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2024年9月17日(火)

ミッドライフクライシス “人生の曲がり角”をどう生きる

ミッドライフクライシス “人生の曲がり角”をどう生きる

最新の調査では日本の45~59歳の「幸福度」が過去最低に。番組には、子育てでキャリアを諦めた後悔や就職氷河期に翻弄された怒りなど、多くの声が届いています。生き方が多様化して人生の「正解」が分からず、誰にも相談できない…。自らも50代後半、これからの人生に悩む経験をし“前向きに年を重ねよう”と発信する小泉今日子さんは何を語る?中高年の心の危機“ミッドライフクライシス”。これからの“老い方”を考えました。

出演者

  • 小泉 今日子さん
  • 熊代 亨さん (精神科医)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

人生これでよかった?

桑子 真帆キャスター:
私たちの人生には、心を悩ませる2つの時期、曲がり角があると言われています。1つ目が10代。子どもから大人に変わる思春期です。そして、2つ目が40~50代の中年期、第2の思春期とも呼ばれます。この時期になりますと、体力の低下や更年期などの身体的変化に、キャリアや子育てが一段落するなどの社会的変化が重なることで陥るのが「ミッドライフクライシス」。これまでの人生や今後の生き方に心理的葛藤を抱く人が少なくないといわれています。番組で経験談を募集したところ、人生の曲がり角に立ち、どこにもぶつけられない感情を思いのままにつづった投稿が次々と寄せられました。今、中高年に何が起きているのか、実際に声を聞いてきました。

中年期の“心の危機”

富山県で大学の講師として働く佐々木宏太郎さん、54歳です。この数年、抱えてきた苦しさを番組に寄せてくれました。


ふと、これまでの人生で何も成し遂げていない。何かを達成するほどの時間も気力もないことに気がついて、自信喪失、自己否定に見舞われました

佐々木さんの投稿

佐々木さんは、物理学の世界的な研究者になりたいと企業に勤めながら大学院に通い、30歳で博士号をとりました。その後、2人の子どもにも恵まれた佐々木さん。家族の生活を支えるため、大学の講師だけでなく、メーカーなど企業での仕事も掛け持ちして働いてきました。

佐々木宏太郎さん(仮名・54)
「子どもたちが小さかったので、家族の生活も、日々の生活も含めて、少なくとも(子どもを)世に出すまでは、なんとか生活を維持しないといけない」

佐々木さんが精神的な不調に陥ったのは、子どもが大学受験を終えた50歳のとき。ふと、周囲を見渡すと、研究者の同期は大学教授になるなど、すでにキャリアを築いていました。

佐々木宏太郎さん
「若い優秀な人はどんどん出てきますし」

これまでの人生は何だったのか。無力感が募り、先が見えなくなったといいます。

佐々木宏太郎さん
「競争社会の中で自分の存在意義を残すことができないという葛藤。新しいことをやって自分の存在を示さないといけない。それなのに自分は残りの人生を考えると、そうそう新しい事ができないんじゃないか。自分の存在そのものが意味が無いんじゃないか。本当にどん底のときは、そういうことも考えたりした」

寄せられた投稿の中には、50代の女性からの悲痛な声もありました。


今までしてきたことがすべて失敗で、自分を責める毎日でした

50代 女性の投稿

投稿を寄せた山口ひとみさんです。新潟県で暮らしています。22歳のときに結婚し、3人の子どもを育ててきた山口さん。子育てと夫の母の介護も一手に引き受けながら、精密機器の工場で働いてきました。

山口ひとみさん(仮名・54)
「朝晩、朝仕事行く前も子どもたちのお弁当を作って、(仕事から)帰って来たら、それから夕飯の支度をして。もうすべて自分がしてましたね。自分で“頑張ってるな”って思える時期もあったんです。最初の頃は、若い頃は」

しかし、勤めていた工場の仕事の内容が大きく変わり、ミスが増えるようになりました。職場に居づらくなり、50歳を前に退職しました。そのころ、子どもが自立し、一人、家で過ごす時間が多くなった山口さん。生きる意味について思いを巡らすようになったといいます。テレビやスマホを見ると、社会で活躍する女性の姿が目に付くようになりました。育児や介護に追われ、キャリアアップできなかった自分。その後悔が心を占めるようになっています。

山口ひとみさん
「とにかく家にいる、家で家事をしているっていうことが、あまりよく思われない。(女性も)外で働いてっていうのが普通で。はた目でみて、子どもの同級生のお母さんとか、結構、管理職までなった方とかもいらっしゃるんで、子どもたちにも情けない親で申し訳ないなって。必ず持ち歩くようにしてます」

