セルシス、再び反AIに振り回される(2年ぶり2回目)

 2024/9/18、プログラマの青猫(@AonekoSS)が、CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)用Stable Diffusionプラグインを、Public domainとしてGitHubで公開。

 

github.com

 

 生成AIの採用例が少なく、手当たり次第に何でも不買アピールできていた頃とは異なり、現在の反AIは、Grokが搭載されたTwitter、Copilotが搭載されたWindowsApple Intelligenceが搭載されたiPhone等を使い続けるために、最近になって「たとえ生成AIが内蔵されていても使わなければOK」という事にした。そのため、仮にクリスタで生成AIプラグインが動くようになったとしても、同様に「使わなければOK」であり、全く何も問題はない。

 

 …ないのだが、9月20日になって、反AI内に「このソフトウェアを地上から抹殺しよう」というムーブメントが発生。

 

 同日、クリスタの開発元であるセルシス社が声明を発表。「野良プラグインを使って何が起きても知りません、申請が来たら審査はする」とだけ言えば良かったものを、変に反AIの顔色を伺って「承認されません」などと書いた事で、状況が余計に悪化した。

 

https://x.com/clip_celsys/status/1837030635376103672

 

 セルシス社は、約2年前の2022/11/29、「クリスタに生成AI機能を内蔵する」と発表したが、当時の反AIから批判を受け、わずか3日で計画を中止。その後「クリスタにはAIアシスト機能を永久に実装しない」と宣言、完全に反AIビジネスに舵を切ったという特殊な経緯がある。そのため、反AIの被害者のようにも、反AIそのもののようにも見え、立場が複雑になっている。

 

note.com

 

 「AI絵師はペイントソフトなんか使わないので、純粋に嫌がらせ目的で開発している」「何がしたいのか分からない」といったようなコメントも散見されるが、それは「prompt一発で完璧な絵が出る」と勘違いしている反AI特有の「AIに対する過信・過大評価」であって、修正段階で何らかのペイントソフトは必須である。青猫(@AonekoSS)の「自分が使いたいから作っている」という発言はウソではない。

 

https://x.com/n_katamari/status/1838041530659221698

 

https://x.com/Kokukitumohu1/status/1837032585987510345

ナウル共和国、反AIに焼かれる

 2024/9/12、ナウル共和国政府観光局が、「ナウルの様子を画像生成AIに描いてもらった」とする画像をTwitterで公開。その結果、直後から反AIが群がり、AI使用罪で焼かれる。

 

 本件の最大の特徴は、使用した画像生成AIがGrokだという事で、Twitterに正式に実装された画像生成AIをTwitterの規約に従って使用しているのに、全く関係ない反AIからキャンセル・カルチャー攻撃を受けてポストを削除させられた事例第1号となっている。

 

 あまりにも削除が早かったため、元の画像とそこにぶら下がったデマ・誹謗中傷は保全できなかった。現在見られるのは謝罪だけとなっている。

 

 

https://x.com/nauru_japan/status/1834156881113481721

 

 そもそも謝るべき罪がないにも関わらず、深く検討せずに反射的に謝罪してポストを削除した結果、反AIに「こいつは殴れば謝る」と認識され、誹謗中傷・謝罪要求はさらに激化。9月14日になって、「誹謗中傷・嫌がらせがあまりにも酷い」として、アカウントは更新の休止を発表した。

 

画像

https://x.com/dai_whitecat/status/1834809950213911036

 

画像

https://x.com/nauru_japan/status/1834795151941943552

 

 

 状況が悪化する中、反AIが真っ先にした事は、ナウルを誹謗中傷したのは反AIではなく、反AIになりすましたAI推進派である」と主張する事だった。

 

https://x.com/takakuratomoko/status/1834846998916468752

 

https://x.com/n_katamari/status/1834945807545725024

 

https://x.com/c_p2z/status/1834952757939413343

 

 

 この話はここで終わらず、ナウル共和国政府観光局は、多数の誹謗中傷の中から「未開の部族」「蛮族」という単語を用いていた下記のTweetをピックアップし、法的措置を検討していると発言。

