「パートナー制度があればいい」は危険な考え 三成美保教授が警鐘

聞き手・山田健悟

 400を超える自治体が性的少数者のカップルに公的な証明書を発行する「パートナーシップ宣誓制度」を導入する一方で、自治体ごとに制度の使いやすさや内容に違いが生まれている。

 今後、性的少数者をめぐる制度設計や改良について、自治体や国はどう向き合うべきなのか。ジェンダー法学者の三成美保・追手門学院大学教授に聞いた。

 ――香川県のパートナーシップ制度について、当事者から疑問の声が出ています。

 内容を見ると、不十分である印象を受けます。

 当事者にとって、パートナーシップ宣誓制度を利用することは、部分的にとはいえ、自分の性的指向をカミングアウトすることです。一種のリスクがある行為と言えるでしょう。

 しかし、香川県の制度の場合、そのリスクに見合ったリターンが得られません。利用者も限られてしまいます。

 ――都道府県や市町村において、性的少数者に向けた政策立案や制度設計はどのように考えるべきでしょうか。

三成さんはパートナーシップ宣誓制度の広まりを評価する一方、「制度があればいい」との考えに警鐘を鳴らしています。後半で詳しく紹介します。

 現状、各自治体のパートナーシップ宣誓制度は完璧なものではないでしょう。しかし、それでも全国で7千組を超えるカップルが制度を利用しています。潜在的には、その数倍、十数倍の当事者がいることを念頭に政策や制度を考える必要があるでしょう。

 当事者に利用してもらいやすいようにするには、当事者団体からニーズや課題を聞き出し、自治体の権限の中でどう対応できるのかを積極的に考えていく必要があります。

本当に考えなければいけないことは

 ――全国的に制度が広まり、性的少数者に対する理解も進んできているように感じます。

 都道府県や自治体にパートナーシップ宣誓制度が広がること自体は決して悪くありません。しかし、「宣誓制度があればいい」という考え方はまったく容認できません。新たな差別の温床になりかねない、危険な考え方です。

 現在の日本では、法的に婚姻関係が認められているのは、「異性間」の「法律婚」カップルのみです。しかし、基本的人権の尊重や法の下の平等が定められた憲法をもとに考えれば、異性間の事実婚、同性婚も同様に認められるべきです。

 パートナーシップ宣誓制度は、あくまでも多様な婚姻関係を認めるための一つの足がかりにすぎません。本当に考えなければいけないのは、国際的にも立ち遅れ、同性婚や事実婚を望む人たちの人権を侵害している日本の婚姻制度です。

 「パートナーシップ宣誓制度があれば十分」という考え方にとどまってしまっては、家族のあり方自体に議論が及ばなくなってしまいます。宣誓制度自体を否定するつもりはありませんが、おおもとの問題点を忘れてはいけません。

一人でも悩む人がいるなら

 ――国では、同性婚に関する議論が進んでいないように思います。

 事実婚さえ認められていない日本では、一足飛びに同性婚の議論をすることはきわめてハードルが高いでしょう。

 国際的に見れば、1990年代に欧米を中心に同性パートナーを認める条例が出てきました。その後、2001年にオランダが初めて同性婚を法制化。2010年代に入り、多くの国がオランダに続きました。

 欧米では、条例のレベルで同性パートナーが認められてから法制化まで20年ほどかかっています。では、日本も同様に20年待たねばいけないかというと、そうではありません。国際的理解が進み、欧米の先例があり、国内世論でも賛成が増えている現状を考えれば、法制化に向けた変化を加速させることは可能ですし、必要なことです。

 ――そのような中で、都道府県や市町村の宣誓制度はどのような意義があるのでしょうか。

 制度が存在し、宣誓者が数として把握できるようになることで、これまで見えてこなかった当事者の姿や数がとらえられるようになります。実際に当事者がいることが明白になるわけですから、国で同性婚の議論を進める際の根拠やデータになるでしょう。

 もちろん、性的少数者をとりまく問題は、人権問題ですから、数の大小は関係ありません。一人でも悩む人がいれば、その人を救わなければなりません。

 都道府県や市町村も、最初から完璧な制度はつくれません。潜在的な当事者が、一人でも多く制度を利用できるように、積極的に制度の改善や運用に取り組んでほしいと思います。(聞き手・山田健悟)

三成美保さんのプロフィール

 みつなり・みほ 1956年生まれ。追手門学院大学教授、奈良女子大学名誉教授。2024年3月に出版された「同性婚のこれから 『婚姻の自由・平等』のために法と政治ができること」(花伝社)を企画・監修したほか、著書多数。

「朝日新聞デジタルを試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
山田健悟
高松総局|香川県政担当
専門・関心分野
地方政治、行政、ジャーナリズム
  • commentatorHeader
    仲岡しゅん
    (弁護士)
    2024年9月24日7時0分 投稿
    【視点】

    パートナーシップ宣誓制度が「あればいい」わけでないのはその通りだと私も常々思っています。 制度があることによって、一種の教育的効果や当事者へのエンパワーメントにはなるだろうけれど、法的な効果が付与されておらず、それでは法的保障を求める人たちのニーズには応えきれていません。 他方で、今のままの婚姻制度に同性カップルを参入させればそれでいいというわけでもなく、婚姻制度そのもののあり方も旧態依然とした状態からアップデートされる必要がありますね。 世論調査などでも同性婚や選択的夫婦別姓への賛成意見は今や過半数を超えているのに、政治の動きがあまりにも遅い。コンクリート並の頭の硬さに辟易としています。

    …続きを読む

関連ニュース

関連キーワード

注目の動画

一覧