うつ病と診断され、精神科に通って治療を続けています。

小泉今日子の“人生相談” 同世代へのメッセージ

中高年になって生まれる人生への疑問や後悔。この問題と積極的に向き合おうとしているのが、歌手・俳優として活躍する小泉今日子さんです。小泉さんは今、大勢の中高年の悩みに直接、答えています。


自分、50代のおじさんですが、何でも本音で話ができる友達がいないんですよ

TBSラジオ「サステバ」2024年4月13日放送
小泉今日子さん(58)
「私も、でも、何でも話せる友達とかはいない気がする。だから、ひとりでいることが孤独だとは思わないでほしくて」

さらに雑誌のWEBサイトの人生相談では。50代の女性からの「更年期で体型が変わり、毎朝出勤するのが気が重い」という声に対して。


あなたと同じ悩みを抱えています。今まで似合うと思っていたスタイルが似合わなくなるんですよね

小泉今日子さんの回答

「40代後半になって、無性に人恋しさや寂しさに襲われる」という相談には。


やっと自分と向き合い、自分のことを考える時間が戻ってきたのかもしれませんね。人生の次のステージに来たからこそ感じられる「寂しい」という感情を大切にしてね

小泉今日子さんの回答

相談に力を入れるのは、小泉さん自身も40代後半、自分の生き方に迷った日々があったからだといいます。

小泉今日子さん
「両親も他界してますし、3人姉妹だったんですけど、いちばん上の姉も他界していたりして。ああ、でも私の番のときどうしよう。そんなふうにして、どんどん自覚していった感覚はあるかなと思います。私も40代のときは、子どもを産むチャンスが、もう限られてるじゃんって思ったときは、すごい悲しくなって。本当に子どもを抱いた人とすれ違うのも、ちょっと“かすっと痛い”みたいな感覚で感じていたときがありましたけど。痛みとかそういうのも、今となっては自分に必要だったかなと思えるんですよね。でも、そのときは本当に少しつらかったですよね」
小泉今日子さん
「メッセージたくさん頂いていて、ありがとうございます」

多くの人々の悩みに触れるなか、今、中高年世代が心の危機に陥る理由の一つが見えてきたといいます。

小泉今日子さん
「心って入れ物のような感じになっているとしたら、役割としてお母さんとか会社の偉い人とか、いろんなことになっちゃうと、それでいっぱいに、いっぱいに、いっぱいに埋めて、その経験が、もう詰めたものが、もういらなくなったからスポッて抜けちゃうじゃないですか。その空っぽなときって、すごい寂しく感じるんだろうなって思いますね」

ミッドライフクライシス 注意するポイントは?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
こちらにあるように、更年期、ホルモンバランスの乱れ、さらに体力の低下など、さまざまな影響が出るミッドライフクライシス。どう乗り切ればいいのか。中高年期の悩みをテーマに研究や臨床を重ねている熊代亨さんと考えていきます。まず、自分はミッドライフクライシスかどうかというところで、熊代さんが作成されたチェックリストをご用意しました。8つ項目があるんですけれども、このうちの4つ以上当てはまったらミッドライフクライシスの可能性があるということで。中でも、老いや体の変化をうまく受け入れられないとか、これらの(リストにある)悩みについて話せる相手がいないということ。ここが当てはまると気をつけたほうがよいということですね?

スタジオゲスト
熊代 亨さん (精神科医)
“中高年期の悩み”の研究・臨床を行う

熊代さん:
ミッドライフクライシスのチェックリストとありますけど、多かれ少なかれ、こういう経験は多分これぐらいのお年になるとあると思うんです。それこそ小泉さんのおっしゃった中年の痛みだと思うのですが、中でも話せる相手がいない、孤立しているとやっぱり思い詰めてしまいやすくなる。この難しい時期を乗り越えるためのヒントとかももらいにくくなるという点で、びっくりマークをつけていただきました。もう一つ、この時期の特徴は、やっぱり年を取っていく、それを実感してしまう時期なんです。現代人は比較的若いまま年を取っていけるような、そういう気持ちで年が取れるような時代になっていると思うんです。ただ、そうなったときに、そうはいっても40代の後半ぐらいから自分が老いているんだとか、自分も生物だからやがて死んでいくんだなというようなこととか、そういうことを自覚させられる時期だと思うんです。そういうものに、ある程度、自覚しやすい状況だったら簡単だったかもしれませんが、現代人はそうじゃないから、ショックになってしまう可能性があります。

桑子:
そして、人生の決断をするなら今しかないと思っている。このあたりも気をつけないといけない?

