特級呪霊【白面の者】 9/25に非公開予定 作:悲しいなぁ@silvie
後悔先に立たず、なんて言葉はちょっと卑怯な気がする。
どんな選択をしても後になって振り返れば違う選択をした方が良かったんじゃないかって思うのなんて当たり前だ。
でも、それはそんな悪い事なんかなとも思う。
だって後悔するって事は、選ぶって事はその選択をそれだけしっかり考えてるって事だし他の選択肢も全部同じくらいに良いものだって事じゃん。
だからきっと、俺は将来大人になっても腰曲がって爺さんになってもこの時の事を後悔なんてしないと思う。
だって、あの時ああする以外に俺には思いつかなかったし今でもあれよりいい方法があったとも思わんから。
だって──寂しそうに泣いているヤツを見過ごすなんて、きっと何があろうといい方法になんてならない筈だから。
「ゲホッ!うぇ、滅茶苦茶埃っぽい……そりゃそうだよなぁ、じいちゃんももう何年も開けてねぇって言ってたし」
古臭い蔵の扉を目一杯に開けて、出てくる埃やらカビやらが混じった空気を吸わないように布で口元を覆う。
「一旦換気だよな…あとは、箒にちりとりと……本屋の人がよくポンポンしてるヤツも欲しいけど、アレ何処で買えんだろ?」
とにかく、重い物や大きい物は全部出してしまおう。
細々したモンはまた明日にするとして……
「うわっ!?あっぶねぇ…、何だコレ?」
雑誌やらの束を運んでいると、何かに足を引っ掛けて転びそうになる。
足下を懐中電灯で照らすと…それはどうも床下収納か何かの取っ手だった。
「マジか…下にもあんのかよ」
げんなりしながらも見なかった事には出来ない。
じいちゃんが死んで、遺産やらの整理で明後日には役所の人とかも来るんだから。
しんどいけど、俺にしか出来ないならぶつくさ文句言ってても仕方ない。
「とりあえず、開けるか」
取っ手を握り、引っ張る。
「フンッ!……ん?……フンッ!!…………フンッギギギギ……ッ!!」
歯を食い縛って血管が割れそうなぐらいに踏ん張る…けど、扉は全然開きもしない。
「……ハァっ!!ハァハァ…マジかよ、ちょっと自信無くすわ」
これでも力は有る方だと思ってたんだけどな…
どうすっかな…鍵とかさす場所ねぇし、錆びてて開かないんだったらいっそ壊す気でいった方が良いのか…?
しばらく扉の前で座り込んでたが、腹を決めて立ち上がる。
「よしっ!壊れたらそん時はそん時に考えよう」
腰を低く落として、軍手を脱いで素手で取っ手を握り締める。
深く息を吐いて、軽く息を吸い込みながら───思いっ切り!!
「フンッ!!」
力を入れ過ぎたのか、それともさっきので錆びがほとんど落ちてたのか…扉は開くどころか吹っ飛ぶように開き、俺は勢い余って中へ落っこちた。
「ってぇ…結構深いのな」
もう六月だってのに嫌にひんやりとした空気に肌を刺されながら立ち上がる。
「にしても…ここって何に使ってたんだ?
物も置いてねぇし、氷室とかそういうんかな…?」
地下室特有の寒さかと思い、キョロキョロと中を見渡す。
石造りの壁、暗いからよくわからんけど埃とかカビの臭いはしないから地下水とかが染みてなかったら掃除は楽かもな。
とか、そんな事を考えてた時だった。
水の音。
それも上から落ちた音だ。
「あー…漏れてんのか、まぁ古い蔵だしなぁ」
俺の立ってるトコは濡れてないけど、この分だと水溜まりぐらいはあるか…なんて考えながら水音のした方を向く。
其処には───真っ白な肌と髪の女の人が居た。
いや、ただ居たんじゃない…その人は昆虫標本みたいにデカい【槍】でその場に縫い付けられていた。
「────ッ!!?」
喉が、詰まる。
生きてるのか?いや、そもそも何時から??いや!もっとそもそもなんで刺されてんだ!?
頭ん中がぐちゃぐちゃになりながら、ようやく思い出したみてぇに懐中電灯を点ける。
明るくなってしっかりと見たその人は、言葉に出来ないぐらいに綺麗だった。
よくモデルみたいとか、芸能人みたいとかそういう褒め言葉を聞くけど、そんなのを言ったら失礼なんじゃないかってぐらいに綺麗で…人間離れしたって言葉がなんとなくしっくりきた。
臭いは、相変わらずしない。
腐った人間の臭いなんて知らんけど、滅茶苦茶な臭いがするってのはテレビとかで観たことある。
いや、それにそもそも───血の匂いだって、しなくないか…?
