石破氏逆転、透ける派閥 挑戦5度目、岸田首相の支援決め手 自民党総裁選
27日に投開票が行われた自民党総裁選は、決選投票の末、石破茂元幹事長が勝利した。勝敗の行方を左右したのは、退任する岸田文雄首相が率いる旧岸田派の支援だった。国民目線の政治の実現に向けて、新首相となる石破氏の手腕が試される。
■党員票は高市氏、「挙党一致」暗雲
自民党本部8階のホール。決選投票の結果が発表されると、新総裁に決まった石破氏は立ち上がり、周囲の議員に頭を下げた。そして、うっすら笑みを浮かべ、右手を高々と上げた。
石破氏が1回目に獲得した議員票は3位の46票で、75票の小泉進次郎元環境相、72票の高市早苗経済安全保障相に大きく水をあけられた。54人の麻生派を率いる麻生氏は、前日夜から自派閥議員に高市氏へ投票するよう指示していた。
そんな状況下で決選投票の逆転劇を生んだ要因は、二つある。
一つは、1回目で敗退した小泉氏や、小泉氏を支援した菅義偉前首相らが石破氏の支持に回ったことだ。石破、小泉両氏は前回総裁選でともに河野太郎デジタル相を推した間柄でもある。
もう一つは岸田首相の判断だ。旧岸田派から出馬した林芳正官房長官と上川陽子外相はいずれも決選投票には進めず、旧岸田派の票がキャスティングボートを握る状況が生まれた。直前まで仲間と協議していた首相は、「高市さんでは政策が合わない」と周囲に語り、決選投票に残る可能性が高かった石破氏か小泉氏のいずれかに投票するよう伝達したという。
首相周辺は、直前に伏線が張られたと明かす。首相は24日夜に米国から帰国すると、接触を求めていた石破氏と電話。「成長と分配の好循環を続けてもらうことが大事だ」と告げた。石破氏は25日に経済政策に関する会見を開き、岸田路線の継承を明言した。
「結局、岸田だ。党員票も1位だったのに、派閥の理論みたいなものでひっくり返された」。高市陣営からは、そんな恨み節も出ている。
石破氏の総裁選初挑戦は2008年。歴代最多の5度目の立候補となった今回を、「最後の戦い」と位置づけた。
12年の総裁選は、地方票で圧倒的な支持を得ながら決選投票で安倍晋三氏に逆転を許した。議員の仲間を増やすため、15年には自らの派閥を立ち上げた。
だが「議員同士の会合より読書を優先したい」と群れることを嫌う石破氏の周囲に、なかなか仲間は集まらなかった。
18年、20年の総裁選にも挑んだが、いずれも敗退。責任を取って派閥会長を辞し、仲間は散り散りになった。党内では「石破は終わった」との見方が広がっていた。
流れを変えたのは、昨年末から大きな騒ぎになった裏金事件だ。安倍派を中心に派閥政治に対する国民の疑念が深まると、その対極に位置する石破氏への期待が再び高まった。
そして今回の総裁選。当初は「投票をお願いするのではなく、政策に共感してもらうことが大事だ」などとこだわりを見せた石破氏も、終盤には「力を貸してほしい」と頭を下げて回るようになった。26日には、首相時代に退陣を迫ってから溝のある麻生太郎副総裁にも会い、頭を下げた。
それでも国会議員の中で「石破氏支持」が広がったわけではない。結果からもそれは明らかだ。
決選投票の議員票差はわずか16票。支持が真っ二つに割れる中、小差で勝利を得た石破氏に、早くも「挙党一致態勢が築けるのか」といった疑問の声が飛んでいる。
総裁選を戦った他候補の処遇などに関心が集まるが、石破氏は就任会見で「人事は白紙」と強調。党内パワーバランスが大きく変化する中、分断を回避できるかに注目が集まる。(今野忍)
■弱い党内基盤、国民支持がカギ
石破氏の勝利は、自民党が政権復帰した12年から続く「安倍路線」の大きな転換点になる可能性がある。「国民目線の政治」を掲げる石破氏の党内基盤は弱く、国民の支持がより重要な意味を持ちそうだ。
「自由闊達(かったつ)な議論ができる自民党、公平公正な自民党、そして謙虚な自民党。皆が心を一にして、政権を奪還した。もう一度その時に戻りたいと思っている」
新総裁に選ばれた直後、石破氏は所属議員を前に壇上からこう訴えた。16年に地方創生相を外れた後、党幹部や閣僚から遠ざかってきた石破氏は、安倍晋三元首相を巡る「森友・加計学園」や「桜を見る会」などの問題で党内が沈黙してきたことへの不満が強い。さらに、派閥の裏金問題で落ち込んだ党の信頼回復への使命感もある。
党の再生へ、最初に問われるのが新政権の布陣だ。
「安倍路線の継承者」を自任する高市氏を退けたものの、1回目の投票では当初から劣勢とみられてきた国会議員票のみならず党員・党友による地方票でも後れを取った。高市陣営中堅は「都市部では高市氏が圧勝だった。無視はできない」とすごむ。
高市陣営には、裏金問題の対象者である安倍派議員が多く集まった。次の選挙で「裏金議員」を非公認にする可能性もにおわせてきた石破氏への警戒心は強く、いかに分断をおさえるかがポイントになりそうだ。
衆院議員任期が残り約1年となる中、どのタイミングで解散に踏み切るのかも焦点だ。石破氏は25日のBSフジの番組で「国民が判断できるだけの材料は出さねばならないが、新政権であるから、なるべく早期に信を問うのも当然のことだ」とし、国会論戦を経て解散総選挙に踏み切る考えをにじませた。永田町では衆院選について、10月27日や11月10日に投開票との観測が流れる。
石破氏は当初、10月1日召集の臨時国会で予算委員会を終えて解散するシナリオを描いていたが、最近は代わりに党首討論を開く案も検討しているという。
国会や国政選挙の日程を縫うように、外交も控える。10月上旬にラオスで東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会合が、11月中旬からは南米でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や主要20カ国・地域首脳会議(G20)が開かれ、早速、各国首脳らと向き合うことになる。
中でも米国は11月に大統領選を控え、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が激しく争う展開だ。仮に「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏が復権すれば、日米関係への難しいかじ取りを迫られることになる。
中国は交流機会の多かった石破氏への評価の声がある一方、8月に台湾を訪問したことへの警戒も強まっている。習近平(シーチンピン)国家主席が石破氏と、どのような関係を築くかも注目だ。(岡村夏樹)
■今後の主な政治日程
<10月1日> 臨時国会召集・新首相指名
<4日めど> 首相の所信表明演説
<6~11日> ラオスで東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議
<10月中~下旬> 衆院解散、総選挙?
<11月5日> 米大統領選投開票
<中旬> ペルーでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議
<18~19日> ブラジルで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)
<12月2日> 現行の健康保険証廃止
<2025年1月> 通常国会召集
<4月13日> 大阪・関西万博開幕
<夏> 参院選
<10月> 衆院議員の任期満了
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