 

https://x.com/rixyou404/status/1835004944430293343

 

https://x.com/nauru_japan/status/1835006445659865596

 

https://x.com/nauru_japan/status/1835176629754380443

 

 国家に対する誹謗中傷事例としてYahooニュースにも進出した。

 

news.yahoo.co.jp

 

仏ChattoChatto社、反AIに焼かれる

 2024/9/6、フランスの出版社ChattoChatto社が、自社のイメージキャラクター「チャットちゃん」を発表。直後、それがAI生成物だとして反AIが群がり、焼かれる…

 

 というほど激しい攻撃は受けていないのだが、翌9/7にかけてChattoChatto社はこのキャラクターをあっさり取り下げ、「二度とAIは使わない」等と発言。キャンセル・カルチャー攻撃が成功した。

 

https://x.com/your_shitsuji/status/1831963848796205458 (削除済み)

 

 これらのイラストは、ChattoChatto社が自力で作成したものではなく、「おしつじ(@your_shitsuji)」氏に依頼して納品させたものであるため、反AI的には「フランスの出版社が手描き詐称のAI野郎に騙された」というストーリーになっているが、この出版社は納品物がAIを使って作画されている事を元々知っていたので、「手描き詐称」も「騙された」も両方ウソである。

 

https://x.com/thunder_battery/status/1832225050990395823

 

 つまり「別に全く騙されておらず、元々AI使用を知らされていたのに、反AIが群がってきた途端慌てて全部無かった事にした」という話なので、むしろこの会社の方に問題がある。会社自身もそれを認めている。

 

https://x.com/CHATTOCHATTOFR/status/1832294795374399765

 

 日本国内では「反AIは無視すれば問題ない」というコンセンサスが出来上がりつつあり、キャンセル・カルチャーも以前ほど成功しなくなっているが、相手を選べばまだまだ通用するという事である。

 

 なお、相手がフランスの出版社ということで、EU AI Actに言及している反AIもいるが、EU AI Actはアメリカ製AIのヨーロッパ進出を妨害するための法律なので、本件のような話には全く関係がない。

 

 

 この話はその後「TwitterのポストにAIタグを付けるか否か」という本件と関係ない話にズレて行った。それらも「出版社が騙された」というデマをベースにしている。

 

https://x.com/May__First/status/1832251902727483645

 

https://x.com/GORILIVE2024/status/1832258980569391229

 

https://x.com/explosio_/status/1832631113959010752

 

 反AIはAI使用罪が存在すると思っている集団なので、そういう大きな誤りを無視して「AIタグを付けるか付けないか」みたいなどうでもいい細部だけを詰めても全く意味はない。

反AI絵師「やすゆき」、667万調達成功

 

 約10日で達成(66.7万/日)。

 

note.com

 

 裁判とは遅々としたものであるから、次にこの話をするのはいつになるか分からないが、今後注目すべきポイントについてまとめておく。

 

1. 争点が不明

 

 「AI潤羽るしあ」が作ったのは、あくまでも「潤羽るしあLoRA」であって、「やすゆき絵柄LoRA」ではない。そのため、本件はいわゆる「狙い撃ちLoRA案件」ではない。かつ、やすゆきは潤羽るしあの権利者でもない。

 

 よって、本件は「生成AI被害に対する訴訟」と題されてはいるが、その「被害」というのが具体的に何なのか、実はよく分からない。最悪の場合、やすゆき自身に原告としての適格性がない可能性すらある。

 

https://x.com/yasu00kamiki/status/1829282257426841650

 

 

2. 後ろから撃たれる可能性が結構高い

 

 この裁判は「やすゆきがやすゆき個人の利益のために戦う」裁判であって、「やすゆきが反AI代表として悪のAI帝国を滅ぼすために戦う」裁判ではない。

 

 しかし、他人から金を集めたせいでそこが曖昧になっており、実際に勘違いしている反AIも一定数いると思われる。代表とは責任を負わされる立場であるから、裁判の展開次第では、この勘違い集団が後々やすゆきを背中から撃ち始める可能性がある。

