逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第18章 死闘、ライナ星系!!

時に西暦2205年
ボラー連邦の軍需生産のかなめであるライナ星系を一気に陥落させ戦争を終結に導くべく暗黒星団帝国はクラック・アウト作戦を発令した
実行の日は地球時間12月25日、くしくもクリスマスの日
暗黒星団、地球連合艦隊は月基地を発進
ライナ星系より200万宇宙キロはなれた暗黒ガス帯での補給ののち勇躍出撃した
そして歴史に刻まれる西暦2205年12月25日13:01時
ボラー輸送船マリノフ号の爆沈とともに銀河の覇権をかけた大決戦の幕はとうとう切って落とされたのだった

「ボラー艦隊上がってきます。戦艦200、巡洋艦以下少なくとも300」
「予想以上の配備数だな、しかし大気圏内にいる今ならこちらに分がある、全艦ミサイル戦用意、全空母は艦載機を射出せよ。敵を大気圏内で撃滅する!」
艦隊司令官ミヨーズ准将は高らかに命じた。
「駆逐艦隊を前へ出せ! 奴らが大気圏を抜ける前にありったけのミサイルを叩き込むのだ!」
「了解……司令、惑星の軌道上にエネルギー反応、敵の迎撃ステーションです」
「戦艦および巡洋艦は砲門を開け、ひとつ残らず撃ち落すのだ!」

同様の光景はほかの5つの惑星でも起こっていた。
まさかこんなところに敵が攻撃をかけてくるなど予想だにしていなかったボラー軍はその防衛艦隊のほとんどを地上におろし、兵員もそろっていないものが多数あった。
そんな様子をライナ第3惑星ベムグラードで憤慨しながらひとりの男が見ていた。
「私はいままで我が軍がこれほどまでに無様な姿をさらすのを見たことがない。首相閣下はさぞ失望されることだろう」
とりかえしのつかない失態に顔を青ざめさせている警備部隊の司令官を見下ろしながらボラー軍総参謀長ゴルサコフは冷ややかに言った。
彼は本来ボラー本星でベムラーゼ首相の補佐をする役目だがこの日はたまたま視察のためにこのライナ星系に来ていたのだ。
「はっ、ただちに全惑星の警備艦隊を出撃させて迎撃に当たらせています。艦隊総数では我々が上ですのですぐに押し戻して見せます!」
ビデオ・パネルにはエンジンを全開に吹かせて飛び立っていく警備艦隊の姿が映し出されていた。
「馬鹿め、軌道上に敵がいるのに馬鹿正直に上げてどうする。見ろ!!」
急上昇する警備艦隊の頭上から多数のミサイルが降り注ぎ、あっという間に数十隻の艦が爆発して墜落していった。
「あっ、あああっ!」
「軌道上にいる敵にとって上昇してくる敵を狙い打つのは簡単なことだ、重力と大気の分厚い層は上にいるものに味方する」
「そ、そんな、参謀長……」
司令官はもはや恥も外聞もなくゴルサコフにすがりついた。
「すぐに急上昇をやめ、軟角度上昇に切り替えさせたまえ、回避しやすい角度でゆっくり高度をかせぐのだ」
「はっはいっ!!」
「それから第1、第5惑星軌道の機動要塞部隊は艦隊の出撃が完了するまでなんとしてでも時間を稼げと伝えろ!」
ゴルサコフは無能な司令官にそう命じると自身も出撃するために停泊中の戦闘空母へと足を向けた。

