アメリカ利下げで「円高」が進みそうもない諸事情 やがて見える「利下げの終わり」と構造的な円安の今
しかし、現在に目をやればCFベース経常収支は今年1~7月合計で約1兆円の黒字まで回復している。ちなみに昨年1~7月期は約4.5兆円の赤字だった。
日米金利差の顕著な縮小が円高を駆動していることに異論はないが、需給改善も円高に寄与している疑いは濃厚である。
需給改善の背景は1つではないが、①貿易収支赤字の縮小、②旅行収支黒字の拡大の2つの要因でほとんどが説明できる。
②は後述するとして、①の貿易収支に関して言えば、約20兆円の赤字を記録した2022年、約4兆円の赤字を記録した2023年に続き、2024年は現在明らかになっている1~7月分で約3.9兆円の赤字であり、単純に年率化すれば貿易赤字は6.7兆円程度に着地する公算である。
円安・資源高のピークアウトがそのまま輸入金額を抑制し、貿易収支赤字の縮小に寄与している。
もっとも、より長い目の議論も忘れてはいけない。年間6.7兆円の貿易赤字は歴史的に見れば5番目から6番目に大きな水準だ。コロナ前の10年間(2010年から2019年)の貿易収支赤字の平均は約2.6兆円だったのだから、やはり達観すれば需給面に関し、「円が構造的な弱さを抱えている」という指摘は間違いではないはずである。
デジタル赤字の拡大が目立たない理由
今回は紙幅の関係上、割愛させていただくが、筆者が提唱してきたデジタル赤字に象徴される「新時代の赤字」こと「その他サービス収支」は依然として過去最高ペースで膨らんでおり、この背景には過去最高ペースで積み上がるデジタル赤字がある。
それが大きな問題になっていないのは旅行収支黒字も過去最高ペースで積み上がっているためであり、その結果としてサービス収支全体の赤字が抑制されている現状がある。
しかし、今後人手不足が極まってくる日本においてこの状況は持続的ではない。労働集約的な観光産業から得られる外貨はいずれピークアウトする一方、資本集約的な情報通信産業に支払う外貨はまだ増勢が続く可能性が高い。筆者はサービス収支赤字主導で経常収支黒字が目減りする未来は否めないと思っている。
FRBが動き出したことで市場の焦点はどうしても金利差関連の議論へ向きやすいが、従前言われてきた円相場の構造変化や脆弱性の問題は何一つ状況が変わっていない。むしろ、国際収支に目をやれば、円安に包含される構造的性質を正視するのが当然の分析態度ではないかと考える。
目先の金利差動向に応じて円相場を語るのではなく、今次円安局面の値動きの背景にあることを熟慮したうえで、どのように日本経済の処方箋に還元していけるかを検討してきたいと思う。
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