高井アナの空言舌語
東海テレビアナウンサー高井一が、正しい日本語の読みや、謂れをご紹介します。
2004/9/17
- 五十八、
- 物騒な野球用語
中日ドラゴンズのリーグ優勝がカウントダウンに入りました。ファンの応援にも熱が入ります。
以前から気になっていたのが野球用語です。アウトカウントに「一死」「二死」と「死」が使われるのをはじめ、物騒な言葉が多いのです。
明治初期にベースボールが輸入されたとき、「野球」と訳したのは正岡子規とされていますが、アメリカ語の野球用語を日本語に翻訳したのはどんな人なのでしょうか。
死球にはじまり併殺に封殺、それに刺殺とまるで事件のよう。イニングを重ねるとグラウンドは死屍累々。まれに三重殺まで起こります。
それから野球報道が生んだ言葉も結構スゴイ。
打線の先頭には「切り込み隊長」や「核弾頭」がいて、「主砲」「大砲」も忘れず配置されています。
かつては強力な打線の形容として「水爆打線(松竹)」「ミサイル打線(大毎)」などがありました。最近では98年優勝の横浜「マシンガン打線」。いずれも兵器です。
また投手は、好投しても打線が奮起しないと「見殺し」にされるし、不調で打ち込まれれば「火だるま」。ホント投手は命がけ。戦争・核武装・ギャング・殺人事件と危険極まりない次第です。
野球は戦いであり勝負ごと。こんな表現が多くなるのもある程度は仕方ない気もしますが、グラウンド上は「刺した」「殺した」と修羅場のごとき言葉のオンパレードです。
最近、特に気になるのがワンポイントリリーフに使われる「一人一殺」。ほとんどの解説者は「ヒトリイッサツ」と言っています。これは昭和7年の血盟団事件の「一人一殺=イチニンイッサツ」から来ていることは明らかです。余りにも血生臭い表現です。
そんなわけで、そろそろ21世紀型の平和で楽しい野球用語が生まれても良いと考えてしまいます。その点、イチロー選手の強肩を表現した米国アナウクンサーの「レーザービーム」はよい気配だと喜びましたが……考えてみるとやっぱり殺人光線?