第2回「偽情報」の配信元、得られた取材協力 浮上した中国企業の実態とは

編集委員・須藤龍也

 一体、誰が記事を掲載したのか。その後の取材で浮かび上がったのは、中国系の会社が運営するプレスリリース配信サービスの存在だった。

 あるサービスのウェブサイトに書かれた説明によれば、料金に応じて中国や日本、韓国、アジア地域の国々のサイトにプレスリリースを掲載することができるという。

 例えば中国の10サイトに掲載を希望すれば、中国語の翻訳付きで1本あたり180ドル、30サイトなら450ドル。日本の10サイトで290ドルといった価格が設定されていた。

 いずれのサービスにも共通するのは、利用するためのアカウントをつくり、料金さえ支払えば、数日以内に誰でも記事が配信できてしまうという手軽さと早さを売りにしていることだ。

 なかには欧米や日本の大手メディアと提携し、プレスリリースを配信できるとPRしているところもある。真偽のほどは不明だ。

配信元「あるお客様から……」

 取材の結果、沖縄をめぐる不可解な12本の記事が掲載された出所不明のサイトは、いずれもこれらの配信サービスが運営に関わっているとみられることがわかった。

 サイトに掲載された数多くのプレスリリースを手がかりに、同じリリースが掲載されている運営元のサイトを探し出し、特定した。

 記者は、12本の記事が掲載された経緯について、運営元とみられる複数の配信サービスの運営会社に取材を申し込んだ。

 数日後、そのうちの1社から返事が来た。

 「あるお客様からプレスリリース記事の掲載依頼があった」「沖縄の独立に関する記事を掲載するために、いくつかの取引をしている」

 驚くことに、掲載の事実についてあっさりと認めた。

 この配信サービスの運営会社は、中国本土と台湾にオフィスがあるという。責任者を名乗るこの人物は、「非常にセンシティブなことだ」と、記者からの問い合わせに警戒感を示していた。

 沖縄に関する政治色の強い記事が事実と異なる内容で掲載されていることを記者が伝えたところ、匿名を条件に取材に応じた。責任者によると、掲載依頼をしてきたのは中国企業で、オンラインでプレスリリースを配信するPR会社という。この会社のサイトによれば、上海にオフィスがあるとされる。

 なぜこの中国企業が、沖縄独立に関する日本語の記事の掲載を依頼してきたのだろうか。

 取材に応じた人物は、「中国企業の上に誰か(別の依頼主)がいる。メールでのやりとりの中で彼らは何度も、顧客から詳細を確認する必要があると述べていた」と語り、「記事は中国や台湾でよく目にする政治的プロパガンダだ」と推察した。

グーグル傘下組織も疑惑を指摘

 この人物の考えを裏付けるような事実がのちに判明する。この中国企業の名前が思わぬところで見つかったからだ。

 それは、米グーグル傘下のサイバーセキュリティー組織「マンディアント」が昨年7月に発表した、米国内で親中派による情報操作活動が行われていた疑いがあるとするリポートだった。配信者としてこの中国企業が名指しされていたのだ。

 リポートが指摘するのは、偽のニュースサイトを通じて米国の人々をターゲットに、中国の政治的利益を支援する記事を戦略的に広めていた、というものだった。

 マンディアントはリポートの中で、この中国企業を1年以上にわたり追跡し、広範な情報操作キャンペーンに関与していた証拠が得られたとしていた。

 リポートには日本に関する情報は書かれていなかった。ただ、沖縄をめぐる不可解な12本の記事も、プレスリリースを配信する複数のサイトに掲載されていた。仕組みや構図が重なる。

 一体、中国企業の実態とはどのようなものなのか。記者が現地に向かった。(編集委員・須藤龍也)

「朝日新聞デジタルを試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験

連載偽情報を追う ネットに漂うフェイクニュース(全5回)

関連ニュース

関連キーワード

注目の動画

一覧