 

 

3. 負けたら不利になる

 

 なぜか「負けても有利になる」と思っている反AIがいるが、負けたら不利になる。判例とは勝った時にだけできるものではないからである。

 

https://x.com/Nononon7777/status/1827964665693127134

 

 なお、「裁判が二次創作に悪い影響を与えないか心配」というようなコメントをしばしば見るが、著作権者に1円も金を払わずに設定とキャラクターを無断使用して作られているエロ同人は、やすゆき裁判と関係なく現時点で既に違法なので、裁判を通して改めて違法になる事はない。安心してよい。

反AI絵師「やすゆき」、CFで裁判費用を募る

 

 2024/8/25、約10ヶ月前に発生し、既に決着したと思われていた「AI潤羽るしあ事件」について、「やすゆき」氏がci-enのクラウドファンディングで裁判費用を募るという新たな動きが発生。

 

note.com

 

 「AI潤羽るしあ」がわずか1日で全面降伏したあと、交渉が水面下に入った事で、その後の流れが不明となっていたが、交渉は不調で、10ヶ月目にして裁判する事に決めたようである。

 

https://ci-en.net/creator/24768/crowdfunding/761

 

 前出の記事の通り、全面降伏によって誤魔化されただけで、この件には元々不調になりそうな要素が山ほどあった。やすゆき氏が潤羽るしあの権利者本人ではないこと、AI潤羽るしあが作ったのは「潤羽るしあLoRA」であって、「やすゆき絵柄LoRA」ではないこと、具体的な被害がはっきりしないこと、そして「1億円の支払い」に代表される「ぼくのかんがえたさいきょうの条項」が存在すること等である。これらが交渉の足を引っ張った可能性は高い。

 

 実用的な画像生成AIがこの世に現れて約2年、反AIは被害者を自称するものの、Twitterでキャンセル・カルチャーに血道を上げるだけで、いつまで経っても裁判も起きないし判例も生じないという奇妙な状態にあったが、ついに本件が国内裁判例第1号になる可能性が出てきた。

「AI絵師」はいつから蔑称になったか

2018/2/19

 

https://x.com/toyo_to/status/965553904816549890

 

 現在確認できるTwitter最古の「AI絵師」。現在の感覚だと文意が読み取りづらいが、このテキストは「画像を生成するAIシステム」そのものを指してAI絵師と呼んでいる。そして「それが完成したとしたら」という話をしている。

 

 実用的な画像生成AIが影も形もなかった時代の話であるから、この人はかなりの先見性がある。

 

 

2019/8/3

 

https://x.com/WarawaraEdit/status/1157307322223321088

 

 当時流行った「Waifu Labs」というサービスを指して「AI絵師」と呼称しているツイート。

 

 「AI絵師という言葉は、AI使用者の自称として発生したのか、それとも反AIからの蔑称として発生したのか」という議論は未だに繰り返されるが、正解はそのどちらでもない。元々「AI絵師」は人間の肩書ですらなく、「画像を生成するシステムそのもの」を指していたのである。

 

 

2022/8/2

 

https://x.com/moritsuu/status/1554318692074172416

 

 それから約2年後、2022年7月のMidjourney、2022年8月のStable Diffusion v1.1リリースを経て、仮定の話ながら、ここで初めて現在の意味に通じる「AIをコントロールする者」としての「AI絵師」が登場する。ただし…

 

https://x.com/yorozu_choko/status/1554736498477776896

 

 そのような使い方をしている人間は極めて少数で、この時期の「AI絵師」は9割9分Midjourneyそのものを指していた。わざわざ「AI絵師P」と表記している事からもそれが分かる。言い回しとしては「最近流行りの人気AI絵師ことMidjourney氏」みたいな感じである。

 

 

2022/8/11

 

https://x.com/rootport/status/1557693140374417409

 

 おそらく史上初となる「使っている人間をどう呼ぶか」という視点のツイート。この時代の生成は今と違って完全なガチャなので、「召喚士」「調教師」「祈祷師」等が適当だとしている。

