逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第17章 銀河大戦最初の死闘

ときに、西暦2205年12月25日。
ここ月基地ではボラー連邦との戦いに雌雄を決すべく発令された大作戦「クラックアウト作戦」のため
地球、暗黒星団ほか多数の惑星の艦船からなる連合艦隊がいよいよ発進しようとしていた。
だが、この作戦はこの規模から様々な危険要素をもはらみ、それはすでに現れつつあったのだ。

その一角、第一打撃艦隊旗艦ガリアデス。
「司令、旗艦以下全艦発進準備完了しました」
「そうか……ではただちに発進しろ、それから移動補給基地とのワープ同調設定は問題ないか?」
「はい、問題ありません」
「ほう、ならばワープ後の補給は我々が一番に行う予定のはずがこの送られてきたワープアウト座標は我々が基地から一番遠くなっているのはどういうわけだ?」
「えっ? あっ、はぁ、それは……」
「すぐ基地へ問い合わせろ、こんな配置では第2第3艦隊が先に補給を受けて我々は残り物をあさるはめになるぞ」
「はっ、すぐに!」
「ふん、まったく使えん部下だ……」
第1艦隊司令官ミヨーズ大佐は不愉快そうにそう吐き捨てた。

移動前線基地
これは暗黒星団帝国が主に補給基地として使用している大型宇宙要塞の一種で一度に数百隻規模の艦船の整備補給を行うことができる。
今ここでは計1000隻もいる艦隊の補給に関する打ち合わせであちこちから問い合わせが殺到し、その対応に追われていた。
「グノン司令、積載する物資のチェック終了しました。すべて予定どおりです」
「うむ、ごくろう」
基地司令官グノン大佐は部下のもってきた報告に満足そうにうなづいた。
だがそのとき通信将校が電文を片手にあまり気乗りしなさそうな表情で現れた。
「司令、第一打撃艦隊のミヨーズ司令から入電しましたが……」
「ふん、やはり言ってきおったか」
グノン提督は通信将校から電文を受け取り一読するとふんと笑ってそれを握りつぶした。
「あの、返電はなんと?」
立ち去る機会を得ることができずに立ち尽くしていた通信将校はおずおずとグノン提督に聞いた。
「第2第3艦隊の物資が予定より不足とでも言っておけ、ああ確認する必要はないぞ」
「はぁ」
グノン提督はそれっきりその通信将校を無視した。
(ふん、前々から生意気な若造と思っていたのだ。せいぜい困るがいい、補給の主導権はこちらにあるのだ)

その通信を受けたミヨーズ大佐は特に表情も変えずに部下に命じた。
「グノンめ、まあいい。そちらがその気ならこちらにも考えがある。第7重突撃艦隊のメルダース准将を呼べ」
「はっ」
やがてガリアデスのメインスクリーンにメルダースの姿が現れた。
〔どうしたのだ、ミヨーズ〕
ミヨーズは補給の順番を変えられたことをメルダースに伝えた。
〔ふ、グノンらしいな。よろしい、私にまかせたまえ〕
「はっ、感謝いたします」
メルダースはことの次第を聞くと任せろとミヨーズに胸を張った。
とはいえメルダースも単なる親切心で言ったわけではない。
メルダースはミヨーズの数期先輩に当たり、尊大な態度の多い帝国軍のなかで数少ない理知派として通っている。
そしてミヨーズはグノンがメルダースより期数(ハンモックナンバー)が早いのに自分が補給基地の司令でメルダースがゴルバ型要塞の司令となっていることが気に入らずに常日頃からいがみ合っていることに目をつけていたのだ。

