『オセロ』
日々正義の味方と怪人達が戦いを繰り広げている街、リヴァーシティ。今日も突如街に現れた怪人を倒すべく一人のヒーローが出動していた。
「毎日毎日性懲りもなく……今日もちゃちゃっと倒すわよ!」
蜘蛛型の怪人の前に立ち塞がったのは、最近注目のヒーロー、サンダーガールだった。全身を包むのは抵抗を限りなく減らすためのぴっちりとしたスーツで、彼女の整った体をハッキリと見せつけている。その名の通り雷の如く素早い動きで敵を翻弄し、挌闘技を叩き込んでいくサンダーガール。あと数発で敵を倒せそうというところで、蜘蛛怪人の背後から二人目の怪人が現れた。
「あらあら、蜘蛛男随分と苦戦してるじゃない」
現れた怪人も蜘蛛のような見た目をしていたが、今まで戦っていた怪人とは違って女性らしい体つきで、その声からも蜘蛛型の女怪人であることが分かった。顔全体を覆ったヘルメットのようなものはは口元だけを出しており、その唇に引かれた紫のルージュが妖しさを増幅させる。
「せっかくだから手伝ってあげるわ」
そう言うと蜘蛛女は姿を消した。目の前に蜘蛛男がいるために、用心しながら辺りを見渡すサンダーガール。数秒後、サンダーガールの背後から蜘蛛女が出現する。これによって、挟み撃ちのような形になってしまった。
「前後から狙うなんて、流石は怪人、卑怯なことをしてくれるわね!けどそんなことくらいで負けたりはしないんだから!」
それを聞いた蜘蛛女は怪しく笑うとこう言った。
「何を勘違いしてるのかしら。アナタ、自分の体を見てごらんなさい」
蜘蛛女に言われて自分の体を見ると、体を覆っていた黄色とオレンジのバトルスーツの色が徐々に黒くなっていた。黒くなった部分はラバーのような光沢を持ち始め、自分を挟んだ二人の怪人の体のようにも見える。ラバー素材に変わったスーツは、少し体を動かすだけで奇妙な感覚を肌に与える。いつの間にか胸は大きく膨らみ、少年に見えなくもなかったサンダーガールの凹凸の少ない体は立派な女性らしさを出していた。頭まですっぽりラバーに覆われると次の変化が始まる。背中の辺りからメキメキと音を立て、新たに二対の腕が生えてきたかと思うと、足も変形してヒールのようなものを形成する。ラバーに包まれた頭も、少し膨らんだかと思うと硬質化し、目の部分が虫のようになったヘルメットに変わる。口元のラバーが周りに吸収される形で剥がれると、いつの間にか唇には紫のルージュが引かれていたことが分かる。ラバースーツに奇妙な紫のラインが浮かび上がると、バイザーの奥が怪しく光る。一瞬にしてサンダーガールは蜘蛛女と同じような姿になってしまった。
「アナタは二人の怪人に"挟まれた"。こうなるとね、その正義の心が強ければ強いほど、凶悪で強い怪人に反転するの。さて……アナタの名前を聞かせて頂戴?」
「フフフ、私は悪の怪人毒蜘蛛女!あぁ……反転することがこんなに素晴らしいだなんて!」
彼女の持っていた強い正義の心は、全てが悪の心に反転してしまった。この日、この街から一人のヒーローが消え、新たな怪人が誕生した。この毒蜘蛛女の出現によって、ヒーローは大幅に数を減らし、その数だけ怪人が増えるという事件が起きるが、それはまた別の話である。