熊代さん:
結局、その残り時間というものを、初めて40代ぐらいになって本格的に意識するようになると、じゃあ残り時間で何をするのか、あるいは、自分が今までしてきたことから先をどうするのか。業績の問題とか、キャリアの問題です。そういうことを意識し始めてしまって、うまく行けばいいんだけど、そこで転んで悪いもうけ話とかにひっかかってしまう可能性もあるわけですから、ここで、今しかないと思い詰めちゃう人は要注意かなと思って、挙げさせていただきました。

“しんどいだけの人生” 就職氷河期世代の声

桑子:
そして、今回、寄せられた声の中で、私たちが注目した言葉があるんです。たくさん寄せられましたけれども、この中で「就職氷河期」という言葉。1993年から2004年ごろにかけて就職難に見舞われた方々ですけれども、その方々が今、中年期を迎えていることになります。どんな声があったのかといいますと、例えば「氷河期世代で、いまだ非正規雇用から抜け出せません」とか「氷河期まっただ中の自分としては、この世代がずっと受けてきた不遇を年齢のせい、今だけのせいにされたくはない」などいただきました。こういった声どう受け止められますか?

熊代さん:
中年危機は1人の問題であると同時に世代の問題、時代の問題という部分もあると思うんです。みんな、通り抜けなきゃいけないものなんだけれども、その時代、氷河期世代は若い頃からいろいろ不遇でしたから、人間関係でも、キャリアとかお金でも不利な方って多いと思うんです。そうなると人生をぐぐっと曲がっていく、中年期のカーブを曲がっていく、そのためのリソースが少ない方が多いと思うんです。それはやっぱり大変なことで、単に中年危機があるというだけじゃなくて、ちょっと不利な状態でそれを迎えている部分はあるかと思います。

桑子:
社会的な要因もあるということですよね。どうすれば、この心の危機をうまくコーナリングして乗り切ることができるのか。年を重ねた自分を受け入れていくための模索が始まっています。

乗り切るヒント

『パーティが終わって、中年が始まる』。6月に出版されたこの本。すでに2万3,000部以上を売り上げ、話題を呼んでいます。都内の書店で読書会を開いたのは著者のpha(ふぁ)さんです。

phaさん(45)
「これは僕が中年について語ったんですけど、みんなどういうことを考えているのかなって」

1978年生まれのphaさんは、就職氷河期世代。当時の大卒の就職率は約57%。多くの若者たちが正社員を目指して、厳しい就職活動に身を削っていました。

そんな時代にphaさんはニートを自称し、企業で働かず、結婚もしない自由な生き方をブログや著書で発信してきました。しかし、今回、出版した本では、40代後半になり、みずから選び取った生き方に行き詰まりを感じる心情が吐露されています。


『「自分はひとりでも寂しくない」とか「何にもこだわりや執着がない」とか(中略)無敵を気取って言っていた昔の自分が恥ずかしい。』『今は、格差社会化や高齢化が進んだせいか、役に立たないものを面白がる余裕がなくなってしまった。』 『自分の存在が少しずつ時代後れになってきているのを感じる。』

『パーティが終わって、中年が始まる』より

読書会では、phaさんの本をきっかけに、自分の胸の内を表現する言葉を見つけられたという人が多くいました。

読書会の参加者
「衰退に入っていく始まりが中年であって、自分が考えていることを言語化されていて、僕はすごい共感した」
読書会の参加者
「言葉にしたことがないですし、ちょっと誰にも話せたことではないので、phaさんが言葉にしてくれたことによって救われた人は多いと思います」
phaさん
「やっぱり書くことで受け入れたみたいなところもありますね。自分に認めさせるために受容のために言語化して。ただ弱音を吐くだけで楽になるっていうのはあると思うので、こんな感じでみんな自分の弱音を吐いていったらいいなと思ってますね」

小泉今日子から同世代へ 心の危機 乗り切るヒント

俳優・小泉今日子さんは、中高年世代が心を和らげるきっかけを作ろうとしています。朝8時の渋谷。200人以上がつめかけていました。小泉さんが、自身のラジオ番組で企画したイベントです。

