827 クマさん、爆発花を採取する
わたしはミニクマゴーレムを4体ほど作り出す。
「かわいい」
「クマか」
リディアさんとゼクトさんはミニクマゴーレムを見て、そんな感想を漏らす。マーネさんは「本当にクマが好きなのね」と、少し呆れている。
細かい作業をするので、確認のためミニクマゴーレムを動かす。
リディアさんは動いているミニクマゴーレムを不思議そうに見ている。
「動いている。これも魔法?」
「土魔法で作りだし、動かしているのね。ユナは、こんなことまでできるのね」
「ゴーレムって、あまり見たことがないんだけど、難しいの」
「わたしは、簡単だと思うけど。どうなの?」
世間一般的なことを知らないので、マーネさんに尋ねる。
「通常の魔法と違って、操作系の魔法は扱う人が少ないから、見かけることは確かに少ないわね。魔物を倒すだけなら、ゴーレムを作るより、魔法を放ったほうが速いし」
確かに、魔法を放てば終わりだ。
「扱いにかんしては、人によりけりとしか言いようがないわね」
リディアさんは、納得したのか、不思議そうミニクマゴーレムを見ている。
「それで、そのクマに爆発花を採取をさせるわけね」
「ゴーレムなら爆発しても大丈夫だからね。マーネさん、一応確認だけど、どうして爆発するか分かる?」
「分かれば、わたしがとっくに採取しているわよ」
「なら、実験をするしかないね」
「実験?」
「花が揺れる。花に触れる、音に反応、あとは温度とか?」
考えられるのはそのぐらい?
花が揺れたことで、爆発。
花に触れることで、爆発。
動物などが通る音を感じで爆発?
動物の温度を感じて爆発?
「面白い観点ね」
「爆発理由が分かれば、採取ができるでしょう」
そんなわけで実験をすることになった。
まず、これは……。
わたしは風魔法を放つ。
蕾みは揺れるけど、反応なし。
次にミニクマゴーレムを動かし、ゆっくりと花の中に移動させる。
蕾みに反応なし。
爆裂花の中を獣が通るように、歩かせる。
反応無し。
走らせても反応無し。
花に触れても反応はない。
「反応しないわね」
隣でミニクマゴーレムを見ながらマーネさんが呟く。
「近くに寄っただけで、爆発すると思ったんだけど」
わたしも、そう思っていた。
でも、ミニクマゴーレムを動かしても、爆発花は爆発しない。
実は、近寄っても爆発しない?
と思ったら、鹿がやってきて、爆発花の中に入った瞬間、爆発して、鹿が倒れる。
「爆発したわね」
「したね」
あとは考えられるのは熱だけど、花が熱を探知する?
半信半疑でミニクマゴーレムを動かす魔力を変化させ、熱を持たせる。
ミニクマゴーレムが熱くなる。徐々に熱くなっていくと、蕾が爆発した。
「ユナ、なにをしたの? あのクマは動いていなかったわよね?」
「あのミニクマに動物と同じように体温があるように熱くさせたんだよ」
「熱……。つまり、体温ってことね」
「たぶん、生物の体温に反応して爆発していたんだね」
つまり、ミニクマゴーレムなら採取は可能ってことだ。
「でも、動物の体温で爆発するとなるとこっちに運べないね」
土魔法とかで、花ごとに囲う?