そしてその数分後、メルダースからの電文を見たグノンは仰天した。
【ワレ、時間節約ノタメ、第4打撃艦隊ヘノえねるぎー補給ヲオコナウモノナリ、ツイテハソレト並行シテごるば3基ノ同時補給ヲオコナイタシ】
確かに第一打撃艦隊がゴルバから補給を受けながらゴルバは基地から補給を受ければ時間は大幅に節約できる。
だが、艦隊とゴルバ型要塞とではその難易度が天と地ほど違った。
「な……ば、馬鹿な、艦隊とゴルバの同時補給だと、そんなことできるわけがない! ただでさえ許容量限界の補給を行うのにゴルバ型の、しかも3基同時など不可能だ!」
グノンはとっさにこれがミヨーズとメルダースの策略だと見抜いた。
しかし不可能だと反論することはできなかった。
なぜなら理論上は可能であるし、グノンは常日頃から自分の基地の技術力は高いと帝国各地へ宣伝していたからできないとは言えなかった。
みみっちい立身出世を狙った宣伝行動が一番嫌っている者たちに利用されていることにグノンは歯軋りしたが名案などあろうはずもなかった。
「あの、提督。返信は……」
「うるさい!! うぬぬ、補給計画の改善の目処がたったので第一打撃艦隊を最初に受け入れると言え……くそぅ」
グノンは不幸な通信将校にそう怒鳴ると座席の肘掛を思い切り殴った。

「感謝します、メルダース長官」
〔礼には及ばないよ、ただ正しい者が勝っただけだ〕
ミヨーズとメルダースはそう言って不敵に微笑みあった。

そのころ、第二打撃艦隊旗艦エルドラA
「ふむ、クーギスよ。この電文どう思う?」
第二打撃艦隊司令ルーギス大佐はパネルに映った第三打撃艦隊司令クーギス大佐に話しかけた。
名前でもわかるとおりこのふたりは兄弟だ。
〔補給の順番を変えてきた矢先にまた元に戻すとはまったく迷惑至極、まあなにが起こったのかは容易に想像がつく、そうだろう兄上?〕
「まあな、大方グノンの奴がミヨーズにしてやられたのだろう、頭の出来の悪い奴が小ざかしいことを考えても恥をさらすだけだ」
〔そのとおり、我々はああはなりたくないものですな、兄上〕
ふたりの哄笑がそれぞれの艦橋に響き渡った。

しかし、暗黒星団帝国軍のそんな抗争とは関係なく、戦力として組み込まれた地球艦隊は沈鬱な雰囲気に包まれていた。
第二殲滅艦隊旗艦ネメシス改
「波動エンジン始動、第5殲滅艦隊出撃」
第5殲滅艦隊司令大久保隼人大佐は淡々と必要事項のみをまとめた命令を発した。
元々この作戦は地球とは直接関係がなく、作戦成功の暁には地球の自治権の回復が約束されているとはいえ彼もそれを鵜呑みにするような阿呆ではない。
やがて、ネメシス改の巨体がドックからゆっくりと浮かび上がると月の引力圏から離れ、ワープ予定空域へと動いていった。
(いったいこの作戦でどれほどの地球人の血が流れることになるのか……)
大久保大佐は自らの指揮することになる50隻の艦隊を見渡してため息をついた。
彼の艦隊は主力はネメシスのほかは白色彗星帝国戦時に建造された前期生産型の戦艦の生き残りに2204年に入って量産が開始されたばかりの艦を追加して編成された部隊で早い話寄せ集めに近い。
いざ戦闘となった場合は砲戦能力はもっとも劣り、波動砲だけが頼りといっていい。
そんな彼の憂鬱を知ってか知らずか横から無神経に声をかけてきた者がいた。
「いやあ壮観な眺めですねえ、これだけの艦隊がそろえば勝利も間違いないでしょう」
大久保提督はその者に気づかれないように一瞬だけ白い目で睨みつけると感情を抑えた声で返答した。
「ええ、総勢1000隻とは恐れ入ります。まったくこれだけの艦隊をそろえることを可能としてくれた帝国には感服しますよ」
その男は大久保提督の言葉の裏に隠された意味にまったく気づいていないのか満足そうにうなづいていた。
(ネズミめ……せいぜい今のうちにいきがっておけ)
大久保提督はそれっきりその男から視線をはずしてしまった。
この艦橋にまったく不釣合いなこの男の役柄は暗黒星団帝国から地球艦隊に派遣されてきた監査官である。
彼らは地球占領軍総司令官であるカザン司令が万一の際地球人がサボタージュをするのを防ぐためにこうして監視しているのだ。
その後ろには常に銃をかまえた兵がつき従い、地球人が不審な行為をした場合には即刻銃殺する権利を持っている。
(この野郎……)
(誰の船だと思ってやがる……)
周りの旧防衛軍の兵たちもその露骨に威圧的な態度に心のなかで罵声を浴びせたが監査官はにぶいのか、それとも地球人のことなど気にもならぬのかまるで気がつく様子はなかった。
それに第一このような行為は地球のためにあえて戦おうとしている地球人たちの誇りを踏みにじるものでしかなく、士気に少なからず影響を与えていた。
第2重突撃艦隊のサーグラス准将などはそれを懸念して監査官の乗艦に反対したが、地球占領軍のカザン総司令が強弁に主張して認めさせていたのだ。
これは3年間地球でパルチザンと戦い、地球人に必要以上に警戒心を持つようになっていたカザン司令の疑心暗鬼が原因と思われる。

