逆転!! 戦艦ヤマトいまだ沈まず!!
第16章 銀河大戦への序章
西暦2202年、ヤマトの没後地球は暗黒星団帝国の支配下に置かれる時代が始まった。
だがそんななかでも地球人類の心ある者たちはパルチザンを結成し、勇敢にも支配者への抵抗を続けていた
しかし、あくる2203年、暗黒星団帝国は銀河系の半分を支配下におさめるボラー連邦との戦争へと突入した
運命に翻弄され続ける地球の運命はどこへ流れ着くのだろうか
「よし、みんなそろったな」
10分間の休憩の後、作戦室には再びヤマトのメインクルーたちが集まっていた。
「我々の用意した資料もいよいよ次で最後です。2203年から今……我々の来た時代までの記録をまとめて流しますので」
黒田大尉が皆を見渡して宣告した。
「おい、200年分をそんな簡単にしていいのか?」
「ああ加藤さん、いえ200年分といっても実際にはにらみ合いの消耗戦が続いた時期や休戦協定が結ばれて冷戦状態になっていた時期がかなりあるので重要なことがらはそう多くはないんです。戦略上関係ない局地的な戦闘の勝ち負けは今は必要ないですから」
「なるほど」
加藤たちも納得した。
確かに4年ほど続いた太平洋戦争でも大作戦といえるものは両軍ともに両手で数えて足りるほどの数しかおこなっていない。
また、経過年月の多さでは群を抜く英仏の100年戦争も毎日毎晩戦闘をしていたわけではなく空白の時間がほとんどである。
「この後の地球の歴史は3年間が重要なものでした。そしてその最初の1年は苦渋と忍耐の1年と言われています」
「ボラーとの開戦のせいだな」
「はい、開戦当初の艦艇の損害を埋めるために暗黒星団帝国は地球を始めとする殖民惑星の工場化を急ぎました。その結果これまで温厚だった地球の占領政策も硬化して、数多くの市民が戦略物資の製造に動員されることになったのです」
戦争の必然とはいえ、いつの時代もその割を食わされるのは一般市民たちなのだ。
「で、そのときパルチザンはどうしていたんだ?」
「もちろん動員が開始されたころから加入者が大幅に増え、抵抗活動を続けていました。しかしボラー連邦は当然地球への侵攻も行ってくるだろうことから、これまでのような破壊活動ではなくあくまで地球の独立をめざしたものへと方針を変更していきました」
「まあ、支配者が暗黒星団からボラーに変わるだけじゃなんの意味もないからな」
「次の2年目は地球人も戦争に動員させられはじめました。予想外に強大なボラーの勢力に暗黒星団そのものの力だけでは戦力不足になってきたのです」
画面には暗黒星団の艦隊に付き従うようにして航行する地球型の戦艦が映し出された。
細かいところに改良が施されているように思えるが、基本的な構造は現在の主力級戦艦と大差ないように見えた。
だがそのとき、妙な点に思い当たって南部が言った。
「おい、確か地球の波動エンジンは暗黒星団のエネルギーと反応すると大爆発を起こすんじゃなかったか。そんな危険なものをなんでいっしょに連れて歩いてるんだ」
南部の言うとおり、これでは爆弾をつれて歩いているに等しい。
「戦時下で地球の工場を作り変えている余裕がなかったんです。それに地球人を暗黒星団型の艦に乗せても扱いに慣れるまでかかりますからね」
「なるほど、戦略の基本『より早く、より多くの量の兵器を』ということか」
「はい、それにやはり暗黒星団帝国も波動砲の威力にまだ執着があったようです。このころ帝国本星では暗黒星団帝国版の高粒子砲『α砲』と『β砲』を搭載した戦艦を多数建造し始めたことからもうかがえます」
「一撃で大量の敵を殲滅できる兵器が欲しい、どこの星でも軍人というものが考えることは似たようなもののようだな」
画面は月面らしい場所へと切り替わった。
そこでは暗黒星団帝国が建設したと思われる大型のドックがはるかかなたまで続いており、地球と暗黒星団の艦隊が入り混じって整備を受けていた。
「はぁ、月にこれほどの設備を」
南部が感心したように言った。
彼の生家の南部重工の艦船建造ドックでもこれほどのものはそうはない。
「戦時中の必要というものは時に非常識な巨大事業も可能にします。地球はこのときから植民地兼、補給前線基地としての役割を持たされました。また、略取されて保管されていた艦や解体や爆破予定だった旧防衛軍の艦も急遽現役復帰することとなりました……あのあたりを見てみてください」
画面の奥にはひときわ目を引く巨艦、旧防衛軍旗艦しゅんらんなどの姿があった。
そのほかにもやや旧式とも思える巡洋艦や護衛艦が停泊し、溶接の火花に包まれているのが見て取れた。
「なりふりかまわず船を寄せ集めてきたのか……戦況はかなり逼迫していたようだな」
「いえ、それもありますがこの艦隊は別の目的で招集されてきたものです……決戦のために」
「決戦!?」
ヤマトクルーの目が一斉に黒田大尉に集中する。
「はい、緒戦で多数の艦を失い、なおかつ銀河系にまだ確固とした地盤を築ききっていなかった当時の暗黒星団帝国は長期戦に持ち込まれては不利と判断し、現有兵力を持って敵本土直接攻撃を決断しました」
「無謀な……」
島が正気のさたではないというふうにつぶやいた。
