酒から抜け出せない女
一条は当時、何人かの男性と付き合っていた。92年には、「たけ」とも屋台で酒を飲んでいる。自分にやけどを負わせた男である。4年の懲役刑を終え出所したばかりだった。
自分を傷つけた男さえ包み込む優しさ、慈悲の心があったのか。それともそんな男とでも一緒にいたいほど寂しかったのか。屋台で飲んでいる彼女はいつも陽気で、周りを笑わせた。
この街の人々のこうした交流には独特の濃厚さがある。一条はすっかりこの街の流儀になじんでいるように見えた。
ただ、振りまく笑顔とは裏腹に、一条は生活苦に喘いでいた。病気がちで満足に働けないのに酒はやめられない。稲垣は一時、「炊き出しの会」の洗い場に一条を雇った。
「やけどの影響か、うまく洗い物はでけへんかったので、すぐに辞めました」
と彼は言う。
一条はなんとか酒を断って、怠惰な生活から抜け出したかった。そのためには出家するしかないとまで思い詰める。彼女から相談を受けたのが稲垣だった。
「池田さん(一条)はあのころ、酒は断てへんし、いろんな男との付き合いもあった。自堕落やと思うてたんかな。『なんとかして静かな生活を送りたい』と言うてきたんです」
稲垣は大阪府泉大津市にある南溟寺の住職、戸次公正を紹介する。