さらに、もうひとつの地球艦隊、第3殲滅艦隊でも状況は似たり寄ったりであった。
戦艦しゅんらん改では司令官桂小次郎大佐が指揮下の部隊にワープ準備を命じていたが監査官たちが邪魔になってなかなかはかどっていなかった。
「監査官どの、そろそろ自室に戻られてはいかがですかな? ここにはあなた方の分の座席はありませんよ」
「いえおかまいなく、準備が整ったら1分前に移らせていただきますよ。我々も職務がありますものでね」
「どうぞご自由に」
言うだけ無駄だと思った桂提督はそのまま彼らを無視することにした。
(こんなことでいったいうまくいくのか、この作戦は……)
様々な問題を抱えつつ、クラックアウト作戦は今実行に移されようとしていた。

「時間だ……ワープ!」
「了解、秒読み開始。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゼロ、ワープ!!」
のべ1000隻もの艦隊が一瞬陽炎のように揺らめいたかと思うとそのまま宇宙に溶け込むように消えていく。
向かうはボラー連邦の重要拠点であるライナ星域。
その約200万宇宙キロほど離れた場所にある暗黒ガス帯であった。

「ワープアウト確認、航路誤差0.0001目標地点へ到達しました。後続も続々とワープアウトしてきます」
「空母部隊へ伝令、ただちに偵察機を発進させて警戒に当たれ。全艦の集結と同時にただちに補給開始だ」
真っ先にワープアウトしたミヨーズ艦隊は後続の安全を確保するために警戒態勢をとった。
やがて所定の位置に基地や浮遊要塞、艦隊が次々と姿を現す。
「補給基地ワープアウト確認」
「よしすぐに補給にとりかかれ、1分たりとて無駄にはするな!」
艦隊は順に補給基地に収容され、艦体のチェックと長距離ワープでの分のエネルギーの補給を行った。
供給を受けた艦から順を譲り、次の艦へとエネルギーが送られていく。
「司令、ガリアデス以下当艦隊すべて補給終了しました」
「そうか、不具合はなかっただろうな」
「はっ、7番艦および17番艦にエネルギー漏れがありましたがドック内で修復完了、および28番艦に急性の神経症を発症した兵がいたそうですが基地の交代要員と交代したそうです。現在全艦発進準備完了、予定より1.5分早いです」
「ならばさっさと出るぞ、第一前衛艦隊全艦隊列を組め、もたもたするな」
「はっ!」

続くルーギス大佐とクーギス大佐の第2第3艦隊も無事補給を済ませた。
「全艦突撃隊形をとれ、ぐずぐずするな」
ルーギス、クーギス両大佐はミヨーズにおくれをとるまいと部下を叱咤した。

しかしその一方で順番に回ってきた地球艦隊の補給はなかなか進んでいなかった。
「まだ整備補給はすまんのか?」
「は……それがどうにもその」
桂大佐は遅延する作業に部下に急ぐように命じた。
理由はわかっている、地球艦隊の作業に暗黒星団の兵たちが手を抜いているからだ。
「かまわん、時間内でとれるだけとったらさっさと切り離せ。ぐずぐずしていても仕方ない」
本来波動エンジンを搭載する地球艦にはエネルギー補給の必要はない。
艦隊の整備と最終調整が主目的だったために桂司令は長居するのをやめることとした。
整備が不完全になる恐れもあるが地球製の艦は故障しないという自負があるし万一トラブルが起きたとしても対処できるよう乗組員たちには訓練を施してきたつもりだ。
それは大久保司令も同じで時間がくるとさっさと艦と動かしていった。
その後は手間のかかるゴルバ型要塞とグロデーズ級大型戦艦であるため遅延は許されない。