でも、お持ち帰りしても、土魔法を解除すれば、爆発することになる。
「それなら大丈夫よ」
マーネさんはそう言って、アイテム袋から植木鉢を取り出す。
「この植木鉢には魔力を放出する効果があるわ」
「魔力を放出?」
「爆発花の爆発理由は分からなかったけど、爆発の元が魔力ってことは分かっていたの。爆発花は死んだ魔物の血肉と魔石などを吸収して成長する。その魔力を吸収した力が花の中にある種に溜まり、爆発する。だから魔力を抜けば爆発はしなくなるの」
「それじゃ、初めから、この植木鉢があれば採取ができたってこと?」
わたしの言葉にマーネさんは首を横に振る。
「この植木鉢があったとしても、採取は無理よ。近寄れば爆発するんだから。でも、あのクマが採取して、この植木鉢に入れてくれれば」
「爆発しない」
「そういうこと」
ミニクマゴーレムを呼び戻し、植木鉢を持たせる。
「でも、そんな植木鉢があるんだね」
「一部の薬草には強い魔力が込められた植物もあるわ。そのまま使うと危険な場合は魔力を抜いて使うの」
知らないことばかりだ。
植木鉢を持ったミニクマゴーレムは地面を掘り、爆発花の採取を始める。
採取した爆発花を植木鉢に入れる。
あとはこっちに運ぶだけだ。
「本当に運んで大丈夫?」
「そうね。3分ほど待ったほうがいいかも。そうすれば魔力が抜けるはず。確認に、さっきのクマに熱を持たせて、爆発しなければ大丈夫でしょう」
わたしはマーネさんの指示通りに3分待つことにした。
ミニクマゴーレムを見ていると、ゼクトさんが口を開く。
「それにしても、ゴーレムって、こんな細かいこともできるんだな」
「それはユナの扱いが上手だからよ」
褒められると、少し嬉しい。
「ゴーレムを扱うには命令系と操作系の2つがあるわ。命令系は言葉通りに、頼んだことを命令通りに動くこと。過去の遺物で、動くゴーレムの話を聞いたことがあるでしょう」
「ああ、お宝を取ろうとしたら、襲いかかって来るやつだな」
「ええ、お宝を盗む者、部屋に侵入した者を倒す。命令されたことだけを忠実に行う。これが命令系。利点は勝手に動いてくれること、欠点は命令したこと以外動かないってことね。魔力が切れても動かないわ。あと、操作系は言葉通りにゴーレムを操って動かすこと。利点は自分が考えているように動かせるってこと。欠点は離れると動かなくなるってことね」
マーネさんの説明にゼクトさんとリディアさんは関心したように頷いている。
「土で作ったゴーレムは魔力が何体でも作れるから、今回のように危険な作業をさせるには、最適ね」
マーネさんのゴーレム講義をしていると3分ほど経ち、ミニクマゴーレムの温度を上げ、爆発花が爆発しないか確認する。
「大丈夫みたい」
わたしはミニクマゴーレムに爆発花が入った植木鉢を運ばせる。
「一応、3人はわたしの後ろに下がって」
「ユナ1人に危険なことはさせられないわ」
「わたしなら、大丈夫だから。それに、わたしはマーネさんの護衛でしょう」
わたしなら、クマ装備が守ってくれる。
「そうだけど、本当に無理はしないでよ」
マーネさんは素直にわたしの後ろに移動する。
植木鉢を持ったミニクマゴーレムがやってくる。
わたしの後ろでは息を呑む音が聞こえる。
わたしはゆっくりと手を伸ばして植木鉢を受け取る。
爆発はしない。
「アイテム袋にしまうわ」
マーネさんはわたしの後ろから顔を出すと、爆発花が入った植木鉢をアイテム袋にしまう。
「これで大丈夫ね。ユナ、ありがとう」
「それじゃ、せっかくだから、もう少し採取しようか」
魔物を減らすために爆発花は必要だけど、まだたくさん咲いている。
もう少しぐらい採取しても大丈夫なはずだ。
そんなわけで爆発花を10輪ほど、手に入れた。
ミニクマゴーレムは役目を終えたので、土に崩す。
リディアさんが「ああ」と少し悲しそうにする。
「ユナ、そのクマに埋もれていた種も貰うわ」
ミニクマゴーレムには爆発花が爆発したときの種が埋め込められていた。
マーネさんは崩れたミニクマゴーレムから種を拾う。
「ユナ、ありがとうね。ユナのおかげで、爆発花の特徴を知ることができたわ」
「でも、育てるのは難しそうだね」
「体温で爆発することが分かったから、育てる方法はあるわ。ユナがしたようにゴーレムを使えばいい」
「でも、そんな危険な花を研究して、どうするの?」
役には立たないと思う。
危険なだけだ。
「季節限定になるけど、侵入者防止にも使えるわ。もっとも、どのくらいの距離で反応するのか、どのくらい育つと爆発するのか、いろいろと確認が必要になるけど。まあ、そのあたりはゆっくりと調べていくつもり」
マーネさんが悪い顔で微笑む。
可愛い顔で悪人顔をするのはやめてほしいんだけど。
でも、花瓶にある花が爆発って、普通に考えただけでも恐いんだけど。
「だけど、爆発花って、安易な名前だね」
「名前は分かりやすいほうがいいのよ。この花の名前がリディアの花とかだったら、どう思う」
「可愛いと思う」
「ユナの花だったら」
「クマになりそう」
「そう思うのはあなたと、あなたの知り合いだけよ」
確かに。
「でも、爆発花って名前だったら、爆発して危険だと誰でも分かるでしょう。だから、名前は分かりやすいほうがいいのよ。それが危険であるほどにね」
まあ、名前って、見たまんまから付けることもある。中には発見者の名前とかもあるみたいだけど、見たまんまの名前のほうが覚えやすい。
無事に爆発花の採取ができました。
家の玄関に置いてあったら、恐いですね
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