有り金を薔薇に変えて配っていたら、薔薇をお渡しした女性Ｃ様が京都のホテルを取ってくれた。しかも「他の女性が飛び込みでやって来てもいいように、ツインルームを予約しますね」と機転（？）を効かせてくれた。有り金が薔薇になり、薔薇がスイートルームになった。令和のわらしべ長者である。私は「私と熱い夜を過ごしたい方はご連絡ください」と投稿した。それを見て、Ｃ様は「楽しい」と言った。私も楽しい。私はおもちゃ。おもちゃの願いは、みんなに楽しんでもらうこと。どこからでも、かかって来い。仕事なんて休めばいいから、三十三間堂などに立ち寄って、ふらっと京都観光をして帰ればいいのだ。誰か来たら面白いですねと言いながら、私たちは京都駅前で酒を飲んだ。

Ｃ様はチャーミングだった。Ｃ様は「私は肺がんで抗がん剤治療をしているから本当はお酒はダメなんだけど、たまにはいいですよね」と言って、京都駅前のクラフトビール屋に私を誘った。私は「いいと思います」と言って酒を飲んだ。旅は道連れ、人類皆共犯。共犯こそが絆である。Ｃ様は「私は同性愛者で、正直いつ死んでもいいと思っているのだけど、パートナーがいるから抗がん剤治療を受けることに決めた」と言った。素晴らしい決断である。駅前に置かれたピアノでは、小さな男の子が人差し指だけでウルトラマンを弾いていた。一緒にいた弟が「おにいちゃん、すげえ！」と興奮していた。私は「最高だ」と思った。お前たちは最高だ。

Ｃ様は言った。私は女で、女の人が好きで、だけど、多くの女の人は男の人が好きだから、私にとって男の人はライバルだった。だけど、女同士ではどうしても癒せない部分、男の人にしか癒せない部分が女にはあることがわかったから、今では「俺の好きな女を頼んだ！」と、男の人に対して思えるようになった。坂爪さんの記事を読み、坂爪さんに会いに行く女の人たちを見て、いいぞ、いいぞ、もっとやれと思う。すべての女に救われて欲しい。だから、坂爪さん、後は頼みましたよ。Ｃ様は、そのようなことを言った。駅前のピアノでは、フジ子・ヘミングのような女性が「愛の夢」を弾いていた。私は「最高だ」と思った。俺もお前も最高だ。

金も名誉もあるのに希望がないと言って死にたがる人もいれば、金も名誉もないのに希望しかないと言って踊り狂っている人もいる。人間は不思議だ。何が元気の源になるのかは、人によって全然違う。頭の中で流れている音楽が、まったく違うのだろうなと思った。駅前のピアノでは、痩せた青年がジブリ音楽を弾いていた。私は「ジブリなんか弾くな」と思った。誰からも愛される音楽を選ぶなんて卑怯だ。オリジナリティのカケラもない。ブルース・ブラザーズを見ろ。ジェリー・リー・ルイスを弾け。スタインウェイを足で叩け。Ｃ様は「私は好きですよ」と言った。愛されたいと思って、何かをやる。そんな人のことは、嫌いではない。青年が演奏を終えた時、それを聞いていた小学生の女の子が拍手をした。ああ、この青年は、いまこの瞬間間違いなく一人の女の子を幸せにした。青年よ、君は素晴らしい。邪悪なのは、俺だ。

だがしかし、やはり私はウルトラマンが好きなので「今日のＭＶＰはあの兄弟だ」と言った。Ｃ様と別れて、本当に誰か来たら面白いなと思っていたら、長崎在住の女性Ｔ様から「飛行機に乗って行きます」と連絡が届いた。まさか飛行機で来る人がいるだなんて想像もしていなかったから、ぶったまげた。ぶったまげた瞬間、愉快になった。俺のすべてをＴ様にあげたいと思った。大事なものは心意気だ。よくよく話を聞くと、Ｔ様は仕事をしていなかった。貯金を切り崩して生きていたが、最後に花火をあげたいと思っていたのだと言った。これで私はすっからかんになる。人生の長い夏休みが終わる。長崎に戻ったら面接を受ける。私は働くのだ。ウルトラの兄弟よ、申し訳ない。今日のＭＶＰは、Ｔ様だ。俺は「全員ＭＶＰです」なんて綺麗事は言わない。Ｔ様がぶっちぎりで優勝だ。有り金を薔薇に変えた男に、有り金を航空券に変えた女が会いに来た。最高だ。たまらない。ウルトラの少年よ、こんな大人にはなるなよ。否。こんな大人になってくれ。ウルトラな大人になってくれ。現実を見ている場合ではない。ぶっちぎりの男になれ。これから東京に行く。