小泉今日子さん
「無理しないで、最後まで楽しんでください」

小さなライブハウスのステージで歌う小泉さん。テンポが緩やかでアコースティックな曲を選んでいます。


♪くつろぎが今となっては、そう 必要なの

もう、夜のクラブで遊ぶのはつらいけど、朝なら楽しめる。中高年世代が外に繰り出して、解放される場を作りたかったといいます。

イベント参加者
「もう心地いいですよね、自然に」
イベント参加者
「いろんなものが衰えるじゃないですか、体力的なものとか。すごい嫌だったけど“ああ、やっぱり楽しいわ”と思って」
小泉今日子さん
「きっと家庭とか社会の中で役割が決まっていってしまったときに、その役割を脱いで来られる場所で、ふだんよりおしゃれして行こうかなみたいな、そういうことだけでも、すごく日々が変わるかもしれないなって思ったりして、そういう場所をつくっている感じですかね。今は同世代をとにかく元気にしたい。同時に私も元気になりたいみたいな感じでやらせてもらってるんですけどね」

心を軽くするために

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
ここからは、熊代さんにも心を軽くするヒントを教えていただこうと思います。こちら(パネル)に3つ大きくまとめましたけれども、どれもできそうかなという感じがします。

熊代さん:
そうですよね。一つ一つは小さな取り組みだと思うんです。髪型とか服装を変えてどうなんだと言うかもしれませんけど、イメチェンとか形から入るのは意外に大事だと思うんです。これで自分のモードを変える試みはあってもいいんじゃないかなと私は思います。それから散歩です。適度な運動とありますけど、私は、どっちかというと散歩がいいなと思って、日光も浴びるし、四季折々の景色も散歩なら違ってくるのが見える。そういうことをすることで少し、セロトニンとかドーパミンという脳の神経伝達物質もいくらか出がよくなるものですから、それは中年の体に優しいことなんじゃないかなというふうに思います。

桑子:
そうですか。そして人と話すということもいい?

熊代さん:
お出かけついでに人と会って話せれば、もっといいなと思いまして。

桑子:
セットですね。全部セットかもしれない。

熊代さん:
そうだと思うんです。ただスーパーマーケットに行って帰ってくる程度でもいいんですけど、もっといいのは、やっぱり人に会っておしゃべりする。それこそ、さっきのphaさんとか小泉さんがやっているようなところに参加するとかでもいいんですけれども。そういうことをやっていくと、同世代同士で俺だけが年を取っているんじゃないんだなということがだんだん見えてくるでしょうし、他の世代との接点を通して何か世話をするとか、逆に自分の後ろ姿が他の世代に伝わるとか、いろいろいいことがあると思います。

桑子:
先にうまくコーナリングをしていくために大事なことはどういうことでしょうか?

熊代さん:
自分だけで年を取るというだけじゃなくて、いろんな人と年を取っていくということもありますし、何か補助輪になるものを見つけていく。昔から使えるものでもいいし、これから作っていくものでもいいんですけれども。そのためには、やっぱり人と会うのはとても大事だと思うんです。

桑子:
ただ、なかなか難しい方もいらっしゃいますよね?

熊代さん:
そうですね。きょうのお話が多くの人に伝わればいいなと思うんですけど、ちょっと難しい方、体がとても悪いとか、精神的にも追い詰められている方、うつ病などの病気の方もいらっしゃるかもしれないので、医療機関への受診を検討していただけたらと思います。

桑子:
医療機関の受診も検討すると。

熊代さん:
そうですね。

桑子:
ありがとうございます。おしまいは、年を重ねた自分と向き合おうとする人たちの姿です。

自分と向き合う

佐々木宏太郎さん
「こんなの本当に見せることなのかな」

みずからの人生に思い悩む佐々木宏太郎さん、54歳です。3年ほど前から始めたのはギター。

佐々木宏太郎さん
「きれいに音が鳴るとうれしい」

穏やかな時間を過ごす中で、自分の生き方が少し違って見えてきました。

佐々木宏太郎さん
「何がよくて何が悪くて今があるかっていうのも、とらえ方しだいだと思うので。今だから言えるけれども、それなりに頑張っていたのかなとは思います」

小泉今日子さんは今、NHKのドラマで大学の講師を演じています。当初50歳だった設定を55歳に変えて臨みました。自然に歳を重ねた中高年の姿を伝えようとしています。

小泉今日子さん
「“役作りじゃなくて、本当に普通にそうなってるだけですよ”みたいな感じなんですけど。ナチュラルに年を重ねることに対して、ポジティブに生きているので、そのまま映ればいいなって」
見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。
2024年9月11日(水)