ライナ第5惑星ジュラーウリク
レアメタルの塊であるライナ星系のうち高硬度金属でできているこの惑星を攻撃にきた第7蹂躙艦隊は早くも最大の敵と遭遇していた。
「敵、機動要塞3基、接近してきます。速度10宇宙ノット」
機動要塞、それはボラー連邦が2203年より実戦配備を始めた戦略機動要塞ゼスバーゼ級のことである。
大小様々な球をパイプでつなげ合わせたような異様な風体をしたこの要塞はゴルバ型要塞に匹敵する防御力を備えている恐るべき相手だ。
「ボラーの要塞か、面白い、このゴルバとどちらが上かはっきりさせてくれるわ」
「しかし、近づいたらあのブラックホール砲の餌食に……」
闘志を燃やすメルダースに部下のひとりがそう進言した。
ゼスバーゼ型にはボラーの最強兵器であるブラックホール砲という文字通り人工ブラックホールを発生させる兵器が搭載されており実際いくつもの帝国艦隊がこれによって殲滅されてきたのだった。
しかしメルダースは落ち着き払った様子で。
「心配するな、こんな自らの主要惑星の付近で重力場をかき乱すブラックホール砲は使わんよ。恐らくあの要塞には拠点防衛のための巨砲が代わりに装備されているはずだ」
メルダースの読みは的中していた、重力場を乱し、惑星の自転公転にも悪影響を与えかねないブラックホール砲はこの要塞には装備されておらず、代わりに大型エネルギー砲が装備されていたのだ。
「敵要塞、発砲! エネルギー弾来ます!」
しかしそのエネルギー弾はすべてゴルバに装備されている強力な偏向バリヤーが無効化した。
「やってくれるな、ならば今度はこちらの番だ、全要塞α砲発射用意!」
お返しとばかりにゴルバ級要塞の主砲である大口径エネルギー砲、α砲が火を噴く。
だがそれも敵要塞の強固な装甲の前に無効化されてしまった。
「やるな……さすがだ」
メルダースもさすがにゴルバ級の主砲の直撃を受けて平然としている敵要塞の防御力には舌を巻いた。
「司令、これでは勝負になりません」
確かにお互い相手の攻撃を完全に防げる以上勝敗はつきようもない。
しかしメルダースは慌てるようすもなく言い払った。
「馬鹿者、我々は別にボラーの要塞を破壊しに来たわけではない、あの要塞の後ろにある惑星を消してしまえば我々の勝ちとなるのだ。左転進、破壊できないのならなんとかすり抜けて惑星をα砲の射程に納めるのだ」
「了解!」
メルダースの命を受けて3基のゴルバがゆっくりと左へ動き出す。
だが敵もゴルバに合わせて動き、とおせんぼの姿勢を崩そうとしなかった。さらに。
「司令、敵要塞より艦載機多数来襲」
要塞とは超巨大な航空戦艦といってもいい、巨砲の撃ち合いが意味のないとわかった敵は艦載機により近距離攻撃を狙ってきた。
「戦闘ヘリ部隊射出開始! 迎え撃て」
たちまち要塞のあいだの空域にボラー艦載機とゴルバの戦闘ヘリコプター部隊との激戦が始まった。

ライナ第1惑星バムストーク
「機動要塞か、相手にとって不足はない」
第8蹂躙艦隊司令サーグラス准将は不敵に笑った。
彼の艦隊の眼前にはメルダースの部隊同様に3基のゼスバーゼ級要塞が立ちふさがっていた。
「護衛艦隊は後方へ下がれ。さて、このグロデーズ級戦艦の威力、ボラーの者どもにとくと見せてくれる」
グロデーズ級戦艦、それは暗黒星団帝国が次期主力戦艦として研究開発を進めてきた最新最強の超弩級戦艦のことである。
このクラスはすでに西暦2202年には原案ができていたがその当時の設計は装甲版の塊に巨砲を積んだだけの不細工なものでまだ様々な改修点を含んだ未完成品であった。
その後、ボラー連邦との開戦によってこの初期量産型は実戦投入され、その火力と防御力をいかしてそれなりの戦果をあげたもののやはり機動性等の低さから目まぐるしく変わる戦況に対応できないことが多く、その後はいったん生産がストップされて改設計がおこなわれていた。
そして今この戦闘に望んでいるのは2年の月日を重ねて徹底改良を施され、生まれ変わったとでもいうべき真グロデーズ級戦艦であった。
「全艦無限β砲発射用意、もっとも左の要塞を狙え、分散してはあの要塞の防御を崩せん」
グロデーズの艦首に備えられたまるで波動砲のような巨大な砲口にすさまじいエネルギーが収束していく。
この無限β砲は現在暗黒星団帝国が保有する最強の兵器で開発当初でも波動砲の倍以上の射程を誇るうえに、現在では波動砲の技術も取り入れ破壊力も当時の数倍に強化されていた。
「無限β砲、エネルギー充填完了まであと60秒」
「敵要塞発砲!」
グロデーズのエネルギーチャージより早くゼスバーゼ級の要塞砲がうなった。
チャージのために停止していたグロデーズは回避することもできずに直撃をあびたが強固な装甲によりなんとか耐え抜いた。
「艦体温度急速に上昇、冷却装置稼動最大」
「機関問題なし、無限β砲のチャージに支障なし」
どうやら致命的な損害はないようだ、サーグラス准将はあらためてグロデーズの強靭さに深い信頼を抱いた。
「無限β砲、エネルギーチャージ完了」
「よし、無限β砲発射!!」
5隻のグロデーズ級の砲口から真っ赤な閃光がほとばしった。
それらは狙いたがわずに1基のゼスバーゼ級要塞を打ち抜き、大爆発を起こした。
「どうだ、やったか?」
「……いえ、敵要塞のエネルギー反応いぜん健在、ですが周辺温度は摂氏約数十万度、ダメージは確実に与えたはずです」
「ならば第2射発射用意、どちらが先に相手を焼き尽くすか……勝負だ」
まるで中世の鎧武者同士の決闘のごとく、どちらが先に相手の鎧を打ち抜き槍を刺し貫くかと熾烈な戦いが始まった。