 

 ただ当のAI使用者は「自分がどう呼ばれるか」という事にほとんど興味がなかったらしく、この議論はあまり盛り上がらなかった。

 

 

2022/8/23

 

https://x.com/hagitsuki_szr/status/1561924081540530176

 

 後の反AIの土台となるAI叩きのムーブメントが散見され始める。これは現代の反AIに近い感覚の発言だが、それでもこの「AI絵師」はまだシステムの事を指している。

 

 

2022/10/17~

 

https://x.com/3giwa/status/1582020928187568128

 

https://x.com/udukinoko/status/1582527121179582464

 

https://x.com/Gas_Neet/status/1583079302501130244

 

https://x.com/seira00Funifuni/status/1582816475739750400

 

https://x.com/7248u/status/1585220454557847552

 

 10月3日にNovelAIがリリースされ、画像生成AIの画力が一気に向上すると、AI叩きも加熱し、人間を指す用途で「AI絵師」を使うという誤用が激増。中旬ごろには逆転して誤用の方が多くなる。AI使用者が自らAI絵師と名乗っている例は非常に少なく、「AI絵師」という言葉はほぼAI叩きの文脈だけで使われている。

 

 このAI叩きのムーブメントは当時「AI絵師問題」と呼ばれていた。推測になるが、このタイミングでAIを叩き始めた者は、全体から見るとだいぶ遅れて話に参加しているので、「AI絵師」という言葉が元々どういう意味で使われていたのかを知らず、字面から受ける印象だけで勝手に新しい意味を作った可能性がある。

 

 

その後

 

https://x.com/kiyoshi_shin/status/1583722685724766210

 

 誤用によって「AI絵師」という単語が反AIに乗っ取られた一方、AI使用者は相変わらずどう名乗るかが定まらず、その場その場で適当な名前で呼ばれ続けた。前述の通り、おそらくAI使用者はどう名乗るか、どう呼ばれるか、という事に対してあまり興味がなかったと思われる。そう考えなければ説明が付かないほど言及が少ない。結局それが「現在に至ってもどう呼ぶかが定まっていない」という結果に帰結している。

 

 比較的よく聞く名称である「AI術師」という言葉が現れたのは2022年10月22日で、これ系の単語の中では最後発である。8月3日に「AI絵師P」、8月11日に「AI召喚士」「AI調教師」「AI祈祷師」が登場しているので、歴史としてはこちらの方が古い。この中では「AI絵師P」と「AI召喚士」は当時わりと使われていた。最近はほとんど聞かないが…

iPad専用ペイントツールProcreate、反AIビジネスに舵を切る

 

 2024/8/19、豪Savage Interactive社が運営しているiPad専用ペイントツール「Procreate」が、「生成AIは私たちの未来ではない」とするページを公開。

 

 ページには、企業が作ったとは思えないほどストレートに反AI思想が現れており、「略奪」「盗作」といった反AIが好きそうな単語が並ぶ。

 

https://procreate.com/jp/ai

 

 かつてAIアシスト機能を内蔵しようとして反AIの襲撃に遭い、実装をキャンセルされたCLIP STUDIO PAINT(セルシス社)と状況が似ているが、Procreateは「全く何も問題が起きていないのに自ら反AIを宣言した」という点で異なる。

 

 


 この宣言により、ProcreateもCLIP STUDIO PAINT同様現在だけでなく未来永劫AIアシスト機能を搭載できなくなった。今後どのように状況が変わろうとも絶対に、である。

 

 一方で反AIは、画像生成AIが搭載されたTwitterを平然と使い続けるぐらいフワフワした信念でやっているので、いつでも宗旨替えしてAIアシストを使い始める可能性がある。裏切る余地があるか無いかで言えば、この取引はProcreate側が圧倒的に不利と言える。

 

 なお、ProcreateはiPad専用アプリだが、そのiPadにはApple Intelligenceという生成AI(画像含む)が近々搭載される予定である。

 

www.apple.com