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【インタビュー】開発チームと吉田直樹は何を考え『ファイナルファンタジーXIV』をFFたらしめたのか

スクウェア・エニックスがPC/PS3/PS4で展開しているMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』の拡張パッケージ『蒼天のイシュガルド』が6月23日に発売されます。

ソニー PS4
スクウェア・エニックスがPC/PS3/PS4で展開しているMMORPG『ファイナルファンタジーXIV』の拡張パッケージ『蒼天のイシュガルド』が6月23日に発売されます。

既にインサイドでは休眠層に向けた復帰記事を2本掲載しており、後日新規層向けの記事も公開予定ですが、それに先駆けて『ファイナルファンタジーXIV』のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏のインタビューを掲載。吉田氏が始めてオンラインゲームに触れた話から、『FFXIV』建て直しの秘話、そして初心者・未経験者に向けた魅力を吉田氏の言葉でお届けします。

◆吉田氏が語る『ファイナルファンタジー』らしさ


――インサイドではあまり『ファイナルファンタジーXIV』の記事を扱ってこなかったので、最近「『FFXIV』は本当にギスギスしているのか」や「『FFXIV』個性的なNPC20選」といった特集記事を公開してきました。そこで今回は吉田プロデューサーに話を伺おうとインタビューを企画したのですが、まずは吉田さんが思う『FFXIV』の魅力からお聞かせください。



吉田:「『FFXIV』ってどんなゲームなんだろう?」と思っている方たちには、ストレートに「『ファイナルファンタジー』シリーズのナンバリングの最新作ですよ」とお話しさせていただくことにしています。オンラインゲームであることは、いったん忘れていただいても良いのかなと。

――「オンラインゲームであることを忘れる」とはどういうことでしょうか?

吉田:もちろん本作はMMORPGですから、プレイするにはインターネット環境をご用意いただく必要があります。ハードウェアにネットワークケーブルを接続する必要がある……でも、逆にいえばそれだけなんです。本作は、ストーリーを楽しみ、NPCと会話して、ボスと戦い、そしてだんだん大きな話に巻き込まれていき……とオフラインのRPGのようにサクサクと物語を楽しむことができます。レベル50になった頃には、スタッフロールの流れるエンディングもきちんと用意していますので、「普通のRPGです」と。

オンラインゲーム、MMORPGというと「人とコミュニケーションを取らないと遊べないんでしょ?」「まともに遊ぼうとすると、ものすごく長いプレイ時間が必要なんだよね??」というイメージを持ってしまっている方もいるかと思いますが、本作に関してはそんなことはありません。もちろん、最終的にはそうした「人と一緒に遊ぶおもしろさ」の比重が大きくなりますが、いったんのエンディングを見るまでなら比重は大きくありません。ダンジョンの攻略などもパーティーマッチングシステムの“コンテンツファインダー”で一緒に遊べる人をすぐ見つけられますし、他の人たちと無理にまで会話する必要もないです。



その一方で僕や運営チーム/開発チームは、プレイヤーの皆さんとのコミュニケーションを大切にしていて、単独イベント開催も多いですし、東京ゲームショウなどでも、皆さんと直接お話しする機会をたくさん作っています。そんな中で多くの方に「いつものFFと変わらない、という吉田のインタビューを見てプレイをしてみたら、自分の思っていたオンラインゲームのイメージとは全然違った。まさか自分がこんなにハマるなんて!」と言っていただけています。無料でレベル20まで遊べるフリートライアル版もありますし、ぜひ一度経験していただきたいなと思います。

さらにゲームの序盤はゴリ押しでも進めるバランスや難易度にしてありますので、本当に気楽だと思います。ですので「とりあえずネットワークケーブルだけつないでもらえれば、あとはいつもの『ファイナルファンタジー』ですよ」とお伝えしたいです。

――やはりそうした「普通の『ファイナルファンタジー』っぽさ」は当初から強く意識されましたか?

吉田:そうですね。自分が本作に関わる前の旧『FFXIV』は、プレイヤーの方からもメディアの方からも「『ファイナルファンタジー』っぽくない」とのご指摘をいただいてしまいましたので、そこは強く意識しました。例えば、大勢のプレイヤーで世界を共有するMMORPGでは、リアルタイムに時間や天候変化があり、ゲームの都合だけでこれらを変えることはできません。1プレイヤーのイベントのために世界の天候を変えていたのでは、昼と夜や、晴れと雨などがめちゃくちゃになってしまうからです。

しかしFFXIVではプレイヤー一人ひとりのイベントを「自分だけに見えている空間」にこっそり切り替え、プレイヤーの感情や時間経過を演出するように心がけています。物語の序盤で飛空艇に乗って世界へと羽ばたいていくシーンでは、『ファイナルファンタジー』らしいテーマ曲とともに、必ず青空が広がる演出になっています。もしかするとプレイされている方の中にも「え?あのシーンの青空は、たまたまじゃないの?」と思っていらっしゃる方がいるかもしれませんが、気づかないうちに時間経過を作り、雰囲気を壊さずに固定時間/固定天候でイベントを演出しています。細かいこだわりなのですが、クラシックな『ファイナルファンタジー』を好んでくださる方ほど、“らしさ”を感じていただけるのではないかと思っています。



――『ドラゴンクエストX』でもそうですが、MMORPGで骨太なストーリーとエンディングが用意されているのはめずらしいことですよね。

吉田:はい。そうすることでサンドボックス(編注:プレイヤーに可能なかぎり自由度を与える、オープンなゲームデザインのこと)的な良さは減ってしまうこともありますが、まずは何より「おお、これは『ファイナルファンタジー』だ」と思っていただけないと、本作が『ファイナルファンタジー』である意味がないと考えています。

――常にコンテンツを追加し続けなければならないMMOで、常にFFらしさを保ち続けるのは大変なのでは?