しかし互角の勝負に持ち込めている暗黒星団軍とは違い、寄せ集めに近い地球艦隊は苦戦を強いられていた。
ライナ第4惑星ゲムフロブスク
「主砲発射用意、目標ボラー連邦艦隊」
戦艦しゅんらん改率いる第6殲滅艦隊はこちらの接近を知って急遽出撃してきた守備艦隊に前をふさがれていた。
「くそ、間が悪い……」
本来敵艦隊の相手をするのはクーギス大佐の第3艦隊のはずだったが敵は第3艦隊に惑星を破壊できる力はないと見抜いたのか目標をこともあろうにこの弱小艦隊へと向けていた。
このゲムフロブスクはレアメタルの塊であるライナ星系のなかでもその表面を流体金属で覆われている特異な星であった。
そのため地表に基地を建造しにくくその警備艦隊はほとんどこの星の月に駐留していたため惑星を狙っていた連合艦隊側は完全に裏をかかれていた。
「主砲発射準備完了」
「砲撃開始」
とにかく第3艦隊が応援に駆けつけてくるまで独力で戦わねばならない。
戦闘は射程に勝る地球艦隊が先手をとった。
たちまち数十隻の敵艦が爆発する。
しかし第6艦隊の総数50隻に対し警備艦隊はざっと200隻、数のうえではまだ圧倒的に不利だった。
「空母艦隊艦載機射出、敵をかく乱せよ」
司令官、桂小次郎大佐は戦況が優位なうちにもちうる戦力のすべてを投入する決意をした。
艦隊に5隻配備されている空母からコスモタイガーⅡ戦闘爆撃機が飛び立っていく。
2205年ではすでに旧式化している機種だが地球では占領政策によって少し前まで航空機の開発研究が禁止されていたためやむを得ずいまだに使用されていた。
「敵艦隊より小型のエネルギー反応多数、スペース・ロックの確率85パーセント!」
「防空戦闘、迎撃ミサイル発射!」
スペース・ロックは誘導性と連射速度に優れたミサイルで集中して受ければ戦艦でも危ない。
艦隊からある限りの対空ミサイルが放たれ、弾幕を張るが敵ミサイルのほうが圧倒的に多い。
「前部砲塔5式焼散弾用意」
桂大佐は矢継ぎ早に次の命令を下した。
しゅんらんほかの戦艦の主砲の照準がぐぐっと敵のミサイル群へ向けられる。
「撃て!」
号令とともに戦艦群から200発以上の実体弾が撃ち出された。
それらはミサイル群に接近すると内蔵された小型コンピュータにより適当な位置で信管を作動させた。
「5式焼散弾、敵ミサイルを迎撃し始めました」
しゅんらんの眼前でいくつもの大きな花火の花が開き、小さな火花を飲み込んで消えていく。
5式焼散弾とは近年実用化されたショックカノン砲の実体弾カートリッジの応用のひとつで炸裂すると広範囲に熱線弾をばらまく対空砲弾の一種である。
高い誘導性を持ち迎撃が困難なスペース・ロックに対して迎撃ミサイルの精度が追いつかないことに発想を転換して作られたもので、ようはピンポイントで当てられないなら周囲一面火の海にしてしまえという理屈である。
その考えはどうやら頭に当たったようでスペース・ロックは回避の余地もなく次々と焦熱地獄へ飲み込まれて自爆した。
だが、スペース・ロックが時間を稼いでいるうちにボラー艦隊はその戦力を温存したまま地球艦隊の間近へと迫っていた。
「敵艦隊、まもなく射程距離に突入します。敵は左右に展開を拡大、我がほうを包囲するもようです」
「数にたのんで押しつぶす腹か、ならば全艦ひし形陣形を組め、敵中央を突破して後ろへ回り込む」
包囲陣形を相手に逃げを打てば十字砲火をあびてすりつぶされる、ここは損害を覚悟で敵中突破を狙うしかない。
幸いうるさい監査官どもは戦闘が始まるや否や自室へ引っ込んでしまって意義を申し立てる者はいなかった。
「全艦最大戦速、突撃開始」
しゅんらんを先頭に地球艦隊は密集隊形で真正面からボラー艦隊へと突っ込んだ。
たちまち敵の砲火が集中し落伍する艦が続出するがそれらを助けている余裕はない。
艦隊から遅れた艦は敵の集中攻撃を受けて沈められていく。
「正面ボラー艦隊」
「かまうな、そのまま突っ切れ!」
猛烈な速度で両方の艦隊はすれ違った。
その間にも砲撃戦は続きどちらのものとも知れない艦が沈んでいく。
また、コスモタイガー隊も奮戦していたが機体の古さは隠し切れず満足に戦えぬまま次々に撃ち落されていった。
地球艦隊が切り抜けたとき、残っている艦はわずかに20数隻だけだった。
「全艦反転180度、敵を各個に撃破せよ」
だが桂大佐はこのチャンスを無駄にする気は毛頭なかった。
残存の20数隻が反転し、その全砲門を反転しようと狼狽しているボラー艦隊へと火を噴いた。
「命中、命中!」
至近距離からの砲撃のために地球艦隊の砲撃は面白いように命中した。
だがそれでもなお数において圧倒的に勝るボラー艦隊は反転が終わった艦から砲撃を再開し、地球艦隊は櫛の歯が欠けるようにじわじわとその数を減らしていった。
「戦艦ニュージャージー沈没、空母アトランティカ応答なし、巡洋艦古鷹大破漂流中」
ひっきりなしに入ってくる被害報告に桂大佐はこの第6艦隊が全滅しかけていることを悟った。
旗艦しゅんらんもあちこちに被弾し火炎を吹きだしている。
「司令、残存艦はもはや本艦を含め10艦のみです。敵はまだ80隻以上が健在です。もはや……」
「無念……だ」
桂大佐は歯軋りをして眼前の敵艦隊を睨んだ。
「おおっ! あれはなんだ!?」
突然しゅんらんのオペレーターのひとりが叫んだ。
「……!?」
しゅんらんの眼前の空間がかげろうのように歪んだかと思うと、そこから円盤型の真っ黒な宇宙船が次々と湧き出してくる。
それはまぎれもなく3年前より今まで地球を植民地として支配し、この理不尽な戦争に巻き込んだ張本人である暗黒星団帝国の戦闘艦であった。
「ワープアウト反応感知、識別信号グリーン、第3艦隊です」
「クーギス大佐か!」
第3艦隊はボラー艦隊の至近距離にワープアウトするとそのまま全力射撃を開始した。
地球艦隊にとどめを刺そうと砲門のほとんどを向けていたボラー艦隊は突然のことに対処しきれずに一方的に撃たれていった。
〔ほう、無事か、どうやら危ういところで間に合ったようだな〕
しゅんらんのメインパネルに第3艦隊のクーギス大佐が姿を現した。
「クーギス大佐、艦隊の至近距離へのワープとはまた無茶なことを……」
桂大佐はクーギス大佐の無茶さに驚き呆れた。
艦船が密集している場所へワープをかければ下手をすれば衝突したり、座標が重なれば敵艦と融合してしまうことだってありえる。
場合によれば自分の艦隊を全滅させかねない命令を下したクーギス大佐だったが平然とした様子で桂大佐に答えた。
〔見くびってもらっては困る、貴官の艦隊に沈んでもらっては私の任務は失敗となる、作戦成功のためには多少危ない橋も渡るさ〕
「……救援感謝します」
〔例を言われる筋合いはない、貴官はさっさと自身の任務を果すことだ。こちらは気にする必要はない〕
クーギスはそれで通信を打ち切った。
第3艦隊は旗艦エルドラAを先頭に突撃をかけていく、だが度重なる奇襲で数を大幅に減らしたとはいうものの敵数はようやく第3艦隊と互角というところだ。
「波動エンジン出力最大、第6艦隊は全速でライナ第4惑星へ急行する」
第3艦隊を背に第6艦隊は全速で目標へと急行した。