「意外といさぎよかったな」
ゴルバを補給基地によせながらメルダースは地球艦隊を横目で見てつぶやいた。
てっきりグノンがいらぬサボタージュをして遅れることになると思っていただけに意外だった。
「まあ予定どおりにことが進むに越したことはない、補給作業を急げ、遅れるようなことになれば担当者は宇宙へ放り出してくれるからそう思え!」
メルダースも帝国で唯一残ったゴルバ部隊として恥をさらさぬよう部下に激を飛ばした。

そして最後に残った帝国最新鋭の戦艦グロデーズ級を預かるサーグラス准将の第8蹂躙艦隊もよく訓練された動きで補給基地に接舷した。
「ほう、どの部隊も手際のよいことだ」
司令官サーグラス准将はどの艦隊もわずかな遅れもなく補給をすませていくのに感心した声をもらした。
「本艦隊も補給作業を開始します。現在のところ問題はありません」
「うむ、訓練どおりにかかれ、ここで失態を犯しては最新鋭戦艦をくださった聖総統閣下に申し訳がたたん」
「はっ、我ら一同准将の期待を裏切るようなことは決していたしませんのでどうかご安心を」
「うむ、気合が入っていてよい。ただし緊張しすぎるな、まだ本番ははじまってもいないのだからな」

その一時間後、いよいよ作戦開始時刻となった。
「時間です。補給基地後退します」
「全艦小ワープ準備」
総勢1,000隻の大艦隊が一斉にエンジンのうなりをあげる。
この後はそれぞれがライナ星系の受け持ちの惑星の制圧と破壊にかかる。
ここまで来たらもう後戻りはできない。
「ワープ!!」
時に西暦2205年12月25日12:00

12/25、12:10
ライナ星系第6惑星ベルローシ、レーダー基地
「ん、なんだこれは?」
最外周にあるこの惑星ベルローシのレーダー担当官がレーダーに映った異常に気づいたのは彼が昼食のために席を立とうとした直前のことであった。
「どうした?」
「いや、ちょっとこれを見てもらえますか、故障でしょうか、異常な数の反応が出てるんです。今日輸送船団の到着予定なんてありましたっけ?」
担当官は首をかしげて上司にそう尋ねた。
「いや、予定が変わったとかいう報告は受けていないが……船団識別信号はどうした?」
「それが、反応がないんです。それで、故障じゃないかと思うんですが」
「ふむ、よし貴様システムチェックをやり直せ、それからこの船団に所属を問い合わせろ」
上司はそう近くにいたものたちに命じた。
「まったく、輸送計画の変更をしたならちゃんと伝えておいてもらいたいものだ」
彼はいらぬ仕事が増えたことにため息をつきながらポケットにしまっておいたガムを口に運んだ。

12/25、12:20
「司令、第6惑星からの通信を傍受、我々の所属を問いかけてきています!」
「そうか、よし敵は我々のことを味方と誤解しているぞ、チャンスだ!」

12/25、12:25
レーダー基地
「管制長」
「ん?」
「システムチェック終了しましたが、特に異常らしきものはありませんでした」
「それではレーダーアンテナ本体に異常があるのかもしれんな、そういえばこのあいだ流星雨があったときに痛めたのかもしれん、仕方ない、貴様2・3人ほど連れてちょっと見て来い」
「はっ」
「管制長、問い合わせを続けているのですが、往信がありません」
「やれやれ、通信アンテナもおしゃかか、まあいい、お前らちょっと行ってこい」
「はぁ」
管制長は面倒だと思いながらもどうせすぐ解決するだろうと気にも止めなかった。

