【動画】1966年当時の袴田巌さんの取り調べの音声。取調官の厳しい追及を受け、最初は無実を訴えていた袴田さんも言葉を発しなくなる=関係者提供

第3回取り調べ計430時間、小便も室内で 袴田さんが密室で自白するまで

金子和史 黒田早織 平川仁

 取調官「お前さんの全てについて科学的に検査をした結果、来てもらったんだよ、今日は」

 事件発生から49日後の1966年8月18日、静岡県警は当時30歳の袴田巌さんに任意同行を求め、取り調べを始めた。

 事件4日後には、袴田さんの周辺は騒々しくなっていた。全国紙では「従業員『H』浮かぶ」と報道された。県警は参考人として聴取し、パジャマを発見。血痕があり、血液型が被害者のものと一致したとされた。

 弁護団によると、取り調べは合計約430時間。うち約47時間分の録音が、2014年に県警の倉庫で発見された。のちに弁護側に開示された。

テープから再現する初日の取り調べ

 袴田さんは当初から明確に否認していた。

 録音によると、取調官は「アリバイがない」「手指に傷がある」などと追及するが、袴田さんは「寮で寝ていて、(被害者宅が)火事と聞き消火活動をした。トタン屋根で手を切った」と反論。堂々巡りが続く。

 2時間以上が経った頃には、袴田さんが感情をぶつける。

 袴田さん「お前ら、どうしても犯人だって、仕立てんだから俺を」

 取調官「そんなお前、ふてくされたようなこと言うんじゃないよ」

 袴田さん「ふてくされたくもなるよ。お前だろう、お前だろうって」「自分がやったなら、そうやって言うよ。なんで、そんなことして、生きながらえようと思うだよ。(犯人は)どっかにいるわけだよ、絶対」

 取調官「うん」

 袴田さん「俺ばっか重点を置いて。だから、何も出てこねえだよ」

 取調官「お前に対してもやるよ。他のAという男にもやるよ。Cという男もやる。そら当然のことじゃないの?」

 袴田さん「でっち上げようと思えや、すぐでっち上げられるぜ」

 さらに、思いの丈をぶつけるように言った。

 袴田さん「冗談じゃない。俺の一生をむちゃくちゃにしたのはあんたらだよ。一生忘れんぞ」

取調官「証拠が言ってる」

 取調官は血液型の鑑定結果をもとに、ひたすら「自白」を求めた。

 袴田さん「他に犯人が挙がったらどうする?」

 取調官「科学的証拠がある人が犯人でなけりゃ、他に犯人ないわ」

 袴田さん「俺がやったって、誰が言うの?」

 取調官「俺らが言わなくても証拠が言ってる」

 袴田さんは否定し続けたが、18日の夜に逮捕された。

「泣きなさい」と約100回

 県警の内部資料によると、否認を続ける袴田さんに対し、逮捕から12日目に取調官を4人から6人に増やした。会議では「犯人は袴田に絶対間違いないと(本人に)強く印象づけること」を確認した。

 代わる代わる自白を求め、日付が変わっても聴取が終わらない日もあった。衰弱していく袴田さんに、15日目には医師が注射や薬を処方。18日目には小便も室内でさせられた。

 19日目。4人の取調官が「お前が犯人だ」「謝れ」「言え」と延々と責め立てる。

 「泣いてみろ」「泣きなさい」という言葉は約100回放たれ、最後は「お前は4人を殺した」などと10回繰り返し、録音は切れた。

 20日目、袴田さんは自白した。その場面の録音はない。その後は取調官の問いかけに、「はい」「そうです」と力なく応じる声が残っている。(金子和史、黒田早織、平川仁)

次回は…

県警の内部資料からは、袴田さん以外に28人が捜査線上に浮かんでいたことがわかりました。どんな人物像だったのでしょうか。

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この記事を書いた人
金子和史
東京社会部|裁判担当
専門・関心分野
事件、司法
黒田早織
ネットワーク報道本部|東京駐在
専門・関心分野
司法、在日外国人、ジェンダー

連載なぜ死刑囚にされたのか 袴田さん事件の58年(全14回)

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