大型犬脱走のニュース再考:「咬まれた」のか「歯が当たった」のか?
NHKの報道には、前回のnoteで指摘した以外にもあやふやな点があります。
犬が8日に脱走して17日に戻ってくるまでに、よその家の庭に入り込んだことがあり、そのとき近づいた人にケガを負わせています。以下はNHK茨城NEWS WEBの記事です。↓
小美玉市では10日、市内の住宅の庭で1頭の大型犬が見つかり、市によりますと、この際、近づいた住民の左手に犬の歯が当たってかすり傷を負ったということです。
「犬の歯が当たって」という表現をしていますが、歯が当たっただけでは「かすり傷を負った」りはしないでしょう。それは「咬まれた」というのでは?
同じような表現を使っているメディアは、NHK以外にもありました。毎日新聞のウェブ記事から抜粋します。↓
市によると、近づいた男性1人に犬の歯が触れ、かすり傷を負ったが、当該犬にかまれるなどの被害はなかった。
この記事でも、「犬の歯が触れる」ことと「犬にかまれる」ことをわけて考えているようですね。それにしても、かすり傷は被害のうちに入らないのだろうか……。
いっぽう、地元紙である茨城新聞の記事では、「住人の左手をかんだ」としています。↓
犬は10日、同市三箇の住宅で発見され、保護しようとした住人の左手をかんだ。
9月11日茨城新聞の記事より。強調筆者
うーむ。「歯が当たった」と「咬まれた」ではどちらの表現がより的確なんでしょうか? goo辞書の解説を見てみました。
このケースに該当しそうな語義は、次の二つと思われます。
1) 上下の歯で物を挟んだり、砕いたりする
2 )歯を立てて傷つける
1)のように犬が住民の手をくわえ、力を入れて歯を立てたのではないにせよ、2)のように犬の歯が住民の手をかすめるなどして、切り傷ができたのなら、「咬まれた」と言えるのではないでしょうか。
どうしてこんなに「犬の歯」にこだわっているかというと、この犬は市区町村への登録がされていないんですよ。なので、狂犬病の予防注射を受けさせていない可能性がある。かすり傷でも安心できないということです。「犬の歯が当たった」「かすり傷だった」というと、大したことない印象を受けますけど。
狂犬病の予防接種をされていたかどうかは、この事件に関してはかなり重要な情報です。NHKの誤報にあるように、「檻に入れて飼われていたかどうか」よりも、そちらの方を重点的に報道すべきではなかったのか……。せっかくディテールに凝るのならこういう部分を深堀りした方が、有意義なニュースになるでしょう。
大型犬が行方不明になっているとき、当該地域の住民が知りたいのは、その犬が檻で飼われていたかどうかではありません。狂犬病の予防注射を受けていたかとか、逃走中に被害が発生したのならその詳細とか、そういう情報が求められるはずです。要は、住民が直面している危険はどのようなものなのか?という点です。
なんのためにそのニュースを報道するのか、報道する側の目的や意図がよくわからないことがあります。今回の大型犬脱走のニュースがそうですね。
センセーショナルに消費されるコンテンツを提供するのではなく、事態の収束と被害の抑止に役立つ情報を発信してほしい。公共放送に対してはとくにそういったことを期待したい。NHKは災害時など、いざという時に頼れる情報源を目指しているようですが、そのためには普段からの信頼構築が不可欠です。
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