吉田:そんなことはないですよ(笑)。「FFらしさ」は人それぞれに定義が違います。それは開発チーム一人一人も同じです。だから試行錯誤もするし、常に「これってFFっぽいよね(笑)」と話し合って作られているので、あまり大変さやプレッシャーはないです。ただ、このゲームが『ファイナルファンタジー』でなければ、ゲームの内容は大きく別のものになっていたと思います。

――その場合はどんなゲームになっていたのでしょう?



吉田:僕はピリピリする緊張感があって、それによってリアリティや仲間意識を感じるのが好きな、いわゆる「濃い」ゲーマーです。「FF」以外のオンラインゲームを作るとしたら、もっとPvP(編注:Player vs. Player。プレイヤー同士で戦う対人要素のこと)に特化したゲームになっていたり、自由度が高く、道具はあるけど遊び方は皆さんで考えてください、といったサンドボックス思考の強いゲームになる気がします(笑)。

たとえるなら、公園はあるけど遊具はない。でも、遊具の材料や、遊びの取っ掛かりになりそうな破片のようなものはある。さて、ここでどう遊ぶ? というようなものです。僕自身はそういう感じのゲームが好きなのですが、「今のゲーマーライフサイクルや、日々の忙しさにはマッチしづらいゲーム」でもあります。ビジネスと両立できなければ、オンラインゲームはアップデートし続けられないですし、ビジネスモデルも含めて今とは大きく異なったと思います。

――せっかくの機会ですので、吉田さん個人についてもおうかがいできればと思います。一番最初に触れたオンラインゲームはなんでしたか?

吉田:初代の『ディアブロ』をPCで遊んだのが最初です。当時のPC雑誌に画面写真が小さく1点だけ載っているのを見ながら、早く遊びたいと心待ちにしていた作品でした。それから発売延期を繰り替えして、あきらめかけていたらようやく発売されて(笑)ソロでのアイテム収集とアイテム鑑定に夢中になる一方で、パーティプレイにハマっていきました。ディアブロIIからは無くなってしまいましたが、初代ディアブロは自分の攻撃が味方にもヒットしてしまうのが標準仕様だったので、適当にはプレイできないというのも魅力でした。

僕が撃つ魔法は相当の高威力だったので、敵を狙ったファイアボールが味方の戦士を掠めただけで、その戦士が死んでしまったり……。「ああ、破壊の力を扱うというのは、味方にとっても脅威なんだな。熟練魔法使いとは、味方の動きも予測して魔法を着弾させないとダメなんだ」とか、プレイ体験とロールプレイが結びついていて、とにかく面白かったです。。片言の英語で外国の方と必死にコミュニケーションを取ろうとしたら、相手も親切に付き合ってくれたりしたのも楽しかったです。その一方で、チートまみれのプレイヤーになすすべもなく殺されることもあったりして、そのときは罵りあいながら戦っていましたが(笑)。



その1年後くらいに『ウルティマ オンライン』のβテストが始まって、以降はそちらにも夢中になりました。ゲーム世界で生きるためのモンスターとの戦い、暮らし、狩りなどが本当に自由に体験できるのがウルティマオンラインでした。PvPとしてプレイヤー同士も戦っていましたが、仕様の隙を突いて楽をしようとするプレイヤーと、それを阻止せんと仕様を変えてくる運営チームも戦っているような感じがして(笑)とにかく何もかもが新鮮で、衝撃的なゲームでした。

――そうした原体験を経て、オンラインゲームを作ろうという思いを抱かれたのでしょうか?

吉田:当時の僕は20歳代前半でハドソンに在籍していましたが、仕事とプライベートは分けて考えていましたので、「ゲームが作れていれば楽しい!」ということの方が大きくて、「オンラインゲームを!」という気持ちはまだありませんでした。当時は松野泰己さんが作られたゲームが大好きで、ずっと松野さんに憧れていて……いつか技術を身に着けて、「松野さんたちと一緒にゲームを作ってみたい」という気持ちの方が強かったです(笑)。中高生~大学生くらいをターゲットにしたハイファンタジーで、100万本とか売れなくてもいいから、思い出に刺さるゲームが作りたいと思っていました。

ただ「自分が企画したゲームしか作りたくない」というような感覚はなく、当時は『天外魔境』に関わる機会もあり、ものすごく楽しかったですし、売り上げ確保のためにしっかりと発売時期や利益を見据えて『ボンバーマン』を作ることもありました。どれも必死に頑張って作っていましたので、自分にとって、とても大きな経験をさせていただきました。

MMORPGを作るために必要な知識の取っ掛かりとなるようなものは“当時遊びながら自然と覚えていった”とも言えますね。
《栗本 浩大》
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