岐路に立つと、彼女の笑顔を思い出す。会うことはできなくても、優しい瞳が今も背中を押してくれる。
出会いは、冨樫信一郎さん(51)が上智大の英語学科2年生だった1993年10月。翌年の新入生の面倒を見る「ヘルパー」に選ばれた。
半月形の優しい瞳
20人ほどの在学生が教室に集められた最初のミーティング。交際相手のことなどをざっくばらんに話す1学年下の女性がいた。
「一緒にいると気後れしてしまい、苦手なタイプだな」。山形市から上京し、引っ込み思案だった冨樫さんが小林順子さんに最初に抱いた印象だった。
それでも、顔の似ていた人気落語家にちなんだ「志の輔」というあだ名で積極的に話しかけられた。打ち解けるのに時間はかからなかった。
姉御肌で、ヘルパーの活動を引っ張った順子さんの周りには自然と人が集まった。人の懐に臆さず飛び込む大胆さの一方で、半月形の瞳はいつも優しくほほえんでいた。
順子さんは「世界で通用するジャーナリスト」を目指していた。海外で暮らした経験がないのに、帰国子女が集まる英語のトップクラスに在籍。冨樫さんは「並々ならぬ努力でその座をつかんでいた」と尊敬していた。
卒業式の日に
最後に会ったのは96年3月、冨樫さんの卒業式の日だった。
交際相手と別れ、希望先に就職できず落ち込む冨樫さんを気遣い、式典後に控…
この記事は有料記事です。
残り1320文字(全文1880文字)
全ての有料記事が読み放題