最強悪堕ちバトル列伝~目指せ!最強の悪堕ち~
悪堕ちバトルを題材にしたホビーアニメの主人公がいたら? と考えて描いたものです。続きません。
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芝が綺麗に生えそろった、空き地の真ん中。
「う~~ん……」
ここに、悩む一人の少年がいた。
彼の名は阿久 堕智男。最強の悪堕ちを目指す、普通の小学生だ。
「だーっ! わかんねぇ!」
いきなり頭を掻きむしって地面に寝転ぶ。その手には小さなメモ帳が握りしめられていた。
「……どうしたの?」
「おっと、ヒロ子か。ちょっとな」
堕智男に声をかけた少女は、落升 ヒロ子。堕智男の幼馴染だ。
「物語終盤でいきなりヒロインを悪堕ちさせようとしたんだが、どうやって堕とそうか悩んでたんだ。快楽堕ちか、洗脳か……」
真剣な顔で悩む堕智男の姿を見て、ヒロ子はふふっと笑いながら茶化すように言った。
「またやってたんだ、悪堕ち創作。勉強もやらなきゃだめよ」
「うっ……」
悪堕ち創作。それはこの辺りの小学校で大流行しているものだ。
ヒロインや主人公を如何にして堕とし、そのギャップを巻き起こすか。どれ程強力な悪堕ちパワーを作り出せるかで日々小学生たちは競い合っていた。
「しょうがないだろ、勉強するよりも悪堕ちの方が興奮できるんだよ」
「そうね。勉強で興奮する人はあんまり見ないわね」
ヒロ子はまた笑った。そして、思い出すように「あっ」と声を出し、堕智男の方を向く。
「そうだわ、堕智男に見せたいものがあったの。商店街の方で売ってたんだけど、これ」
「ン……?」
ヒロ子が取り出したのは一冊の本。表紙には大きく今期のアニメのヒロインが邪悪な衣装に身を包んだイラストが描かれ、中身はギリギリ子供が買える内容になっていた。
「これ、堕智男の好きな悪堕ち本でしょ? 悪堕ちの参考になると思って買ってきたの」
本を手に取った堕智男。
だが、喜んでいる雰囲気ではない。俯いたまま、本を握りしめて静かに口を開いた。
「……どこで買った?」
「えっ?」
「どこで買ったんだ、これ!」
豹変した態度に驚くヒロ子。数秒後、ヒロ子が商店街の入口近くにある出店だと応えると、堕智男は本を握りしめたまま走り出した。
――商店街の出店。
サングラスに黒い服を着た怪しげな男が、色々ギリギリな本を売っていた。
「おい!」
そこに堕智男が現れる。本を握りしめ、男を睨む。
「……なんだ、ガキ?」
ただならぬ気配を持つ小学生にサングラスの男は動揺する。
堕智男は本を目の前に突き出し、大声で怒鳴った。
「なんだこの本は!」
「……なんだ、とはなんだ? ウチのサークル、グラサンダーズの新刊だが?」
堕智男はその名を聞いてさらに怒りを露わにした。
「グラサンダー……! 知っているぞ。マナーの悪い、粗悪な悪堕ちを量産するサークルだろう!」
「粗悪だと? どのような同人誌を出そうが個人の勝手だ。そう言うお前の方がマナー違反じゃないのか?」
騒ぎを聞いて野次馬が集まる。そして、他人の同人誌にケチをつけるとは何事か、とサングラスの男に同意する。
「みんな、画力に騙されるな! コイツらは、人気の出たコンテンツのキャラを、原作をよく読まずに適当な男を竿役にし、悪堕ちを謳いながらエロ描写で誤魔化したただのエロ漫画しか描いてない!」
その言葉に、周囲の野次馬がざわざわと騒ぐ。同人イナゴであろうと、とりあえずエロくて悪堕ちっぽければシコるだろ、という者もいれば、この作品ならこんな適当な奴じゃなくて、もっと巨悪で原作でも洗脳ギリギリの展開やってるしそっちを使うべきだった、と分析する者もいた。
「お前は金儲けのために悪堕ちを使っているんだ。悪堕ちを悪用するなんて許せねぇ!」
サングラスの男がサングラスをくいっと持ち上げ、不敵に笑った。
「フッ……だったらどうするってんだ?」
「俺と悪堕ちバトルで勝負だ!!」
野次馬が盛り上がる。
「悪堕ちバトルが生で見れるとは!」
「小学生がグラサンダーに挑むとは、無謀な」
「いいや、意外とやるかもしんねーぞ!」
そして、挑まれたサングラスの男は笑った。
「ハーッハハハハ! この俺と悪堕ちバトルとはな! 知らないのか? 俺はグラサンダーの中でもトップスリーに入る神絵師、雷鳴のダークサンダーだぞ! 悪堕ちバトルは現在50連勝中! お前にようなガキに勝ち目はない!」
その名を聞き、さらに野次馬が騒がしくなる。
「神絵師……! しかも、雷鳴のダークサンダー!」
「グラサンダー四天王の一角じゃねぇか……!」
「終わったな」
だが、堕智男は揺るがない。
「それがどうした?」
「何?」
不敵に笑い、挑発する。
「神絵師で四天王? 知らねえよ。愛の無い悪堕ちしか作れないお前に、俺は負けないぜ」
「身の程知らずめ。我がペン先で屠ってやるわ!」
――悪堕ちバトル!!
