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第1話「スローライフ(500年)には飽きた!」

よろしくお願いします。

 テネブラエ魔族国。

 その名の通り、魔族たちが支配する国である。その国の中央に位置する煌びやかな宮殿の王の間に、私はいた。

 ルシファー。それが現在の私の名だ。魔族の中で頂点に位置する七柱の魔神の中でも、最高位の力を持つ魔王である。


 昔は名も無き魔族の1匹に過ぎなかった私が、各地で暴れ回った挙句に先代のルシファーを倒してその地位を奪ってからもう1500年は経つだろうか。

 それから、魔王討伐の任を掲げてやってきた天使や勇者たちを軽くねじ伏せ、歯向かう者はすべて握り潰してきた。

 先代を倒した当初こそ反発は強かったが、今では私に逆らう者は誰もいない。


 私は王の間のソファにゆったりと腰かけながら優雅にワイングラスを揺する。こうしているとまるですべてに満ち足りていて、不満など何1つもないようだ。

 だが、そんな私にも大きな悩みがあった。それは――。


「……暇だ!」


 私は持っていたワイングラスをぐしゃっと握り潰した。

 その突然の暴挙を見て、私の肩に頭を乗せて身を委ねていた少女がまどろみから目を覚ましたようだった。


「なぁに、だ~りん……? いきなり大声なんか出して」

「ああ、すまん。ついな」


 隣を見やると、長い金髪の少女が可愛いあくびを漏らしながらむにゃむにゃとしてから、大きな紅い瞳をぱっちりと開いて私を見つめてきた。


「どうしたの? なにか、悩み事?」


 黒いドレスを着た少女の背中からは、純白の翼が生えている。それは紛れもなく、この少女が天使であることに他ならない。

 そしてこの少女こそ、私が生涯で最も愛する妻のうちの1人だった。


「ルミエル。最後に戦をした時のことは覚えているか」

「うぅん? 500年前……だっけ? 確か、帝国と派手にやり合った時」

「ああ、そうだ。500年だ」

「でも、それがどうかしたの?」


 ルミエルはテーブルに置いていたワインボトルからグラスになみなみと中身を注いで、私に差し出してきた。それを受け取って一口飲む。


「あの時、『勇者』がやってきたのは覚えているな」


 そう言われた瞬間、ルミエルはその愛らしい顔を苦く歪めた。


「あんまり思い出したくない。わたしの右腕、飛ばされたもん」


 不機嫌に言い放つルミエルだが、彼女の右腕は問題なくくっついている。飛ばされた直後に再生したのだから当然だった。


「いつか絶対、『あいつ』を同じ目に遭わせてやるんだから……!!」


 ルミエルは私が軽く手にしていたワイングラスをひったくって床に投げつけて粉々に粉砕した。……まだ飲んでたんだが……まあ、仕方あるまい。 

 彼女が500年も前のことを未だに根に持っているのは、その右腕を飛ばした張本人が今もなお生きているからだった。


「まあ、落ち着け。それでどうだ。それ以降は戦った記憶がないだろう?」

「……そうね。ない、かも」


 ふくれっ面のままの彼女の肩を抱き寄せる。


「もう500年だ。私を討伐しに来る者がまったくいなくなってから、もうそんなに経つ」

「それはだ~りんが強過ぎるからじゃない? このわたしだって歯が立たなかったのよ? ねえ、覚えてる? あれからもう1000年経つの」

「もちろんだ。まだそれしか経っていないのか、とも思うが」


 1000年前、ルミエルは私を討伐するために大軍勢を率いてこのテネブラエ魔族国に攻めてきた。

 名のある魔神のうちの何柱もが討ち取られはしたが、私は無事に彼女らを返り討ちにすることが出来た。

 そしてその彼女が今、こうして私の前にいて、しかも最愛の妻でいる理由は――端的に言えば、生け捕りにした彼女を傍に置いているうちに気が付いたら手籠にしていたからである。

 だが、2人で過ごすうちに自然と距離が縮まり、これまた気が付けば妻にしてしまっていたのだ。


「不思議なものね。あの時は、あなたのことが憎くて堪らなかったのに……今は、こんなにも愛おしい」


 ルミエルは私の頬を両手で包んで、熱の籠もった瞳で見つめてきた。

 この瞳を向けられると私は弱い。すぐにでも求愛行動に移りたくなる。つい先程までそうしていたというのに。

 欲望をぐっと堪えて、彼女の頭を優しく撫でた。


「私もだ。お前とこうして過ごす時間は楽しいが……戦闘本能とでも言うのか。最近では頻繁に破壊衝動に駆られる」

「だから、最近はあんなにハゲシイの?」

「いや、ちょっと話の腰を折るのはやめてくれ。いい子だから。なあ、ルミエル。お前はどうだ。つまらなくないか?」

「わたしはだ~りんと過ごせるだけで楽しいから別に。それに、勇者なんかが来てもだ~りんがすぐに壊しちゃうじゃない。殺り甲斐ないもん」


 天使としてあるまじき発言だが、彼女はとうの昔に堕天しているのでそれも致し方ない。


「……たとえ、相手がどんな強敵であろうと自分たちを害する存在ならば命を賭して倒しに来る。それが勇者というものだろう」

「魔王のくせに勇者みたいなこと言ってるだ~りんてば可愛い」

「だからな、私は行こうと思うのだ」

「? どこに?」


 きょとんとしている堕天使に向かって、私はソファから立ち上がってきっぱりと言った。


「帝国にだ。あの国には勇者を育成する機関があるだろう。そこの様子を見てくる」


 帝国の名はエルベリア。テネブラエ魔族国の東方に隣接する大国だ。

 我が国と同等の面積を持ち、以前は数十年に一度は勇者を輩出して軍団を率いて攻め込んできた人間たちの住まう国だ。

 そこには勇者を育成する機関が多数存在する。その中の1ヶ所を適当に選んで、どのような体たらくなのかを見てくるつもりなのだ。

この作品の続きが少しでも気になったりして頂けたら、ブクマと評価をお願いしたいです。

執筆する上で欠かせないモチベーションの維持にも繋がるのでよろしければ。

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表紙絵

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