“SHOGUN”大ヒットのワケ JAPANコンテンツ新時代

“SHOGUN”大ヒットのワケ JAPANコンテンツ新時代

米エミー賞で史上最多18冠に輝いた「SHOGUN」。作品賞に加え、真田広之さんが日本人俳優として初めて主演男優賞を受賞するなど快挙を達成しました。日本が舞台の作品が世界で注目を集めるカギは「本物へのこだわり」。俳優以外にも、衣装、殺陣(たて)など、裏方にも多くの日本人が参加。リアルさの徹底追求が高い評価につながったといいます。ハリウッドの最新事情の分析とともに、JAPANコンテンツが世界で飛躍するためのヒントを探りました。

出演者

  • 長谷川 朋子さん (メディアジャーナリスト)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

時代劇が世界でヒット

桑子 真帆キャスター:
世界的なヒットとなったドラマ「SHOGUN」。日本では、まだ知らないという方も多いかもしれません。

アメリカのテレビ業界で最も権威があるとされるエミー賞で22部門にノミネートされ、作品賞をはじめ、主演男優賞・女優賞など、主要部門でも受賞し、史上最多の18冠を達成しました。なぜ、ここまでヒットし、評価されているのでしょうか。

SHOGUNの舞台裏

「SHOGUN」は、徳川家康をモデルにした主人公・吉井虎永が天下統一を目指し、敵対する勢力と争う、歴史スペクタクル。せりふのほとんどは日本語です。

世界でヒットした理由の1つが、日本に漂着したイギリス人航海士の存在。

航海士の視点を通して、西洋人が日本を少しずつ理解していくさまが描かれます。

さらに、視聴者の心をつかんだのが、細川ガラシャがモデルのヒロイン・鞠子。キリシタンで英語が堪能。ミステリアスな存在として、物語の鍵を握ります。

ハリウッドの大手スタジオが巨額の製作費を投じ、最新のVFXを駆使して作られた配信ドラマ。カナダ・バンクーバーに巨大なセットを建設し、およそ1年にわたり撮影が行われました。

その中心を担ったのが、主演とプロデュースを務めた、俳優の真田広之さんです。

真田さんは、2003年に映画「ラストサムライ」に出演後、活動の拠点をハリウッドに移し、映画やドラマを通して、日本文化を世界に伝えることに力を注いできました。しかし、それは容易なことではなかったといいます。

主演・プロデューサー 真田広之さん
「以前は俳優をやりながら、日本人が出る場合、海外で日本ものを撮るときは、必ず現場に行って直したり、頼まれて、いろいろアドバイスはしてましたが、俳優として言える限界というのは、ずっと感じていたんですね。ここ20年くらい。前は遠慮がちに言い方を考え、タイミングを考え、気を遣いながらやらなきゃいけなかったんですけど、今回はプロデューサーということで、堂々とものが言える」

真田さんがこの作品で掲げたのは、「オーセンティシティ(本物であること)」。日本の時代劇のディテールを追求しました。衣装やかつら、さらに、所作や殺陣(たて)に通じた多数の日本人専門家に参加してもらい、徹底的に作り込みました。

真田広之さん
「海外の作品をやり始めてからずっと、日本の題材を海外でやる場合、どうあるべきかというのを自問自答し続けながらここまで来て、ある意味、この20年間の集大成であり、大変さよりも楽しさのほうが大きくて、自分にとっては非常に大きな第一歩ですね」

真田さんのこだわりが詰まったシーンがあります。
常に強気だった夫・文太郎が、妻・鞠子に初めて弱音をさらけ出すシーン。その心境を表現するため、あえて、はかまをはかず、小袖だけで茶をたてました。

プロデューサー 宮川絵里子さん
「お茶のシーンを通して、鞠子と文太郎の関係性を表現したいとなったときに、衣装なんかも、文太郎は何を着ているべきなのか。そういう話し合いには、真田さんも参加していたんですけれども。ふだん見せない顔、鞠子だけに見せる顔みたいな、自分を少しさらけ出すようなシーンでもあると思いますし、はかまをはかずに小袖だけの服装にするとか、1つ1つ決めていきましたね」

そして、もう1つ、作品の大きな魅力となったのが、ヒロイン・鞠子を演じた日本人俳優、アンナ・サワイさんです。
エミー賞の主演女優賞にノミネートされ、今期注目のドラマに出演する名優たちと雑誌の表紙を飾りました。