「ふん、ようやく行ったか……まったく我が帝国でも効率のよい惑星破壊兵器があれば地球人などにたよらずにすむものを……」
クーギス大佐は遠ざかっていく第6艦隊を眺めながらそうつぶやいた。
暗黒星団帝国も地球の波動砲の技術を得て、ゴルバ級の主砲を通常艦船に詰めるように小型改良しようとした研究をおこなっていた。
だが小型化し、さらに艦船の能力を落とさずに調整することが難しく、どうしてもまともな戦闘力こみで作ろうとすればグロデーズ並みの巨大艦にならざるを得ずに計画は頓挫していた。
「だがまあいい、ないものねだりをしても仕方がない。我らは我らの本分を果すまで」
「しかしクーギス様、さきほどのワープで我が艦隊の残エネルギー量はあと10数分程度しか残っていません」
ワープは莫大なエネルギーを必要とする、ワープ直後にいきなり戦闘に入ればエネルギーを再充填している暇も無かった。
「ふん、それこそないものねだりだ、どのみち我らに撤退などありえぬ、余計なことに気を使う暇があったら10分以内に敵を片付けられるように努力したまえ」
どのみち作戦のかなめである第6艦隊を守りきれなければ生きて帰ったとしても職務怠慢で極刑が待っている、戦場で散るならまだしもクーギスはそんなつまらない死に方をする気は毛頭なかった。
「全艦突撃、ボラー艦は正面以外の武装は貧弱だ、接近して乱戦に持ち込め!」