「俺が先にやらせてもらうぜ、題材は流行のウシ娘だ!」
「なっ……!」
周囲がざわつく。
「ウシ娘……! トレンドを抑えた『メジャー』ジャンルか!」
「それだけではない……」
腕を組んだ偉そうな男性が口をはさむ。
「ウシ娘は動物の擬人化作品だ。奴は恐らく『怪人化』属性を放つつもりだろう」
「怪人化、だと!? 原作がほぼ人間の美少女なのに、わざわざ怪物にするってのか!?」
偉そうな男はうむ、と頷く。
「牛の怪物といえばミノタウロス。そして、最近では爆乳娘化させたホルスタウロスという造語が生まれる程、女怪人化との親和性は認められている」
「そうか……! ウシといえばホルスタインとミノタウロス! それは一般人でも理解できる! それらと流行のウシ娘を融合させれば……!」
「できたぜ!」
その言葉と同時に、雷鳴のダークサンダーがペンを置く。その直後、設置された巨大モニターに色が置かれたラフイラストが表示された。
「ウシ娘……ホルスタウロス怪人化! ラフの段階で貴様を叩き潰す力があるぜ!」
「ぐわあああああああっ!」
描かれていたのは、原作でも最も人気なウシ娘、ホルちゃんの悪堕ちイラストだ。元々大きかった乳が圧倒的な爆乳にされ、ドスケベな表情と共に血塗られた斧を持つ、エロと猟奇を混ぜた渾身の一撃。
「流石は四天王なだけはある……!」
「降参するなら今の内だ。力量の差を見せつけられ、恥をかく前にな……!」
堕智男は冷や汗をかきながら、冷静に相手の悪堕ちを分析する。
何か、弱点はないか。何か、大事な見堕としはないか……!
「……そうか! ヘヘ、理解したぜ。お前の悪堕ちの弱点を!」
「何だと?」
堕智男の言葉に一瞬動揺するダークサンダー。しかし、自身の絵を改めて見直しても、ミスなど見つからない。
「……苦し紛れのハッタリか? 無駄だ。俺にミスはない」
「それはどうかな?」
堕智男がペンを走らせる。小学生の力量では長年修業した大人の神絵師には敵わない。それは誰もが理解していた。だが、その迫力には何か目を見張るものがあった。
「できたぞっ!」
モニターに堕智男のイラストが映る。
……誰も何も言わない。
すると、ダークサンダーがその絵を指差し、大声で笑った。
「……クックック……ハハハハハハ! なんだ、その下手くそな絵は! 力量不足もいいところだ、まずはユーチューン部でイラスト講座の動画を観たらどうだ?」
画力の差は歴然。そして、絵に描かれた少女は悪堕ちした魔法少女のようにも見えるが、作品自体の元ネタが不明だった。
「俺の描いたものは……魔法少女ドーマ・イーナのドーマだ。知ってるやつは?」
「……」
誰もが口をつぐんだ。そう、そんな作品は誰も知らない。
「何かと思えば、『マイナー』ジャンルだと!? ハッハッハ! 笑わせるねぇ! 王道の『魔法少女』属性だろうと、『マイナー』を扱える程の技量が無ければ意味はない!」
周囲が静まり返る。勝敗は、誰が見ても明らかだった。
「いや……」
そこに、先程の解説をしていた偉そうな男が割り込んだ。
「魔法少女ドーマ・イーナ。知っているぞ。数年前、健全な青少年の性癖を歪めまくった問題作だろう」
「ああ」
堕智男が頷く。そして、ドーマ・イーナのキービジュアルがモニターに映る。
「主人公のイーナが、魔法少女のドーマに誘われて魔法少女となる、女の子のバディものだ。クールで冷静なドーマ、明るく元気なイーナ。良作だった。同時期にあの魔法少女アニメが放映していなければ、それなりの知名度になっていただろう」
「ああ」
堕智男が再び頷く。周囲は、ダークサンダー含め、静かに聞いていた。
「この先はネタバレになる。聞きたくなければ耳をふさぐがいい」
ダークサンダーがゴクリと喉を鳴らす。数人の野次馬が、ネタバレを聞きたくない、と立ち去った。
「イーナの幼馴染の少年がいる。西園寺と言って、優しい少年だ。イーナと西園寺のラブコメは2クール続いた」
西園寺の設定画がモニターに映った。
「だが……事件は起きた。西園寺は1年前に怪人に成り代わられ、今まで甘い言葉をささやいていたのは全て怪人だったのだ」
モニターの画像が切り替わる。そこには、西園寺の面影が若干残った怪人がいた。
「ドーマは西園寺を倒そうとしが、イーナが妨害してしまう。そして、現実を受け入れられないイーナに再び甘い言葉をささやき、西園寺はイーナを誘拐するのだ」