5年前からハリウッドで活動するサワイさん。時に欧米にある、アジア系への偏見とも戦いながら、キャリアを積んできました。

戸田鞠子役 アンナ・サワイさん
「アジア人といったら、アクション映画に入れたいねとか、ちょっとセクシーな感じに女性は見えるよねとか、なんでもハイハイ言うよねっていう。いろんなアジア人のアクターが結構つらい思いをしてきて、そこを辛抱強く頑張ったからこそ、今、こうやって道が開けていると思うので、ステレオタイプのものを演じてしまうと、その情報が広まってしまうので、そこは慎重に、違うことは『違う』と伝えたり、そういう役を選ばないっていうのは心がけています」

日本人の俳優やスタッフたちの徹底したこだわりが、世界中の視聴者に広く支持されました。

「最終回は今夜?明日?」
「月曜に配信。待って、今日は月曜よ」
「月曜、今夜か。気づいてよかった。絶対見なきゃ」
「とにかく、ストーリーがよく出来ている。それに、音響や殺陣(たて)のシーンなど、すべてがハイクオリティなんだ」

「SHOGUN」の原作は、1975年に発表された小説。
ドラマ化にあたり、ハリウッドのスタッフも日本文化に最大限の敬意を払ったといいます。

エグゼクティブプロデューサーで、大ヒット映画「トップガンマーヴェリック」も手がけたジャスティン・マークスさん。妻のレイチェル・コンドウさんとともに、「SHOGUN」の脚本を担当しました。2人は、せりふのほとんどを日本語にすると決断を下しました。

エグゼクティブ プロデューサー ジャスティン・マークスさん
「最初は、アメリカの視聴者が、英語が主ではないドラマを受け入れてくれるかどうか、とても不安に感じました。それでも、SHOGUNを日本語で制作することに価値があると思ったのです」
エグゼクティブ プロデューサー レイチェル・コンドウさん
「1975年にSHOGUNを発表した原作者のジェームズ・クラベルは、『異なる価値観を持つ日本人と西洋人が出会ったとき、どうすれば分かり合えるのか』と問いかけています。私たちはその問いを、このドラマを通して、今、改めて視聴者に投げかけるべきだと考えたのです」

ヒットの背景

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
今夜は、世界のコンテンツ産業に詳しい長谷川朋子さんをお招きしています。よろしくお願いいたします。

とにかく、本物であることを掲げて制作したということでしたけれども、長谷川さんも「SHOGUN」の関係者に取材をされて、どんなところに本物を感じましたか。

スタジオゲスト
長谷川 朋子さん(メディアジャーナリスト)
世界のコンテンツ産業に詳しい

長谷川さん:
「SHOGUN」を制作するにあたって、日本の歴史や文化をまとめた900ページにわたるマニュアル本が、事前にスタッフに配布されたんですよね。

桑子:
900ページ?

長谷川さん:
驚きますよね。作品の中で、切腹するシーンというのはやっぱり多いんですよね。なぜ、日本人が切腹をするのか。その奥にある死生観だとか、美学を、より深く理解して描こうという、ハリウッド側の覚悟の表れでもあって、実際、真田さんを、主演だけじゃなくプロデューサーとして迎え入れられたということは、そういった意識の表れだと思います。

桑子:
エグゼクティブプロデューサーの方が、日本語でドラマ化することに不安があったとおっしゃっていましたが、あれはどうしてなんでしょうか。

長谷川さん:
アメリカ人というのは、映画やドラマを、字幕よりも英語の音声そのままで楽しみたいという欲求はあります。

桑子:
そちらのほうが強いということなんですね。

長谷川さん:
そうですね。なので、例えばですけれども、かつて、映画「ラストサムライ」では、侍が英語でしゃべるという表現もあった。

桑子:
確かにそうですね。ただ、それがどうなんでしょう。今、変わってきているということですか。

長谷川さん:
そうなんです。まさにそれが変化してきて、それは業界が異文化を正しく描こうということや、もう一つの理由としては、今、これだけ配信全盛期、配信の作品を自宅でも視聴するという市場が広がっているので、字幕に慣れ親しんできたというのと、韓国ドラマ「イカゲーム」のヒットの影響力は大変大きいですね。

桑子:
なるほど。そのたくさんある中で、戦国ドラマという時代劇というものをテーマに選んだわけですけど、時代劇というのは、どういうふうに魅力的に映っているんでしょうか。

長谷川さん:
戦国武将をモチーフにした物語というのは普遍性があります。権力闘争とか人間ドラマって描くのって、世界中の人が大好きなんですよね。入り込んでしまうというか、自分ごととして捉えやすいので、だからこそ「SHOGUN」は受け入れられたというのもありますし、もう一つ、登場人物でイギリス人航海士の視点をしっかり捉えたというところで、異文化を理解するという、それは現代的なテーマであって、そこがヒットにつながったと考えています。

