旦那とのセックスレスに悩み、離婚も考えているのだが、経済的な不安もあるからなかなか踏み切れないと話す女性Ｏ様が熱海に来た。旦那は「俺は草食系だから」と言い、私の体に触れようとしない。一緒にいるだけで満足だと言うが、私の性欲はどうしたらいいのか。このまま女を枯らして行くのか。このままでいいのか。私はどのような人生を望んでいるのか。色々なことがわからなくなって、坂爪さんに会いたいと思った。Ｏ様は、そのようなことを言った。

自分は草食系だ、一緒にいるだけで満足だと言うが、旦那がこっそり一人でエッチなことをやっていることはわかる。なぜ、私ではなくて、一人でやることを選ぶのか。そう思うと、とても惨めな気持ちになる。こんなことは誰にも聞けないから、坂爪さんに聞きたい。男の人ってそうなのですか。男の人は、誰でも、結婚したら相手の人に興味をなくしたり、一人でやる方を選ぶものなのですか。Ｏ様は、そのようなことを聞いた。私は、質問に答える代わりに、Ｏ様に尋ねた。もしも、私が「男はそういうものですよ」と言ったら、あなたは納得するのですか。Ｏ様は答えた。まったく納得できません。

私は「だったら聞くなよ」と笑った。Ｏ様も笑った。そして「一般的とか世間的とか関係なくて、自分が納得できるかどうかなんですね」と言った。その通りだ。その通りなのだが、Ｏ様は「自分と向き合って、自分が納得できる答えを見つけなくちゃ」みたいなことを言った。それは違うと思った。こうあるべきから自由になりたいのに、自由になる「べき」とか、ちゃんとやる「べき」とか、自分としっかり向き合う「べき」などと考え出したら、元の木阿弥である。そんなに肩肘を張らないで、リラックスして生きていたら、答えの方からやって来る。のんびり構えて、楽に生きた方がいいと思った。

私は「わからないことを、わかろうとしなくてもいいと思いますよ」と言った。Ｏ様は、ハッとしたような顔をして「それかもしれません」と言った。そして「こんなことをメモるなんてやばい女ですよね」と言いながら、メモ帳を取り出して、メモした。Ｏ様は言った。私は「知らないといけない」と思っているのだと思う。だけど、自分のことをわかりきることなんてできないし、未来のこと、これからのことをわかりきることなんてできません。わかりきることのできないことをわかろうとしていたから、苦しくなっていたことがわかりましたと言った。

わからないことは混乱ではない。わからないことを「わからなければならない」とか「わかる必要がある」と思うから、混乱する。わからないまま、私たちは人生を楽しむことができる。正しさではなく、喜びに従うことができる。Ｏ様は言った。坂爪さんにお会いしてわかった。私は、誰かに話を聞いてもらいたかったのだ。だから、坂爪さんにサンドバッグになってもらったり、鏡になってもらうために、利用をしたのだと思う。だけど、サンドバッグは殴られるだけだし、鏡はオウム返しをするだけ。自分と向き合うことが大事だって言うけれど、自分一人だけでは気づけなかったことに、人と話すことで気づける。誰かと生きる喜びは、そんなところにあるのだと思う。私は「そうだと思います」と言った。一人では行けない場所も、誰かとなら行ける。一人ではやれないことも、誰かとならやれる。一人では出会えなかった言葉にも、誰かとなら出会うことができる。何が起こるかわからないからこそ、面白いのだと思う。