-初めて女というのを意識したのはこの日だった-
4月某日。
部活が終わり暗くなった道を皆と別れ一人で帰路に就く。
遠目からでもわかる公園から伸びた大きな桜が今日はやけに目に付いた。
立派に育ったものでひらひらと舞い落ちる花びらはまるで雪の様だ。
桜に目を奪われながら歩む速度を落とし一歩一歩近づきふと気づく。
公園の入り口に女がいることに。
桜を見るでも無く、ただ俯くその表情は遠くからでは窺えないが余り良い雰囲気とは言えない。
己の友人である柳生ならば何か声をかけていたかもしれないが…。
だが、相手は名も知らぬ女だ。
俺が特に気にする必要もないだろう。
こんな時間に徘徊とは全くけしからん。
そんなことを想いながら女からは視線を外し、家へと続く道を見据える。
視界に入る公園の外灯が桜を照らし素直に綺麗だと思った。
俯かずに桜でも見ればいいものを、と女に視線を滑らせると相手も俺の足音に気付き顔をあげたのか視線がかち合い目を見張った。
頬を流れる涙が外灯照らされて煌めき…綺麗だと思ってしまった。
女はまた直ぐに俯き視線を外す。
やはり何か声をかけるべきなのだろうか…。
いや、だが何と声をかける…。
そんな事を考えながらも女の前を通り過ぎる。
家までの道が何故か少し長く感じた。
(俺は何もできなかった。)
(否、しなかったのだ。)