桑子:
その航海士の目線で一緒に見ている人も、日本のかつての文化というものを感じていくという、そこがヒットにつながったと。

長谷川さん:
いろんな視点、日本人からの視点だけじゃなく、海外の方も、そこは最初から導入として入りやすかったということが大きいと思います。

桑子:
さあ、「SHOGUN」ヒットの背景をさらに紐解くと、アメリカ社会やハリウッドの変化、さらには、日本の映画やドラマの現在地も見えてきました。

日本のコンテンツに好機? ハリウッドの変容

実は、「SHOGUN」は過去に1度、アメリカのテレビ局がドラマ化し、大ヒットしました。1980年のことです。
当時、ほとんどのアメリカ人にとって、日本文化はなじみがなく、ドラマは新鮮な驚きをもって受け止められました。「SHOGUN」というレストランが次々にオープンするなど、日本食ブームも巻き起こりました。

日本食レストランを経営していた 檜隆与さん
「いろんな意味でSHOGUNは、81年からずっとブームになってましたね。SHOGUNって名前のお店がいっぱい増えてきまして。そして、例えば旅行社もね、日本行きのツアーをSHOGUNツアーって名前をつけていましたね」

2024年、リバイバルヒットとなった「SHOGUN」。
しかし、その背景には、44年前とは異なる事情がありました。それは、アメリカ社会やエンターテインメント産業が大きく変わってきたことです。

これは、カリフォルニア大学がハリウッドの映画産業に携わる人たちの人種の比率を調査したリポートです。

それによると、2011年、監督や主演俳優の90%近くが白人によって占められていたのです。

リポートを書いた1人、マイケル・トランさんによると、アメリカには、監督や主演が白人でなければヒットしないという固定観念があったといいます。

リポートの著者 マイケル・トランさん
「アメリカ社会にある人種差別は、ハリウッドの中にもあるんです。もし、マイノリティを描いた作品や非白人の俳優を起用した作品がヒットしても、単なる例外だと決めつけられてしまうのです」

このことがアメリカ社会で問題視されるようになったのは、2016年のこと。
2年連続して、アカデミー賞にノミネートされた俳優が白人によって独占されたのです。映画監督のスパイク・リーさんは授賞式をボイコット。SNS上では「オスカー・ソー・ホワイト(#Oscar So White)」と批判が相次ぎました。
2017年には、日本のアニメ「攻殻機動隊」がハリウッドで実写化されましたが、主演を白人俳優が演じたため、いわゆる“ホワイトウォッシング”(非白人の役を白人俳優が演じる)ではないかと議論が巻き起こりました。

こうしたなかで、ハリウッドは次第に、多様性重視を打ち出し始めたのです。

ジャーナリスト 長年ハリウッドを取材 スコット・フェインバーグ氏
「ハリウッドの変化を象徴するのが、韓国映画『パラサイト』です。90年以上のアカデミー賞の歴史で、非英語圏の映画が作品賞を受賞したのは初めてでした。実際、アカデミー賞は多様性を重視するようになっています。若い世代や非白人、非英語圏の会員を大幅に増やしているのです」

さらに、アメリカ社会のエンターテインメント市場を大きく変えたのが、パンデミックです。巣ごもり需要で、ストリーミングサービスが急成長。アメリカの人々が海外の作品を見る機会が増え、字幕での視聴がより一般化していったのです。

「SHOGUN」に出演した浅野忠信さんは、その変化を実感したといいます。

俳優 浅野忠信さん
「僕が10年前にアメリカに来て、『マイティ・ソー』に出させてもらったときは、絶対に英語がしゃべれないとダメと言われました。本当に数年前に『もう英語なんかしゃべれなくていいよ』って言われたんです。アメリカ人も含めて、たくさんの人が字幕で作品を見てくれる時代になったのが一番大きいと思うんですよね」

こうした流れの中、2024年のアカデミー賞では「ゴジラー1.0」が視覚効果賞を受賞。日本の実写作品も海外でヒットする可能性が高まっています。

「SHOGUN」でエグゼクティブプロデューサーを務めたジャスティン・マークスさんも、日本人の手による新たな作品に期待を寄せています。

エグゼクティブ プロデューサー ジャスティン・マークスさん
「日本には、映画好きなら誰もが知っている、すばらしいクリエイターがたくさんいます。私は、日本人監督と日本人俳優による、もっと大きなスケールの日本語の作品を作ってほしい。世界中の視聴者が、それを待ち望んでいます」