「そう思うでしょうね。実際成功確率はよくて3割というところでした。攻撃目標はボラー領内でも最大のレアメタルの産地であるライナ星系、ここは6つある惑星がそれ自体レアメタルの塊で、さらにボラー最大の兵器生産工場をかねていました。もしここを破壊できればボラーの戦争遂行能力は大幅に減退するはずでした」
「確かに戦略目標としては大きいが、当然敵も最大の防衛戦力を配備しているだろう」
「もちろん。ですからこの作戦には本土防衛用の虎の子のゴルバ型浮遊要塞3基、さらに量産が進み始めたばかりの新型戦艦グロデーズ級10隻すべてを投入、艦隊も自国のものから地球などの殖民惑星のものなどを集められるだけ集めて総勢1000隻にも及ぶ大艦隊を結成しました。
「1000!!」
古代や加藤たちはそのあまりの数に驚いた。
かつてのガミラスや今回の彗星帝国との戦いでも敵味方あわせてもそれだけの数になったことはほとんどない。
「一時的に自国領を無防備にしてでも集めたということか、まさに捨て身の大博打だな。しかしそれだけの艦隊がまともに統率をとって動けるのか?」
確かに寄せ集めの艦隊がただ突っ込んだところであまり効果はないだろう。
「ええ、ですからこの作戦のためにかなり艦隊を分割することになりました。
まず露払いとなり惑星への突破口を開く部隊を3つ
そのあとに続き、惑星破壊を行う部隊を3つ
独力でそのふたつを行う部隊を3つ
補給を行う部隊を護衛を含めて3つ
こういう区分けにしてできるかぎりの戦力を集中させました」
「なるほど、これだけ細かく分ければひとつの部隊に集まる戦力は統率可能なレベルにおさまるな」
古代はなるほどと納得した。
「それで、このなかで地球人がおわされた役割はどれくらいなのですかな?」
土方艦長がその質問をすると黒田大尉は画像を一旦停止させると言った。
「その前にこれを見てください。この作戦が発令されたときに暗黒星団帝国聖総統が当時の地球の代表にあてた宣言文です」
そこには暗黒星団帝国の聖総統から地球人への約束ごとがつらねられていた。
それを要約するとこの戦争で地球人が勝利に貢献するならば戦後地球の警察権、行政権、司法等をかなりの割合で地球へ戻すというものだった。もちろんかなりの影響力は残るし戦後の同盟関係や軍事の協力など地球人にとって不利なものも数多いが、重核子爆弾によって思い切った行動へ出ることのできない地球人にとっては自治権を回復するまたとないチャンスでもあった。
「なるほど、飴と鞭ということか。これもまたよくある手だな」
支配者が被支配者に対して魅力的な条件を出して言うことを聞かすというのは簡単だが効果的な手段だ。
「しかし、地球人もそれを鵜呑みにしたわけではないだろう」
実際地球の歴史上でも第二次大戦中イギリスは独立を条件に当時植民地であったインドから兵を集めたが戦後イギリスはそれを反故にしようとしたことがある。
大国のエゴというのはどこでも変わりはない。
「ええ、パルチザンもそれを警戒して安易に民衆が信じ込まないようにいろいろと宣伝工作を行っていたようです」
「うむ、それは当然として……それで実際にこの戦いに地球が投入した戦力はどれほどのものだったのだ?」
黒田大尉が操作すると今度はこの艦隊の編成表に変わった。
対艦戦闘用前衛艦隊
第1前衛艦隊 司令官ミヨーズ大佐 戦艦ガリアデス以下250隻
第2前衛艦隊 司令官ルーギス大佐 戦艦エルドラA以下200隻
第3前衛艦隊 司令官クーギス大佐 戦艦エルドラB以下200隻
惑星破壊用殲滅艦隊
第4殲滅艦隊 司令官ギルバート大佐 α砲搭載戦艦5隻 以下50隻
第5殲滅艦隊 司令官大久保隼人大佐 地球型旧式戦艦10隻 以下50隻
第6殲滅艦隊 司令官桂小次郎大佐 戦艦改しゅんらん以下50隻
完全殲滅用重突撃蹂躙艦隊
第7蹂躙艦隊 司令官メルダース准将 ゴルバ型浮遊要塞3基 以下10隻
第8蹂躙艦隊 司令官サーグラス准将 グロデーズ級戦艦5隻 以下20隻
第9蹂躙艦隊 司令官シールス准将 グロデーズ級戦艦5隻 以下20隻
補給部隊 司令官グノン大佐 浮遊要塞補給基地 輸送艦80隻 護衛艦20隻
まさに空前絶後の大艦隊であった。
暗黒星団帝国は一時的に本国の防衛をも放棄してこの遠征に賭けていた。
「作戦開始日時は地球時間にして西暦2205年12月25日、くしくもクリスマスの日でした」
「聖なる夜が血みどろの死闘の開始となったわけか、なんとも皮肉だな」
太田が顔をしかめて言った。
「ええ、ですから地球側は皮肉をこめてこの作戦をクリスマス作戦と呼びました。正式名称はクラックアウト作戦といいます」
クラック・砕くにアウト・落とすとかけて一気に敵戦力を叩き潰すという意気込みが感じられる名前だった。
しかし、そのために犠牲となる命はいったいいかほどになるのか、それをうかがい知ることはできない。
「そして12月25日当日、地球圏に集結した艦隊は補給基地の出発とともに全艦出撃、ライナ星系から200万宇宙キロの地点で補給を受けたのち、作戦を開始しました」
映像では全速で星へと突進していく連合艦隊と気づいて迎え撃つボラー艦隊とがいよいよ激突しようとしていた。
第16章 完