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第5話「入学試験開始~剣術~」

 最初の試験は剣術らしい。受験者は200人以上はいそうだった。

 内容は簡単だ。剣を使って相手に勝てばいい。単純明快で助かる。


『ルシファ……て、テオドー……どちらでお呼びすればよろしいでしょうか』


 レナが戸惑った様子で声をかけてくる。


「別に好きにすればいいよ。なんだい?」

『では、ルシファーさま。試験は相手を倒すか降伏させれば勝ちですが、殺してしまえば失格です。くれぐれもご注意ください」

「ああ、そうなんだ。首でも刎ねればいいのかって思ってた」

『それでは入学希望者がいなくなってしまいます!?』

「確かに」


 直後に係の人間から使用武器として渡されたのは木剣だった。

 ……この強度なら、強く殴れば首の骨折れちゃうけど。どのくらい加減すればいいかな。

 僕が木剣の表面を観察しながらそんなことを考えていると、周囲にいた多くの人間が一斉に僕のところにやってきた。


 ん? あれ? ひょっとして魔族だってバレた?

 内心で冷や汗をかいてると僕を囲んだ人たちが一斉に声をかけてきた。


「なあ、お前。俺と戦ってくれねえか?」

「俺とやろうぜ!!」

「オレを選んだほうがいいぜ。痛くしないからよ」


 何なんだろ。

 別に僕は構わないけど、どうしてここまで僕に迫るんだろうか。


『ルシファーさま。試験内容は入学希望者の中から1人を選んで、その者を打ち倒すというものです。今のルシファーさまはその……身も蓋もない言い方をすると弱そうに見えるので、このようなことになっているのかと』


 要するに見た目で実力を判断してるのか。程度の低いのしかいないのかな。

 僕は適当に1人を指差した。


「じゃあ、そこの君。僕とやろうか」

「おうおう! いいぜいいぜ、そうこなくっちゃよぉ」


 大柄な男がにやにやとした様子で僕の肩を掴みながら、試合を行なうスペースへと連れてきてくれた。

 判定をする試験官らしき男性は初老の軍人だった。目付きは鋭くて、ただ立っているだけでも隙がないように思える。なかなか強いのかもしれない。

 こっちと戦った方が面白そうなんだけどなぁ。


「おい、よそ見してんじゃねえよ。早くヤろうぜえ」

「ああ、ごめんごめん。僕はいつでもいいよ」


 木剣で肩を叩きながらそう言った時、試験官が「始め!!」と叫ぶ。

 お互いに睨み合うが、何もしない。相手はへらへら笑ったままだ。僕が先に斬りかかるのを待っているのは見え見えだ。


 彼我ひがの距離はおよそ5メートル。

 相手は筋肉質で剣の扱いはそこそこ上手そうな気はする。でも、現役の兵士ほどでもないかな。要するにどうでもいい相手だ。動きを見るまでもないか。


「……おい! そっちから来ねえなら、こっちからっ」


 ゴッ!


 言い切る前に受験生は倒れ込んだ。泡を噴いて倒れている。

 僕が一気に距離を詰めて、側頭部を木剣で軽く殴打したのをもろに食らったらしい。


 ……力は抑えたよ? 流石に今は全力で鼻息を噴いても子供1人殺せないし、目力で相手を破裂させるなんて無理な身体になってるから大丈夫だよね? 死んでないよね?

 何かちょっと不安だぞ。僕は倒れた男に向かって声をかけながらゆさゆさと揺する。


「大丈夫? 生きてる?」


 返事はない。一応首筋に手を当てたら脈があったから大丈夫だろう。

 僕は試験官を見た。老人は鋭い眼差しのまま僕を見つめたきりだった。もしかしてダメだった? それとも動きで何か勘付かれたか?