12/25、12:30
惑星ベルローシ近海、ボラー輸送船マリノフ号
「船長、まもなく第6惑星軌道を通過、ワープ可能まであと300宇宙秒です」
「そうか、よし全員ワープに備え」
「了解……あれ、船長前方に予定にない船団があります。このままですとすぐ横をすれちがいますぜ」
「ん? まあ戦争中だからな、どっかの戦線で物資がいりようになったんだろう」
「まもなく視認可能距離に入ります」

12/25、12:35
暗黒星団戦艦ガリアデス
「ミヨーズ司令、レーダーに反応、ボラーの輸送船です。距離9宇宙キロ、まもなく我らの横を通過します」
「ちっ、間が悪いな」
「すぐに撃沈しましょう。通報されてはせっかく奇襲になりかけているのが無駄になります」
だがミヨーズはその意見を一蹴した。
「愚か者、撃沈などしたらそのエネルギー探知でばれてしまうではないか、輸送船には手を出すな。ただし砲門の照準は合わせておけ」
「ははっ」
「ふんっ、まったく使えん部下だ」

12/25、12:40
マリノフ号
「なっ、なんだこの大艦隊は!?」
「せ、船長、こいつらはあ、暗黒星団の奴らの艦隊ですよ」
「なんてこった、奴らこんなところにまで侵入してきたのか、軍はなにをやってやがるんだ!」
「船長、すぐに通報しましょう、このままじゃライナ星系は奴らに……」
「馬鹿! 通報なんかしたらその瞬間に撃沈されちまうぞ」
「しかしこのままじゃ……」
「と、とにかくこのまま奴らをやりすごすんだ、それでさっさとワープしてしまうんだ、通報はそれからだ」
「ですが、奴らもうかなり星系に接近してきています。やりすごしていたら間に合わないかもしれません」
「では君は今このマリノフに沈めというのか!」

12/25、12:45
暗黒星団ゴルバ型要塞1号艦
「メルダース准将、敵輸送船、そのまま我らとすれ違いつつあります」
「そうか、電波発信を行った形跡は?」
「一切ありません」
「よし、いい子だ。しかしそろそろ地上のレーダー基地のほうでも我々の正体に感づくころだ、抜き足差し足もそろそろ限界だな」

12/25、12:50
マリノフ号
「は、早く行っちまえ」
「ワープはまだできないのか!?」
「あ、あと100宇宙秒です」
「頼む、頼むから撃たないでくれよ」

12/25、12:55
レーダー基地
「観測長、入念にチェックしましたがレーダーアンテナ、通信アンテナともに異常はありませんでした」
「ん、そうか」
「観測長、例の船団は依然こちらへ接近中、まもなく輸送船マリノフ号とすれちがいますが」
「じゃあその船に船団のことを聞いてみるか、マリノフ号に通信をつなげ」

12/25、12:58
マリノフ号
「あと、20宇宙秒でワープ可能です」
「よし、そのまま、そのままだ」
だがそのとき通信長の席に受信を示すランプが明々と点った。
「せ、船長、地上のレーダー基地から本船に通信が送られてきています!」
「なっ、ば、馬鹿! こんなときに!!」

12/25、12:59
暗黒星団戦艦エルドラA
「ルーギス司令、ライナ第6惑星から輸送船に向かって通信が行われています」
「沈めろ」
次の瞬間、数百の光芒が宇宙を巡った。

12/25、13:00
レーダー基地
「マリノフ号爆発、げ、撃沈されたもようです」
「撃沈だと!? いったいどういうことだ?」
「ああっ、不明艦隊が分散して増速しました。本星ほかライナ惑星系へと向かっています!」
「なんだと……それに艦隊とはどういうことだ!?」
「観測長、これはもはや……」
「言うな! そんなはずはない!」
観測長はあくまでも現実を認めようとはしなかったが。
「……て、敵襲だぁ!!」
ひとりの観測員の恐怖におののいた叫びが彼らに現実逃避を許しはしなかった。

12/25、13:01
元地球防衛軍戦艦しゅんらん改
「全艦全速前進! すべてにかまわずただひたすら敵地を目指せ!」
「ボラー軍、地上より発進してきます。宙空にいるのはすべて警戒艦クラスです」
それは完全な奇襲となったことを意味した。
「天佑我にあり!!」
桂大佐は乗員の士気を鼓舞すべく高らかに叫んだ。

第17章 完

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