ到達できない。
「なかなかしぶといではないか、誰かは知らぬがボラーの指揮官もやりおるな…………だが、このミヨーズから逃れえた者など今まで誰一人おらぬのだ」
艦橋の外でほとばしる砲火に顔を赤く染めながらミヨーズは不敵に微笑んでいた。

その一方で、第1艦隊と対峙しているボラー連邦ベムグラード防衛艦隊は指揮をとるゴルサコフ参謀長のもと鉄壁の陣形を組んで立ちふさがっていた。
「まったく……無様なものだ、数で勝るはずの我らが防戦一方に回っている……この星系の防備は完璧だなどとほざいておった警備司令は転任させなくてはならんな」
艦隊旗艦、戦闘空母ヴォルゴのブリッジでゴルサコフは忌々しげにつぶやいた。
「全艦に通達、壁面陣形を徹底しろ、敵をこれ以上進ませてはならん」
彼の指揮する艦隊は総勢300隻以上の規模でミヨーズの艦隊の総力を上回っている。
しかし発進してきた時から軌道上で態勢を整えるまでに受けてきた攻撃のせいでかなりの艦が損害を受けており数どおりの戦力を発揮することができなかった。
と、そのとき通信兵が一通の電文を持ってきた。
「第3惑星警護艦隊旗艦より入電しました」
「ぬ? ……ふん、『進撃して敵艦隊を殲滅すべし』だと……馬鹿者め、今の状態で進撃しても無用な損害が増えるだけだ。あの警備司令め、失態を埋めようと必死なようだが今さら遅い、貴様の運命はもう決まっている」
ゴルサコフは一笑にふした。
「転任……ですか……それで返信はいかがいたしますか?」
「ほおっておけ、相手にするだけ時間の無駄だ」
ゴルサコフはそう吐き捨てると通信兵を帰した。
なお、転任とはボラー連邦では言葉通りの意味ではなくいわゆる隠語である。
その意味は転任"することになる"先がどこなのかを想像すればおのずとわかろう。
「艦載機射出開始、敵艦隊をかく乱しろ」
ヴォルゴをはじめとするボラー空母より赤色の小型戦闘機が発進していく。
これは速力や機動力はさほどでもないが大口径のビーム砲を搭載しており直撃させれば戦艦でも撃破可能な一種の戦闘攻撃機であった。
「敵艦隊より小型反応多数、迎撃機と思われます」
たちまち両者のあいだの空間で壮絶な格闘戦が繰り広げられ無数の機体が四散していく。
その迎撃網をぬって敵艦隊に肉薄していく機もあるが少数機による攻撃では対空砲火にやられている。
「全艦、敵の駆逐艦と護衛艦を主に狙え、防空艦をつぶしてしまえばあとは艦載機で片付けられる」
伊達に参謀長などを任されているわけではなく、ゴルサコフはそのたびに的確な命令をくだしていった。

けれども対するミヨーズも漫然と攻めあぐねていたわけではなかった。
「司令、敵艦隊は我がほうの護衛艦隊に砲火を集中してきています」
「巡洋艦を前に出して壁にしろ、敵は艦載機で勝負をかける気だ、ならば我らはそのうちに戦艦をしとめるぞ、雑魚にはかまうな、敵主力を全力で砲撃せよ」
ミヨーズはゴルサコフとは逆に戦艦の火力を持って決着をつける決断をした。
戦艦ガリアデスを先頭に暗黒星団艦隊は主力艦を全面に押し出して砲撃をかける。
「敵艦隊、攻撃目標を変えました、戦艦部隊に損害が出ています」
「敵将もなかなか判断力があるな、よし駆逐艦部隊を前に出せ、水雷戦をかける、ただし巡洋艦で防衛するのも忘れるな」
これが戦場というものである、刻々と変化しそのたびに決断を迫られる。

戦線はほぼ互角の状況であった。

第20章 完

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