「あの、倒したけど。これじゃダメ?」

「……え? あっ、良いぞ。うん、勝ち! 勝者、テオドール!」


 拍子抜けする。ただ単に動きについていけてなくて思考が止まっただけだったか。


『まずは1勝ですね。このままの勢いで行きましょう!』

「うん。手応えがある相手がいればいいんだけどね。簡単過ぎてつまらないよ」


 ふと周囲を見ると、アレほど僕と戦いたがっていた人たちと視線が合う。

 彼らは奇妙な悲鳴を上げてそそくさと受験生の群れの中に消えていってしまった。



 その後。僕は試験を順調にこなしていった。

 途中で度々歓声が上がったけど、その対象は僕じゃなくて燃えるような赤い髪をした精悍せいかんな青年だった。

 端正な顔を引き締め、相手を打ち倒した後も表情を崩さず全身から闘気を溢れさせている。


「流石はレルミット伯爵家の嫡男だ!」

「すげえな……あいつとだけは当たりたくねえ」


 どうやら名のある貴族の出らしい。動きはかなり洗練されている。間違いなく今いる受験生の中では彼が一番強いだろう。

 しかも彼の身体からはかなりの量の魔力の波動を感じる。


魔剣士まけんしでしょうか』

「だろうね。面白そうだ」


 魔剣士とはその名の通り、魔術と剣術を自在に扱える者のことを言う。なかなかに珍しい存在だ。大抵はどちらか片方の才能しかないものだからね。

 その時、僕の頭上に木刀が振り下ろされる。


「よそ見してんじゃねえ!」


 僕は視線を伯爵家の受験生に合わせながらその一撃を半身でかわし、相手の首に木剣を当てて昏倒させた。

 自分の試合なんかどうでもいい。目を閉じてても勝てるし。

 僕の勝ちが宣言されたが、もう興味はそこにはない。


「よし! 次に俺と戦いたい奴はいないか!?」


 赤髪の青年が叫ぶが、その場が沈黙する。既に残り人数は20人を切ったところだ。ここまで勝ち上がっている実力があるにもかかわらず、誰もが彼との戦いを拒絶している。

 情けないけど、相手との技量差をわきまえているあたり伊達にここまで残ったわけじゃなさそうだ。


「じゃあ、僕とやらないかい?」


 僕が挙手すると、どよめきが上がる。


「誰だあいつ?」

「わかんねえ……無謀過ぎるぜ」

「でも、さっき見たぜ。あいつが一瞬で相手を倒してるところ」


 ざわざわとした雑音が一切耳に入っていないのか、青年は鋭い眼差しで僕を見つめてきた。


「勇気があるな、いい心掛けだ! 俺は代々、聖炎せいえんの加護を受けしレルミット伯爵家が嫡男、キース・レルミットと言う! お前の名を教えろ!」

「えっと、テオドールって言うんだ。よろしくね、キース」

「む? 姓がないということは貴族ではないのか。まあ、構わん。さあ、来い。この俺に一太刀でも浴びせて見せろ!」


 僕はキースと距離を取ってから向き合った。燃えるような眼差しに燃えるような髪。正に炎を具現化したような男だった。

 これなら少しは面白い試合になるかもしれない。


『ルシファーさま、お気を付け下さい。あのお方はどうやら神使のようです』


 彼が炎の加護を受けているのは僕にもわかる。しかし聖炎か……随分と凄いものに認められた家系みたいだ。

 でも、見た限りではそんな大層なものを扱えそうには見えない。まだ、中身が伴っていないんじゃないかな?


「テオドールとやら。安心するがいい。俺は魔術も扱えるが、これはあくまでも剣術の試験だ。お前が消し炭になることはない」

「別に使っていいよ?」

「なっ……!?」


 またざわめきが起こる中、試験官が当たり前のように言う。


「魔術は使用禁止じゃ」

「何だ、そうなの? 別に使ってくれてもいいんだけどなぁ」

「貴様……!!」


 キースと名乗った青年がぎりぎりと歯ぎしりしながら僕を睨みつけてきた。

 プライドが高いようだ。剣術だけでも僕を圧倒出来る自信があるらしい。

 でも、この程度の挑発を真に受けるようじゃ結果は知れてる気もする。


「それでは、試合……開始!!」


 赤髪の青年が凄まじい速度で僕に迫り、上段から斬り付けてきた。僕はそれを真正面から受け止める。

 木剣が折れてしまうのではないかと思うほどの衝撃を受ける。そういえば折れたらどうなるんだろう? まさか失格? そんな理由で負けるのは嫌だなぁ。


「貴様……!? 片手で俺の剣を受けるとは……!」


 彼が言う通り、僕は右手だけで彼の剣を受け止めていた。対する彼は両手を使って渾身の一撃を放ったんだろう。なかなかの威力だった。これは育てば強いね。

 僕が剣を受け流すと、彼はすかさず二の太刀、三の太刀と攻め続けてくる。型に忠実ないい動きで実に華麗だ。でも、今はそれだけかなぁ。目と耳を閉じていても気配だけでかわせるよ、こんなんじゃ。


「くぅっ! ならば、これなら見切れまい!!」


 キースの瞳が鋭さを増して、剣を持ったまま構えをとる。一族直伝の技か何かか。そう思った瞬間、刺突が放たれた。

 常人なら目視することすら出来ないほどの一撃。

 でも、僕には亀が這うような速度にしか見えなかった。実力はわかった。もういいかな。


 彼の一撃に敬意を込めて、あえてその剣を真正面から受け止める。木剣の切っ先で。

 有り得ないような光景を見て驚愕の表情を浮かべたキースの隙を突いて、すかさず彼の剣を弾く。

 態勢が不安定になったキースの胸を木剣の切っ先でとんと突けば、彼はその場で尻もちをついて倒れた。


「なんだと……」


 呆然自失とするキースに向かって僕は労いの言葉をかける。


「うん、いい一撃だった。君はここにいる人の中では一番強いね。まあまあ楽しかったよ、キース」


 誰も何も言わない。

 僕は呆れて試験官を見つめた。

 動体視力でも落ちてるんじゃないのと非難めいた視線を受けて、試験官は震えた声で言う。


「しょ、勝者……テオドール!」


 歓声はなかった。誰も彼もが信じられないといった様子で目を見開いている。

 確か、有名な伯爵家の嫡男なんだっけ? 負けが信じられないのも当たり前か。

 僕はまだ驚いている試験官の傍に向かう。びくりと震え上がるご老体に、未だに座り込んでいるキースを指差しながら言った。


「ねえ、彼は入学させた方がいいよ。絶対強くなるからさ。ここで敗退して入学取り消しになんてなったらかわいそうだよ」

「そ、それは心配ない……。剣術では上位32名には入学許可が下りる」

「あ、そうなんだ。良かった。ああいう逸材を見逃すようじゃ、この学園というかこの国に未来はないからね」


 試験官の肩をぽんぽんと叩いて、僕は残りを片付けるために次の相手を探した。

 結局、その後は特に何も変わったことはなく僕が1位の成績を収めて剣術の試験は終了した。

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