高市氏、ネットとリアルのどぶ板 保守層基盤、党員票積み上げ 自民総裁選
過去最多の9人が名乗りを上げた自民党総裁選で、高市早苗経済安全保障相が1位で決選投票に進出、石破茂新総裁とデッドヒートを繰り広げた。後ろ盾の安倍晋三元首相の亡き後で苦戦も予想されたが、善戦の理由は何だったのか。
初の女性首相誕生まで、あと少しだった。高市氏は、1回目の投票で国会議員票、地方票ともに石破氏を上回り、迎えた決選投票。わずかに21票差で石破氏に競り負けた。高市氏は支援者の議員らを前に「力が足りなかった。結果を出せず、自分を責めるばかりだ」と悔しさをにじませた。
高市氏の躍進の象徴は、地方人気の高い石破氏と肩を並べた党員支持だ。1回目の投票では石破氏を1票上回る109票を獲得した。決選投票でも、47の都道府県票のうち、都市部を中心に21票を得た。
高市氏は「安倍路線の継承」を掲げ、伝統的な価値観や国家観を重視する政治家だ。こうした姿勢に同調する強硬保守層をベースに、高市氏の地道な地方回りとネットを駆使した戦術が奏功したと、高市氏周辺はみる。
高市氏側は総裁選を見越し、地方票の掘り起こし戦略を検討。その一環として毎週末、各地の講演会に出向いた。保守系の運動団体「日本会議」と連携する地方議員たちも支援に回った。日本会議地方議員連盟の議員らが中心となり、全国各地の地方議員約1千人分の名簿獲得に奔走した。
こうした支持の広がりを後押ししたのは、高市氏のネット上での人気の高さだ。ユーチューブチャンネルの登録者は約37万人で、石破氏の約1万7千人を圧倒。動画の再生回数は、投稿のたびに数万回を記録した。X(旧ツイッター)のフォロワーも約70万人(小泉進次郎元環境相は約6万人)で、高市氏の投稿には、多いときには10万の「いいね」がついた。
陣営関係者は、7月の東京都知事選で165万票以上を獲得し、2位に食い込んだ石丸伸二・前広島県安芸高田市長を支援した民間スタッフ約50人が、SNS上での拡散に寄与したと明かす。この関係者は「石丸氏同様、ネットのどぶ板とリアルのどぶ板による相乗効果だ」と話した。
課題は国会議員の支持だった。前回総裁選で受けた安倍氏の支援はなく、推薦人確保も不安視された。一方で「高市氏が立候補できなければ、保守的な自民の支援団体が離れてしまう」と危機感が広がり、安倍派幹部らの働きかけもあって、20人の推薦人を確保した。
選挙戦に入ると、女系天皇に理解を示す石破氏、選択的夫婦別姓に賛成する小泉氏の優勢が伝えられ、これらに反対する高市氏の立ち位置が明確になったことも党内保守派の支持拡大につながった。首相就任後の靖国神社参拝も明言し、保守系議員にラブコールを送り続けた。
裏金事件の「主役」だった安倍派に配慮し、再処分に否定的な姿勢を取り続けた。中国軍機の領空侵犯や深セン日本人学校に通う男児の殺害事件が発生し、中国に厳しい姿勢を示す高市氏に期待が高まったとの見方もある。
選挙戦が中盤に差し掛かると、報道各社の世論・党員調査で高市氏の急伸が伝えられた。高市氏が告示前に政策集(リーフレット)を党員らに郵送していたことが要因との見方があるが、議員の支持拡大の追い風に。最終盤には麻生派と参院安倍派、衆院茂木派などの協力も取り付け、議員票の上積みに成功した。
ただ、高市氏の急伸ぶりは、「高市氏が首相になれば、戦後の外交・経済が全部ふっとぶ」(党幹部)との危機感をあおることにもなり、僅差(きんさ)での敗北につながった可能性がある。(笹山大志、西村圭史)
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