また、水音。
でも、今度はしっかりと見た。
そもそも水の音なんてこんな少ない水滴じゃ普通しない筈だ…それこそ、水溜まりとかに落ちでもしない限りは。
水音は、女の人から聴こえてた。
女の人の口の中から……あの人が、水滴を口に溜めてたんだ。
喉が動くのが遠目からでもわかる。
間違いない、あの人は…生きてる。
串刺しで、何時から居るかもわからんけど…生きてる。
「……眩しい」
掠れた声で、最初は何言ってんのかわかんなかったけど…声が聞こえた衝撃で懐中電灯を取り落としてたから結果オーライだ。
「あ、あの……だ、大丈夫っすか?」
んなわけ無いとはわかってるけど…それでも聞いてみる。
少なくとも言葉が通じるならオバケじゃなさそうだし、どうにもあの見た目で日本語が通じるっぽい。
「……………なんだ、誰か居るのか」
相変わらず、目も開けずに掠れた声で女の人は話す。
やっぱ聞き間違いとかじゃなくて喋れんだな…
「あの、俺は虎杖悠仁って言って…一応、此処の蔵の持ち主なんすけど……お姉さんは何処のどなた?」
思ったより、痛そうとか苦しそうって感じが無かったからちょっとだけ心も軽くなってきた。
まだまだ現状は滅茶苦茶だから、完全にとはいかんけど。
「………………」
返答は無い…どうやら返事をするかどうかはお姉さんの気分次第らしい。
………なんか、冷静に考えるとスゲー馬鹿らしい事してるかも。
どうしよ、これで実は勝手に忍び込んでイタズラしてるだけでした〜とか言われたら…
「あのー…?出来れば何してるのとか聞きたいんすけど…」
「…………私が何かを出来るように見えるか?
見えるならおめでたい奴よ」
お姉さんはそう言ってトントンと頭を指でつつく。
うーん…もっとこう、無いんかな…苦しめとかは流石に俺も言いたかないけどさ。
一応串刺しになってるんだからイタズラでもなんでももうちょい痛がって欲しい。
「はぁ……とりあえず、コレ抜いてくんない?
壁とか傷ついてないなら別に怒らんし」
槍の柄を握って引こうとすると、血管やらが透けるぐらい白い手が俺の腕を掴んできた。
「小僧、この槍に触るな…」
さっきまでの気怠げな雰囲気から、一気に不機嫌さを隠しもしない態度でお姉さんは睨んできた。
ギリギリと、俺の腕を掴む手には滅茶苦茶な力がこめられている。
「触るなって……もしかして、本物?」
「本物かだと…?笑わせるな
偽物よ、この槍は出来損ないだ…本物の【槍】がこの程度なものかよ」
お姉さんは怒ったような、困ったような、なんとも言えない表情でそう言うと俺の手を無理矢理に槍から引き剥がした。
「意思ある
妖怪変化はおろか、神仏までも滅すであろう槍…だが、コレが滅ぼせるのはたったの一つ」
「この槍は───白面の者だけを殺す槍よ」
お姉さんの言ってることは…正直全然わかんなかったけど。
疲れたような、何かを吐き出すようなその声は多分だけど嘘なんてついてないって思えた。
「触るなってのは…わかった
わかったけど……なら、お姉さんはどうすんの?
刺さったままじゃなんにも出来ないって言ってたじゃん」
「…………………さぁな」
そう言うと、また気怠げに目を閉じる。
話は終わったって感じで…有無なんか聞かないって。
「ならさ──この槍、抜いたらどうなんの?」
「……なに?」
俺がもう一度柄を握りながらそう聞くと、お姉さんは眉を下げて心底わけがわかんないって顔で聞き返してくる。
「なんかマズい事とかあんの?地震とか雷とか…オヤジとか?」
「…………わからんな、脳ミソがクソにでもなっているのか?
その少なそうな脳ミソで何を考えればそんな質問が出る?」
イライラしてる声。
でも、ずっと……寂しそうな顔だ。
「抜けば呪われるとでも言えば、諦めるか?」
「そっか……なら良かったよ」
両手で握り締めて、一気に引き抜く。
「生憎、呪いなら先約があってさ」
思い切り引っ張った槍は、嘘みたいに軽く抜けた。
血の一滴も付いてない…けど、お姉さんの身体に空いた穴が冗談じゃないって証明してる。
「で…結局、お姉さんは何処のどなた?」
「………………
わざわざ地獄へ飛び降りるとは……本当に莫迦な奴よ」
お姉さんはすっと立ち上がると、バキバキ身体を鳴らしながら呆れたように睨んでくる。
「さっきっから馬鹿馬鹿って…俺は虎杖悠仁だって言ったろ」
不貞腐れながらそう言うと、お姉さんは少しだけ目を伏せて…仕方ないって感じにため息をつく。
「名はない、呼びたければ…白面とでも呼びな」
お姉さん…改め白面はそう言うと、また少しだけ寂しそうな顔で目を伏せた。
これは、彼女が名前で呼ばれる…ほんの少し前の話。
タイトルにある通り、本作は非公開ないし削除予定です
詳しくは活動報告に書いています
一応書いていた分を腐らせるのもなんだと思ったので最後の更新だけしておきます
本作を楽しんで下さった方、本作をご不快に思われた方双方共に誠に申し訳なく思います
以後このような事の無いよう精進してまいります