多様性重視の時代へ

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
熱いメッセージもいただきましたけれども、監督や主演俳優を白人が占めてきたハリウッドの在り方に批判がまき起こって、多様性重視の方向性へと変化していったわけですけれど、さらに、興味深いデータがあるんです。

こちらは、過去10年のハリウッドで制作された映画の興行収入を主要キャストの人種割合別に分析したものです。青色は、非白人の割合が30%以下。つまり、多くを白人が占めているという映画。オレンジ色は、非白人の割合が31%以上ということで、多様性が反映された作品ということになります。年ごとに見ていきますと、2016年までは、青=白人が多い作品というのがヒットしているんですね。ただ、この年に「オスカー・ソー・ホワイト(#Oscar So White)」が議論になったこともあって、その後、白人が多い映画というのは減って、逆に多様性を反映した映画のほうがヒットするようになっているんです。これ、どういうふうに読み解いたらいいでしょうか。

長谷川さん:
アメリカ社会では、アジア系、ヒスパニック、アフリカ系の人口が急増してます。いわゆる非白人の人口が白人の人口に迫る勢いです。ハリウッドでは、そもそもマーケティングを非常に重視するんですよね。ですから、やっぱり、そういったアメリカ社会の変化を作品に反映していくというのは当然の流れなのかなと感じています。

桑子:
どんどん多様性を取り入れないといけないという流れになっている。ただ、社会全体、みんなが多様性を受け入れて受容しているかというと、そうでもない気もするんですけどね。

長谷川さん:
確かに、例えば実写映画の「リトル・マーメイド」ですとか、配信版の「ロード・オブ・ザ・リング」では、人魚役やエルフ役をアフリカ系の方が演じられて、批判が起こったことも事実ではあります。ただ、取材する中で、制作、クリエーターの方というのは、信念を持って多様性を重視するということを大事にしているのかなって感じているところです。

桑子:
どういう信念ですか。

長谷川さん:
作品を一過性のヒットで終わらせずに、長期的にヒットさせて、今、世界的に、全世界同時配信ということがビジネスモデルとしてあるので、いろいろな方が見ているという意識を持っているからこそ、多様性を意識し、重視していくことが大事なことであって、それが信念ということにつながっているんだと思います。

桑子:
そして、VTRでは、日本の映画やドラマにも世界的ヒットのチャンスがあるというお話もありましたけれども、実際に、政府も戦略会議を開いて、日本のコンテンツ産業の海外進出を後押ししようとしています。

この中で、是枝裕和監督や「ゴジラ-1.0」の山崎貴監督が会議に出席して、こうした提言をしています。持続的な労働環境を整備するですとか、クリエーター育成の教育機関を作るですとか、海外展開していくためのエージェントを強化するなどありますけれども。やっぱり日本のコンテンツも、海外市場を本格的に意識する時代になってきたということなんでしょうか。

長谷川さん:
すべてが海外に目を向けるということではなくて、ただ、現実的に少子化に伴って、国内市場というのは縮小していく可能性が高いです。なので、そこで、マーケットは海外にもあるということを意識、気づくことが必要なんだと思います。

桑子:
選択肢が1つ増えているよということですね。

長谷川さん:
それによって、今、予算ということが現状の課題にありますから、海外からも資金調達をしたり、世界市場を含めて資金の回収計画をすることによって、潤沢な予算でクオリティーのより高い作品を作ることができるんだと思います。

桑子:
それと同時に、日本で課題を解決しないといけない要素があると。

長谷川さん:
コンテンツ産業で働く方々の賃金の低さ、労働時間の長さというのも、実際に指摘されています。そういったことが、世界標準の作品作りのノウハウを学んだり、関わることで、必ず改善につながっていくんじゃないかなと期待できます。

桑子:
実際に日本が海外でも成功できるために、どういうことが必要だと考えていらっしゃいますか。

長谷川さん:
簡単なことではないんですけれども、1つ、人材の育成というのは大変大事なこと、必要な大きな鍵になってきます。

桑子:
どういう人材でしょうか。

長谷川さん:
海外と日本の両方の文脈を理解して、国際感覚を持った人材ということ。例えば、ドラマ「SHOGUN」における鞠子のような存在であったり、真田さんが担った国際プロデューサーという役割を増やしていくということが非常に大事だと思います。

桑子:
そこに日本らしさも、繊細さとか丁寧さもしっかりあわせ持って、頑張っていってほしいなと思いますね。

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