ライナ第2惑星アルクリム
ライナ星系のなかでも軽金属を多く含んだこの惑星にはルーギス大佐の第2艦隊と大久保隼人大佐の第5艦隊が向かっていた。
「ボラー機動艦隊発見、空母20、戦艦ほか護衛艦多数、艦載機を射出しつつ接近中」
「全空母は艦載機を射出せよ、防空陣形を組みつつ進撃だ」
ルーギス大佐の命のもと、第2艦隊は空母を守るように布陣した。
第2艦隊の12隻の円盤型空母から帝国の新型円盤型戦闘機、新型イモ虫型戦闘機、戦闘爆撃機が次々飛び立っていく。

「大久保司令、第2艦隊が艦載機を射出し始めました」
「よし、全空母へ打電、制空戦闘隊発進せよ」
第5艦隊の6隻の護衛空母からも戦闘機隊が続々飛び立っていく。
こちらの空母は最近竣工した地球初の全通甲板を持った新型空母2隻と戦艦改造の戦闘空母1隻に巡洋艦に無理やり飛行甲板を乗せた急増品2隻とさらに彗星帝国戦時に鹵獲したなかばポンコツ同然の高速中型空母1隻まで加えた玉石混合の寄せ集めだった。
それでも第2第5艦隊を合わせれば空母18隻とボラー艦隊に対抗可能な数に見えたが。
「衛星より多数のエネルギー反応接近、地上基地より発進してきたもよう!」
アルクリムの月と本星にもとうぜん迎撃機基地が建設され、続々と迎撃機を飛ばしてきた。
しかもこちらは空母搭載の小型機ではなく軽駆逐艦サイズほどもある大型爆撃機の編隊だった。
「戦艦を中心に防空陣形を組め、5式焼散弾発射用意」
大久保大佐はルーギス大佐とは逆に戦艦を守るように陣形を組んだ。
脆弱な空母を敵にさらしてしまうことになるが、この艦隊の作戦目的は波動砲搭載艦による惑星破壊なのだからこれもやむをえない。
「いいか! 一隻でいいから敵惑星に接近して波動砲を叩き込めば我々の勝ちだ! 立ちはだかるものは例え神でも悪魔でもなぎはらって進め!!」
第5艦隊は第2艦隊を追ってスピードをあげた。
「戦闘機隊、敵機編隊と接触します」
第2、第5艦隊の迎撃戦闘機とボラーの攻撃機隊が宙空で激突する。
しかし数で劣っていることと、第5艦隊の主力は旧式のコスモタイガーが主であったためにボラー編隊はさして労せずに迎撃網を突破してきた。
「5式焼散弾、発射」
防空網を抜けてきた敵機には艦隊の対空弾幕が迎え撃つ。
しかし敵機はその数や防御装甲にものをいわせ、火炎地獄から1機、2機と抜け出してきた。
「敵機、弾幕突破!」
「高角砲対空戦闘、近距離対空攻撃、撃てぃ!!」
最後の守り、対空機銃が猛烈な弾幕を張る。
だが敵機は次々に撃墜されながらも艦隊に肉薄し、ミサイルや爆弾を放った。
大型機の破壊力はすさまじく、戦艦でさえ装甲を破られてよろめく。
「戦艦ミシシッピー被弾、巡洋艦ソルトレークシティー炎上!」
「ひるむな! 前進を続けよ!」
大久保大佐は勇気をふるいおこし、大声で激を飛ばした。

銀河大戦史上に刻まれる血みどろの死闘は今ようやくはじまったにすぎない。

第18章 完

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