外国人スタッフによる番組中の不適切な発言を防げなかったNHKの責任は重大だ。
ラジオ国際放送の中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフが突然、沖縄県の尖閣諸島について「古くから中国の領土」と述べた。原稿にはない内容だった。
日本政府は、尖閣諸島は固有の領土で、中国との間に領有権の問題は存在しないとの立場だ。
NHKの国際番組基準は、政府の公式見解を正しく伝えるよう定める。放送事業者に対して基準にのっとった番組編集を求める放送法の規定に抵触する発言だった。
総務省が行政指導したのは当然だ。稲葉延雄会長は「放送の乗っ取りとも言える事態」と謝罪し、担当理事は辞任した。
発覚後の対応にも問題があった。当初は発言の詳細を発表せず、「NHKの歴史修正主義宣伝に抗議する」「南京大虐殺を忘れるな」などの発言もあったと、後になって明らかにした。
NHKの調査報告書などによると、スタッフは自身の仕事に対する中国当局の反応への不安を口にしていた。昨年11月には尖閣諸島を例に挙げて翻訳業務を拒否できるかどうかを職員に質問していたという。トラブルの兆候があったにもかかわらず、なぜ適切に対処しなかったのか。
危機管理意識の欠如は明白だ。問題が表面化した後、政府・自民党からNHKの対応を厳しく追及する声が上がった。しかし、今回の件をきっかけに政治が編集権に不当に介入するような事態は避けなければならない。
国際放送は日本の文化や産業などを紹介し、国際親善を促すのが目的だ。国内向けと異なり、総務相が国の重要な施策などについて、NHKに放送を要請することができると放送法は規定する。このため国から交付金も受けている。
だが、過去には運用が問題視されるケースもあった。2006年には当時の菅義偉総務相が北朝鮮の拉致問題を重点的に取り上げるよう命令し、放送の自由を制約しかねないと識者から批判が出た。
公共放送として自主自律の理念が損なわれれば、国民の信頼も失われる。NHKは編集の自由を守るためにも、再発防止を徹底する必要がある。