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過去35年のあいだ、『ファイナルファンタジー』はRPGデザインの頂点に君臨し続けてきた。壮大な世界を舞台にオリジナルキャラクターを据えた英雄譚は、8ビットの任天堂ファミリーコンピュータに初登場して以降、最も成功したゲームシリーズの一つとなったばかりか、その快進撃は近年ますます勢いを増している。
2020年にリメイクされた『ファイナルファンタジーVII』は、再びその年の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」に名を連ねた。いっぽう、マルチプレイヤーによるオンライン『ファイナルファンタジーXIV』は、1日あたり120万プレイヤー以上の動員を記録している。
最新作の『ファイナルファンタジーXVI』で、開発元であるスクウェア・エニックスはさらなる高みを目指した。前作から7年を経て発表される本作では、雰囲気やキャラクター、ゲームプレイに新たな変化がもたらされた。
1時間半ほどのプレイの後、われわれはゲームのプロデューサーである吉田直樹(彼はプロデューサー兼ディレクターを務めた『FF14』を悲惨なローンチから立て直した人物でもある)、そしてアートディレクターの皆川裕史と面会した。彼らに、歴史あるシリーズに新たに加わる大作はどのようなものであるべきか、そして独立作品を一から制作する際の困難と楽しさについて尋ねた。
新しいプレイヤーをいかに『ファイナルファンタジー』シリーズに惹きつけるか。それが本作のフォーカスだ。冷徹な人間の現実に即した表現を求め、『ウィッチャー3 ワイルドハント』や『The Elder Scrolls V: Skyrim』といった海外作品にヒントを得た。本作は最高レベルの予算をかけて作られたビデオゲームの一つなのではないか?というのが、われわれが実際にプレイしてみて得た感触だった(特に素晴らしいのが人物の表情だ)。
これまでよりもダークな雰囲気は『ゲーム・オブ・スローンズ』を思わせるいっぽうで、戦闘シーンに新たに採り入れられたリアルタイムの、よりモダンなシステムが、プレイヤーの直接的なコントロールを高めている。
30年以上の歴史と強固なファンベースからの期待を抱えながら、古参ファンも納得する新しいアイデアで新たなプレイヤーを獲得する──そのようなことは、いかなるデベロッパーにとっても至難の業だ。16作目を数える『ファイナルファンタジー』で彼らが直面した課題について、ふたりに語ってもらった。
吉田直樹:35年の歴史を持つシリーズの最新作ですから、世界中のゲームプレイヤーがシリーズのことを一般にどう思っているのか、についてリサーチが必要でした。われわれは肯定的な反応よりも否定的意見にフォーカスし、どうしたらネガティブをポジティブに転換できるか、シリーズへの先入観を覆せるかを考えました。ストーリーだけでなく、ゲームプレイも完全にリアルタイムのアクションへと変えていきました。
吉田:『ファイナルファンタジー』シリーズがとてもクラシックだとか、古い、あるいは陳腐でさえある、という意見を多数頂戴しました。また、ストーリーが幼稚である、若いプレイヤー向けの若いキャラクターにフォーカスしている、といったことも。私は今年で50歳になります。現実の世界に目を向けると、現実の問題が見えてきます。そういった問題をゲームに取り入れることが重要だと考えました。
吉田:過去に何がなされたかに目を向けて、わざとそれを避けるようなことはしていません。われわれが創り上げた中世風のゴシックなハイ・ファンタジー世界には、とても「ファイナルファンタジー的」なコンセプトが存在します。たとえば、『FF16』のマザークリスタルは巨大な油田のメタファーであり、現実世界に基づいたファンタジー要素として登場させています。ビジュアル的にも、最近のいくつかの作品がモダンでSF的な流れに乗っていたのに対し、本作ではよりファンタジーに寄せたいと考えました。それがまだあったのはシリーズの初期で、『FF9』あたりまで遡らなければなりません。
皆川裕史:私にとっては、必ずしもプレッシャーだったとは思っていません。アートディレクターとして、モンスターやキャラクターなどを過去の作品から引っ張ってくる必要もあります。それらの本質を残しつつ、『FF16』のために、どのように変えたりアレンジしたりするのかを考えるのは楽しいことでした。私はチームに加わる前からシリーズのファンです。私は大きなチームを抱えており、私が行ったことにスタッフが「こんなことをしていいのか?」と不安になることもありました。そのように、もしかしたらやり過ぎたかもしれないというプレッシャーはあります。しかし、それ以外は非常に楽しい経験でした。
吉田:間違いなくそう思っています。『ファイナルファンタジー』はどの作品にも独立したキャラクターやストーリー、設定があり、それが35年続いてきた理由です。もし35年も一つの物語を続けていたら、とっくにネタ切れになっているのではと思われるかもしれません。
吉田:新しく参加してくれる多くのプレイヤーが、マンガを第1巻から読むように最初から始めないと、新作で何が起きているのかわからないと思ってしまうかもしれません。これはマーケティングの面では難しいのです。シリーズの新作を発表するたびに「ご心配なく、これまでの作品をプレイする必要はありません」と言わなくてはなりませんから。
吉田:それに関しては、じつは上層部と話し合ったことがあります。もしかしたら、もうタイトルから番号を外すべき時なのかもしれません。たとえば、『FF14』を新たにプレイしようというプレイヤーが、「待てよ、16が発売されているのに14をやる意味があるだろうか?」と考えたら? 単に『ファイナルファンタジー・オンライン』と名付けるなど、番号をすっかりなくせばわかりやすくなるでしょう。『FF17』や『FF18』と番号を与えるべきか、それはこれから開発やブランディングに携わる方にお任せします。ですから、私たちが考えるべきことではないのではないかと思います。
吉田:あくまで、彼らが育った時代によるものだと思います。中学生や高校生の頃に出会ったものは人生に絶大なインパクトを残しますから。『ファイナルファンタジー』のようにわくわくするものをプレイしていたら、その経験は永遠に記憶に刻み込まれます。
われわれのいちばんの心配は、前進を続けることでそれが今後も維持できるだろうか、ということです。次世代のデベロッパーとなる若者たちが、『ファイナルファンタジー』を最も好きなゲームと答えてくれるだろうか? 『FF16』でわれわれがやりたかったことは、そのゲームスタイルと戦闘スタイルを持ちながら、各要素をリフレッシュすることによって、若い世代にインパクトを与えることでした。将来、彼らに「これが自分に影響を与えたゲームだ」と言ってもらえるように。
『ファイナルファンタジーXVI』は、6月22日にPlayStation 5にて発売予定。
From British GQ Translation by Yuzuru Todayama