イーナが攫われる場面。それは、堕智男の性癖が歪み始めたシーンだった。
「攫われたイーナは、怪人化することで西園寺と共に生きられると唆され……自ら、怪人製造機に入ってしまう。最愛の人が怪人となっていた悲しみと絶望が彼女をそうさせたのだ」
堕智男は思い出す。主人公であるはずのイーナが、自ら怪人化を受け入れたシーンを。性癖が堕ちた瞬間を。
「魔法少女の力と怪人の力が混ざったイーナは、西園寺と共にドーマを襲う。そして、親友のドーマも怪人化すれば、全員が幸せに生きられるはずだと願うのだ。そして……」
「ど、どうなったんだ?」
ダークサンダーが神妙な顔で聞き入っている。ネタバレを聴かずに本編を視聴したいという思いもあったが、すぐにでも結末を知りたいという欲が強かった。
「結局、ドーマに殴られて正気に戻り、一緒に西園寺を倒すんだ。怪人化もなんだかんだで治ってしまった」
「な、なんだと~~~!!」
ダークサンダーが頭を抱えた。聴いていた野次馬も、悔しそうに唸る。
「それが一般作品の限界だ。だが、二次創作ならば?」
偉そうな男が、勿体つけて言う。そう、二次創作ならば、どのような結末も思いのまま。
「怪人化のイーナはこれだ。見るがいい」
「こ……こいつは!?」
そのイーナの衣装は、明確に悪に堕ちたと分かる衣装。だが、重要なのはそこではない。
先程の堕智男の描いた衣装は、明らかにこの怪人化イーナの衣装を参考に、魔法少女ドーマの意匠も取り入れた見事なものだったのだ。
「魔法少女ドーマ・イーナで実現しなかった、二人の主人公の連鎖堕ち。二人を並べてこそ意味のあるものだが、悪堕ち二次創作としては最高の素材と調理ではないか?」
「グ……だ、だが! ウシ娘のホルスタウロス化だって最高の調理だろう!?」
反論するダークサンダーだったが、そこで堕智男が指摘する。
「いや、のんびり牧場経営するウシ娘で悪堕ちって、世界観的におかしいだろ」
「し、しまったあああああああっ!!!」
そう。ウシ娘は美少女の人気コンテンツではあるが、ファンタジーよりものんびりしたゲーム。搾乳や種付けの二次創作絵は大流行しているが、悪堕ちとの相性は良くない。
「お前の悪堕ちは、所詮流行コンテンツに人気のジャンルを混ぜただけのものだ。世界観を無視したら、良い悪堕ちなんて作れはしない!」
「ぐ……ぐおおおおおおっ!」
堕智男は畳みかける。
「愛無き悪堕ちにパワーは無い! お前の負けだ!!!」
「ぐわあああああああっ!」
ダークサンダーは盛大に吹っ飛び、売り場に突撃して大量の本をまき散らした。
「勝者、阿久 堕智男!」
偉そうな男が叫んだ。そして、ギャラリーが湧き上がる。
「すげえええええ!」
「あのダークサンダーに勝ちやがった!」
「最高の悪堕ちを見せてもらったぜ!」
――それから、ダークサンダーは愛のない悪堕ち二次創作を辞めることを誓った。
「お前のお陰で俺は正気に戻った。これからは、俺の心に従ってより良い悪堕ちを目指すよ」
「ああ、悪堕ちバトルをしたらみんな友達だ!」
固い握手をして、二人は別れた。同人誌の悪堕ち本は普通にスケベだったので堕智男は持ち帰った。
その様子を見ていた、一人の少女。
「……堕智男ったら、また宿題せずに悪堕ちバトルして……!」
ヒロ子だ。悪堕ちバトルにばかり集中し、自分との遊ぶ時間を削る堕智男に内心悲しみを抱いていた。
「ククク……」
「誰!?」
笑い声が響く。
「ならば、お前も奴と悪堕ちバトルをすればいい」
「私が、悪堕ちバトル!?」
ヒロ子の言葉を無視して、謎の声は続ける。
「ククク……同人サークル、グラサンダーの一員になるがいい。そこで、悪堕ちバトルの勝ち方を教えてやろう……」
「そっか……堕智男と悪堕ちバトルを辞める条件でバトルすれば……!」
「そうだ。奴の娯楽を奪い、お前だけを見るようにすればいい」
「分かりました……グラサンダーの一員になります……!」
ヒロ子がそう言った瞬間、怪しいサングラスとスーツが目の前に現れた。その服に袖を通し、サングラスを身に着けた瞬間、ヒロ子の脳内に電流が走るような衝撃が走る。
「ククク…堕智男が我々の同人活動を邪魔するのを、見過ごすわけにはいかない。精々利用させてもらうよ、幼馴染さん……」
そのまま、ヒロ子は闇に消えていった。