今週は15日のDeNAの試合から、先発した小園健太投手(21=市立和歌山)を解説することにした。
6回89球で4安打3三振、3四球での無失点という内容だった。21年センバツ大会でのピッチングを見てきたものとしては、真っすぐ、フォークへの物足りなさと、カーブの可能性という相反する評価となった。
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1軍でのピッチングはテレビで見てはいたが、私は球場で生でピッチングを見て、感じる部分を大切にしたい。高校時代、甲子園で目にした小園の将来性が記憶に新しく、そこを踏まえ、じっくり見させてもらった。
89球のうちストレートが35球、カーブ29球、スライダー10球、フォーク12球、球種が分からなかったのが3球という配分だった。
この日のピッチングを見た捕手目線から率直に言えば、真っすぐ、カーブ、フォーク、この3球種で勝負できるのに、という思いが込み上げてきた。
勝負できるはずなのだが、それが出来ていない。数字を見れば6回を4安打無失点と悪くはない。しかし、中身を見たら到底、私は満足できない。
まず、真っすぐの出力はあんなものかと思わざるを得ない。最速は144キロ。スピードガン表示以上に、真っすぐに威力を感じない。私が大切にしているベース板での強さが足りない。
いやいや、たまに見ただけでそこまで言うかと思われるファンの方もいると思う。確かに毎試合をチェックしていない。それで、ここまで言わないでもと思われるだろうが、私が抱いている小園の真っすぐの実力は、この日の球威とはほど遠い。
スタンドから見たままの感想としては、上体が立ったままで投げている印象を受けた。ダルビッシュのようにとは言わないが、もっと下半身を存分に使い、しっかり体重移動して、下半身のパワーを上半身に伝えればなあと、見ながら感じた。
小園には、そうできないなにかしらの事情があるのかもしれない。そうだとしたら、私の指摘は情報不足と認めるしかない。
21年のセンバツ大会で見た小園の真っすぐには、将来性が詰まっていた。今はその将来性を喪失したという意味ではない。ポテンシャルを発揮したフォーム、力感での真っすぐを見たいというのが本音だ。
この試合で立ち上がりに2つの空振り三振を奪っているが、いずれも低めを狙った真っすぐが、高めに抜け、それを空振りしての三振だった。高めに抜けたボールに、たまたま西武の主軸が反応したまでで、これは厳密にはバッテリーが描いた末の三振ではないだろう。恐らく、小園本人は満足していないはずだ。
低めに、しっかり指がかかった真っすぐで勝負して、理想は空振り、悪くてもファウル、もしくは打ち損じが、小園が期待されるピッチングスタイルではないか。少なくとも私はそういう期待を抱いている。
そしてフォークの落ちが甘かった。右投手が左打者を攻略する時、フォークは有効な決め球となるが、この日のフォークでは危ない。これも精度の問題だろうが、まだここぞの場面で信頼してサインが出せるクオリティーではない。
真っすぐの質がいまひとつであるがゆえに、ますますフォークの質が求められる。真っすぐに威力があれば、フォークはワンバウンドになるくらい思い切り落とすなど、割り切って投げることができる。
ここまで真っすぐとフォークへの物足りなさを述べてきたが、カーブは正反対の印象を受けた。縦に割れるカーブはとてもいい。この日のピッチングを見て物足りなさが増したのは、恐らくこのカーブの良さが際立っているからだろう。
このカーブがあるのに、と言いたくなるのだ。今の球界では、広島森下のカーブは素晴らしい。ブレーキが利いた、いったん浮き上がってから縦に曲がる理想的な軌道を描く。小園のカーブはそこまでではないものの、緩急をつけるにはもってこいの質と言える。
カーブを29球投げていたが、カウント球として非常に効果的だった。真っすぐ、フォークの精度を加味すると、このカーブが効いていたから、西武打線も手こずった印象だ。5回に、左打者鈴木にこのカーブを狙い打たれているが、カーブを打たれたのはこの1本だけだった。
初球は内角スライダーでストライク。ここで鈴木はまったく反応していない。打つ気配がなかった。カーブに狙いを絞っていたのだろう。そして2球目のカーブを左前打とした。3巡目に入り、この日の小園のカーブを狙おうという意図を感じた。
これで真っすぐ、フォークの出来がもう少し良ければ、打者は3巡目にどういうバッティングをしたのか。そこは非常に興味がある。その状況で小園がどこまでのイニングをしっかり投げきれるか、そこを確かめたかった。
この日はナイスピッチングとは言えない。自分のピッチングで抑えたというよりも、相手のミスショットに助けられて、結果として0点だったという感覚になった。
小園はそういうタイプの投手ではない。3球種で勝負できる極めて高い潜在力を秘めている。3年目が終わろうとしている。まずは真っすぐの強さをしっかり念頭に置いて、小さくまとまらないでほしい。
3球種すべてが好調ということはそうそうない。だが、せめて2球種はしっかりマウンドで修正して試合に臨めば、もっと力を発揮できるはずだ。こういう姿を見ることもファームに足を運んだかいがある。ここからどこまで成長するのか、そこを楽しみにしている。(日刊スポーツ評論家)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「田村藤夫のファームリポート」)